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侯爵家の次女は姿を隠す。(書籍化&コミカライズ化)  作者: 中村 猫(旧:猫の名は。)
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次女と銀の魔女

読んでいただいてありがとうございます。本を購入してくれた皆様、本当にありがとうございました。引き続き、よろしくお願いします。

「話を戻しますが、当時の王妃が、エレノア様のことを悪し様に言った言葉が銀の魔女でした。銀の魔女のせいで夫がおかしくなった、周囲にそう言って罵っていたそうです」

「言われてみれば確かにそんな感じかもしれませんね。……王宮で王妃様に言われました。私たちは、夫や息子を奪っていく、って。奪われた方の気持ちはどうなるのかって……」


 出会ってしまったら、どうしようもない。

 王族は雪月花たちだけを見つめ、応えたくてもどうしていいのか分からなかった姉たちは、流されるままに彼の傍にいた。


「でもお父様は、王妃様たちの中にも、雪月花を大切に思っていた人たちもいる、と言っていました」

「そうです。雪月花を憎んでいた王妃たちは、伴侶である王と心を通じ合わせることが出来なかった方ばかりでした。自分たちが得ることが出来なかった王の心を簡単に持っていってしまった雪月花たちを、憎むことしか出来ませんでした」


 それは、今の王妃であるユリアナも同じだ。

 ヒルダは、個人的にユリアナのことを知っていた。

 父のノクス公爵に言われるままに王太子妃となり、子供も生まれて、今では王妃の地位に就いている。

 高位貴族の女性としては順調な生き方だと思う。だが、ユリアナ自身が自分のそんな生き方をどう思っているのかは分からない。

 そして、ジークフリードに好意を持っていることも知っている。

 傍にいれば、いつか本当の夫婦になれるのではないかと淡い期待を抱いていたことも。

 止めるヒルダにユリアナは、どうしてもジークフリードを諦められないと言っていた。

 まだジークフリードがセレスと出会う前のことだったので静観していたが、ジークフリードが己だけの雪月花に出会ってしまった以上、もうどうしようもない。

 それも、今までの雪月花たちと違い、ジークフリードに応えられる雪月花だ。


「……酷な言い方になるかもしれませんが、王妃が神の娘に対抗しようとしたところで、敵うはずがないんです。雪月花を愛した方々は死ぬまで、いえ、ひょっとしたら死んでからも、貴女方と共にいたいと願っているのでしょう」


 ヒルダの言葉にセレスは、夢の中で会ったアリスの言葉を思い出した。

 それぞれの相手に出会って、今は向こうで一緒にいる。


「そうですね。きっと今頃、一緒に笑っていると思います。お姉様たちは、笑顔を取り戻せていると思います」

「お嬢様がそうおっしゃるのでしたら、きっとそうなのでしょう。……私の生まれた家は、ずっと雪月花を追いかけていました。歴代の雪月花たちのことを書かれた書物を読む度に、どうやったら、貴女方を人の悪意といったものから守れるのだろうと考えていました」


 あの銀の魔女がいつ現れてもいいようにしろ!

 何度、その言葉を聞いただろう。

 両親だけでなく、親族たちも揃ってそう言っていた。

 ヒルダがいくら女神の娘に手を出してはいけない、と言ったところで、睨まれるだけだった。

 

「いいえ、ヒルダさん。悪意も含めて、全て感情というものです。私たちに足りないもの。私たちが学ぶべきもの。ぶつけられる悪意も全て、必要なことだったんです」


 それも含めて、全ての感情を学ぶことが、女神の娘には必要なことだった。

 誰かに守られて善の心だけを学ぶだけなら、母の傍でも良かったはずだ。

 わざわざ地上に降りて人に紛れて生きるのは、そういうことなのだと思う。

 一方の感情だけを知っただけでは、危険なのだ。

 善の心だけが正しいと信じてしまえば、暴走を引き起こしかねない。

 

「綺麗な心だけ見せられても、お姉様たちの成長にはなりませんでした。だから、それで良かったんです」


 今、天上で過ごしている姉たちだって、きっとそう言うだろう。


「銀の魔女、ですか。ふふ、何と言うか、おとぎ話の中にしか存在しないような私たちには、相応しいのかもしれません。エレノアお姉様が女神の娘だと言った言葉を信じてくれた方がいたから、私たちはそう呼ばれなかっただけで、もしかしたら魔女と呼ばれて迫害されていた可能性もあったと思います」


 人は、自分と異なる力を持つ者をおそれるものだ。

 それが畏れならまだいいが、そうでないのなら、排除しようとする。

 

「そうなったら、さすがにお母様のお怒りが凄いことになるとは思いますが……」

「女神様の怒り……例えば、どんなことが考えられますか?」

「えーっと」


 月の女神が最大級に怒ると、どうなるのだろう?


「まぁ、まず薬草系は全滅するでしょうね。それから、月に関連することは全て出来ないでしょう。あ、下手したら、太陽神様にお願いしてそちら関係からも何かするかもしれません。だって、太陽神様ってお母様に弱いし。あと、他の神々も手伝ってくれるかも……」


 神話もそう伝えているし、アリスお姉様も言っていた気がするから多分、やってくれる。

 他の神々がどこまで介入するかによって変わってくるが、母が嘆き悲しむ姿を見たらそれなりの報復はしそうな気がする。


「……まさしく、それですね」

「え?」

「歴代の雪月花の皆様を不当に扱った時に起きた災害です。薬草が全く育たなくなったり、月が何ヶ月にも渡って雲に隠れてしまったりと、まず月の女神関連の物事がおかしくなったそうです。他にも雨が降り続いたり、太陽に大きな黒点が現れて十分な光が地上に届かなくなったり、海が荒れ続けたりと、まさしく神の怒りが王国に降りかかったそうです」


 そういえば、皆さんがお母様に仕事を押しつけた結果、私たちが生まれたんだっけ。

 

「ヒルダさん、えっと、おそらくですが、他の神々も雪月花とはちょっとした関わりがあるので、私たちが害されたとなれば、間違いなく動きます」


 母の嘆き悲しむ姿を見て、とかいう以前に、雪月花が感情を持たずに生まれてきた原因の一つである神々は、自分たちの後ろめたさからきっと動く。

 

「……神々さえも誑かす銀の魔女とか言われなくてよかったです」


 そんな悪評を立てられた日には、本当に王国ごと地上から抹消しそうだ。

 神々に会ったことなんてないが、何となく本当にやりそうで、セレスはちょっとだけ怖くなったのだった。

  

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