次女とお父様とお母様
読んでいただいてありがとうございます。リアルのゴタゴタがようやく落ち着き、壊れたエアコンがリニューアルしたので今月からまた頑張りますのでよろしくお願いします。この時期にエアコンが壊れるとしんどいッス。
オルドラン公爵家の馬車に乗せられて着いた先は彼の屋敷だった。
さすが四大公爵家の一家。
広さも大きさも桁違いだ。ウィンダリア侯爵家だってそれなりに広いがここに較べれば可愛いものだ。
「どうした?」
黙ってしまったセレスにオースティが話しかけた。
「いえ、とてつもなく大きいので……慣れなのでしょうが、我が家がこれだけ大きかったら移動だけでも大変だな、と思いまして」
「あはは、そうだね。でも君もオルドラン公爵家の一員になるんだからここが君の実家だよ」
「……辞退させていただきたいです」
学園にも通っていたし、礼儀作法も先生(=王太后)に習ったのでその辺りは問題ないと思うのだが、こうして視覚から攻めてこられるとこんな大きな家の一員になるとか無理、という感想しか出てこない。
「そう?皆の憧れ、四大公爵家の一員になれるんだよ?」
「一応、貴族籍は抜きましたが」
「そんなのどうとでもなるよ」
「デスヨネ」
大変良い笑顔でオースティに言われてしまった。さすが四大公爵家、権力も桁違いなのでセレスの貴族籍などどうとでもなるに違いない。
「それにうちの子にならなくても、君はそのうち……」
公爵夫人になるんだよ、とはさすがに言えない。というか言ったところで意味が分からないだろう。
まぁ、ジークフリードの様子とセレスのこの様子から全く発展していないのは分かっているので、遠慮なくいけるというものだ。
「ふむ、そうなるとやはり娘として引取るか」
妹より娘の方が家長としてより深く関わっていける。
いわゆる「お父さんは許しません」状態が出来る。
一度で良いから「娘が欲しければ僕を倒してからにしろ」というセリフを言ってみたい。
「あら、あなた、何をお悩みなのかしら?」
出迎えてくれたのは美しい女性だった。淡い金色の髪を優雅に結わえた年上の女性。オースティは妻に近寄ると大げさなくらい腕を広げて彼女を抱きしめた。
「やあ、ただ今、クリスティーン。悩んでいたのはこのセレスティーナを僕の娘として引取るか、それとも妹として引取るかという二択についてだよ」
「でしたら娘が良いですわ。わたくし、娘とお出かけするのが夢でしたの。妹でしたらエルローズがいますもの。娘が良いですわ」
「そうか、クリスティーンがそう言うのならば娘として引取ろう」
「ええ、そうしていただきたいわ。ローズとは姉妹コーデで楽しみましたから、次はぜひとも母娘コーデに挑戦してみたいんですの」
ころころと笑うクリスティーンは雰囲気がとても柔らかくて、年齢不詳な感じが出ている。セレスと母娘コーデをしたところで姉妹コーデにしか見えなさそうだ。
「初めまして、月の女神の娘たる方。わたくしはクリスティーンと申します。オースティ・オルドランの妻ですわ」
「初めまして、セレスティーナと申します」
クリスティーンにもセレスが『ウィンダリアの雪月花』であることがバレている問題はもうこの際、無視しよう。オースティは知っていたし、娘として引取るつもりなら母親になるであろうこの方も知っていて当然だ。
「旦那様のおっしゃっていたように可愛らしい方ですわね。ちょっとお母様って呼んでみて下さいませんか?」
似た者夫婦だった。「お母様」もセレスには縁遠い存在だ。生みの親はアレだし、もう1人の候補は天上にいるので会ったこともない。
「お母様?」
「はい!まぁ、やっぱり可愛らしいわ。あなた、届け出は娘にして下さいませ」
セレスが「お母様」と呼びかけるとクリスティーンはセレスをぎゅっと抱きしめてそう言った。
「わかったよ。じゃあ、邪魔が入らない内に届けを出してこようかな。今の時間ならまだ陛下も執務室にいるだろうからね。ああ、心配はいらないよ。陛下とちょっとした内緒話をすればすぐにでも許可を出してくれるからね。安心しなさい」
何だろう、この方は国王陛下の弱みでも握っているのだろうか。噂に聞いた限りでは当代の国王陛下は弱点らしい弱点はない名君と聞いているのだが、やはり四大公爵家の当主ともなればそういうことも知っているだろうか。
などとのんきに国王陛下の弱点は考えていた。
「あなた、言っておきますが、そう簡単に我が家の娘はあげませんからね。我が家の『娘』が欲しければ言葉でも態度でもしっかりとした覚悟を見せていただかなくては」
「なるほど、ちょうど一緒にいるだろうから伝えておこう」
セレスには意味は分からなかったが、オースティにはしっかり伝わった。
オルドラン公爵家には今現在、未婚の娘が2人できた。セレスはまだ、いい。ジークフリードの身分は知らないようだが、ジークフリード本人が色んな意味で身辺整理を始めているので、それが終わり次第、すぐに来るだろう。態度でもしっかり示しているし、後は父母としてどれだけ邪魔してやろうかと考えるくらいだ。
問題はもう1人の方だ。あのヘタレ弟が動かない以上、身分は多少劣るがマリウス・ストラウジの方が何百倍も良い。ストラウジ子爵家は裕福だし、商人としても手広く儲けているので可愛い妹が苦労することもない。
「では、行って来るよ。ああ、セレスティーナ、君の弟くんにはうちから使いの者を出しておこう。本人が望めば今日、ここに来ても構わないよ」
シスコンな弟のことも調べ済みだ。それに一度、なぜセレスがウィンダリア家であれほど認知されにくいのか聞いてみたい。特に彼女の実の父母と姉について聞きたい。
「行ってらっしゃいませ、あなた。セレスちゃんのことはわたくしにお任せ下さいな」
「ああ、頼んだよ」
オースティはクリスティーンの頬に口づけを落とすとセレスと一緒に乗って帰って来た馬車に再び乗り込んでいった。
残されたのは、母と義娘。
「さぁ、セレスちゃん、お着替えしましょ?」
にこにこしているのに、雰囲気がエルローズのお店の店員さんたちによく似ている。クリスティーンの笑顔にセレスは着せ替えから逃れられないことを悟って大人しくクリスティーンとともに衣装部屋へと入って行った。