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第8章 第1話 新たなコスプレ

〇宗吾




「宗吾の優勝を祝してかんぱーいっ!」

『かんぱーいっ!』



 ストーカー騒動が終わった翌日の夜。普通に大会で優勝した僕は、クッキングクラブでその祝勝会を開いてもらっていた。



「にしてもすごいよね、優勝って。あれ? そんな大きな大会じゃなかったんだっけ?」

「それでもですよ。宗吾くんはまだ1年ですし……練習できなかったし」



 カウンターの席順はいつも通り。右から師匠、僕、光華さんの順だ。



「何にせよめでたいよ。宗吾の分は私が奢るから好きなだけ食いな」

「そ、宗吾……。これ、あたしが作ったんだけど食べてくれる……?」



 そして厨房には扇さんと恵子。最近よく見る構図になっている。



「ああ……もらうよ」



 恵子とは視線を合わせず、差し出されたからあげを口に運ぶ。



「ど、どう……?」

「うん……美味しいよ」



 それでもまだ恵子と目を合わせることはできない。お世辞を言うことが精一杯だった。



「えー……。なんかいつもの方がいい……」

「そうですね。控えめに言って特段言うことはないです」

「なに勝手にあたしの愛食ってんのっ!?」

「まぁまぁ。もっと練習して食ってもらえばいいさ」



 だがこれはこれで、悪くない。こんな日常も……悪くはない。



「扇っちさー、こんなのに使う食材あるならその分私に食べさせてよ」

「こんなのって言うけどさ、朝陽。こいつも反省してがんばってるんだから認めてあげなよ。許せとは言わないけどさ」

「ほんそれ! 今まで料理なんかしたことなかったけどさー、やってみたら? 意外と? 楽しいんだよね。まぁ雑用とババァはクソだけど」

「宗吾くん、こっちこっち」



 師匠たちの会話を聞いていると、光華さんが一つ左の席に移り、僕に手招きをしていた。



「どうしたの?」

「その……なんというか……。私のせいで練習できなかったわけじゃないですか……」



 僕も左にずれて話を聞くと、光華さんは証明に照らされてるからか頬を紅くし、何かもにょもにょと話し始めた。



「別に優勝できたからいいよ」

「そ、それは結果論じゃないですか! だからお詫びもかねてこの後……2人でお食事でもと思いまして……」


「師匠いたらだめなの?」

「ダメってわけじゃ……! で、でも別のところで食事したら朝陽さんの分はこちらでお金を払わないといけないですし……胸が苦しくて……勘違いかどうか早く確かめたくて……」



 ……相変わらずなに言ってるかわからない。まぁでも、



「別にいいよ。明日休みだし」

「ほ、ほんとですか!? よかったー……」



 なんで光華さんこんな喜んでるんだろう。軍服破かれて今普通の制服だから早く修復させたいはずなのに。



「じゃあ……」

「あっ、いらっしゃい」



 光華さんが何か言いかけたタイミングで、クッキングクラブの引き戸が引かれた。クッキングクラブに僕たち以外の客が来ることは珍しい。当然全員の視線が来訪者に向けられる。



 なんか、変な女子だ。全身黒のゴスロリ服に身を包んだ女子。身長は光華さんとほとんど同じくらいで小柄だが、顔立ちは光華さんより少し幼く見える。中学生くらいか?



「お好きなところにどうぞ。ほら恵子、お冷とおしぼり」

「は、はい!」



 扇さんに促され、恵子が狭い厨房を駆け回る。そしてそんな中少女は、



「…………」



 僕が左にずれたことで生まれた席に、無表情で腰かけた。



「えと……宗吾の知り合い?」

「いや……師匠じゃないんですか?」



 隣に座られた僕と師匠は顔を見合わせるが、どちらも心当たりはないようだ。となるといつも通り僕が忘れてるだけ? まぁそうじゃなくても空いてるから問題はないわけだけど……。



「注文が決まったらどうぞ」



 僕たちが戸惑う中、さすがの扇さんは手早くお冷やおしぼり、メニュー表を手に取るとその少女に手渡した。



「注文はもう決まってる」



 そして少女はメニュー表を一瞥もすることなく、



「磯子宗吾を一つ」



 僕を指名した。



「ちょっと宗吾誰よこの女!」

「そうですよ宗吾くん! コスプレにクール系……完全に私とキャラ被ってますっ!」

「いや知らない人だし前にも言ったけど光華さん全くクールキャラじゃないからね? コスプレもしてないからただの変人だからね?」



 光華さんのせいでツッコミメインになってしまったけど、本当に知らない。普段からこの格好をしているならさすがに忘れるはずないけど……本当に誰だ?



「あ、あの……どこかでお会いしました……?」

「来て」



 ゴスロリさんは質問に答えることなく、僕の腕を引っ張り店の外に連れ出す。



「ちょっ……ちょっと待って……? なんかわからないけど僕この後用事あるから……」

「いいんだ」



 ゴスロリさんは短くそう言うと、やたらゴツゴツしたスマホの画面を僕に見せつける。



「これ、知られたくないよね?」

「っ……!」



 その画面に映っていたのは、倒れているストーカーへと木刀を向けている僕の写真。間違いなく昨日撮られたものだ。



「ど、どこで……それを……」

「従ってくれるなら公表したりはしない」



 そして少女は。



「旭ヶ丘朝陽への復讐に協力して」



 絶対に受け入れられない言葉を口にした。

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