つり
家には沢山の使用人が居る。執事やメイドに料理人、庭師やその他の雑用をこなす召使いの下男下女。
誰もが俺の言いなりなのだ……ある一人のメイド以外は。
俺はこの家当主の息子、少しポッチャリした15歳。
ここに居る使用人は俺の思うがまま……ある一人のメイド以外は。
今日も俺は釣りをしている。
昨日は自室の窓から、今日は二階の渡り廊下の上から糸を垂らしてる。
屋敷は陸地、そして下に池が有ったり川が流れている訳ではない。
それでも不思議と人並みの大物が釣れるのだ。
白い絹糸の先には少し鈍い光を放つ小銀貨が一枚。
そう、この餌でメイドが釣れる。
この小銀貨が曲者で糸を結ぶのに毎朝苦労させられる。なにせ薄く小さく丸く引っ掛かりが無いのだ。
糸を垂らす場所は毎日変えてるし、餌はメイド達の頭の少し上ほどの高さ。
気付き難い筈なんだが、それでもメイド達の食い付きは良い……ある一人を除いては。
そして釣れたメイドは自室にお持ち帰りが御約束。
当然メイドの方もその事は承知の上で餌に食い付いてくれている。
魚とは違いここで餌の食い逃げは許されない、と言うか俺が許さない。
今日はどんなメイドが釣れるやらワクワクしながらその時を待つ。