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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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次女と揺れる王都①

読んでいただいてありがとうございます。7月25日から漫画配信中です。よろしくお願いします。

 颯爽と帰って行ったパメラに言われた言葉を、ヨシュアはずっと考えていた。

 弟みたいな存在として認識されていたのはがっくりきたが、それはこれから挽回するとして。

 というか、挽回するのか、俺?

 正直、パメラに対する気持ちは複雑でよく分からない。

 そっちではなくて、まず考えるべきなのは、誰がお嬢ちゃんの味方であるか、だ。

 確かにパメラの言う通り、雪月花と王族の間では何があっても不思議はないと思っていたが、生まれた瞬間から実の両親がその存在を忘れるって、どういうことだろう。


「ソニア・ウィンダリア、か」


 セレスの姉でルークを狙っている少女。


「そういえば、あの時の女性は結局ソニア嬢だったのか……?」


 以前、セレスに不思議な言葉をかけてきた女性。

 仲間の一人が追って行ったのだが、途中で見失ってしまったと言っていた。

 影の人間をまける女性が、一般人であるとは考えにくい。


「だぁー、わっかんねぇー!」


 お手上げだ。雪月花関連は、色々と複雑すぎる。


「くそー、こうなったらリヒト頼みか」


 エルローズさえ絡まなければ、有能で頭も切れる宰相閣下に丸投げしよう。

 エルローズが絡むとポンコツになるが、今回は大丈夫のはずだ。

 ヨシュアはそのまま宰相室になだれ込むと、リヒトに泣きついた。


「リヒトー、助けてくれ」

「何だ?パメラ嬢との接触に失敗したのか?」


 相変わらずの冷たい瞳と口調だし、表情一つ変えていないが、親友であるヨシュアには分かっている。

 これでも心の底からヨシュアのことを心配しているのだ……多分。


「言うだけ言ってケーキ食べて帰って行った」

「そうか。まず会話出来たことが、一歩進んだということだと思うぞ」

「先行き長すぎるだろぉ」

「昨日までは、先とやらもなかったんだ。そう考えたら進歩している」

「あぁ、確かに」


 さすが何年も好きな女性にまともな返し一つ出来なかった男の言うことだ。

 妙な説得力がある。


「それで、どうだった?」

「あぁ、それが、パメラ曰く、ソニア・ウィンダリアに接触しろって」

「ソニア嬢?セレス嬢の姉の?」

「そう。彼女、どうも何かあるっぽいんだよ。そもそも、どうしてウィンダリア侯爵夫妻がお嬢ちゃんのことを綺麗さっぱり忘れていると思う?」

「それは、雪月花の……」

「だろう?俺もそう思ってたんだけど、パメラがそれはおかしいって。いや、大元は多分、そこなんだけど、近くに協力者がいないとおかしくないかって。言われてみれば、女神様だって四六時中、お嬢ちゃんを見張ってるわけないから、タイミング良く誰かが協力してないとおかしいよな。それに、ほら、お嬢ちゃんが王宮に来ることになった出来事。あれだって、お嬢ちゃんがソニア嬢らしき人物を追いかけて行ったからだったし」

「それが、ソニア嬢だというのか?」

「多分、としか言いようがない。だから、こっちで接触して見極めろって」

「なるほどな」


 リヒトはソニアに何度か会ったことがあるが、ルークの気を引きたくて仕方のないお嬢さんだった、という記憶しかない。両親も彼女を甘やかしていたようだし、典型的なわがままお嬢さん、といった感じだった。

 だから、ヨシュアの言うように、ソニアが女神の協力者だとはとても思えない。

 もし、あれが演技ならたいしたものだ。


「分かった。今度、どこかの夜会にでも顔を出して、ソニア嬢に接触してみよう」

「おー、頼んだ」


 リヒトに押しつけることに成功したヨシュアは、それだけで肩の荷が下りた気がした。


「……お前も、護衛として参加しろ」

「マジで?」

「本気だ。お前だって、パメラ嬢に見極めろって言われたんだろう?他人任せにするんじゃない」

「えー、ちくしょう!分かったよ」


 逃してくれなかったリヒトにぶつくさ言うと、ヨシュアは諦めた。

 

「護衛なら、夜会の最中は隅っこの方で見ていることが出来るだろう?そこから、ソニア嬢のことを見張っていろ」

「りょうかーい」


 リヒトは他の貴族と話すこともあるだろうから、ソニアばかり見ているわけにもいかないだろう。

 護衛であるヨシュアなら、そこら辺の貴族に絡まれることもないので、隅っこからソニアの動きを確認出来る。


「堅苦しい場所は苦手なんだよなぁ」


 ヨシュアがぶつぶつ言い始めた時、勢いよく扉が叩かれて、いつも冷静な上司が焦って入ってきた。


「どうした?」

「大変です、閣下!王妃様が倒れたとの連絡が来ました!」

「王妃様が?」

「はい。すぐに医師と薬師が向かいましたが、高熱を出されているそうです」

「病気か?それとも」


 毒か。

 リヒトが言い終わる前に、上司は首を横に振った。


「分かりません。倒れる寸前までの様子は、いつもと変わらなかったそうです」

「どちらにせよ、一度、陛下にお戻り頂かなくてはな」

「はい」

「ヨシュア、お前、すぐに陛下の下へ走れ」

「はい!」


 すぐに部屋を出て行ったヨシュアの後ろ姿を見ながら、リヒトは小さく息を吐いた。


「……動き出したというのか……?」


 全員が、このタイミングで。

 セレスが王都からいなくなり、ソニアを疑い出したこのタイミングで。

 セレスはこちらに戻せない。万が一があるかもしれないから。

 クレドにいるセレスは、オースティが全力で守るだろう。

 王妃ユリアナが何かを仕掛けてきているのか、それとも他の誰かの思惑が乗っかってきているのか、リヒトにはまだ分からなかった。


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― 新着の感想 ―
まかれただけでその後ソニアのこと何も調べてないことに人員そんなに足りてないの?と思ってしまったw
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