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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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オルドラン公爵家と雪月花②

読んでいただいてありがとうございます。

 オルドラン公爵家が何故セレスの味方をしてくれたのか、という理由は分かった。


「オースティ様、そのナーシェル様ですが、先代ではなくて先々代、ですか?確か公式では、彼女が姉様の前の雪月花だと記録されていたと思うのですが」


 「父上か名前、どちらかで呼んでくれたまえ」と言われたので、ディーンは消去法でオルドラン公爵を名前で呼んだ。ディーンが調べた限りでは、セレスの前の雪月花は王宮に囚われていた彼女だったはずだ。


「公式にはそうだね。先代の雪月花、名前はアリス嬢というのだが、その方は表舞台から隠されていたんだ。そのまま若くして亡くなったので、彼女の存在を知っていたのは極僅かな人間だけだよ。アリス嬢について知りたかったら、王太后様にお伺いするといい。王太后様たちが隠した張本人だからね」

「王太后様ですか?」

「ああ、そうだよ。先王と王太后様、それに一部の方々が見事に隠し通したんだ。我が家も全ての王族に監視を入れてなければ、気が付かなかっただろう。アリス嬢もそのまま隠れていたかったようだったので、我が家は手出ししなかったそうだよ」


 もしアリスが嫌がっていたのならば、どんな手段を使ってでも解放しただろうが、アリスがあの二人の傍で幸せそうにしていたので、彼女の存在が外にバレないようにオルドラン公爵家は影から守り続けた。

 そしてセレスが生まれた時も、あまりの両親の関心のなさに強引にでもこちらに引き取ろうかと思ったが、王太后や執事、それにあの家の使用人たちが可愛がっている様子を見て、そのまま見守ることにした。

 見守りながら、セレスの対になる王家の人間は誰になるのかと思っていた。有力だったのは、年齢的にも近い今の王太子と第二王子。第二王子と接触が始まった時は、相手は彼なのかと思っていたが、ジークフリードが雪月花と出会った最初の王にそっくりだと気が付いた時に、もしかしたら、という思いは持った。

 だからこそ、先の騒動の時には彼を助けるべく父から急遽、家督を譲られた。

 権力に固執し野心持ちと噂の先代と、ジークフリード王子に近い自分との交代という形を取って、ジークフリードを支援してもおかしくない状況を作り上げた。

 ジークフリードとセレスが出会い、彼女の相手が彼だと分かった時、父は田舎の屋敷で胸をなで下ろしたそうだ。あの時の決断は間違っていなかった。ジークフリードに手を貸してよかった、と。

 何事もなくセレスがジークフリードと結ばれるのならばそれでいいと思っていたが、魅了の薬のことや王妃がじわっと動き出したことで、オースティは表だってセレスを保護することに決めたのだ。


「セレス、アリス嬢は王家に囚われていたわけではない。たまたま王家に近い場所で生まれ、ウィンダリア侯爵家に知られることなくのびのびと育てられて、雪月花の中では比較的穏やかに生きられたそうだよ。君は記憶を引き継いでいないと言っていたが、私には、雪月花がウィンダリア侯爵家から離れようとしているように見えるのだが」

「……私もそうではないのかと思っていました。歴代の方々の記録を見たのですが、徐々に本家から遠い分家に生まれていて、先代だというアリス嬢……」


 アリス”嬢”と言って、セレスは何か違う、と思った。嬢、ではないのだ。彼女、否、今まで生まれてきた雪月花に対する呼び方は違う。そんな呼び方ではない。正しい呼び方は……


「……アリスお姉様に至っては、その記録もありませんでした」


 お姉様、そう呼んでしっくりきた。そうだ、彼女たちは、自分の”姉”だ。母なる女神から生まれた姉妹。その最後の一人が自分だ。歴代の雪月花たちは、セレスのお姉様なのだ。


「最初のお姉様は、不本意だったんです。偶然とはいえ、ウィンダリア侯爵家の血に繋がれたのが。だからお姉様たちは、少しずつでも鎖を断ち切ろうと努力した。ナーシェルお姉様は知っていたんです。私が王都に生まれることを。だから、お姉様は王都に行く決意をして、アリスお姉様は王家に近い場所にいた。全部、私のため……最後の妹である私のため……私は、『ウィンダリアの雪月花』と呼ばれる最後の……」

「姉様!」


 途中から意識があまりはっきりしていない感じで、どこを見ているのか分からない目をしながらセレスはしゃべり、そのままふっと意識を飛ばした。慌ててディーンがその身体を支えたが、セレスはすでに意識を失っていた。


「姉様……」


 セレスを抱き留めたディーンは、いつもと違う様子に気を失った姉をぎゅっと抱きしめた。オースティは医者を呼ぶように指示を出してから、セレスをのぞき込んだ。


「お姉様は大丈夫ですか?」


 ラウールも心配そうな顔でセレスを見ていた。


「気を失っているだけだとは思うが、念のために医者に見てもらおう。恐らく、ナーシェル様やアリス嬢の話を聞いて、雪月花としての何かが目覚めたのだと思う。目が覚めた時にどこまで覚えているかは分からないけれどね」


 気を失ったセレスを部屋に連れて行くために、オースティはディーンからセレスを受け取って抱き上げた。


「……悔しいです。もう少し成長していれば、姉様を抱き上げられたのに」


 あいにくとディーンでは、セレスを抱き上げることは出来なかった。何の苦も無くセレスを抱き上げたオースティが羨ましい。


「お兄様、僕も早く大きくなりたいです」


 隣でなぜかラウールまで悔しがっていた。ディーンはともかく、ラウールでは年齢的にも後十年は必要だと思う。


「そんなに早く大きくなられては、お母様が貴方を抱きしめる楽しみが減ってしまうわ」

「あ、じゃ、じゃあ、お母様も抱き上げます」

「こらこらラウ。お母様を抱き上げるのはお父様だけの特権だよ」


 そこはオースティが釘をさした。


「でもお父様は今、お姉様を抱き上げています」

「娘を抱き上げるのも父の特権だよ。と、言いたいところだが、今回は緊急事態なんだよね。年頃の娘を抱き上げた父を許してくれるかなぁ」


 誰、とは言わないが、オースティとディーンの脳裏に浮かんでいるのは間違いなく同じ人物だ。

 まだまだ身辺整理中の彼は、きっとセレスにここまで近付いたことはない。


「僕は血の繋がりがあるので、許容範囲内だと思いますが、オースティ様はどうでしょう?」


 セレスに関しては少々心が狭くなる国王陛下は、養女にしたとはいえ、血の繋がらない父親が抱き上げたことを笑って許してくれるだろうか。むしろ、笑って暗殺者とか送って来そうで怖い。かといって、他の者がセレスに触れるわけにもいかない。


「バレなければいいんだよ。バレなければ。もしバレたら、その時は何とかしよう」


 何と言っても、セレスは正式に彼の娘になったのだから。求婚者の前に立ちはだかるラスボス父としては、あえてこのことを嬉々として語り、彼の焦燥感を募らせるのもいいかもしれない、などと考えていたのだった。

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