第2章 第1話 食い物の恨み
「こんにちは……」
「てめぇぇぇぇまたウチの在庫盗み食いしやがったなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「しょうがないでしょおなかすいたんだからぁぁぁぁっ!」
師匠に救ってもらってから数日後。復讐部の部室に訪れると、連日見かける光景に出くわした。
「最悪食ってもいい! いいけどさぁ、ちゃんと金は払えよなぁぁぁぁっ!」
「だから時々働いてやってんじゃんっ!」
「客がいない時に来て賄いだけ食って帰る奴を働いてるとは呼ばないんだよっ!」
「そもそも客が来てる時なんてねぇだろうが四流飲食店がぁぁぁぁっ!」
師匠と取っ組み合っているのは、クッキングクラブ部長、扇島扇さん。復讐部なんて部活が学校側に認められるはずもなく、クッキングクラブの食材倉庫を部室として貸してもらっているが、常に空腹の師匠が盗み食いを働いてしまうのだ。
ちなみにその倉庫があるのが、僕が飛び降りをしようとした高等部教室棟の屋上。僕の飛び降りを目撃できたのもその関係だそうだ。
「てかさ……あんたももう今年で26歳でしょ? いい加減卒業しなよ店は私が料理研究部に売ってやるから」
「卒業の話はするなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
扇島さんが頭を抱えて発狂する。彼女は留年に留年を重ねているらしく、今年中に卒業できなければ退学になってしまうんだそうだ。その状況でこの発狂具合ということは、真剣にやばいのかもしれない。
その大きな原因が、クッキングクラブ。縦岸学園は田舎にある基本全寮制の小中高大一貫の学校で、食事は各々金を出してとることになっており、それには料理研究部の部員が出店している様々な飲食店を利用するのが一般的になっている。
各々の得意分野を活かして店を何個も出しているのが料理研究部。一つの大きな食堂を経営しているのが料理部。あくまで趣味として楽しんでいるのが料理研究会。そしてクッキングクラブはそれらの枠組みから外れたはぐれ者の飲食店。問題児が拠り所としているのが扇島さんの店であり、それを途絶えさせるわけにはいかないと部員集めをがんばっているそうだが、上手くいっていないらしいようだ。
「そ、そうだ! 宗吾がお金払ってよっ!」
「いや僕も金ありませんし……」
「でもこの前も大会で優勝したんでしょ? その賞金とかで……」
「そんなの出ませんよ。もらえるのは部活をサボってもいいっていう権利だけです」
「くそっ……! あんたはいいよね……! 特待生だか何だか知らないけどタダ飯が食えるんだからさ……!」
「そんなこと言われたってどうしろと……」
僕自身の決意はもちろんだけど、師匠に惚れたというのも大きな要因の一つである復讐部の入部だけど、なんだか心が揺らいできた。
あの時はかっこよく見えたけど、このちゃらんぽらん。瞳通りに死人みたいな生活をしている。人間性はともかくとして、女性としては……どうなんだろうなぁ……この人は。無駄に美人なのがいけないんだよなぁ……。
「とにかくなに言われたってないもんは出せないから! ばーかばーかっ!」
段ボールに囲まれた部室の中央に置かれたソファーに寝転がり、一片も悪びれもせずそう言い放つ師匠。だが部室の扉が叩かれたことで、その様子を一変させた。
「どうぞ」
座り直してそう言うと、扉が開かれ1人の女子が入ってきた。桃色の着物を纏った上品そうな女性だ。この人は一体……?
「12年生……高校3年生の貝殻坂解良と言います。復讐部はここで合ってますか?」
「違いますけど? 私たちは超不人気飲食店の店員です」
「あ、えと……菊名さんから聞きました」
「ふーん……。話を聞きましょうか」
復讐部は認可を受けていない非合法の部活。こういったやり取りで信頼できる人間かを確かめているらしい。慎重で用心深い方法だ。
でも。信頼できる人間だからこそ、真剣になれる。真摯に復讐に向き合うことができる。どんな事情があったとしても、だ。
「私の大切なものを殺した人間を殺したいんですっ!」
「ごめんなさいそういうのは勘弁してくださいっ!」
…………。この、ダメ人間……。
「あれは、私が殺すはずだったのに……!」
「ひぃっ!」
いやでも、気持ちはわかる。殺すとかそういうのとなると、僕たちではどうにも……!
「私が釣ったお魚が、誰かに盗まれちゃったんですっ!」
「私に任せておきなさいっ!」
ほんと、この人は……。僕がしっかりしないと。




