表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
95/143

次女、自覚する。

読んでいただいてありがとうございます。次女は今年、初めての投稿になります。今年もよろしくお願いいたします。

 魅了の香水の現物が手に入ったので、次にやるのは解析だ。

 匂いは幻月の花で間違いはない。けれど、セレスが作った物よりももっと濃い匂いがする。


「んー、もっと濃縮出来るのかな?それとも別の匂いを混ぜる?あれ?甘いけど、ちょっと違う甘さが入ってるかな」


 匂いながら気になったことをどんどんメモしていく。ガーデンに帰ったら、これを基にしてちょっと実験するつもりでいる。


「セレス、実験もいいけれど、あまり一人でやるのはおすすめしないねぇ」

「ですが、これは他の人といる時にするのはちょっと……」


 下手をしたらその人が魅了にかかってしまう。それは避けたい。


「お父さんを頼りなさい」

「だめです!万が一、お父様がかかって私の言うことを聞くようになってしまったら」

「しまったら?」

「……あれ?特に害はない、かな?」


 基本セレスに甘いオースティなので、今だってセレスが望めば何でもしてくれそうだ。魅了にかかっていようがいまいが、そう違いはない気がする。わずか数日前に父娘になったばかりだが、オースティのことはちょっとだけ理解していた。


「ないねぇ。セレスが望むなら、お父さん張り切っちゃうよ」

「それはそれで困るんですが」

「じゃあ、ジークに頼む?」

「ジークさんに?」

「そう。どうかな?」


 ジークフリードが万が一にも魅了にかかったとしたら、どうなるのだろう?

 あの笑顔と声で、甘い言葉を囁くのだろうか。


「……お父様、私、耐えられないかもしれないです」

「ん?何に?」

「ジークさんが、その、他の誰かに、えっと、甘い言葉とか言うのを、です……」


 最後の方はもにょもにょして小さな声になっていったが、セレスはジークフリードが魅了にかかった場合、他の誰かを口説く前提の話をしている。

 オースティは、セレスがなぜ口説かれるのが自分ではなく、他の誰かを想定しているのかは分からないが、想像しただけで嫌な気持ちになったらしい様子を見て、一方的だと思っていたジークフリードの想いも、どうやら少しずつ芽が出始めているらしいことを感じた。


「では、セレス、口説かれるのが自分だとしたら?」

「私、ですか?え?ジークさんに口説かれる私……?」


 甘い言葉、甘い言葉って何?どんなセリフ?えっと、異世界の少女漫画を思い出せば何とか!自分とジークフリードに置き換えて……

 想像した瞬間に、セレスの顔が真っ赤になった。


「お、お父様!違う意味で耐えられないです!」

「おやおや。今までとそう変わらない気がするんだけどねぇ」


 直接見たわけではないが、報告は聞いている。とはいえジークフリードもまだ抑えているし、本格的に口説くところまではいっていないが、それでも十分に甘いと思うのだが。


「こ、子供と大人の会話、だと」

「セレス、君はお子様だがジークは大人だよ。意味が分かって言ってるんだよ。でも、そうだね、もう少しの間は、知らないふりしてもいいんだよ?彼の方の準備もまだ整っていないからね」

「お父様……」


 アヤトにもジークフリードとのことを考えろ、と言われたが、具体的な想像はしていなかったので、どこかぼやっとしていた。でも、オースティに自分が口説かれる様を想像しろと言われて、はっきり自分がそういう対象なのだと自覚した。


「今度、会ったら……」

「あ、それはもうちょっと待って」

「はい?」


 考えろと言われたり待てと言われたり、どうしろと?


「ごめん、ごめん。ジークはね、まだちょっと色々なことが片付いてない。セレスが今、告白したところで彼が応えるわけにはいかないんだ」


 そう言われると、セレスとしては頷くしかない。


「大丈夫。ジークはセレスしか目に入ってないよ。もうちょっとじらしてやりなさい」

「じらしてるわけではないのですが」


 ようやくセレスは自分の気持ちを自覚したところだ。今まで、ジークフリードがそういった気持ちを持って接してくれていたのなら、すでに十分じらしていたと思うのだが、父はまだじらせと言う。


「何を聞いても、何を言われても、セレスはジークを信じていてあげればいいと思うよ。あの子は昔っから本当に欲しいものが出来た時は、絶対逃がさない子だから」


 その分、興味がないものに対しては、冷徹になることも多い。だから、ユリアナがいくらジークフリードのことを想っていようが、絶対に応えることはない。ジークフリードがその気になれば、いくらでも手に入れる機会はあったのだ。それをしていないということが、ジークフリードにとってユリアナは、兄の妻であり、王妃という役割を持つ人間、それ以上でもそれ以下でもないのだ。


「お父様、私、ジークさんを信じます」

「うん」


 これから先、ジークフリードの正体を知り、セレスのことが表沙汰になれば色々と言われるだろう。もちろん、オースティやアヤトと言った後ろ盾はあるが、セレスが自分で対処しなくてはいけない時が出てくる。ジークフリードを信じていれば、言葉で惑わされることも少なくなるはずだ。


「盲目的に全てジークの言う通り、ってなると困るけど、セレスなら大丈夫だよ。自分の目で見て接したジークを信じていればね」

「……きっと貴族としてのジークさんは、もっと色々な顔をお持ちだと思うのですが、私と一緒にいる時のジークさんを信じます」


 いつも楽しそうにしている彼を信じる。もし公の場で、身分ある立場のジークフリードがセレスに対していつもと違う接し方をしてきたとしても、何か理由があるはずだと思って後でちゃんと聞こう。セレスだって貴族としての教育は受けてきたのだ。公私の違いは分かっているつもりだ。


「まぁ、僕だって公の場ではきちっとするからね」


 おどけるようにそう言ったオースティに、セレスはくすりと笑ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
洗脳されちゃった… 好きか嫌いの二択なら好きかな、の時点からジーク本体とは何の交流もないのに周りから言われてるうちにその気になっちゃった… 洗脳からの解放を期待しています 雪月花の決めつけられた運命の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ