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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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次女、ほのぼのと旅に出る①

読んでいただいてありがとうございます。ほのぼのとした感じの回です。

 セレスとリドはのんびりと街道を歩いていた。

 この街道は王都から続く道で多くの旅人が歩いている。街道ではたまに見回りの兵士たちとすれ違うこともあり、比較的安全な道として知られていた。きょろきょろと物珍しそうにあちこちを眺めるセレスをリドは笑いを堪えた顔で見ていた。


「セレスはこの街道を行くのは初めてなのか」

「はい、こちら側は初めてです。反対側の山には行ったことがあるんですが、今回みたいに少し遠出をするのは初めてです」


 反対側の街道の近くには山があり、そこは薬草が豊富にあり、なおかつ魔獣もいない安全な場所として知られているので、薬師たちはそちらに行くことが多い。それ以外の薬草は、腕に自信がない人が多い引きこもり集団なので冒険者ギルドに依頼を出している。

 セレスは、師匠たちにある程度は剣の扱い方はたたき込まれているので自分で取りに行くこともあるが、本職に比べたら全然なのと保護者と弟が危ないことにはうるさいので、基本的には冒険者ギルドに依頼を出すかディーンにお願いをしていた。今回は向かう場所が街道沿いの比較的安全な村であることと、本人曰くたまたまヒマだっただけ、というリドが一緒に行ってくれることになったので、セレスも少し遠出をすることにしたのだ。


 セレスは知らないが、第二王子がディーンの元を訪れたので、さてどうしようかと保護者たちの話し合いが行われた結果、前々からセレスが見たがっていた薬草が花を咲かせる時期なので、ちょうどいいからその花を摘んでくるという名目で少しの間、王都から出すことにしたのだ。最初はリドではなくて後輩君が一緒に行く予定だったのだが、お休みをもぎ取ったリドが自分が行くと言い出したのだ。もちろん先輩には逆らえない後輩は喜んで譲った。


「リド先輩のデートを陰ながら見守らせてもらうッスー!」


 大変いい笑顔で言い切った後輩はその直後に先輩からグーパンを貰っていたが、今は文字通りそこら辺の影から見守っているだろう。


「でもよかったのですか?リドさんもお忙しいのでは…?」

「大丈夫だ。何年も働きづめだったからな。少しくらい休んだところで文句は出ない」


 心配そうなセレスにリドは微笑んだ。

 仕事に関しては問題ない。託した相手は仕事に関しては間違いなく優秀なのでしばらくリドがいなくても何とかなる。

 ポンコツなのは恋愛についてだけだ。ポンコツは未だにお土産をエルローズに渡しに行っていない。異国の珍しい布地なので腐ることはないが、自分でも手土産を用意しようと毎日仕事の合間に真剣な顔でリストを睨んではぶつぶつ言っているのが大変うっとうしい。

 なので今回は、エルローズと一緒に観られるように観劇のチケットを渡してある。それぞれに一枚ずつ渡して、重要な相手との交渉なので必ず行って円滑に会話を進めてほしいと言ってある。案外真面目なあの2人は疑うことなく行くだろう。2人っきりのボックス席でせいぜいイチャつけばいい。

 それにそろそろ仕事を次代に譲っていこうと思っていたところなので、ちょうどいい期間が設けられた。リドがいない間、仕事をきちんとこなせるかどうか、帰ってからどうなっているのかを試す良い機会だ。


「貴重なお休みなのに、私に付き合わせてしまって申し訳ありません」

「俺としては楽しみだよ。それにこうしてのんびり外に出るのも久しぶりだ。セレスのおかげだな」


 セレスは申し訳なさそうに言うが、そもそもセレスが王都から少し離れた村に行くと言わなければ、まだ馬車馬のように働かされていたかもしれないのだ。むしろ感謝しかない。こうして王都から離れてのんびりと歩くのは本当に久しぶりだ。


「セレス、俺的にはいい気分転換でしかない。街道は安全だから、それほど危ない目に遭うこともないだろう。むしろ、女性の1人旅に護衛とはいえ俺が付いてきたんだ。知らん人間から見たら俺がセレスを誘拐してきたかのように見えるかもな」


 ははははは、と上機嫌でリドは笑っているが、確かにそういう見方をされる可能性もあるのかとちょっと驚いた。自分が成人しているように見えない外見をしているのは確かだし、実際まだ成人前だし、未成年が大人の男の人と一緒にいるだけで怪しさが倍増されているのかもしれない。

 もちろんそんな心配は杞憂で、他の人から見れば、リドが冒険者の格好をしていることもあって、旅慣れない少女とおそらく雇われたのであろう冒険者が仲良く談笑しているようにしか見えない。2人が醸し出す雰囲気に見た人たちは何だか微笑ましく思っていた。


「馬車に乗ってもいいが、せっかくいい季節なんだ、こうして歩くのも悪くない」


 目的地の村までは直通の乗り合い馬車も出ているが、あえてセレスとリドは徒歩で向かっていた。徒歩の方が途中でのんびりできるし、何かしらの薬草が見つかるかもしれないと思ってセレスが提案したら、リドは問題ない、と請け負ってくれた。

 今は村まで歩いて向かっている最中なのだが、こちら側の街道を歩くのが初めてのセレスがすでにちょこちょこと寄り道をしている。日程的に余裕を持って組んである為、大幅に遅れることもないので、リドはセレスの好きにさせていた。むしろこうして王都のすぐ近くという場所に来ることがなかったリドも新鮮な気持ちで街道を歩いていた。出かけるともなれば馬車で何日もかかるような遠出ばかりだったし、近場はせいぜい王都内だけだ。王都を出たすぐ近くの場所というのは案外盲点だった。学生時代にも来たことがない。


「俺もこの辺は歩いたことがないから面白いな」

「そうなんですか?」

「ああ、もっと遠くに行くことが多かったから。この辺だとせいぜい馬車から見た覚えくらいしかない」

「歩いていると小さな発見が多いですよね」

「セレスみたいに何でもかんでも珍しがることはないがな」

「初めて見たらあんなもんです!」


 セレスは街道の途中にある石像を見てはしゃいでいた。王都から延びる街道は途中、いくつもの分岐点がある。

 基本、分岐点ごとに石像が置いてあり、そこが分かれ道であることを示しているのだが、石像は設置した時代や統治者によって様々な形をしている。セレスはその1つ1つをじっくり見て、それがどの時代に作られた石像なのかを確認して楽しんでいた。それに街道から少し離れると薬草の生えている森もあるので、少しだけ森の中に入ったりしていた。リドは何の文句も言わずにセレスに付き合ってくれるので、我に返ったセレスの方が何度か反省をしているのだが、気になったものがあったらすぐにふらふらと近寄って行くのは止められなかった。


「別に時間に縛られているわけでもないしな、好きなように歩いて行こう」

「はい」


 今日はもう少し先にある宿場町まで行って泊まる予定なのだが、まだ日が高いし、いざとなれば野宿する準備も持ってきている。

 最近は机に縛り付けられての仕事ばかりだったので、こうして外で身体を動かすのが楽しくて仕方が無い。今の仕事を次代に譲ったら、改めて冒険者として各地を巡るのもいいのかもしれない。


「セレスは、他の国に行ったことはあるのか?」

「ないです。でも、いつかは行ってみたいと思っています」

「そうか。その時はまたこうしてのんびり行こうか」

「…一緒に行ってくれるんですか?」

「ああ。もう少ししたら時間的余裕が出来るからちょうどいい。俺も他の国のことを色々と知りたいんだ」

「なら、一緒に行きましょうね」


 嬉しそうに笑ったセレスを見て、リドもつられて笑顔になった。

 本当にルークの趣味は良い。見た目だけならあの姉の方を選んでもおかしくはないのだが、ルークは外面ではなく、中身のセレス本人が気に入っている様子だった。確かにこうしてセレスと話していると、現実問題のアレコレに荒んだ心が癒やされてくる気がする。歴代の『ウィンダリアの雪月花』がみんなセレスのような雰囲気を持つ女性だったのだとしたら、王家の者が執着するのがわかる気がした。

 


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