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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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次女とお姉様の町⑨

読んでいただいてありがとうございます。

 翌日、セレスは目をしょぼしょぼさせながら食堂に入って来た。


「おはよう、セレス。寝不足か?」

「おはようございます、ジークさん。本に夢中になってしまって……」


 夜更かしはするだろうな、と思っていたが、予想していたよりも夜更かしをしたらしいセレスの様子にジークフリードは苦笑した。

 そして、セレスと目が合ったのだが、すぐにそらされた。

 あれ?と思ったが、セレスがすぐにジークフリードに向かって微笑んだ。


「すみません。眠たさ全開の顔なので……」

「一冊しか持って行っていないだろう?そんなに面白かったのか?」

「薬師が残した本なので、ちょっと夢中になってしまいました。残りの本も早く読みたくて、図書室に忍び込もうかとも考えたのですが、さすがに怒られると思って止めました」

「それが正解だな。俺とヒルダ、両方から怒られて、けっきょく目的の本を早く読めなくなるところだったぞ」

「ですよね。文字が細かいので、目が疲れました」


 ランプの明かりがあるとはいえ、前世ほど明るくはない。それに、あの本に書かれていた薬が本当にただの薬なのか、それとも違う用途を考えて作られたものなのか、セレスが知っている薬のレシピを思い出しながら確認していたので、脳もたくさん稼働させていたと思う。


「甘めのミルクティーをください」


 とりあえず朝一で糖分補給をしなくては。

 控えていた侍女にそう言うと、すぐに作ってくれた。

 セレスのリクエストに、甘党ではないジークフリードは、朝から甘いミルクティーか、と思いながら眺めていた。

 ただ、セレスの様子にどこか違和感を覚えた。

 さきほど、一瞬、目をそらされたこともそうだ。

 今まであんなことはなかった。

 何と言うか、どこか我慢しているように感じる。


「今日は天気がとても良いですね。ナーシェルお姉様のお墓参りにぴったりな日です」


 今は、口調も顔も普段通りだと思う。

 あの目をそらされた時以外は、いつものセレスだ。


「そうだな。お墓参りが終わったら、少し町に行ってみるか?」

「はい。ヒルダさんにお姉様に縁ある場所を案内してもらいましょう」

「俺もこの町は初めてだから、楽しみだな」

「はい」


 朝食後、セレスは支度があるからと一度部屋に戻って行った。

 セレスが部屋からいなくなると、ジークフリードはヒルダを探した。

 ヒルダは、厩舎で馬の世話をしていた。


「おはようございます、ジークさん」

「おはよう。ヒルダ、今日、セレスに会ったか?」

「いいえ、まだですが」

「そうか」


 何だか煮え切らない顔をしているジークフリードに、ヒルダはぐいっと近付いた。


「ジーク様、そんな顔をしてどうされたのですか?」

「あぁ、何と言うか……上手く言えないんだが」

「絶対お嬢様絡みですよね?」

「おそらく」

「おそらく?ご自分で感じられたことでしょう?」

「……何となくなんだが、セレスが変というか……」

「お嬢様がですか?どのような感じでしたか?」


 ジークフリードは先ほどまで一緒に朝食を取っていたセレスのことを思い浮かべたが、寝不足以外はいつもと変わらなかったように思えた。

 けれど、何かがおかしいのだ。

 

「上手く言葉に表せないのだが……セレスの表情が……硬い、というか……何かを我慢しているような……。一度だけだが、一瞬、目をそらされた」


 昨日は感じなかった小さな違和感があった。

 どこか怪我をしたとかそういうのではなく、セレスの心情的な問題なのだと思うのだが、ジークフリードにはそれが何なのか分からなかった。


「まさか、夜這いでもなさいましたか?」

「するか!」

「まぁ、そうですよね。なさっていたらお義父様がすぐに飛んできそうですね」


 そしてジークフリードは確実に説教される。


「昨日は、寝る時に例の薬師が書いた本を一冊だけ持って行っただけだ」


 本人もそれは認めているし、間違いはない。

 夜遅くまで読んでいたのも、あの眠たそうな様子から考えると本当なのだろう。

 だからといって、本を読んだだけであんな感じになるだろうか。


「図書室で少し見せてもらったが、薬のレシピみたいなものばかりだった。怪しいことは書いてなかったとは思うが……」

「お墓参りに行っている間に、この町にいる薬師を呼んで、中身を確認してもらいますか?」

「あぁ、そうしてくれ。あまり時間がないだろうから、詳しいことまではいいが、本当にレシピだけなのか、それともそこに紛れて何かが書いてあるのかだけでもいい」

「分かりました。手配しておきます」

「頼む」


 もやっとした気持ちがジークフリードの中から消えてくれなかった。




 部屋に戻ったセレスは、大きく深呼吸した。


「はぁ、大丈夫、だったよね……?」


 ジークフリードに対して、いつも通りの振る舞いが出来たと思う。

 おかしなことはしなかったはずだ。

 机の上にあった薬師の本を手に取ると、挟んであった例の手紙を取り出した。

 そしてセレスは、それを自分が持って来たレシピなど書くためのノートに挟んだ。

 

「……ごめんなさい、ジークさん……」


 本を胸に抱きしめると、セレスはジークフリードに謝ったのだった。



 

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― 新着の感想 ―
話の展開上しかたないのでしょうが、自衛手段をもたない人間が守ってもらっている立場で、誰にも告げず自ら危険な事を仕出かす場面はどうしても苛立ちます。
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