第3章 第1話 面倒
「じゃあ絶対2人見つけてくるんだよ」
「はいはい。それよりごはん3日分タダなの忘れないでね」
「もちろん。これまでに払ってなかった分から引いとくよ」
「ふざけんなクソババァっ!」
今日は部活動勧誘日。校庭や道が人でごった返す中、僕と師匠も看板を持って勧誘に勤しんでいた。
「まったく……。なんで私たちが関係ない部活の面倒見なきゃいけないんだよ……」
「しょうがないでしょ。倉庫貸してもらってるんだから」
復讐部は非認可なので、僕たちが勧誘するのはクッキングクラブ。どうやら4月末までに部員を5人集めないと廃部になるらしく、僕と師匠を除いて残り2人。絶対に集めなくてはならないそうだ。
「やめやめ。サボろう宗悟。残り2人は知り合いに兼部してもらうよ」
「成功報酬1人につき20食でしょ? がんばりましょうよ」
「いいよどっちにしろタダ飯食らうから」
「いい加減にしないと本当に追い出されますよ」
一応そう注意するが、僕もめんどくさいという気持ちは一緒だ。たぶん目が死んだ2人がダルそうに看板片手に歩いていることだろう。
「そろそろ学校始まって1週間経つけど友だちできた?」
「うーん……。やっぱりエスカレートの人が多いから難しいですね」
「あぁそっか。それにうちの学校変人多いもんね。剣道部じゃ暴れちゃったし厳しいか」
「まぁそれもありますけど……。あ、変人って言ったらなんかクラスに黒い制服着てる人いるんですけど」
「それ生徒会だね。うちの学校広いし学生軽く1万人超えてるからさ。警察的な意味合いの生徒会がいるんだよ。で、そいつらわかりやすいように私たち紺とは色違いの黒色着てるってわけ」
「いえそれは知ってたんですけど……なんか……コスプレ? っぽい人がいるんですよね。生徒会用の制服を改造してる感じの」
「そりゃコスプレイヤーだよ。うちの学校別に制服着なくていいから。ま、私みたいなめんどくさがりなんかは1年中制服着崩してるけどさ」
「僕もそうなりそう……ん?」
だらだらと話していると、持っている看板の文字がおかしいことに気づく。
「なんですかこの人気ナンバー1って。僕が入学してからあの店に僕たち以外の客が入ってるの見たことないんですけど」
「ほら下にちっちゃく当部活比って書いてあるでしょ? クッキングクラブに店は1つしかないから無問題」
「いやバリバリ詐欺でしょ! 騙す気満々じゃないですかっ!」
「違うって。よくあるでしょ? 当社比とか、金賞受賞(出せば絶対入れます)とか。そういうのと同じだよ。詐欺だって言われれば私たちが復讐するし」
「どんなマッチポンプ? 裁かれるの僕たちじゃないですか!」
自分の部活じゃないからって適当やって……。いつか偉い人に怒られればいいのに。
「そこの2人、止まりなさい」
その願いが通じたのか、人混みをかき分け誰かがこちらに向かってくる。この言い方からしておそらく先生だろう。早速罰が……。
「その看板、とても胡散臭いです。即刻書き直しを命じます」
と思ったが、違った。この女子は……!
「はぁ? 一体何の権限があって偉そうに言ってるわけ?」
「何の権限、ですか。ならば教えてさしあげましょう」
漆黒のブレザーを基調としながらも、スカートが大きく広がったドレスのような衣服。それに軍帽を付け加えることでゴシックロリータ調の軍服に見えるよう工夫されている。さらになぜか革のベルトに日本刀を差しており、コスプレ感を加速させている。
セミロングの黒髪に小さなリボンのような赤い髪飾りをつけ、黒のニーソックスを纏った小柄でありながら豊満な胸を持つ女子は、さっき口にした同じクラスの変人。
「高等部生徒会制圧部隊所属! 紅梅光華ですっ!」
肩につけた軍服っぽいケープをはためかせながらそうポーズをとった紅梅さん。顔立ちは美人って感じなのにやっぱりなんか、変人だ。
「えーと……紅梅さん? 確か君、僕と同じで高校から入学した口だよね。そんなに強く言える立場じゃないんじゃないかな」
「入学時期など関係ありません。生徒会の職務は、学校の平和を守ること。私はその正義の元に活動するのみです」
うわー……服装と同じでやっぱり固い。固いっていうか、めんどくさい。
「それに話は聞いていますよ、クッキングクラブ。料理研究部から追い出され、4年も留年している問題学生が意地で続けている部活ですよね。そのような部活は存在自体が平和を乱しています。即刻活動停止すべきですし、磯子くん。あなたのような優秀な生徒がいるべき場所ではありません。後で剣の振り方を教えてもらえますか? 玩具ですが振り回されてしまうんです」
「なんで喧嘩売っといて教え請えるの? どういう心理状態?」
何だこの人……。頭のおかしさでは師匠を上回る。早く逃げないと……。
「わーったわーった。直してきますよー」
師匠も同じことを思ったのか、軽く流して立ち去ろうとする。だがこの変人は、それでは逃がしてくれない。
「待ってください。とりあえず磯子くんを解放してもらいましょうか。彼は中学時代に全国制覇した優秀な剣道家と聞いています。クッキングクラブのようなお遊びに付き合う暇はないはずです」
「あー僕クッキングクラブじゃなくて復讐部がメインだから……」
……あ、復讐部は非公認の部活だった。こんなこと言ったら問い詰められ……。
「ふんっ!」
「ぐへぇっ!?」
急いで取り繕うとした僕より早く。師匠は紅梅さんのお腹に看板をフルスイングしていた。
「ぁ……ぁ……」
不意の一撃を食らい、紅梅さんが白目を剥いて倒れる。どんだけ強い力で殴ったんだ……。
「師匠、さすがにやりすぎなんじゃ……」
「宗吾……詳しく言わなかった私が悪いんだけどさ、やってくれたね……」
それを見るのは初めてかもしれない。師匠が本気で冷や汗をかき、慌てている。
「復讐部は去年起こしたとある問題で、生徒会に追われている。いわば組織名だけ知られている指名手配犯みたいなもん。つまり、復讐部は解散することになる。この子を始末しない限りはね」




