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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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パメラとヨシュア②

読んでいただいてありがとうございます。

 何度目かのため息を吐いたパメラをユーフェミアが面白そうな顔で見ていた。


「……何よ?」

「いいえ。貴女がそんなにため息ばかかり吐くには珍しいと思ってね。何があったの?」


 うふふふふ、と笑うユーフェミアをパメラはきっと睨み付けた。


「そんな顔してもダーメ。さぁ、ちゃっちゃと吐くのよ」

「あー、もう、分かったわよ。今日、家の前にヨシュアがいたのよ」

「あら、王家の飼い犬さんとは、また珍しい人がいたものねぇ」


 花街の上層部の間では、ヨシュアが王家の陰に属しているのは周知の事実だ。

 といっても、彼は自由自在に存在感をなくすので、一般人に紛れてしょうがない、と上役たちが苦い顔で言っている。

 自分の店に出入りしていても気が付かない時があるのだとか。

 疚しい事はしていないから、別に問題はないらしい。


「それで?」

「十年前のことを聞きたいそうよ」

「あぁ、そういえば、アヤトにも言われたわねー。こっちの持っている情報を流してほしいって」

「情報って、そんなにないわよね?」

「そう?色々あるじゃない。セレスちゃんのお姉さんのこととか、貴女のお兄さんのこととか」

「そうだったわねぇ。あの頃は色々と忙しかったし、情報提供するほど向こうのことを信頼していたわけでもなかったし。何せ、昨日の知り合いは今日の敵だったからね」

「えぇ、いつ誰がリリーベルの味方になるのか分からなかったものね」

「特にあの人たち生徒会の面々は、纏わり付かれてたから」


 信頼出来るのなんて、お互いくらいだった。

 家族が捕まり、自分たちも借金のために身を売ったように見せかけて姿を隠した。

 王侯貴族で信頼出来る人なんていない。

 そう思っていたから、逃がしてくれた人たちにも肝心な情報は言わなかった。

 今になってちょこちょこ流し始めたのは、自分たちの身を守れるくらいには大人になったのと、再会したアヤトがユーフェミアの恋人になり、雪月花と呼ばれる少女がジークフリードの傍にいるからだ。


「正直なところ、ヨシュアのことはどう思っているの?」

「面倒くさい弟っぽい人。間違っても恋心は抱いていないわよ」


 ふぅ、とパメラは息を吐いた。


「本当?」

「誰かさんと違って、思い出を引きずってなんかいないもの。正直、存在を忘れてたわ」

「引きずってなんかいなかったわよ」

「へー。この十年、酔っ払った時には散々愚痴られたけど」


 パメラにそう言われると、自覚のあるユーフェミアは目を逸らした。

 愚痴った記憶はあるし、引きずりまくっていた自覚もある。


「……今は私のことはいいのよ」

「はいはい。ユーフェってば、この話題で照れるようになっちゃって。お姉さん、悲しいわ」

「同い年じゃない。お姉さんって感じじゃないわよ。もう、話を逸らさないで。ヨシュアのこと、どうするの?」

「明日、会うことにしたわ。どうせほしいのは情報なんだから、向こうが満足するような情報を渡して終了よ。カフェに誘ったから、情報料代わりにそれくらいおごってもらうつもりよ」

「新作のケーキを食べたいって言ってたものね」

「セレスちゃんがいたら誘うところなんだけど、さすがに今は会えないでしょう?」

「外に出るのは難しいわね。一応、公爵令嬢になったのだから」

「ジークフリード様、喜んでそうよね。身分的には問題なくなったし」

「喜べると思う?義父があのオースティ様よ?」


 そうだった。義父がアレで、義理の祖父がアレだ。

 ついでに義母も一筋縄ではいかない相手だ。

 身分的には問題なくなっても、壁は高くなった。


「……私なら、諦めるかも……」

「味方だと頼もしいけど、さすがに愛娘の恋人になろうって男には厳しいわよね」

「セレスちゃんもよく決断したわよ」

「あの子、面倒くさい立場にいるもの」

「そうね」


 セレスの名前を聞いて、ふと思い出した。


「……ねぇ、ユーフェ」

「何?」

「もう一つ思い出したことがあるんだけど……」

「嫌な予感しかしないわね」

「十年前、子供を見たわ」

「子供?どこで?」

「学園。誰かの関係者か迷子かと思って声をかけようとしたんだけど、どこかの侍女が来て連れて行ったわ。今思うと、似てたのよね」

「誰に?」

「ソニア・ウィンダリア」


 ユーフェミアは軽くこめかみを揉んだ。

 どうしてパメラは、ソニア・ウィンダリアに縁があるのだろう。


「……ウィンダリア家が十年前の事件に関わっていたと?」

「もしくは、単独で関わっていたとか」

「理由がないわね」

「そうなのよねー。でも、私たちに飴をくれたのは、銀色の髪の女性だったわよね?」

「えぇ、それに貴女が会ったソニア嬢は、全く違う人格、言ってしまえば、二重人格みたいな感じだったのよね?」

「そう」

「……ねぇ、パメラ」

「ん?」

「やっぱり、貴女、情報を隠しすぎているわよ?」

「たまたま思い出したのが、最近になってからというだけよ。十年も経ったし、精神的にも大人になったからかしらねー」

「その大人の対応をヨシュアにしてあげたらどう?」

「残念ながら、貴女たちみたいに、大人の関係にはなれそうにないわ」

「もう!からかわないで」


 ちょっと意地悪そうな顔でにやりとしたパメラを、顔を赤らめたユーフェミアがぷりぷりと怒っていたのだった。

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