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第2章 第4話 復讐を超えた先

「……この店の売りはなんだと思う?」



 言い逃れのできない証拠を突きつけられた雲井さんが、力なく椅子に座りながら言う。



「女子が寿司を握ってくれる、だ。板前は男の仕事、と言いたいが、客が求めているのがそれの以上、何も言うことはできない。だがその女子が寿司に全く興味のない者だったらどう思う。刺身のついでで握り方を知っている程度の女が握ったような寿司が喜ばれるのを見た男は、どう思う。到底、耐えられない。耐えられるわけがないっ!」



 振り下ろされた拳が机を鳴らし、閉じることのできない店の外へと流れていく。



「何も……こんなことをするつもりじゃなかったんだ。魚を別の水槽に移し刺身が作れなくさせることで解良の意識を寿司に向けられればよかった。その後生簀に戻せば全て丸く収められると思っていた。だが俺が用意した水槽では魚は長く生きられなかった。もう、後戻りができなかった。解良を閉じ込めている生簀を壊さないと、俺は、生きられなかったんだ……!」



 だから全てを破壊した。雲井さんの想いを果たし、貝殻坂さんの痛みを減らすには自分が犯人だとばれるわけにはいかなかったから。



 だがその祈りは、師匠の復讐への執念に容易く敗れた。



「なんで……。言って、くれれば……」

「お前がいなくなるのが嫌だった……。いいや、違うな……。俺はお前がいなくなることで、客が減るのが怖かった。俺が認められるにはお前の存在が必要だったんだ。……軽蔑するだろう。俺は自分の驕りのために、恋人であるお前を利用したんだ」



 僕にとって復讐は、救われる手段だった。だから師匠についていき、復讐を手伝うことで人を救おうと思った。



「解良、別れよう。そしてこの店を畳もう。俺にはもう、お前と付き合っていく資格はない」



 でも復讐がこんな結末を辿るのだったら。僕は、僕は――!



「宗吾、帰るよ」

「……え?」



 雲井さんの言葉に場が鎮まる中、師匠はそう一言告げ踵を返した。



「なんで……?」

「なんでって、決まってるでしょ」



 師匠は項垂れる貝殻坂さんを一瞥し、笑った。



「私たちは復讐部だよ。復讐するつもりのない人のところには、いられない」



 やがて貝殻坂さんは涙に濡れた顔を上げ、師匠と同じように笑う。



「私、言ったよね……? 命を意味のあるものにしたいって。私たちが別れちゃったら、それこそお魚の命が無駄になっちゃうよ。だから、やり直そう」



 立ち去ろうとする師匠の脚が、止まる。



「お魚たちを苦しませておいて、あなただけ逃げるなんて許さない。地獄にいさせてあげる。それが私の復讐だよ」



 その言葉を聞き、今度こそ僕たちは立ち去った。




☆☆☆☆☆




「なんか倉庫の前にこんなの置いてあったんだけど」



 その日の放課後。僕と師匠がクッキングクラブの倉庫兼復讐部部室に行くと、先に中にいた扇島がクーラーボックスを差し出してきた。



「復讐部さんへ、だって。生首とか入ってんじゃないの?」

「怖いこと言わないでよ……」



 師匠がビビりながらもクーラーボックスを開く。その中にあったのは。



「サーモンだぁっ!」



 クーラーボックスいっぱいに敷き詰められた皿の上には、大量のサーモンが乗っていた。それも刺身と寿司、ちょうど半分になるように。



「いやでも……生首も入ってますよ」

「ほんとだ。なんの魚だろう」



 刺身と寿司の間を繋げるように置かれた皿には、頭と尻尾だけを残して身が刺身になっている小魚がいた。



「へぇ、珍しいね。この魚、刺身にも寿司にもあんまり向かないんだけど」

「なんてやつ?」



 魚の名前を知っていた扇島さんが、答える。



「キス」



 その意味を知った僕と師匠は、笑みを向け合い。



「だから幸せな話は復讐部には合わないんだって」



 とても美味しいその魚を味わった。

今回の話はちょっと復讐成分少なかったですかね? 満足できなかったら申し訳ありません。次回は復讐成分マシマシでお届けします。


そしてありがたいことに総合日間まで入らせていただきました! 本当にありがとうございます!


引き続きおもしろかったり、期待できると思っていただけましたらぜひ☆☆☆☆☆を押して評価を、そしてブックマークのご協力をお願いいたします!

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