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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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真の薬と偽の薬③

読んでいただいてありがとうございます。

「ジークフリード殿下は、雪月花と出会った王弟で、亡くなった恋人とはその雪月花のことだったと言われております」

「なら、その雪月花の名前がオードリーですか?」

「そうでしょうな。ご存じの通り、雪月花は名前が伝わっていない場合も多く、おそらく、としか言えませんが、伝承から考えるに、当時の雪月花の名前がオードリー様だったのでしょう」

「……オードリー、お姉様……」


 セレスがオードリーの名前を呟くと、少しだけ身体の中が熱くなった。

 きっとそれは正しいのだ。

 ジークフリードとオードリー。

 それがその時代を生きた雪月花とその守護者の名前。


「ジークフリード殿下は当時の国王の弟で、戦の天才と呼ばれていた方でした。まだまだ世の中が不安定だった時代に王国を守るために何度も戦場に出て味方を勝利に導き、その黄金の髪から太陽神の化身とまで言われたほどです」

「あ、それは……」


 どれほど王国を必死に守ろうが、味方を勝利に導く軍神と呼ばれようが、太陽神の化身と言われた時点で、月の女神の娘には嫌われる要素満載になった。

 セレスは過去のことだけれど、そのジークフリードにちょっとだけ同情し、きっとオードリーお姉様は嫌だっただろうな、と思った。

 それでも諦めなかったであろう黄金のジークフリードに迫られたオードリーは、色々と妥協して彼を受け入れたのだろう。


「記録によると、ジークフリード殿下は結婚されておられました」

「結婚した後に雪月花と出会ったということですか?」

「いえ、それが、愛妻家であったとも伝わっているのです。若くして妻を亡くした後は、独り身だったようですよ」

「えーっと、そうなると、恋人というのは実は奥様?オードリーお姉様のことになるのでしょうか?」

「若くして亡くなっているというところが共通しているので、それで合っていると推測されます」

「過去に雪月花と結婚した王族がいた、ということですか?」

「そうなりますね。ただし、真偽のほどが確かではなくて、ジークフリード殿下に近しい方の日記が残っているのですが、奥様は感情豊かな方だった、と書かれているんです」

「それは……」


 セレスはともかく、姉たちは感情が表に出ない人たちだったはずだ。

 だからこそ、気持ち悪がられてひどい扱いを受けることもあったのだ。

 それなのに、そんな昔に感情豊かな姉がいたというのだろうか。


「雪月花の皆様は感情を持たないと言われておりました。ですから、ジークフリード殿下の妻だった方が本当に雪月花であったかどうかは、謎なのです」


 誰もが知っている感情がないと言われている雪月花からは想像出来ない、感情豊かな雪月花。

 ヒルダたちは、目の前にいるセレスという雪月花を知っているからそういうこともあり得ると理解しているが、そうでなければ、ジークフリードの感情豊かだったという妻が雪月花だと思う人物は少ないだろう。


「現在では、ジークフリード殿下の妻が雪月花ではなかったか、日記の方が間違っているか、そもそもジークフリード殿下は雪月花と出会っていなかったのではないか、とも言われております。何せ、当時の王家の記録にも雪月花のことは伏せられていることが多く、全て伝承やおとぎ話のような形でしか伝わっておりませんので。当然、ジークフリード殿下と雪月花の出会いも、脚色されたであろう話しか伝わっておりません。それにジークフリード殿下の話は矛盾することも多く、どれが真実なのか、それとも全て作られた話なのか、全く分かりません。ただ、残っている話は多い方ですな」

「そうなんですか?」

「お嬢様、小さい頃、おとぎ話などを聞かされたことはないのですか?」


 セレスが驚いていたので、ヒルダが不思議に思って聞くと、セレスはこくりと頷いた。

 雪月花の話は、子供に聞かせる定番のおとぎ話になっている。

 そこには雪月花を決して害してはいけないという刷り込みのような意味もあるし、自分たちが生きる国は、月の女神様の娘がいるほど特別な国なのだから、皆で守って行こうと意識させるような意味も込められている。

 雪月花とあまりいい関係を築いてこなかったノクス公爵家の娘であるヒルダでさえ、幼い頃から雪月花の話は聞かされた。


「じぃに昔、その時が来たら必要だと思う方から色々な話を聞けるでしょう、って言われたことがあるから、お姉様たちの話もわざとしなかったんじゃないかな」


 セレスの実質的な育ての親とも言えるウィンダリア侯爵家の執事から、雪月花に関する話を聞いたことはあまりない。

 もちろん、セレスが聞かせてほしいとお願いした時は教えてくれたので、知らないということはない。

 きっと、自分たちが聞いている話ではなくて、セレスが知りたいと思った時に、その時の誰かが知っている話が必要だと思ったのだろう。


「なるほど。その方はセレス様が必要な時に、必要な話をする者が現れると考えておられたようですね。この場合は、私ということになりますか。では、私の知る限りのジークフリード殿下のことをお話しないといけませんね」


 穏やかに微笑みながら温かい紅茶を飲んで、老神官は話の続きを始めた。


「さて、では、当時の雪月花がオードリー様というお名前だと仮定して話を続けますが、ジークフリード殿下とオードリー様の出会いは、戦場だったと言われております。王家と敵対した貴族の陣地で囚われていたオードリー様を見つけたのがジークフリード殿下だった、とも、ジークフリード殿下が戦場で見かけたオードリー様を欲して、味方であった貴族を滅ぼして手に入れた、とも言われております。どちらにせよ、オードリー様はウィンダリア侯爵家から離れて、何故か戦場におられたようです」


 当時のウィンダリア侯爵家が、雪月花をどういう風に扱っていたのかが伺い知れる一端でもある。

 

「戦場からオードリー様を連れて帰られたジークフリード殿下は、彼女と住む家を建てました。ジークフリード殿下はその家に早く帰るために、戦を長引かせることなく終わらせていたそうです。オードリー様を連れて行かれることを恐れたジークフリード殿下は、家の警備を強固にして、誰かが彼女に近付くのを嫌ったそうです。一方、日記を残した騎士によると、あまりに自分を束縛しようとするジークフリード殿下に怒った彼の妻が、ジークフリード殿下とケンカをして外出する権利をもぎ取ったそうです。外出する日はジークフリード殿下が護衛をするか、彼の部下の中から厳選した騎士が護衛するか、どちらかだったようですが、それでも外に出ることに成功したそうです」

「ケンカ、ですか。それだけで雪月花とは違う感じを受けますね」

「はい。何事にも興味を持たないと言われている雪月花とは、全く違います」


 そう思いながらも、セレスの頭の中ではセレスによく似た銀色の髪の女性が、金髪のジークフリードに対して怒っている姿を思い浮かべていた。

 ……あながち、この想像が間違いだとは思えない。

 少々、親近感が湧く。


「奥方とケンカをした後のジークフリード殿下は、あからさまに落ち込んでいるのが分かったそうですよ。子供こそいませんでしたが二人の仲は良かったようです。ただ、人気のあったジークフリード殿下に言い寄る女性は多く、そういった女性からの嫌がらせなどもあったそうなので、余計に過保護になったのでしょうね」


 金髪のジークフリードが困っている顔を思い浮かべたのだが、その顔がどうしてもセレスの知っているジークフリードにしかならなかった。

 

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