贖罪
猫人族の耳は一部切られ、片耳が桜の花弁の様に見え、ふっと思い付く。
「お前に名前を授ける、今日からお前は『桜』だ」
「有り難う御座います」
喜んでくれると思ったが、硬い表情のまま当たり障りの無い返事、そして無言の時が流れる。
何か喜びそうな事を言わなくては。
「何をしても良いと言われたが、殴ったり蹴ったりはしないから安心してくれ」
「有り難う御座います」
またしても同じ反応だ。
耳の傷の贖罪に何か一つくらい喜びを与えたい。
「そうだ、首輪を外してやろう!」
俺の言葉に顔を上げ瞬きする桜、驚きなのか嬉しさなのか分からないが、当たりの様だ。
立ち上がろうとすると、メイドが割って入る。
「私が外します」
その後も暫く、生い立ちや希望やら、得手不得手や趣味と話を聞いた。
話の途中、何度か頭を撫でようと手を伸ばしただけで「近過ぎます」とメイドに止められてしまった。
此れでは桜に近付けない。
可愛い猫耳に触れる事も、左右で色の違う目を近くで見詰める事も出来ない。
日を改める事にしよう。
執事を呼んで、桜を下働きとして使うように言って下がらせた。
部屋には俺と狐耳のメイドの二人きり。
先日の両親の会話が気になり、その時一緒に居た狐耳のメイドに聞いてみる。
「成人した故、今後は夜にも勉強が有るのか?」
「今まで道理ゆっくりお休みなさっても平気ですよ、御両親へは私めから上手く伝えておきます」
狐耳のメイドは妙な含み笑いをしていたが、夜は机に向かわずに済むなら任せよう。
有り難たく返事をしてみせる。
「助かる」