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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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真の薬と偽の薬①

読んでいただいてありがとうございます。今年、一年、セレスたちにお付き合いいただき、ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。

 クレドに残ったセレスは、毎日、本を読み漁っていた。

 ナーシェルとヴィクトールの墓にも何度か参って、岩の神殿に通い神官たちと薬草の育て方や効能について色々と話をしたり、クレドの薬師ギルドに顔を出して足りない薬を作ったりしていた。

 何も起きない平穏な日々を送ってはいたのだが、心の何処かでざわざわと何か嫌な予感がしていた。


「ヒルダさん、何か連絡はありましたか?」


 セレスは、多少、剣などは育ての親のような存在のウィンダリア家の執事に習ってはいたけれど、それはあくまでも最低限のことでしかないし、性格的に荒事には向かないのは自覚していたので、出来ることと言えば、こうしてヒルダに何か連絡があったかどうか聞くだけだった。


「いいえ、今のところは特にありません。オースティ様からは、もう少しクレドにいるようにとのことでしたが、何も起こっていないのが不気味だということでしたので」

「何か、嫌な予感がするんです。でも、それが誰に対する何なのかが分からなくて……、それに……」

「それに?何かあるのですか?」

「何かって言うか、どう言えばいいんだろう……」


 嫌な予感は確かにする。

 けれど、それに対して、王都に戻った方がいいという思いと、このままここで平穏な生活を続けるべきだという思い、二つの相反する思いがセレスの中に生まれた。

 安全だから、とかではなくて、セレスの中に王都から離れるべきだという思いがあるのだ。

 それが、どうしてなのかと言われると困るし、それがセレス自身の意思なのかどうかと問われても困る。


「……変な感じがするんです。私の中で、王都に行きたいという気持ちと、王都に近寄っては行けないという気持ちがあって、それがせめぎ合っているんです。いえ、誰かに止められている?」


 セレスが王都にいる人たち、特にジークフリードのことを心配すると、どこかで心配する必要なんてない、そんな声が聞こえる気がするのだ。

 気のせいだと思いたい。

 けれど、確かに自分の中に、そんな声が生まれるのだ。


「お嬢様、雪月花の皆様は、不可思議な力をお持ちと聞きます。それもそういった力のお一つなのではありませんか?」

「雪月花の力……?いえ、繋がり、とでも言うのでしょうか。そうかもしれません」


 セレスは初めて、自分が雪月花と呼ばれる存在であることが怖いと感じた。

 歴代の雪月花たちが自分の姉だということは、本能が理解している。

 ナーシェルやアリス、それに最初の姉であるエレノアの名前を聞くと、自然と「お姉様」という単語が思い浮かぶ。

 けれど、セレスにはその記憶がない。

 異世界の記憶はあるけれど、雪月花としての記憶がない。

 姉たちはある程度、記憶を共有していたというのに、自分にはそれがない。

 繋がりがあるように思えても、分かりやすいものではない。

 ひょっとしたらこの声の主は姉の一人なのかもしれないけれど、セレスにはそれが分からなくて、余計に怖く感じた。


「お嬢様、何かあればオースティ様から連絡があると思います。もしジーク様がお嬢様の身を案じて何も知らせなかったとしても、オースティ様は必要となればお嬢様を王都に呼び戻すことをためらうような方ではありません。もちろん、お嬢様の安全のために必要な措置は講じるでしょうけれど、お嬢様にしか解決出来ないようなことならば、必ずお嬢様を呼び戻します」

「そう、かな?」

「はい。ですから、今はまだその時ではないのでしょう。お嬢様、いつオースティ様に呼び戻されてもいいように、お嬢様が必要だと思う薬を作っておいた方がいいと思います」

「私が必要だと思う薬?」

「はい、ここは、お嬢様の勘で作りましょう」


 今すぐに必要じゃなくても、セレスが必要だと思うのならば、きっと使う場所はある。

 それがジークフリード関連になるのか、それとも家族のために使うことになるのか分からないけれど、ここでこうして心配だけしていたも仕方がない。


「……そうだよね。はい、ヒルダさん、私、薬を作ります。ですから、薬師ギルドまで護衛をお願いします」

「はい。では、馬車の用意をしてきます」


 ヒルダが馬車の用意に向かったので、セレスは自分の部屋へと戻ると、トーイの残した本を持った。


「いるのは、きっとこの本の中に書かれた薬……」


 第一候補として、隠されていた魅了の薬関係。

 第二に、現代ではなくなってしまった薬草を使って作った薬。

 これに関しては、何とか代替品で行けると思う。

 取りあえず片っ端から作っていけば、何とかなる気がする。


「ジークさん……」


 心配ではあるけれど、セレスが出来ることなどあまりない。

 こうして、必要だと思うから薬を作ることしか出来ない。

 セレスは、ふと本の中に隠されていた薬のメモを見た。


「これも作ればいいの……?」


 魅了の香水の完全版とでもいうべき薬のレシピを見て呟いたセレスの声を、邪魔するような存在は出て来なかった。

 

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