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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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黒薔薇様と友人

読んでいただいてありがとうございます。評価、ブクマありがとうございます。

「あらあら、ずいぶんと久しぶりの人間が来たこと。ご機嫌よう、黒薔薇様」


 出迎えてくれたローズがさらっと黒薔薇様と言った。アヤトの時と違ってリドは嫌な顔こそしたが、特に何かを投げつけることはなかった。


「セレスちゃんと一緒に歩いてきたの?」

「そうだ、悪いか」

「いいえ、全然。セレスちゃん、薬箱はあっちの部屋にあるから補充をお願いね。それとリドが行くまで少し向こうでおしゃべりでもしていて。貴女たちも少し休憩してきてかまわなくてよ」


 お針子さんたちが「はーい」という返事をしてセレスと一緒に休憩室の方へと歩いて行く。セレスも含めてわいわいとおしゃべりしながら歩いて行く様子は微笑ましい。


「いいわねー、若いって。貴方も久しぶりに若い女の子と一緒に出歩いて楽しかったんじゃなくて?」

「新鮮ではあるな。本当に貴族の娘だったのかと疑うくらい素直な娘だな」

「おほほ、セレスちゃんだって貴族として振る舞う時はちゃんとするわよ。今はそれほど警戒する必要はなかったということではなくて?アヤトの紹介だし、行き先はわたくしのお店よ。わたくしたちが下手な人間をセレスちゃんに近づけるわけがないのをあの子はちゃんと知っていてよ」


 セレスの信頼を自分とアヤトはちゃんと得ている。それに自分たちが守っていることも知っている。幼い頃から姉のように接してきたのだ。そう、姉のように、だ。間違っても兄ではない。

 エルローズはソファーに座ったリドに自ら紅茶を淹れた。同じ茶器から入れた紅茶を先に飲む。


「……そんなことはしなくていい」

「あら、だめよ。わたくしが先に飲まなくては。アヤトだってそうしたでしょう?」


 優雅に紅茶を飲みながらエルローズは微笑んだ。その通りだ、アヤトも薬師ギルドの部屋で同じように自ら紅茶を淹れて毒見をしてくれていた。この姿の時は、ただの冒険者の扱いでいい、そうは言ってもこの友人たちは自分を守ろうとしてくれる。それは初めて会った時から何ら変わらない。


「悪いな」

「謝らなくてよくてよ。貴方に倒れられてはわたくし達が困るもの。それに昔、言ったでしょう?こういう時には、何て言うのでしたかしら?」

「そうだったな、ありがとう、だったな」

「その通りですわ。わたくしもアヤトも好きでやっているのですもの。お気になさらず、と言ったところかしら。まあ、わたくしが倒れたらすぐにアヤトを呼んでくださればそれでよいですわ」


 服装に関する意見の相違はあるが、アヤトもエルローズもお互いを大切な友人だと思っているので何かあればすぐに駆けつけてくれる。それは自分が危機に陥ってもそうだろう。幸い、今までそんな事態はなかったが、有事の際には無条件で信じられる友人だと思う。


「それで、今日はどうなさったの?貴方が街に降りてくるなんて珍しいですわね」

「しばらくお前達にも会ってなかったからな。今日は休暇をもぎ取ってきた。それに…セレスティーナ・ウィンダリアにも会ってみたかったんだ」

「実際会ってみてどうかしら?」

「……アヤトにも聞いたんだが、どうして、ウィンダリア侯爵夫妻はあの娘を忘れているんだ?」


 深い青の瞳に楽しそうな光をたたえて笑っている姿は可愛らしいし、しゃべりもしっかりしている。影たちからの報告によれば弟との関係は良好どころか立派なシスコンに育っているという。

 問題は両親と姉のようだ。いや、親戚から不満の声が聞こえてこないところを考えるとセレスティーナより年上のウィンダリア一族全員、といったところか。


「さぁ?わたくし達もわけがわからなくてよ。ディーン、セレスちゃんの弟は別に忘れていないもの。あの家の使用人もセレスちゃんのことは大切に育ててくれていたわ。血縁、ウィンダリアの一族……ひょっとしたら『ウィンダリアの雪月花』は、一族から離れたいのかもね」


 確かに昔のように政略結婚に使われることはなくなったが、彼女たちが領地から出てこなかったのは本当に彼女たちの真の意思だったのかどうかは怪しい。なんと言っても生前の彼女たちに会った人間が少ないのだから。


「今までの『ウィンダリアの雪月花』たちがどんな思いだったのかはわからないけれど、セレスちゃんは自分で外に出ることを選んだわ。不文律は守らなくては、ね」

「そうだな。あぁ、ところでお前にも土産があるんだが」

「あら?何かしら?」


 リドがお土産を持ってくるなんて珍しいこと、と思って正直びっくりした。


「後日、宰相に持って来させる。……いい加減、お前達も何とかしろ」


 立ち上がって扉を開きながらそう言って出て行ったリドにエルローズは顔を赤くしながら叫んだ。


「もう!余計なお世話でしてよ!!」


 扉の外から微かに聞こえてくる笑い声が恨めしい。長年のこじらせは、お互いにタイミングを見失ってしまってここ何年も口を利いていない、どころか会ってもいない。こっちはいろいろあって家も出ているし、自立もしている。あっちはあっちで順調に出世して宰相という地位に就いている。嫌でも耳に入ってくる噂話ではずいぶんと女性に人気がある、とのことだった。それでも結婚した、という話は聞こえてこない。


「もう、リドのばかぁ…」


 今更どんな顔で会ってよいのかわからない。1人になった部屋の中でエルローズは両手で顔を覆っていたのだった。

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― 新着の感想 ―
この作品への初感想が、作品関係なくて申し訳ありませんが、 「お針子さん」を、「おしんこさん」と読み進み続けてる人、私だけじゃないはずd('∀'*)
[良い点] まさかの王様のキャラが物凄くイイ。
[一言] あらあら! まぁまぁまぁ!! あらあら、うふふ♡
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