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第1章 第2話 復讐の意味

「あむっ、あむっ、あむっ」

「…………」



 それにしても、不思議な女性だ。宝石のような漆黒の髪、スラリと大人っぽいスタイル、目鼻立ちが整った顔。街中で見かけたら思わず視線を送ってしまうくらい、綺麗な女性。



 だがその瞳は死んだように暗く、雰囲気は鬱々としていて、泥だらけになったおにぎりを貪っている。



「あの……無理して食べないでいいですよ。僕の自殺を止める理由でごはんを要求したんですよね。なら……」

「いんやお腹がすいて死にそうなのは事実だよ。縦岸(たてぎし)学園の生徒共通の悩みだからね、腹減りは」

「……?」



 米粒を頬張りながらそう答えた女性は、口元の米粒までしっかり腹に収めて口を拭う。



「まずは自己紹介しようか。11年生の旭ヶ丘朝陽(あさひがおかあさひ)。復習部の部長をやってます。そっちは?」

「高1の磯子宗吾(いそごそうご)です。えと……11年生っていうのは……?」


「なんだ、中途組か。ほら、この縦岸学園って小中高大一貫校のクソデカ学校でしょ? だから小1から数えて何年生って呼ぶ人が多いんだよ。つまり私は高2ってこと」

「へー……」



 確かこの学校は田舎の方に建てられた、基本全寮制の冗談のように大きな敷地を持っているはず。となるとやっぱり高1から入学した僕みたいな奴はやっぱり余所者扱いされるのが当然ってことか。



「っていうかまだ4月1日じゃん。なんで自殺するくらい追い詰められてたの?」

「実は僕……中学の時剣道で全国制覇してまして……。推薦でこの学校入ったんです。だから春休みから稽古に参加してました」


「あぁ、うちの学校部活活発だからどこも強いんだよね。でも全国優勝ってのはすごいよ。中々いないんじゃないかな」

「昔から剣道しか取り柄がなくて……でもそんな僕にも中3の時彼女ができて……同じ学校に入学できて……すごい、幸せだったんです」



 でもそれは、一瞬で終わった。



「初めて稽古に参加した時、この学校で一番強い打越(うちこし)さんに勝っちゃったんです」

「確かその人って16年生……大学4年だよね。しかも前年度全国制覇したってちょっと話題になってたはず。それに勝ったってすごいじゃん」


「もちろん手加減してただろうし、大学生と中学生じゃルールが違うから僕も本気でやれなかったんですけど……それが全ての間違いだった。勝つべきじゃなかったんですよ」

「なるほどね……だいたいわかったよ」



 わかった、らしい。だからこれ以上言わなくていいんだ。



「そして……いじめが始まりました」



 それでも、止まらなかった。



「稽古と称して暴力を振るわれて……パシリにされて……! 僕は、ただ、剣道がやりたかっただけなのに……!」



 死のうと思った。もう何もかもどうでもいいと思った。それでも話し始めたら止まらない。止まれない。



「でも打越さんは周りに見えないように暴力を振るってきて……! そのせいで弱いみたいに扱われて……! いつしか恵子(えこ)……彼女と打越さんがキス、してて……! 僕なんて1年も付き合って、手すら触らせてもらえなかったのに……! 僕は……僕は……!」



 ずっと誰にも言えなかった想いが、涙を伴って溢れ出す。死ぬつもりだったのに。死んで全部捨てたかったのに……!



 負けたまま、終わりたくない――!



「僕は……復讐したい……! でも復讐なんかしたって、意味なんか……!」

「意味、ねぇ……。確かに復讐をしたって意味なんかない。その先輩からやられたことは消えないし、彼女が戻ってくることもない。まぁ後者は話を聞く限りまだわからないけどさ、結局意味がないことに変わりはない。でもさ、」



 そう語ると旭ヶ丘さんは死んだ瞳を鈍く輝かせた。



「復讐って、すっごい気持ちいいんだよ」

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