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第1章 第4話 僕道

 剣道はスポーツではない。感情を押し殺し、自分と向き合う武道だ。



 でも、ごめんなさい。剣道の神様。僕は今、剣の道から外れている。



「くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉがぁっ!?」

「……はは」



 奴が竹刀を振りかぶって突進してくる。そこに竹刀を構える。それだけで奴の首元に竹刀の先端が突き刺さり、悶える。そこを打ち、転がす。



 あんなに。あんなに傲慢で畏怖の対象だった存在が、僕の遊びで簡単に屈する。



 僕の剣道の腕が上がったわけではない。心を、支えてもらった。ただそれだけで、それさえあれば。



「こんなに、小さかったんだ……」



 僕は打越さんを、蹂躙できたんだ。



「だっ、誰か止めろよぉっ!?」



 たった数度転がされたくらいで打越さんは助けを求める。その言葉に剣道部員たちは躊躇しながらも僕へと近寄ってきた。だが、



「えー? おかしいなー!」



 旭ヶ丘さんのわざとらしい子どものような大声に、部員たちの足が止まった。



「さっきこの雑魚が磯子くんにやってたやつってー、もっとひどかったと思うんだけどなー? あれが許されてこれが許されない理屈、教えてもらえますかー?」



 その一言に、部員たちは完全にノックアウト。だが旭ヶ丘さんは追撃をかける。



「もしこれを問題にするのなら、私がさっき録画していた映像を公表します。黙認していた顧問の先生方はどうなっちゃうんでしょうねー? とりあえず剣道部は活動休止かなー?」



 そうか。録画は打越さんを倒す剣じゃない。僕を守る盾だったんだ。



「わかったなら黙って見てな。私たちはただの観客なんだから」



 旭ヶ丘さんからのエールを受け取るが、申し訳ないけど顔を見ることはできない。僕の視界に映るのは、逃げ腰の打越さんと、呆然としながら怯えている恵子の姿だけだ。



「ああああああああっ!」



 増援は見込めないと踏んだ打越さんがへっぴり腰になりながら竹刀を大きく振りかぶって向かってくる。



「ぐぇっ!?」



 そこに合わせて再び竹刀を突き刺し、がら空きになった面に渾身の一撃を与える。



「はは……は」

「がっ、ぐぉぉっ!?」



 ふらつく奴の身体を崩し、床に倒して攻撃を打ち込む。



 ……楽しい。楽しくて、仕方がない。



「はははは……」



 なぶり、嘲り、見下す。剣道家としてあるまじき一方的な虐殺が、愉悦を感じておかしくなりそうだ。



「ははははは……!」



 そうか。打越さんや恵子が味わっていたものはこれだったんだ。だとしたら責められはしない。絶頂にも似た幸福感。至福感。やめることなんてできやしない。



「ははははははははっ!」



 こんなことをしたって意味なんかない。ただ僕が気持ちよくなるだけの外道の行為。



「ははははははははははははははははぁっ!」



 それでいい。それがいい。それこそが、復讐なんだ。



「もう……許してください……!」



 気づけば僕の目の前の何かは床に這いつくばり、土下座していた。こんな相手に攻撃を打ち込むことなんかできない。普段の僕なら。でもまだ、たりない。



「……面、外せよ……」

「は……?」


「今、あんたがどんな顔してるのか見せてくれよ……」

「そ、れは……死ぬ……」


「じゃあいいや、僕が外す。安心してくださいよ……突きは高校から解禁だけど、あんたみたいに外すことはしない」

「まっ……待って……!」


「だって僕の方が、上手いんだから」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 尻もちをつき顔を大きく横に振るその首に、僕は竹刀を突きたてる。



「突き――!」

「ぎょぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」



 下から上に掬い上げるように打つことによって、打越さんの顔を隠す面が吹き飛んでいく。



「はは、ははははは……」



 そして露わになったのは、涙でぐちゃぐちゃになりながら突きの衝撃によって白目を剥いて気絶する無様な男の姿だった。



「こんな……もんだったのか……」



 死を受け入れるほどの恐怖の対象だった存在が、これ。ははは……何を怖がってたんだか。



「宗吾くんっ!」



 何かが僕に抱きついてくる。懐かしい感触、だとは思わない。それをされたのは初めてだったから。



「ごめんね、宗吾くん……。実はこいつから脅されてて……逆らえなかったんだよ」

「へぇ……そうなんだ」


「大丈夫だよ……。私、今でも宗吾くんの彼女だから……。だから……ね? いっぱい気持ちいいことさせてあげるから……だから……!」

「あぁ……そう」



 あんなに愛しい恋人だった人が、ただの醜悪な豚に見える。だから僕は醜く媚びるその女と向き合い、こう言った。



「惚れた人がいるんだ。お前にはそいつがお似合いだよ」

「ごぼぉっ!?」



 そして無防備な腹に柄の先を軽く押しつけると、恵子は汚らしい悶絶した顔を浮かべながらふらふらと後ずさる。


「ぐえぇっ!?」



 そして横たわる打越さんにつまずき、恵子もまた僕の前で倒れていった。



「ぉ……おぉ……ぉ……」



 やっぱりお似合いだ。涙に白目。惨め過ぎて笑えてくる。マネージャーなのに男に媚びるためか制服を着ていたせいで、大きく開かれたスカートから黒い下着が露わになる。だが何とも思わない。今僕が見ているのは、ただ1人。



「満足した?」

「はい。ありがとうございました」



 身を守る防具を脱ぎ捨て、僕たちは道場を後にする。今の僕の居場所はここではない。



「推薦だから剣道部は辞められないだろうけど、これで奴らは手出しできなくなったと思うよ。よくがんばったね。君を尊敬するよ」

「……この学校って、兼部認められてますよね」



 手を伸ばして優しく頭を撫でてくれる旭ヶ丘さんにそう訊ねる。たとえ認められていないとしても、僕の選択肢は既に決まっている。



「復讐部なんて危険な部活やってるんだ。ボディーガードとか、必要じゃないですか?」

「ボディーガードはいらないかな。でも部員っていうのなら、歓迎するよ」



 僕の道は、決まっている。



「これからよろしくお願いします、師匠」

「師匠、ねぇ……。じゃあとりあえずごはん買ってきて。おなかすいた」


「はい。何がいいですか?」

「いや、やっぱいいや。一緒に食べにいこっか」



 僕はこの人と一緒に、僕と同じように苦しんでいる人を救いたい。それが剣の道から外れた僕の行き先だ。

ありがたいことにランキング入りさせてもらえそうだったので、がんばって切りのいいところまで書き上げました。こんな感じで短い話で様々な復讐をしていくのがストーリーになります。


これまでの話がおもしろかった、これからの話に期待できると思っていただけましたら、ぜひ☆☆☆☆☆を押して評価、そしてブックマークのご協力をお願いいたします。みなさんの応援が力になりますので、本当に本当によろしくお願いいたします! それではまた次回!

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[良い点]  復讐は美しい。
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