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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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ポンコツ閣下と友人(100万PV達成記念)

読んでいただいてありがとうございます。記念にアップしました。これからもよろしくお願いいたします。

 本日も先輩にこき使われた可哀想な後輩くん(自称)は、ノックすることもなくその執務室の扉を勢いよく開けた。


「ちょっ!!聞いてくれよ、今日もリド先輩は鬼畜だったよぉう!!……って何してんの?リヒト?」


 この部屋の主でありこの国の宰相である友人のリヒトは、机の上に両肘を突いて指を組み、その上に軽く顎を乗せるスタイルで微動だにせずに机の上に置かれた書類を見ていた。机の上のよく見える位置に置かれた丸く巻かれた白い布地に見覚えがある。


「…なんつーか、お前、やっぱりまだ迷ってんの…?」


 確かあの布は、リド先輩がエルローズに持っていけとリヒトに渡したお土産だったのではないだろうか。

 何でも隣国の珍しい蚕から取れる細い糸を職人が腕と時間をかけて織り上げた布で、白い布地に光が当たると様々な色になるという隣国の王族でも一生に一度その布で作った服を着れるかどうか、というくらいには珍しいものだったはずだ。これを貰った本人であるリドはさほど興味はなさそうだったが、布を見かけた王妃が遠回しに欲しいと言っていた。ただ、リドはすでにこれをエルローズに贈ると決めていたようで、すぐに却下していたようだったが。

 そして、親愛なるリド先輩は、その布地をリヒトに渡してエルローズに持っていけとの命令を下していた。


「やはり、ラ・フローラのチョコレートがいいだろうか」

「あ、それこの間アヤト先輩が買ってきてくれたから、ローズ様とお嬢ちゃんと一緒に食べた。すっげーうまかった!」

「…それとも、プティの焼き菓子か」

「坊ちゃんが持ってきてくれたやつだ。ローズ様が自ら紅茶を淹れてくれたんだけど、淹れ方一つで味ってあんなに変わるものなんだなー。ちなみにローズ様は少しふわっとした感じの焼き菓子が美味しいって言ってたぞ」

「……ベアルのケーキ…」

「お嬢ちゃんとローズ様がすっげー並んだって言ってた。1人何個までっていう個数制限があったらしくて、一緒に買いに行ったんだってさ。でもそのおかげでオレも食べさせてもらえたから感謝だよねー」

「ヨシュア!貴様!!どうしてローズと一緒にお茶してるんだ!それにさっきは聞き流したが、ローズが自ら紅茶を淹れてくれただと!?」


 常に沈着冷静で一分の隙もない、と評される氷の宰相閣下が一瞬で崩壊した。


「ローズ様、お優しいんだぜー。オレのこともちゃんと覚えててくれたしさー。紅茶に関しては、ローズ様のこだわりが強すぎて他の人が淹れた紅茶だと納得してくれないんだって。めちゃくちゃ美味しかった、オレ、おかわりしたもん」

「ローズの淹れた紅茶をおかわりした、だと…!私は飲んだことも無いというのに!!」


 腹の底から出てくるような低いうなり声が聞こえてきた。というか、ローズは昔から自ら淹れた紅茶じゃないと納得しないので、学生時代の生徒会室で出されていた紅茶は全てローズが淹れてくれていたはずだ。


「お前、ひょっとして生徒会に入ってた頃、休憩時間にローズ様が淹れてくれていた紅茶に一切手を出してなかったのか?」


 恐る恐る聞いてみたところ、宰相閣下はしっかりはっきり頷いた。


「当たり前だ。もったいなくて飲めるか」


 言い切ったが、ついこの間、こんなに美味しい紅茶なのに飲んでくれない人もいるのよね、と寂しそうにエルローズが言っていたのをヨシュアは思い出した。


「バーカ!バーカ!お前が飲んでくれないから、ローズ様が寂しそうにしてたんだぞ!!」


 このポンコツ宰相は、色んな意味でエルローズに対する態度が間違っている。なんでもっと素直になれないんだ。これで思いっきりエルローズのことを口説いてればまだ救いはあるのに、いざ本人を前にしたら、学生時代は途端に無口になってそっけない態度を取っていたし、大人になった今は、ようやく言葉を交わすくらいは出来るようになったが、全く中身のない当たり障りの無い話しかしない。さらに言うなら会いに行くという決意をするだけで軽く一月は過ぎそうだ。


「あほらしー、あ、そう言えば、ローズ様、この間アヤト先輩に男の髪の毛が長いのはうっとうしいって言ってたぜ」

「すぐに切ろう」


 肩より少し長い髪の毛を後ろで束ねている宰相閣下は、迷うこと無く髪の毛を切ると宣言した。


「でも、お嬢ちゃんの髪の毛を触りながら、絹のような触り心地ならずっと触っていたいって言ってたぜ」

「ヨシュア、今すぐ髪の毛に良いと言われている食材を片っ端から取ってこい」


 エルローズに触ってもらう為に、あっさりと方向転換をして影を私用で使うことに迷いはない。


「オレ、一応、王家の影なんだけどー」

「食材を集めるだけの簡単なお仕事だ」


 これでいいのか、この国の宰相。上司(国王陛下)は面白がって許可をくれるどころか、さっさとしろ、と言って送り出してくれるだろう。王家の影の仕事が髪の毛に良いとされる食材探しなんてやりがいがなさ過ぎる。


「あのお嬢さんの化粧水の威力は聞いている。お嬢さんに良い薬がないか聞いておいてくれ」

「聞いたところでいつローズ様に会いにいくんだよ。言っとくけど、ローズ様、王都の珍しいお菓子はだいたい食べ尽くしてるからな」


 お土産に何を持っていくのかでずっと悩んでいるリヒトにヨシュアは追い打ちをかけた。


「“貴女に会いに来ました”って言って抱きしめればいいじゃん。んでプロポーズでもしてこいや」

「………」


 ヨシュアの言葉をしっかり想像したのか、リヒトはその場で固まってますます動かなくなってしまった。


「おーい、リヒト?オレもう帰るからな。あ、そのリストの中だと、ラ・フローラの月に一度しか販売しないって言うチョコレートをローズ様は食べてみたいって言ってたぜ」


 友人として情けでエルローズの有力情報を流しておいた。

 後はもう恋愛ポンコツが仕事をするだけなので、これ以上、首を突っ込む気はない。


「マジで何でうちの宰相閣下は、政治のことはあれだけ優秀なのにローズ様に対してだけああなんだろ??」


 固まったままの宰相を部屋に置いたまま、ヨシュアは首をひねりながら廊下を歩いて行ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] もうベロンベロンに酔わせて二人を監禁するしかねーなー(目反らし
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