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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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次女と秘密の薬草③

読んでいただいてありがとうございます。

「セレス、この本は何だ?」

「各地の伝説とかに登場する、幻想の薬草を集めた本です」

「現実に存在する薬草じゃないのか?」

「はい。ですが、見ていると面白いですよ。こういう効能の薬草があったらいいなと思う物ばかりですね」


 ジークフリードは宣言通り、セレスが買おうとしている本の中身を確認した。

 二冊は他国の薬草本、一冊が幻想の薬草本だった。

 写実的な絵で描かれている二冊と違い、この本は薬草の周りを飛び交う妖精なども描かれている。


「こういう薬草があったらいいな、という過去の人たちの願いが詰まった本です。それってつまり、過去にどこかでそういう薬が必要になる事態が起きたのかもしれないということですよね。新しい薬を作る時の参考になるかと思いまして」

「なるほど。確かにそうかもしれないな」

「全部を再現出来るわけではありませんが、研究のしがいはあります」


 ジークフリードがさらにページをめくると、そこには青い花びらを持つ美しい花が描かれていた。


「雪月花……」

「これ、そうですね。私たちはこの花が存在していることを知っていますが、世間一般から見れば幻想の薬草になりますね」


 ありとあらゆる病や毒を治す薬草など、幻想の極みだろう。

 それさえあれば、他のどんな薬草もいらないのだから。

 ただ、その採取方法が極めて難しいだけで。

 咲く場所は寒さが厳しい冬の雪山で、満月の日だけ。

 さらに見つけられるのが、月の女神の娘かその伴侶のみ。

 まず見つけられない。


「セレスは、雪月花の実物を見たいと思っているのか?」

「見るだけでしたら。もしそれを私が手に入れたとしたら、争奪戦になりますよね」

「だが、それは女神の娘であるセレスだけに許された特権だ」

「もし本当に雪月花を私が必要とする時は、きっと私の大切な誰かが苦しんでどうしようもなくなっている時です。……誰もが安全に使える薬を作るべき薬師の私が、それがあれば他の重病人が治ると分かっていても、大切な誰かのためだけに雪月花を使うのは許されることなのでしょうか……」

「もしその時、雪月花を使わなかったことでセレスの大切な人が亡くなってしまっても、セレスは他の人たちと同じ条件だったからと納得するのか?救える手段を持っていたのに、使わなかったことを後悔しないのか?」

「…きっと後悔します。身勝手と言われようが、私は大切な人を救いたい」

「それでいいんじゃないのか?神様なんて、基本、身勝手なものだ。君たちは、もっと身勝手になってもよかったんだ。誰も何も言えないさ」

 

 ジークフリードは、セレスの頭を軽く撫でたのだった。

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