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第5章 第5話 勝手な因縁

「ひさしぶりだな、磯子。会いたかったぜ? お前に借りを返す時が来たようだ」

「……誰?」



 なんか知らないイケメンが尋問室に入ってきたかと思えば、知り合いかのように話しかけてきた。



「はっ。面越しじゃ面もわからないか。俺だよ。寺久保だよ」

「いや……知らない……」



 面越しってことは剣道部か……? でも剣道部にこんな人いなかったと思うんだよな……。



「……わからねぇようなら教えてやる。一昨年の全国大会。お前が中2の時、俺の引退試合で戦った相手だよ」

「……?」


「……1回戦だ。ここまで言えばわかるだろ?」

「いや……試合なんてだいたい流れ作業だから……。強い人なら覚えてますけど強いですか?」


「全国まで行ったんだ。強いに決まってるだろ」

「何秒持ちました?」


「……10秒」

「じゃあ覚えてないですね。出直してきてください」


「てめぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

「うるさ……」



 だいぶ嫌味に聞こえてしまっただろうが、仕方ないのだ。中学は全部の大会で優勝してるし、一度戦っただけ。しかも10秒間だけで覚えていろというのが無理な話。そして何より、中2の僕は剣道に真剣に取り組んでいた。言い方は悪いけど、対策する必要のない相手のことなんて記憶に留めておくはずがない。



「それでその強い人が何の用ですか?」

「……まぁいい。どうせその生意気な態度も続けられないんだ。なぁ、紅梅」

「ひゃっ、ひゃいっ」



 なぜか光華さんがビクリと肩を震わせる。僕が中2の時に引退試合ってことは、今は高2のはず。直属の先輩とかだろうか。



「俺は高等部生徒会書記兼制圧部隊隊長、寺久保保(てらくぼたもつ)。てめぇを退学にするかどうかは俺が決められるんだよ」



 制圧部隊……やっぱり光華さんの上司か。



「それで、何が言いたいんですか?」

「引退試合で瞬殺されて悔しくて部活辞めちゃったから報復したいんですよね~?」

「なんでお前が煽って来るんだよ月見台! ……まぁようするにそういうことだ。情けないと思うか?」



 それは……めちゃくちゃ思うけど……。だがそう簡単に答えられないほどに、寺久保さんの瞳は真剣に僕を捉えていた。



「俺だって情けないと思うさ。だがな、俺は部活を辞めてからの1年半。お前に勝つために努力してきたんだ。剣道じゃなく、純粋な力で」



 そう言うと寺久保さんは尋問用だと思われる竹刀を2本取ると、片方を僕に投げ渡してきた。剣道家としてはありえない行動だ。本当にもう、剣道はやっていないのだろう。全国大会にまで出場できたというのに。でもそんなの関係ない。



「喧嘩なんてしませんよ意味のない。僕は復讐部じゃないって証明しなきゃ……!?」



 床を勢いよく蹴る音がしたかと思えば、次の瞬間には寺久保さんの竹刀は僕の眼前に迫っていた。無意識に竹刀で防いだが、勢いを殺しきれずに椅子ごと倒れてしまう。



「良い反応じゃねぇか、磯子」

「……なんなんだよあんた一体」



 テーブルに登ったまま僕を見下ろす寺久保さんに対し、素早く受け身を取って立ち上がり、僕は竹刀を構える。



「わからねぇなら建前を用意してやる。学内の秩序を著しく乱す復讐部所属の疑いがある生徒を、制圧部隊隊長として実力行使を行い、捕える。わかるだろ? てめぇは俺と戦うしかないんだよ」



 だから……何がしたいんだよ本当に。僕はこんなくだらないことをやっている暇なんてないのに。



「悪いけど今機嫌悪いんで。また瞬殺されても文句言わないでくださいね」

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