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第4章 第1話 歓迎会

「クッキングクラブ存続を祝して!」

「かんぱーいっ!」



 一応の形での紅梅さんの復讐部入部が決まったその日の夜。僕たちはクッキングクラブの店で歓迎会を行っていた。



「いやー、にしてもよかった! これでクッキングクラブも1年は安心だっ!」



 古びたスナックという感じの店の厨房で扇島さんがいつになく上機嫌に酒を一気飲みする。



 部活存続の条件は5人。店主の扇島さんと、復讐部の部室を用意してもらっている関係で師匠。そしてその下の僕と紅梅さんがいて、残り1人は。



「おかわりどうぞ」



 空になったグラスに日本酒を並々ついだ女性、高砂珊瑚(たかさごさんご)さん。大学2年生で、元々料理研究部に所属していたが喧嘩してクッキングクラブに転がり込んだらしい。笑顔がとても綺麗で、まさに大人の女性という感じ。ザ・場末のスナックみたいな感じのこの店に全く合っていない。いやスナックなんて行ったことないんだけど。



「これで安心して卒業できるじゃん!」

「まぁさっそく授業サボりまくってるんだけどね!」

「「あっはっはっはっはっ!」」



 師匠と扇島さんが何が楽しいのかわからないけど大笑いして飲み物を一気飲みする。当然僕たち高校生組はオレンジジュースだけど、師匠もいつもよりテンションが高い。昔からの知り合いみたいだし、僕たちにはわからない関係があるのだろう。となると僕の相手は。



「本当に復讐部に入ってよかったの? 紅梅さん」

「はい。色々勉強させていただきます。それより下の名前でいいですよ。ジェニファーと呼んでください」


「なんで嘘つくの? いや覚えてないんだけどさ、申し訳ないけど」

「では私の本名がジェニファーかどうかは、調べてみるまでわからない。シュレーディンガーのジェニファーですね」


「いやでも君ジェニファーじゃないじゃん」

「ふふ……そうですね」



 なんだか紅梅さんの頬がほんのりと赤い気がする。でもテンションが上がっているのか、素でこれなのかわからない。本当にわからない。



「そういえば朝やってたあの口上なんだっけ」

「高等部生徒会制圧部隊所属! 紅梅光華(こうばいこうか)ですっ!」


「何かおかわりする? 光華さん」

「はっ! 謀りましたね! リンゴジュースをお願いします」



 カウンターから立ち上がって厨房に向かおうとすると、光華さんのコップがひょいと上げられた」



「私がつぎますよ」

「ありがとうございます、高砂さん」



 扇島さんと一緒に厨房に入っている高砂さんが代わりについでくれた。さすが飲食店経験者。なぜか変わらずオレンジジュースだけど。



「うぅ……。にゃんだかねむいです……」

「おいイチャイチャしてんじゃねーぞぉっ!」



 左隣の光華さんが頭をことんと僕の肩に預けてくると、右隣から師匠の罵声が飛んできた。



「いやイチャイチャって言いますけどね……。なんか帽子硬くて痛いんですよ」

「はぁやだやだモテない男は。そういう時はね、がばって抱きしめるのが甲斐性ってやつなんだよ」


「言っときますけどね! 一応僕にも彼女いたことあるんですからねっ!?」

「全国優勝をアクセサリーにしてた彼女がね!」


「ああああああああっ!」

「はいはいかんぱーい!」



 師匠とグラスを打ち合い、残っていたオレンジジュースを一気に口の中に入れる。なんか僕もテンションが上がってきた。……いや、これは。



「ねむ……く……?」

「うぅぅ……」



 何か違和感を覚えていると、光華さんが頭どころか身体全身を僕に預けてくる。僕の膝に乗り、向き合う形で。



「あむっ。あむあむっ」

「ちょ……っ、なんで……!?」



 そして僕の首筋を甘噛みしてきたことで、ようやく気づく。いくら光華さんの頭がおかしいからって、いきなり男にこんなこと、考えられな……?



「あぐぅ……」



 急に全身から力が抜け、カウンターに座っていたせいで背中から床に落ちてしまう。光華さんを庇う形になったわけだが、それでも衝撃は受けたはず。それなのに光華さんは僕の身体に乗っかったまま安らかな寝息を立てていた。いくらなんでも、ありえない。



「し、しょ……」



 声を絞り出すが、上手く出てきてくれない。とんでもない睡魔が襲ってくる。



「ちょっと扇っち酒入れてないよね」

「当たり前でしょ。場酔いだよ場酔い」



 いや……これはそんなレベルじゃない。たぶん、酒というレベルも超えている。何としてでも師匠に伝えなければ。



「し……ぉ……」



 だがそれは叶わず。僕の意識は泥の中に沈んでいった。




☆☆☆☆☆




「……ん、ぅ……?」



 身体にのしかかる体重を感じながら目を覚ます。視界の中には僕の服に涎を垂らしグーグー寝ている光華さんが。胸の柔らかさを感じ逃げようとするが、身体が動かない。



 そんな僕たちの頭上から、扇島さんの悲痛な声が聞こえた。



「店の金が……なくなってる……!」

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