次女と編み物
年末番外編です。今年の次女の投稿はこのお話までになります。来年も引き続きよろしくお願いいたします。
「セレス、去年の年末に、弟くんにマフラーを編んで贈ったって本当?」
もうすぐ年の瀬という時期にガーデンに突然やってきたジークフリードが、開口一番に言ったのがこの言葉だった。
「あ、はい、贈りました」
びっくりしながらもセレスがそう言うと、ジークフリードはにっこり笑った。
「で、セレスも自分用にお揃いのマフラーを編んだって?」
「え?えぇ、編みましたが……」
何だろう、すごく怖い。
はっ!ひょっとしてジークさんも欲しいのだろうか?
でも、ジークさんは目立たないけど仕立ての良い服を着ているし、持ち物だって一流品を持っていることが多いよね。そんな人が、ド素人の編んだマフラーっているのかな?
「あ、あの、ひょっとして欲しかった、りします?えっと、間違っていたらすみません!!」
聞きながら謝ってみたりと自分でも何してるんだろう、と思ってしまったが、何となくここで答えをきちんと出しておかないと、後が怖い気がしてならない。
「うん、欲しい」
対してジークフリードは迷うことなく頷いた。
実はつい先日、ディーンに「姉様とお揃いなんですよ。姉様が自ら編んでくれた宝物です」と言って自慢されたのだ。その場で取り上げる、なんて心の狭さを見せなかった自分を褒めたい。
さらに詳しく聞けば、セレスは余った糸で自分用のマフラーも編んだので、姉弟でお揃いのマフラーを使っているのだという。
……やっぱり、すぐに取り上げればよかった。
そんなわけで、本日、ジークフリードはセレスの手編みマフラー欲しさにガーデンに来たのである。
「編むことは出来ますが、ちょっと時間はかかってしまいますよ?」
「いいよ。セレスの手編みの物を俺だけ持っていないなんて、ちょっと、ね?」
ディーンにはマフラーを編んだが、アヤトは手が冷たかったので手袋を編み、ユーフェミアとパメラは、夜は足下が冷えて困ると言っていたのでそれぞれにもこもこの靴下を編んで贈ったことがある。
エルローズには、膝掛けを贈ってある。
他にもお世話になった人たちには、何かしらを編んだことがある。
けれど、たしかにジークフリードには何も編んでいない。
「分かりました。でも素人が編む物なので、普段ジークさんが使っているような物ではないですよ?」
品質とか編み目の綺麗さとかはちょっと太刀打ち出来ないので見逃してほしい。あくまでも、セレスの編み物は趣味の一環だ。
「うん。セレスが心を込めて編んでくれるのならいいよ」
「……それでしたら、いいですよ。何か希望の色とかありますか?あ、マフラーでいいんですか?」
さすがに大がかりな物は編めないけれど、年末年始の休みに入るので、マフラーくらいなら何とか年明けくらいには出来そうだ。
「マフラーがいいかな。手袋は剣を使うのに専用の物があるからね」
それにせっかくセレスが編んでくれた物が汚れたら嫌だし。マフラーならそこまで汚れることはない。
「色は深い青、だね」
それはセレスの瞳の色だ。アヤト辺りが見れば、それはどっちの主張なの?と聞かれそうだ。
深い青色の物を身に付けることで、ジークフリードがセレスのものだと主張しているのか、セレスが編んだ物を身に付けることで、セレスとジークフリードが特別な関係だと言いたいのか。
悩ましいところだろう。
「出来るのは年明けになりますが、いいですか?」
「もちろんだ」
年明け、つまり来年もセレスはジークフリードと会うつもりでいる、そういう約束にもなる。
「俺も何か贈るよ」
「え?いいですよ」
さすがにジークフリードが編み物を出来るとは思わないので、もっと違う物になるのだろうけれど、ちょっと怖い物がくる。
変わった薬草とかならまだいいが、希少価値の高い薬草とか平気で持ってきそうで怖い。
薬草ならまだしも、魔物の素材とか持って来られても困るし、宝石なども今のところ必要はない。
「なら、いつか私のお願いを聞いてもらえますか?」
物よりもちょっとしたお願いを聞いてもらった方がましだ。
「そんなんでいいの?セレスのお願いならいつでも聞くけど」
「とりあえずは、それで」
高価な贈り物回避策として、セレスはこの後も何回かこの手を使うことになった。だが溜めすぎて「この国でもほしいの?」と聞かれて慌ててささやかなお願いをする、ということを何度も繰り返す内に、気が付けばセレスはお願いごとは必ずジークフリードにするようになっていったのだった。
ちなみに、「お姉様、僕もほしいです」とうるうるした目で義理の弟にねだられたセレスは、子供用のマフラーも編んだ。そうなると当然、「僕たちもー」と言ってくる義父母がいるので、セレスはこの冬の間、編み物ばかりをすることになった。