表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/36

第5章 第6話 僕が歩く道

「どうした? 瞬殺するんじゃなかったのか?」

「……光華さん、もう少し下がってて」



 広い尋問室を舞台とした意味のわからない寺久保さんとの喧嘩は、言い訳を用意してしまうほど想像以上に追い込まれていた。



 その原因はお互い防具を着けていないというのもあるけど、何より竹刀の種類だ。



「こっちは三八にも慣れてないってのに……!」



 竹刀の長さは一定ではない。中学生は三七(さんなな)、高校生は三八(さぶはち)、大人は三九(さんく)と、年齢が上がるにつれ長さ、重さが上がっていく。



 今僕たちが使っているのは、ほぼ間違いなく三九。つい最近まで三七を振り回していた僕では間合いの調整や重心の位置がわからない。



「こんなの卑怯だろ……」

「言っただろ? これは剣道の試合じゃない。殺し合いなんだよっ!」

「聞いてないですけどっ!?」



 寺久保さんの面を防ぎ、竹刀の関係ない鍔迫り合いへと持ち込む。そもそもこれどうやったら勝ちなんだ……? まさか本当に殺し合いってわけでもないだろうに。



「なぁ磯子……お前にわかるか? 血のにじむ努力の末にようやく全国大会に出場できたってのに10秒で舞台から引きずり降ろされた男の気持ちが」

「……僕だって努力してますよ。そんな天才みたいに言われるのは不快です」


「よく言うぜ。最近は剣道部にもあまり顔を出していないんだろ? 復讐部に入ったことで」

「だから復讐部なんて知らないって……。それに言い方は悪いけど、僕が全体練に出たところで得るものなんてない。自主練は毎日やってるし、監督にも許可はもらってます」


「いい加減建前はやめようぜ? 別に1年のお前らにとやかく言うつもりはさらさらねぇよ。主犯格に騙されたって体にしといてやる」

「だから知らないって言ってんでしょっ!?」



 寺久保さんの竹刀を左に弾き、戻ってきてがら空きになった小手を狙う。だが、



「ぐぅ……!?」

「そんなんじゃ動かねぇよ、俺はな」



 寺久保さんの竹刀が、動かない。なんて力だ……!



「俺はなぁ、磯子。お前に負けたショックでかなり荒れたよ。あまりにも悔しかったから。感情を何も出さずただただ勝ったお前がかっこよすぎて惨めだったからなぁ……。だがそんな俺を、会長は受け入れてくれた。自分のためにその力を貸してくれって、負けたばかりの俺を受け入れてくれたんだ。てめぇに勝つためってのは半分本当だ。だが半分……いや、それ以上に、俺は生徒会長のために! どんな相手にも勝ってみせるっ!」

「がぁ……!?」



 テクニックなんて何もない。ただごり押しの力に負け、僕の身体は大きく後ろに下がってしまう。そして寺久保さんの竹刀が僕を指し。



「俺は剣の道を捨て、会長のために死ぬ道を選んだ。お前にこの覚悟がわかるかぁっ!?」



 剣先が勢いよく僕の眼前へと迫ってきた。



「覚悟、か……」



 千鳥さんも似たようなことを言っていた。覚悟。それ以外のことを全て捨ててでも、一つのことをやり抜く覚悟。



 僕はそれに答えられない。だってそんな覚悟、僕にはない。僕は剣道がしたい。でも復讐部にもいたい。それ以上に、師匠ともっと、一緒にいたい。僕を救ってくれた師匠を救いたい。



 やりたいことがたくさんあって選べない。一つに絞るなんてできっこない。



 だから僕は負けるのか。学校を辞めてでも復讐をやり抜く覚悟を持つ千鳥さんに。努力を重ねた剣道を辞めてでも救ってくれた人のために戦う寺久保さんに。



「それでも、いいや――」



 諦めた瞬間、額に衝撃が奔る。温かい液体が垂れてくる。痛みが、心地いい。



「――僕にはそんな覚悟ないんで。代わりと言っちゃなんですけど、傷ついていくことにするよ」



 利き手ではない右手で寺久保さんの竹刀を掴む。これで僕の剣は自由だ。



「あなたにわかりますか? 唯一の取り柄の剣道を捧げようとしたのに断られた男の気持ちが。あの人は僕のことをただの部員として受け入れてくれた。だからあの人のためになんて死なないよ。師匠はそんなこと望んでいないから」



 大切な人のために死ぬ? 男にとって最高の人生じゃないか。羨ましくて仕方ない。それができない僕は。



「師匠と一緒に生きる道を進むっ!」



 左手のみで押し出した剣は寺久保さんの首を抉り。



「相変わらず……かっこいいじゃねぇか……」



 寺久保さんの身体はテーブルに叩きつけられ動かなくなった。



「かっこよくなんかないですよ……。覚悟とか男としての矜持とか……どうでもいい……。僕はただ、誰にも師匠をとられたくないだけです」



 想いは決まった。やることも。



「……光華さんはどうする」

「……決まっています。私は私の正義を追い求めるだけです。覚悟だなんだとかっこいいことをペラペラのたまう男はたいていクズと決まっている。そんな男にあの人は渡しません」



 後ろに下がっていた光華さんが僕の隣に並ぶ。これで僕たちの目的は決まった。



 師匠を千鳥さんから取り戻す。そして復讐部を再結成する。僕は剣道部に、光華さんは生徒会に入ったままで。



「意気込んでるところ悪いけどさ~何をしたって無駄だよ~? 既に反乱軍の中にうちの副会長が潜入している。誰にも素顔を見せたことのない変装の達人がね。その内全員一網打尽~」

「したいならすればいいよ」

「ええ。されたらこちらもするだけです」



「「復讐を」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ