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第9章 第1話 夜間区域

「ここが夜間区域……」



 根岸さんからの復讐の依頼を受けたその日の夜。僕、師匠、光華さんの3人は、クッキングクラブとは真逆の端に位置する夜間区域と呼ばれる場所に来ていた。



「ほんとにここ学校なんですか……?」



 時刻は夜の8時。大学も併設されているので人通りが多いのは当然とも言えるが、にしてもこれは……。



「これが縦岸学園の悪いところだよ」



 商店街のような一本道に隙間なく埋め尽くされた光り輝く店を見据えながら師匠が言う。



「学校の外に出て見えるのは田んぼや畑だけ。だから自然遊ぶ場所は学校に限られる。そして出店も可能ともなれば、これくらいやるよ」



 一見すれば、普通の飲食店街。だがこれはフェイクであり、実際はキャバクラやホストクラブ。いや、それよりも過激なことができる店がほとんどだと言う。



「夜の街、夜間区域。治安悪いからあんまり来たくないんだよね……」



 師匠がそうため息をつくのも頷ける。狭い道を千鳥足で進む人々は、昼間見かけることのない派手な髪色や、露出の多い服装をしている。この辺りにいるのはほとんど大学生らしいが、それでもやはりここの雰囲気は異常だ。



「生徒会は何やってるんだよ……」

「それが生徒会でもこの辺りに介入することはできないんです。一応見回りはしているそうですが……」

「バックには生徒総会がいるからね。優秀な成績を収め、学校側としては辞められたら困る生徒。それが何人もこの辺りを仕切っている。今回のターゲットである原宿宿もその内の1人。しかもこいつ、結構やんちゃなやつでね。暴力沙汰が絶えないみたいだよ。逆らった人が何人も病院送りにされて、なおかつ退学にされてるみたい」



 師匠が原宿の写真を見ながら頭を掻く。人を見た目で判断するのはよくないことだが、確かに真っ当な人間がしないような派手な髪型をしており、ピアスをいくつも顔につけている。これで大学ボクシングで全国でもトップレベルと言うのだからもう本当に恐ろしい。



「できることならこの方に関わらないで問題を解決したいですね」

「光華、私たちは生徒会じゃないんだよ。あくまで目的は、根岸千を監禁していると思われる原宿への復讐。関わらないなんてありえない」



 そう。僕たちは問題を解決しにきたんじゃない。問題を起こしにきたんだ。あくまで根岸さんのお姉さんの救出はその途中経過。復讐部としては仕方ないが、やはりどうしても尻込みしてしまう。



「さて、そろそろ動きたいけどまずさ……2人ともその格好なに?」

「よ、夜の街と聞いたので……」

「こういうものかと思ったんですけど……」



 僕の服装は真っ黒なスーツで、光華さんの服装は漆黒のゴスロリ服。夜っぽくはあるけど、チャラチャラした感じは全く出ていない。



「それに私の方がコスプレのレベル高いって証明したかったので……ごめんなさい」

「あのねぇ……。大学生なんて馬鹿なんだから肌さえ出しときゃそれっぽくなるの。私なんてほら、完璧な大学生でしょ?」



 安っぽい白シャツとデニムのショートパンツを履いた師匠がドヤ顔をしてくる。……ほんとこの人見た目だけはいいんだよな……。細いし、背は高いし、綺麗だし。これでいつもかっこよかったらいいのに……。



「ところで宗吾くん、この刀持ってみてください!」

「え? なんで?」



 光華さんがいつもなぜか腰に下げている刀を受け取ると、光華さんはやはりなぜか目を輝かせてぴょんぴょんと跳ねだした。



「きゃーっ! やっぱりかっこいいですっ! スーツと日本刀はベストマッチだと古来から伝わってるんですよっ!」

「歴史できる? スーツと日本刀が共存する時代なんてないよ?」


「これ貸すので! 今日ずっとベルトに差しておいてくださいっ!」

「絶対に嫌だけど……ゴスロリ服よりはマシなのか……? ていうかなんで持ってきたの……?」


「来週の日曜日コスプレイベントがあるので一緒に行きましょうっ!」

「会話会話会話会話会話」



 まぁ光華さんが人の話聞かないのはいつも通りか……。とりあえず言われた通りに腰に下げておく。



「じゃあ私と光華は情報収集してくるから。宗吾はここら辺で待機ね。やばいことあったらすぐ連絡するから」



 師匠はそう言うと、近くの店に入ろうとする。この店は原宿さんが経営してるらしいけど……。



「ほんとに……行くんですか……?」

「しょうがないでしょ。根岸千はここに行って行方不明になったんだし、お金も根岸さんからもらっちゃったんだから」



 でも……なぁ……。



「ホストクラブ……なんですよね……?」

「だいじょぶだいじょぶ。飯食って情報聞き出すだけだから」

「はい! そ……それに私……裏切りませんから……」



 僕の心配もよそに、楽観的な師匠とよくわからないことを言っている光華さんは店の中に吸い込まれていった。



「ほんとに……大丈夫かな……」



 いや……心配してもしょうがない。それにいざとなったら僕がこの剣で……。



「ってぇな」

「あ……すいません……」



 道の端に寄ろうとしていると、見るからに年上の男と肩がぶつかった。



「すいませんじゃないだろ? なぁ?」

「いや……えっと……すみません……」



 しかも絡んできたし……それに……。



「ちょっとツラ貸せよ」



 相手……20人近くいるんだよな……。



「……暴力ですか?」

「今さらビビってもおせぇぞ? 俺らのバックにはなぁ、原宿さんがいるんだよ」



 へぇ……それは……。



「その喧嘩、買いますよ」



 ……好都合すぎる。



「ただし条件が三つ。問題にしないこと。怪我しても文句言わないこと」

「あ? てめぇ調子こいてんじゃ……!」



 よかった。光華さんから玩具とはいえ剣を受け取っておいて。僕は剣を抜きながら、最後の一つを言う。



「全員喋れなくなったら困るんで。1人は残しておいてくださいね」

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