第6章 第4話 失恋バナ
「宗吾くん……」
「宗吾……」
私が振り下ろした玩具の剣が、宗吾くんの手に吸い込まれる。玩具と言えど当初のコスプレ用のではなく、復讐部のために作ったそれなりの重量がある一振り。痛みはそれなりにあるはずなのですが、宗吾くんは平然とした顔でため息をつきます。
「宗吾……あたしを助けに来てくれたんだね!」
「いや……師匠から電話がかかってきた」
「現在進行形でね」
朝陽さんがスマホをふりふりと振ります。その画面は宗吾くんへと通話状態になっていました。
「じゃ……じゃああたしの気持ち聞いたよね……? やり直そう? あたしは宗吾を今も愛してる。今度は絶対上手くいくって!」
「……光華さん。剣を収めてくれ」
……そう言われたら従うしかありません。でも……!
「宗吾くんはそれで幸せになれるんですか……?」
「何言ってんの? 宗吾はあたしが幸せにするんだから!」
宗吾くんを正面から抱きしめ、蝦夷町さんは幸せそうに語ります。
「今までごめんね? これからはキスもしてあげるし、えっちなことだってしてあげるから。なんなら今からしちゃう?」
汚い言葉を聞いていられず朝陽さんに視線を向けると、彼女はつまらなそうにあくびをしていました。まるで宗吾くんが何と答えるかをわかっているかのように。
「……僕が悪かったよ」
「? う、ううん! 悪いのはあたしだよ! だからその分……」
「剣道ばっかで君に構ってあげられなかった」
「そ、うだけど……。でも今ってあんまり剣道部に顔出してないんでしょ? だったら……!」
「でも僕なりにがんばってたんだよ。付き合ったのは中3の4月14日……去年の今日だ」
「そ、そうだった……っけ……?」
「剣道の方が大事だって言って付き合ったけど、なるべく自主練は君との時間に割いたし、引退してからは週に一度は君とのデートに付き合った。誕生日プレゼントも色々な人に訊いて喜んでくれるものをって選んだし、クリスマスは小遣い1ヶ月分のレストランに連れてった」
「そ……うだね……」
「でも君は一度も僕に触れなかった。1年も付き合ったのに手すら繋いだことはなかった。知ってたよ、防具が臭いからあんまり近づきたくなかったんだよね」
「……で、でも……! ここ、シャワーあるから……!」
「キスとか、その先のこととか……。僕にとっては遠すぎてどうでもいいんだ。抱きしめられるとかそんなことよりも……僕は。君と手を繋ぎたかった。君の手に触れたかった」
「て、手くらい……ほら! いつでも好きなだけ触っていいから……ね?」
「……だから言っただろ。僕が悪かったって。もっとはっきり言うべきだったよ」
「……え?」
宗吾くんは蝦夷町さんを突き放すと、私の腰から剣を引き抜いて。
「君が大嫌いだ。消えてくれ」
長く鍛えてきた宗吾くんの剣道の全てが、剣先にいる蝦夷町さんへと向かっていました。
「な……なに言ってるの……? あたしは、宗吾と……!」
「僕の居場所はここにある。それを邪魔するお前は敵でしかない」
そして宗吾くんが剣を振り上げると。
「待った」
扇さんが、その腕を止めました。
「……ごめんなさい。店の外でやるべきでしたね」
「喧嘩なら、そうだろうね。でも暴力とか復讐とか、そういうのは全部終わったんでしょ? もう宗吾とこの女には何の関わりもないはずだ。だったら、だ」
そして扇さんは怯えている蝦夷町さんへと。
「こいつは私がクッキングクラブの従業員として迎え入れる」
手を差し伸べました。
「……扇。なに言ってんの」
それに真っ先に反対したのは朝陽さんです。
「こいつは宗吾を傷つけたんだよ。しかも反省なんかしてない。そいつを許すっての?」
「4月末までに部員をもう1人集めなきゃいけないんだ」
「だから! そんなの例年通り私が適当に名前だけ借りてくるってっ!」
「じゃあこの女はどうする? 退学にはできないし、学年は同じで寮に住んでる。こういうタイプはね、後々ストーカーとかになるんだよ。根本的な解決をしなくちゃ意味がない」
「私に任せてよ。私なら今後一切悪さできないようにすることができる」
「だからさ、根本的な解決が必要なんだよ。あんたが馬鹿みたいに言ってる復讐なんかじゃできない解決がね。暴力振るってスカッとしたとしてもそれじゃあ何も意味がない。罪を犯した人間に必要なのは復讐じゃない。更生なんだよ」
「そんなとこまで面倒見る必要ないでしょ……!」
「いいや、必要なんだよ」
扇さんはそう言うと、差し伸べていた手を、
「ぶべっ!?」
蝦夷町さんの頬に叩きつけました。そして倒れた彼女に馬乗りになり、胸ぐらを掴み上げて言います。
「私にとってはね、こいつらは家族なんだよ。馬鹿な娘が連れてきた馬鹿な子ども。そんな大切な家族を傷つけられて黙ってられるほど大人じゃないんだよ」
「え……? え? え……?」
突然殴られ、胸ぐらを掴まれた蝦夷町さんは理解できないという表情で言葉にならない言葉を漏らしてしまいます。
「だから反省させる。ちゃんと謝らせる。周りから見捨てられたこいつにそれができるのは私だけだ。文句あるかい? 宗吾」
「……僕はもうそれとは関係ありませんよ」
それは事実上の許可でした。宗吾くんにとっては蝦夷町さんがどうなろうが知ったこっちゃないんです。
「な、なに勝手なこと言ってんの……? あたしはこんな部活に入ったりなんか……!」
「うっさいんだよ馬鹿っ!」
「いたっ!?」
容赦ない鉄拳が蝦夷町さんの頭頂部に降り注ぎます。その姿はまるで、
「悪いけど私は古い人間でね。教育に暴力は必要不可欠だと思ってるから」
怖いけどとても優しい母親のようでした。
「あんたに拒否権はない。この店の雑用全部やってもらうからね。とりあえずカウンター拭きな」
「なんで、あたしが……!」
「一々口答えしなくていいんだよっ! 黙って働きなっ!」
「はっ、はい!」
扇さんに凄まれ、蝦夷町さんは逃げるように雑巾を取りに厨房に入っていきます。
「……扇、甘すぎ。あいつ絶対更生とかしないよ」
「それならそれでいいんだよ。元カレに相手にもされず、近くで働かされる。復讐なんかよりもよっぽど重い罰だよ。それにさ、」
扇さんは宗吾くんの肩に手を置き、笑いました。
「恋愛ってのは失敗してなんぼだ。あんたもあれを見て噛みしめな。失敗した恋を」
「……はい」
そう答えた宗吾くんの横顔はとても苦しそうで。ようやく2人の関係が終わったのだと思いました。
スカッとしない展開かもしれませんが、これが一番彼女を苦しめる方法だと思ったので急遽こうしました。ほんとは退学とかさせたかったんですけどね……悪いことをしたら謝るをさせたかったんです。ご容赦を。
その代わりと言ってはなんですが、次章はスカッと復讐です。そして新たな恋愛が……? お楽しみに!
最後になりますが、おもしろかったり続きが気になると思っていただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価を、そしてブックマークのご協力お願いいたしますっ! 最近ブクマゴリゴリ減ってるのでいっぱい悲しい……。




