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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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次女と魔石

ふわっとした設定なので、こんな感じだと思っていただければ…

 今日は月に一度の満月の日。

 

 この日は、薬師ギルドにとって大切な日だった。


「今月は綺麗に満月が見えそうでよかったわ。先月は曇っちゃってダメだったもの。さあ、みんな、早く並べるわよ」


 薬師ギルドの長であるアヤトを筆頭に薬師たちがギルドの建物の屋上に『(から)の魔石』を並べ始めた。

 誰もが手袋をして黒く濁った魔石を月の光が当たるように屋上に設置された台の上に並べていく。


「お姉様、こっちは並べ終わりました」

「あら、じゃああっちもお願いね」

「はい」


 この世界は魔石の文明だ。魔石に溜まった魔力をエネルギー源として魔道具などを動かしている。

 魔石は大まかに分けて3つに分けられる。


 純粋な魔力だけが入っている力の魔石。

 各属性がついている属性の魔石。

 何の魔力も属性もない空の魔石。


 力の魔石は最も多く取れる魔石で、各国にある魔力だまりと呼ばれる場所のすぐ近くで採取されている。魔力を使い切った空の魔石をその魔力だまりに放り込んでおけば魔力が勝手に充填されるので無くなることはない。

 属性の魔石は、文字通りそれぞれの属性がついている。海や川、湖などで取れる水の魔石や火山や隣国にある炎の山と呼ばれる一年中炎が吹き出している山などで採取される火の魔石など属性の魔石と呼ばれる石は多種多様にわたる。

 それらを魔道具にはめ込んで日常生活では使用している。たとえばお湯は専用の魔道具にエネルギー源である力の魔石と水の魔石、それに純度が低く高熱を発するだけの火の魔石をはめ込む。コンロは純度が高くて火を発することが出来る小さな火の魔石が丸く配置されているので、スイッチとして力の魔石をはめ込む。だいたい魔道具には魔力調整用のダイヤルやレバーがついているので出力はそれで調整する。

 セレスの知識の中にあるスイッチ1つで何でも出来る世界、というわけではないがそんなに苦労はない。ただし、タイマー機能とかはないので、お風呂にお湯を溜める時はちょくちょく見に行かないとお湯が溢れてしまう。下水に関しては、浄化の魔石を使ってきちんと整備されているので問題はない。


 そして、薬師にとって大切なのが『月の魔石』だ。


 月の魔石は、薬を作る時に必ず必要になる魔石だ。月の魔石と水の魔石の中でも純度が高い『純水の魔石』が必要で、純水の魔石から出る水に月の魔石を浸して出来る月の水と呼ばれる水を混ぜて薬草を練っていくのが基本になる。混ぜることにより多少月日が経っても薬の効能が失われることもないし、薬の効果を高めることが出来る。月の水を混ぜるか混ぜないかで薬としての価値に差が出るので、薬師たちは基本的に月の水を混ぜて薬を作るのだ。

 この月の魔石は自然界では数が少ない。条件が整っている空の魔石にたまたま満月がしっかり当たらない限り自然には出来ないので、薬師たちは月に一度せっせと月の魔石を作っている。

 まず、空の魔石を月の神殿に持ち込み、月の神殿にある聖泉に7日ほど浸しておく。それらを満月の夜、月が頂点に達した時に月の光が十分に行き渡るように並べて、夜明け前に回収する。回収した魔石をまた神殿に持っていって聖泉に2日ほど浸しておく。それでようやく空の魔石に月の魔力が定着して月の魔石になる。だが、いくら満月とはいえ天気が悪い夜はもちろん出来ないし、雲で月が隠れる時間が多い日だと十分に月の魔力を吸収できないので、純度の低い月の魔石しかできない。今日みたいに雲一つない夜の空に浮かぶ満月など年に数回かしかないので、今日は薬師たちが総出で各地で月の魔石を作るためにじゃらじゃらと魔石を並べている。


「今日を逃したら次はいつになるかわからないものねぇ」


 用意した魔石を全部並べ終えて、アヤトは夜の空を見上げた。

 そこに浮かぶのは美しい満月。

 一休みしたら夜明け前にこの魔石を全部回収して神殿に持ち込まなくてはならないが、それまでは休憩時間だ。仮眠してもいいのだが、夜明け前に起きる自信がない者たちはこうやって起きて待っている。

 アヤトもはっきり言って起きる自信はない。本当に時間まで待っているだけなので、何かしていないとさすがに眠くなってくるので、たいていは時間つぶしに女子会なんぞを開いておしゃべりをしている。時には職員向けの真夜中のお化粧教室を開いて時間を潰している。

 今回はセレスも参加しているのだが、アヤトからはしっかりお昼寝してから来るように言われていた。

 おかげで眠たくはない。


「満月の夜は月の魔石作りに忙しいけど、あっちも今頃大忙しでしょうね」


 一部の薬師と冒険者たちも今日は大忙しで各地を駆けずり回っているだろう。満月にしか咲かない花は今日が採取できる最大のチャンスの日だ。薬師ギルドから冒険者ギルドへと多く薬草集めの依頼を出してある。冒険者たちもそれがわかっているので満月の夜はわりと活発に動いている者が多い。


「そうですね、今日はディも冒険者ギルドの方に行くって言ってました。親しくしているパーティーに頼まれたらしくて一緒に採取に行くそうです」

「ローズも今日は出かけるって言ってたわね。満月の日限定のオークションがあるんですって。変わった物や古い布地が出るから見に行くって言ってたわ」


 満月の日の王都はあちらこちらで何かしらが行われている。

 

 王都が別名『眠らずの都』と呼ばれているのは、こうして満月の日に動き回っている人間が多いからだと言われている。王都民にとっては見慣れた光景なのだが、他の場所から来た人間には夜の方が活発的に動いていると思われているようだった。


「さ、もう少ししたら回収するわよー。全員、起こしてあげて」


 何だかんだとおしゃべりをして時間を潰すことが出来たので、ギルド内のあちらこちらで倒れている薬師と職員を起こして回る。ちょっと屍チックな感じでぞろぞろと屋上に向かう姿はまるでかの有名なゾンビゲームのようだった。

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