第8章 第4話 決戦の依頼
「復讐は終わった」
翌日の昼。僕は再び根岸さんの家へと訪れていた。
「そう。何してくれたの?」
相変わらず表情のない顔が、蝋燭に照らされ僕を見上げる。その顔に僕は一言、
「ハルモニアさんのライブチケットを師匠にあげた」
そう伝えた。
「……どういうこと? 私は復讐をしてと頼んだはず」
「だからこれが復讐なんだよ。さっき野毛さんに会ってきた。で、彼氏がいることを掲示板に書き込んだ師匠をどうしたいか訊ねてきた」
そしてその答えが、チケットの譲渡。もっともその答えは野毛さんが提示してきたわけではないが。
「野毛さんは言ってたよ。自分が悪いんだから復讐なんてするつもりはないって。でも少し余計なことしやがってとは思ってたみたいだから、興味のないチケットをあげることにした。アイドルから直接渡されたら行かなきゃいけない気がするだろ?」
「そんなのちょっとした嫌がらせでしょ」
「ちょっとした嫌がらせも復讐の内だよ。それでスッキリするんだったらな」
「……期待はずれ。もっと過激なことしてくれると思ってたのに」
「根岸さんの都合なんて知らないよ。僕たちはただ復讐するだけだ。それ以外のことに手を出すことはしない。だから新しい復讐の依頼も受けてきた」
「……新しい?」
そう。正真正銘野毛さんが困っている事態への復讐。
「会ったこともないのに名前を使われた野毛さんの、根岸さんへの復讐だ」
そう告げると、根岸さんは表情一つ変えないままため息をつく。そして、
「まぁ及第点かな」
なぜか上から目線でそう言った。
「……どういうことだよ。勝手に依頼をでっちあげて何が及第点なんだ?」
「まず謝りたい。私はあなたたち復讐部を試したかった。どこまでやってくれるか。どこまで使えるかを」
「だからどういうこと……」
「私は私で依頼がしたい。でも失敗して残念でしたでは済まない内容。だからちょうど旭ヶ丘朝陽が立てたスレを使ってあなたを呼び出した。ちなみにお助け部っていうのも嘘」
つまり……僕は嵌められていたということか。根岸さんの目的のために。
「それで本題。私の依頼は……」
「ちょっと待った。その前にこっちの復讐が先だ」
「いいよ。土下座でもすればいい?」
「いやそこまでは……。できればだけど、野毛さんが男と付き合ってるって噂を消してほしいんだけど……」
「わかった。虚偽ということで管理者に伝達しておく」
「それと野毛さんに謝罪しといて」
とりあえずこれで野毛さんの気持ちは晴れたことだろう。あと残っているのは……。
「根岸さん。君は一体何がしたかったんだ」
この一連の茶番を引き起こした根岸さんの感情だけだ。
「……私の姉。根岸千が行方不明になった」
そうポツリとつぶやいた根岸さんの表情が、初めて変化を見せた。
「姉は縦岸学園の大学3年生。そして1週間前から、寮からも学校からも姿を消した」
何かを悔いるような、辛く険しい表情に。
「……生徒会とか学校……いや、行方不明なら警察に言うべきだと思うけど」
「行方不明と言っても所在がわからないわけではない。ただ、帰ってこれないだけ。そして生徒会も、学校も、警察も頼りにならない。あいつの安全は、学校が保証しているから」
学校が……保証……? あいつってことは犯人がいるんだよな……。でもさすがに誘拐とかとなったら学校は……いや、
「まさか……!」
「学校はブランドを維持しなければならない。だから優秀な生徒に辞められたら困る。つまりこの事件が表に出ることはありえない」
そう。そんな話を聞いたことがある。おそらくその組織の一員である月見台さんから。その組織の名前は……。
「生徒総会、原宿宿。彼に私の姉は監禁されている。おねがい。生徒総会に復讐して」
旧復讐部が解散に追い込まれた組織に。新復讐部が挑む。……いや、違う。
旧復讐部の復讐を、僕たちが行うこととなった。




