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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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北の大地へ②

読んでいただいてありがとうございます。

 北の方へ旅に出ます。

 そう薬師ギルドで宣言したら、同僚たちが自分たちが知る限りの北の大地にある薬草について教えてくれた。

 有難いのだが、セレスの興味が薬草にしかないと思われていそうで悲しい。

 薬草はしっかり採って来るけれど。

 詳しく聞くと、同僚の一人が北の出身だった。

 しかも、今度行く、領都の近くの村の出身だった。


「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、ノクス公爵領の領都近くにある山について知らない?上の方は万年雪があって、月の神殿が管理しているっていう山。山には小さな神殿と村があるらしいんだけど」

「神殿のある山?あー、あそこかなぁ?」

「何か知ってるの?

「小さな子供に聞かせるような、おとぎ話がある山だな」

「おとぎ話?」

「あぁ。昔、母から聞いたことがある。母は祖母から聞いて、その祖母もまた曾祖母から聞いて、って感じだから、けっこう昔からある話みたいだけど」

「どんな話?」

「昔々、美しいお姫様がいました。お姫様には二人の求婚者がいて、一人は南の王子様、もう一人は北の王子様。二人は、お姫様を巡って激しく対立しました。そんなある時、事件が起こります。南の王子様に恋をしていた北の王子様の妹姫が、お姫様をどこかに連れ去ってしまったのです。愛する南の王子様と、大切な兄を誑かした魔女を、妹姫は許せなかったのです。二人の王子様は、必死になってお姫様を探しました。妹姫は、二人の王子様は魔女に操られているのだと周りの者に訴えて、二人の行く手を阻むように命令しました。二人の王子様が妹姫の妨害を乗り越えて、ようやくお姫様の下へたどり着いた時には、お姫様はすでに亡くなっていました。その身体はどこかへ消えて、残されていたのは、二つの真っ白な真珠だけ。悲しみに暮れた二人の王子様はそれを分け合い、南の王子様はその真珠をお姫様の故郷にある神殿に持って行き、北の王子様はその真珠のために小さな神殿を築きました。北の王子様がその神殿で毎日祈っている姿を哀れに思われた神様が、北の王子様の家から見られるように神殿のある場所を隆起させて山を作り、常にお姫様のことを思い出せるように、頂上を夏でも溶けることのない真っ白な雪で覆いました。それがここから見えるあの山のことなのです。こんな感じだったかな。あ、ここって言うのは、領都のことだよ。ついでに言うと、領都から見える山で万年雪があるのは、一つだけだな」


 懐かしそうに同僚が語ったのは、まず間違いなくナーシェルと思わしき人物が行った山のことだった。


「そのおとぎ話って……」


 銀色、という言葉は出て来ない。けれど、雪月花の物語の一つのように思える、山の方の神殿は月の女神様を祀っているし、万年雪と言えば雪月花の花がある場所だ。

 もしこれが雪月花の物語の一つだったしたら、それは何のための物語なのだろう。

 雪月花がある場所へ導くための物語?

 自分はともかく、姉たちは記憶の一部を共有していた。けれど、滅多に外に出ない雪月花では、正確な場所は分からない。ひょっとしたら、そのための物語。道標として残された物語なのかもしれない。


「北ではそれなりに有名なおとぎ話だな。といっても、庶民の方にだけど。小さい頃、だいたいの家ではこの話を聞かせて、神様が作った山を大切にしましょう、そして、その山があるこの北の大地は祝福されている、そう言い聞かされて育つ。実際には、何度か月の女神の罰を受けているから、神様に見捨てられた土地って思っていてもおかしくはないんだけど、これのおかげでそんな風には思わなかったな。貴族は知らんけど」

「そっか。んー、ヒルダさんは知らなかったっぽいんだよね」


 貴族出身のヒルダは、そんなおとぎ話は知らなかったのだろう。

 ノクス公爵家は、過去に何度か『ウィンダリアの雪月花』に手を出して、その罰を受けている。

 薬草が何年か生えなくなったこともあったが、その期間が過ぎれば、元々生えていた薬草はまた生えるようになった。

 もっとも、その時すでに絶滅していた薬草が生えることはなかったけれど。

 ノクス公爵家も愚かではないので、何度か罰を受けた後は、雪月花を捕まえても丁重に監禁していたそうだが。

 おとぎ話を辿れば、北の大地にたどり着く。姉たち全員ではなくても、必要とする誰かにこの話が届けば、それで雪月花の花の正確な場所が分かる。

 つまり、それを必要としたナーシェルお姉様に届けばよかったのだ。


「……あれ?」

「どうした?」

「ううん、何でもない」


 ここからだと、ノクス公爵領の方が近い。ナーシェルお姉様がそちらに行ったとして、誰が当時の国王にそのことを伝えたのだろう?

 戻って来たナーシェルお姉様の傍にはすでに国王の姿があった。

 なら、誰かがナーシェルお姉様のことを国王に知らせたということになる。

 セレスとて、貴族令嬢としての教育は受けた。

 だから、そう簡単に国王に直接会ったり話をしたりすることが出来ないことも分かっている。

 けれど、誰かが知らせたのだ。

 国王に直接、『ウィンダリアの雪月花』のことを知らせる。そんなことが出来る人物は……。


「まさか……」


 突拍子もないことだと分かっているけれど、セレスにはそれが出来る唯一の人物はノクス公爵本人しか思い浮かばなかった。



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