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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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次女と秘密の薬草②

読んでいただいてありがとうございます。

 裏通りというのは、どの街にもある。

 そして、何故か怪しい雰囲気が満載だ。

 クレドの街の裏通りは、典型的な裏通りだった。

 道は細く、古い建物がひしめいている。

 雑多な雰囲気と、どこかわくわくする雰囲気を醸し出していた。


「いいですね。これぞ裏通りです」

「裏と言うと聞こえは悪いが、危険はなさそうだな。ちゃんとした店が並んでいる」

「あそこは占いの店ですね。何か占ってもらいますか?」

「セレスが?母君が心配していますよ、って言われそうじゃないか?」

「確かにそうかも」


 占いはある意味、神意を受け取るようなものだ。

 神々との距離が近いこの世界では特にそれが顕著になる。

 セレスのことを占っても、母からのメッセージを受け取って終わりそうな気がする。


「セレス、目的の本屋はあそこだ」


 この裏通りには三軒の本屋があり、二軒が新作と中古を取り扱っているが、残り一軒は主に外国製の本を取り扱っている。

 それを聞いた時のセレスは大喜びしていた。

 外国の本ということは、薬師ギルドにも置いていない珍しい薬草の本もあるかもしれない。

 この世界で作られている薬や薬草などの全ての情報が、必ずしも薬師ギルドに入ってくるとは限らない。

 特に外国からだと情報は遅いし、国内で生えていない薬草の情報は曖昧な部分がある。

 でも外国の本ならそういったものも網羅している可能性が高い。

 うきうき気分でセレスは本屋に入った。

 中は本屋独特の匂いが籠もっていて、何とも言えない気分にさせてくれる。

 少しかび臭いこの匂いが、セレスは嫌いではなかった。


「予算、今回の私の予算はいくらでしょう?」

「オルドラン公爵家につけておけばいいだろう。ただし、買うのは俺が中身を確認してからだぞ」

「薬の本を買うだけですよ?」

「薬にも色々とあるし、挿絵とかでセレスが見るにはまだ早い物だってある」

「健全なる薬の本しか買いません」

「健全?セレスの言う健全の基準が怪しい気がするから、ちゃんと確認する」


 健全という言葉に惑わされてはいけない。

 薬師の健全と一般人の健全は、絶対に一緒じゃない。

 特にこの薬師ギルド長の系譜に連なる人物の薬に対する認識は、一般薬師よりも基準がおかしいのだから。


「仕方ないです。ジークさんの判断に従います」

「そうしてくれると、ありがたいな」


 後、これでも一応、現役の国王なので、違法性の高い薬物の載った本などがあったら回収しよう。

 さすがに違法薬物を薬師ギルドが作ることはないだろうが、モグリの薬師なら作る可能性はある。

 アヤトに本を渡しておけば、解毒剤の研究をしてくれるだろう。

 何事も備えは大切だ。


「ジークさん、上の方のあの緑色の本を取ってください」


 本棚が天井まで続いているので、セレスの身長では上の方の本が取れない。

 足場も用意されているが、どちらにしろセレスでは届かない。


「これか?」


 ジークフリードが手を伸ばして簡単に本を取ると、セレスが羨ましそうに見ていた。


「……セレスでは俺の身長までは伸びないぞ。そうだな、ユーフェミア嬢くらいまでなら育つかもな」

「ユーフェさんくらいですか。うーん、もうちょっと育ちたいです」

「よく食べてよく寝る、これくらいしか思い浮かばない」

「う……それは、ちょっと……」


 無理だ。

 よく食べてよく寝る、という日常生活が出来ない。

 何せセレスは夢中になると集中し過ぎて、どれだけの時間が経過したのか全く気にしない。

 昼に薬を作り始めて気が付いたらすでに真夜中になっているということだって、しょっしゅうある。

 オルドラン公爵家に行ってからはまだマシだが、それでも庭に作られたセレス専用の調剤室に籠もっていると、誰かが呼びに来るまで外に出ることなく薬を作っているくらいだ。

 不規則な生活は身体に悪いと分かっていても、ついついやってしまう。

 

「セレスはまだ成長期なんだから、規則正しい生活を身につけた方がいいぞ。それに今はオルドラン公爵家にいるからいいが、ガーデンに戻って一人になったらどこかで倒れているんじゃないかと心配になる」

「確かにそうですね。気を付けます」

「あぁ」


 ジークフリードは緑色の本を渡しながらセレスにそう言ったが、言った本人がセレスくらいの年齢の時に規則正しい生活を送っていたのかというとそうでもない。

 セレスには秘密にしておきたいので、アヤトやヨシュアに口止めをしておこう。


「これ、西の大陸の薬草大全ですね。見たことないです。この薬草、手に入るかなぁ」


 数ページ確認しただけで、セレスはすでに本に夢中になっていた。


「マリウスに注文しておけば、取り寄せてくれるんじゃないか?」

「ここの薬屋になければそうします」

「セレス、その本ばかり見ているが、他はいいのか?」

「見ます!」


 ジークフリードに指摘されて、セレスはすぐに顔を上げて他の本を物色し始めた。

 セレスは、持っていた緑色の本を店員に預けて次の棚へと移動した。

 思った通り、外国の本ばかり集めたこの店には、王都では見たことのない本がたくさんある。

 中身を確認しながら悩んでいたセレスは、棚の隅にあった少し薄めの、色あせた紅い表紙の本を見つけた。

 引き寄せられるようにその本を手に取って中を確認すると、それは草花の本だった。

 作者の名前は書いていなくて、中に書かれている草花は、セレスが見たことも聞いたこともないものばかりだ。

 現実の草花というよりは、おとぎ話に出てくるような、空想上の草花を集めた本のようだった。

 セレスはその本も店員に渡したのだった。

 

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