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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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弟と影の人

 放課後ということもあったのでディーンはそのまま帰路へとついた。後を付けてくる存在がいるにはいたが、コレは恐らく護衛に付いている王家の影の方だ。第二王子の手の者ではない。『ガーデン』やセレスに付いている人たちと同じ気配がする。


「…アヤトさんに伝言をお願いできますか?殿下が僕の元に来た、と」


 今日は姉やアヤトの元に行かない日なので、ディーンは公園に入るとベンチに座って本を取り出しながら後ろにいる人たちに向けて伝言を頼んだ。しばらく無言があった後にどこにでもいそうな顔立ちと服装をした人物が1人現れてディーンのすぐ横のベンチに座った。


「我らはその伝言を薬師ギルドの長とともに陛下にもお伝えするぞ?」

「ええ、かまいません。アヤトさんから問題ないと言われてますから。…僕の姉様はすごいでしょう?」


 外用のスマイルでふふふ、と笑うと影の人が苦笑した。先日、リドがセレスとお出かけをした時、彼らも護衛として付いて行った。あのリドがそれは楽しそうにセレスと会話をし、最終的には、護衛するから何かあったら呼び出せ、と言っていたので影達は度肝を抜かれた。


「……確かに君の姉上はすごい。あの方があのように笑っておられたのは久方ぶりだ。しかし、君も殿下の言葉を見事にかわしたな」

「殿下、だまされやすくないですか?臣下の身としては王族があれで大丈夫なのかと心配してしまいますね」

「王太子殿下がその分、しっかりしておられる。第二王子殿下は、まあ、理想の王子様像というものを民衆に見せてくれればいいのではないかな」

「あー、ルーク殿下って確かに絵本に出てきそうですもんね」


 王太子より第二王子の方が絵本に出てくる王子様のような容姿をしている。学園の成績も悪くないし、表に出しておけば民衆受けはいいだろう。というかこの影の人、ルークに厳しめの意見を持ってるようで自分相手にそこまで言っちゃっていいのかな?と一瞬考えた。


「いずれ国王になられる王太子殿下は国の顔、ルーク殿下は民衆に対する表の顔、で、実務はどなたが?」


 王太子が凡庸な人物だという話は聞いたことがない。むしろ出来る人物のはずだ。だが、実際に政務を担っていくには王太子1人ではとうてい無理な話だ。ならば国王となった王太子を支える予定の人間がすでにいるはずだ。今の国王を支えている宰相のように、次の宰相候補がいるはずだ。


「さてな。だが、ディーン・ウィンダリア、君が王太子殿下に会ったら気に入られる可能性が高いぞ」

「お断りですよ。僕は侯爵になって領地経営とかをしながら姉様とのんびり暮らしていくんです」

「ふはははは。姉弟揃って面白いな」


 普通の貴族なら王太子殿下の側近、将来的には国王の側近になれるチャンスが来たのなら迷わず食いつくところだ。それをディーン・ウィンダリアはあっさり蹴った。王家の兄弟はウィンダリアの姉弟に振られてしまったらしい。弟はともかく兄である王太子とは話をしたこともないだろうが。


「薬師ギルドの長への伝言は承った。第二王子殿下をからかうのもほどほどにな」

「からかうなんて、王家の方に対してそんなことはしていませんよ」


 先ほど第二王子に見せていた笑みと同じ笑みでそう言い切った。

 ディーンはあくまでルークの質問にちゃんと事実を答えただけだ。


「そうだな。嘘はついてはいなかったな」


 いなかったが、事実を全部言ってもいなかった。

 第二王子の質問の仕方がまずかっただけだ。ただ、第二王子の探るような戸惑いもわからなくはない。何せ相手はウィンダリア侯爵家の単純じゃない方だ。

 特殊なウィンダリア侯爵家にあって今までセレスティーナについて沈黙しているディーンが姉について何か知っているのかどうかも怪しい状態では、あの言い方が精一杯だったのかもしれない。


「今まで姉様の何を見ていたんだか……、ちょっと姉様を知っている人ならすぐに居所なんてわかっただろうに」


 事実、ディーンは姉が家から失踪してからすぐに薬師ギルドに使いを出して姉の無事を確かめた。セレスの失踪で家の方は第二王子が来たりと少しごたついたが、姉は新しい生活をのほほんと始めている。


「普通、いくら薬師科を選択しているとはいえ、すでに薬師に弟子入りしているとは思わないだろう」


 通常、学園で薬師科を選択する生徒は、そこで基礎を教わってから薬師に弟子入りする。セレスのように幼い内から薬師の誰かに弟子入りしているのはどちらかというと庶民に多い。それに貴族ならば宮廷薬師に弟子入りするのが通例となっているので、いくらギルド長の弟子とはいえ、家系的に薬師の一家でもないセレスがすでに弟子入りしていることがおかしいのだ。


「僕の姉様がいかに規格外で素晴らしい方なのかを再認識しました」

「まて、今の会話でどうしてそうなるのだ。君の思考回路はどうなっているんだ?」


 凡庸、お花畑の夫婦から生まれたどちらにも似ていない天才。

 ディーン・ウィンダリアの一般的な評価はそれなのだが、影達から言わせると残念ながらお花畑の方はしっかり遺伝している。

 両親のお花畑は長姉に行ったが弟のそれはすぐ上の姉に現在進行形で発揮されている。


「やれやれ。本当にほどほどにしてくれよ」


 ベンチから影の人が何事もなかったように去って行った。それからしばらくしてからディーンも読みかけの本を閉じると、公園から外へと出た。

 これで万が一、第二王子の手の者に見張られていても問題はない。時間を潰してから家に帰りました、というだけだ。今のところそんな気配はないがクラスメイトに見られても面倒くさいので、ディーンはおとなしく帰路についたのだった。

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― 新着の感想 ―
「少なくとも僕のウィンダリア家に要るのは薬草畑でありお花畑ではないんですよ」とか言いたそうな弟くんでありました。
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