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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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少女と姉妹②

読んでいただいてありがとうございます。

 ソニア・ウィンダリアは、朝食を食べながら軽くため息を吐いた。


「どうしたの?ソニア、気分でも悪いの?」

「いいえ、お母様。少し夢見が悪かっただけですわ」


 母が心配そうな顔でおろおろして聞いてきたが、ソニアは素っ気ない返事をした。

 

「でも、心配だわ。よければお母様にその夢の内容を教えてくれない?」

「ちょっと変な夢を見ただけだから!お母様には関係ないわ」


 そう、そうなのだ。この母には関係ないのだ。

 あの子のことは、言ってはいけないから。

 ……あれ?あの子?


「ソニア?」


 動きが止まったソニアに、今度は父が心配そうに声をかけた。


「何でもないわ、お父様。お父様も関係ないから、放っておいて」


 父も関係してはいけない。

 あの子は守られるべき存在なのに。

 そう考えて、ソニアは、また訳の分からない思考に陥っていることに気が付いた。

 あぁ、イライラする!


「ごちそうさまでした」


 食べるのを諦めてさっさと部屋を出て行ったソニアを両親は心配そうな目で追っていて、一人黙々と朝食を食べていたディーンは去って行く後ろ姿だけをじっと見つめていた。

 部屋に戻ったソニアは、枕を手に持つと、思いっきりベッドへと投げつけた。


「あぁ、もう!ほんっとーにイライラする」


 イライラしながらもソニアはその原因については、無意識の内に言ってはいけないのだと理解していた。


「イライラするから、お父様にドレスのおねだりでもしようかしら。お母様と宝石商でも呼んで何か買えばちょっとは良くなるかも」


 二人の意識を私に向けないと。

 最近、ちょっと他からの刺激が多そうだし……。

 あの人たちの娘は私だけだと、ちゃんと言い聞かせないと。

 娘は一人。

 可愛い私だけ。

 心の奥から湧いて出てくるその考えを、ソニアは一度も疑ったことなどなかった。

 ウィンダリア侯爵家の娘。

 それは他ならぬ自分だけだ。

 全く、本当にあの王家の人間は……。


「あれ?何だっけ?あ、そうだわ。ルーク様にもちゃんと言わないと」


 貴方の相手は私ですってちゃんと言わないと。

 それに、会わないといけない人もいるし……。


 ふっと笑ったソニアは、先ほどまでのイライラしていた表情とは違って、まるで憑き物が落ちたかのように静かな表情で笑っていた。

 学園に行く時間になったので部屋の外に出ると、ちょうどディーンも部屋から出てきたところだった。

 この子は可愛い弟。

 あの子が大切にしている弟。

 なら、自分にとっても可愛い弟だ。

 ソニアは、静かに微笑んでディーンを見つめた。


「……ソニア姉さん?」


 ディーンは、いつもならヒステリックに文句を言うのに何も言わずに無言でこちらを見つめてきたソニアに、得たいの知れない何かを感じて一歩引いていた。

 これは、本当にソニアだろうか?

 あの、ヒステリックで自分が一番じゃないと気が済まない人だろうか?

 ディーンとしては、自分の姉はセレス一人だけだと思っているが、一応ソニアとも血の繋がりはあるので妥協して、ソニア姉さん、と呼んでいる。

 ソニアはそれが気にくわないらしく、いつもヒステリックに、お姉様と呼びなさい、と睨み付けてくるのに、こんな風に静かに見つめられたことなどない。


「なあに?」

「……貴女、誰ですか?ソニア姉さんは、そんな風に微笑みません」

「あら?私はソニアよ。他の誰でもないわ、たまにはこういう日もあるのよ」

「違います。上手く言えませんが……貴女は違う」

「違わないわ。でも……ディーン、少し大人しくしていてね、貴方は可愛い弟なのだから」

「は?本当に、貴女は、ソニア姉さんですか?」

「何度言えばいいのよ!ディーン!いい加減私のことは、お姉様と呼びなさい!」

「はぁ?」


 ディーンと話をしている最中に、急に人が変わったようにいつものヒステリックなソニアに戻ったので、驚いたというよりディーンは本気で困惑していた。

 先ほどまでの静かな笑みはどこかに消えて、こちらを睨み付けてくる表情は間違いなくいつものソニアだ。


「ソニア姉さん?」

「あら、嫌だ。これ以上、ディーンにかまっていたら、遅刻してしまうわ。ルーク様に嫌われたら、貴方のせいだからね!」


 とりあえず悪いことは全部人のせいにするのも、いつものソニアのやり口だ。

 混乱するディーンを無視して、ソニアはそのまま待機していた馬車に乗った。

 一人っきりになると、ソニアはまたため息を吐いた。


「……さすが、エレノアお姉様の血を継いでるだけあるわね。すぐに主導権を持ってかれてしまうわ。十七年かけて、ようやくこれだけ馴染んできたのに……」


 ソニアは、静かに微笑んだのだった。




 

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