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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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次女と隠されていた本③

読んでいただいてありがとうございます。5巻の書き下ろしなどをしておりました。「苦い恋」シリーズの「誰のための幸せ」も電子書籍化しますので、よろしくお願いします。

 その日の夜、セレスは図書室でトーイが書いた本が他にないかどうか探していた。

 同じ屋敷から出たと思われる本はいくつか発見したが、トーイが書いた本は例の本だけだった。


「だったら、他はどこに行ったの?トーイさんが書き残したはずの調合の本」


 基礎的な調合の本の他に、彼の一族が密かに受け継ぎ研究を重ねてきた、本来ならとっくにレシピが廃棄されていたはずの薬の調合法が書かれた本。

 いわゆる、禁薬の薬ばかりを集めた本をトーイは残したと手紙には書いてあった。

 具体的な薬の名前などは書いていなかったが、絶対そこには魅了の薬のレシピも書いてあったはずだ。それ以外にも、表には出せない薬がいくつも書かれていたはずの本が行方知れずになっている。

 

「……お姉様、お姉様はどうしてそんな本を残すように言ったのですか?」


 セレスの疑問に答えてくれる存在はいなかった。




「セレス、今日は街を見て回ろう」


 ジークフリードはセレスに何も聞かずにただ街へと誘った。

 本当は色々と聞きたい。

 昨日の夜、セレスが図書室で何かを探していたことも知っているが、尋ねたらきっと困った顔をするだけだ。

 だから、今は何も聞かない。

 代わりに、気分転換も兼ねて街歩きへと誘った。


「昨日は墓参りと図書館に行っただけだろう?せっかくここまで来たんだ。他の場所も巡らないか?」

「そうですね……」


 セレスはどうしようか迷ったが、屋敷の図書室に探している本がなかったので、もうクレドに本はない可能性が高いのでジークフリードと外に出ることにした。

 いくら本が隠されていた部屋の中にあったとはいえ、トーイはかなり昔に生きた人間なので、どこかの時点で外部に流出したかもしれない。

 それに手紙には、当時の雪月花に残すように言われた、と書かれていたので、本はいつかセレスのもとに現れる気がする。

 姉たちの目に映った未来をセレスは知らない。

 けれど、妹のことを大切に想ってくれているのは知っている。

 だからきっとその本も、妹のために残してくれたのだ。

 

「はい、行きましょう。実は、お母様にお勧めの場所を聞いてきたんです」


 まだラウールが生まれる前に、クリスティーンはよくクレドに滞在していたそうだ。

 その時にこっそり通っていたお店や、セレスにぜひ見てほしい場所というのを教えてくれた。


「お父様には内緒だそうですよ」

「へぇ。よくオースティに秘密に出来たな」

「お母様がお父様と喧嘩をした時によくクレドに滞在されていたそうで……」

「あぁ、そうか。確かに昔はよく怒らせたと聞いたことがあるな……」


 出会った頃、クリスティーンに対して少々態度と口が悪かったオースティは、彼女に対する想いを自覚してからは、所構わず口説き落とした。絆されたクリスティーンが婚約を承諾すると今度は過保護になり、過干渉が過ぎた結果、クリスティーンは何度か怒って家出をしたらしい。

 とはいえ、クリスティーンが行ける場所は限られており、このクレドは程よく王都から遠くて気候も安定しており、過去にナーシェルとヴィクトールが滞在していたので治安も良く逃げ場所としては最適だった。

 クリスティーンはセレスに、オースティの目を逃れてこの街でのんびり過ごしていたと懐かしそうに話してくれた。


「お母様がここに滞在していた時はお父様がいない時だったので、お母様だけの秘密のお気に入りの場所がたくさんあるそうです」

「俺に教えてよかったのか?」

「ジークさんはお父様には言わないと思うから一緒に行ってらっしゃい、と言われました」 

「それは、まぁ、あまり言う気はないな」


 何かあった時にオースティとの取引き材料になるかも知れない情報を、軽々しく言う気はない。

 クリスティーンには悪いが、絶対に秘密にするとは言えない。 

 きっとその辺は彼女も承知している。

 要するに、セレスに何かあった時のためにオースティとの取引き材料の一つとして教えてくれたのだろう。


「それで、どんな場所なんだ?」

「異国の珍しい飲み物が飲めるカフェと岩の神殿です」

「岩の神殿?」

「はい。港から少し歩いた場所にある大きな岩に洞窟があって、そこに神殿があるそうです。すぐ近くにある大きな神殿で管理されているそうですが、自然の洞窟を利用した神秘的な雰囲気のある場所だそうです」


 クリスティーンはオースティと喧嘩をするとまずそこに行って心を鎮めていた、と言っていた。

 ほとんど人が来なくて、波の音だけが聞こえるその場所に座っているだけで、心が穏やかになれたらしい。


「そうか。楽しみだな」

「はい」


 本の行方など気になることはたくさんあるが、今はただジークフリードとの時間を楽しもうとセレスは決めたのだった。

 

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