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第3章 第4話 合流

「おらおらぁっ! 消しカス食らえおらぁっ!」

「うわぁ……」



 小学3年生男子3人を壁際に追い詰め、ポケットから消しカスを投げつけている高2女子の姿に思わず引いてしまう。復讐は悪いことではないと証明するはずだったのに、もうこれ庇いようがない。



「私止めてきます……!」

「ちょっ……!」



 僕が呆然とする中、紅梅さんは玩具の日本刀を引き抜き小学生の間に飛び込んだ。



「一体何をやってるんですかっ!」

「あれあれ正義のヒーローさんじゃないですか。宗吾、任せたって言ったんだけど?」

「……ごめんなさい」



 謝りながら僕も師匠の元へと向かう。だがただ謝るだけでは面目が立たない。



「邪魔なら排除します」

「……ほえ?」



 紅梅さんの手から剣を奪い、その首筋に当てると彼女は間抜けな声を上げた。一応僕全国とってるし、これくらいはできる。



「邪魔だけど、いいや。使えるし。宗吾、いきなり無茶なこと頼んじゃってごめんね」

「いえ……次は必ず果たしてみせます」

「そんな気負わなくていいよ。イージーリベンジでいこうぜ」



 師匠が僕の頭をぽんと叩き、下がらせる。普段はちゃらんぽらんのくせに、復讐のこととなるとかっこいいのが、またずるい。



「さて紅梅さん。私の復讐に何か文句あるのかな?」

「あ、あるに決まってるでしょう! 子どもをいたぶって楽しいですか?」


「楽しい? 楽しいね。じゃなきゃやらないよ」

「……君たち、逃げなさい。この人は私が抑えます」

「動くな」



 小学生が逃げようとしたので、彼らの顔の位置に剣を置く。絵面はやばいのだろうが、仕方ない。



「磯子くん……。あなたはそれが正しいと思っているのですか」

「僕が間違ってたよ。復讐なんて傍から見たらむごくて当然なんだ」



 だからどれだけかわいそうに見えても、当たり前のことなんだ。



「よくわかってんじゃん、宗吾。そうだよ。私はただこの3人が材木くんにしたことをやり返してるだけなんだから。ねぇ、寺家くん。姿見(すがたみ)くん。瀬谷(せや)くん。安心していいよ、ちゃんと裏取りはしてあるから倍返し以上のひどいことはしないさ」

「ご、ごめんなさいぃ……!」



 小学生の内の1人が大粒の涙を流しながら謝罪の声を上げる。だが師匠は止まらない。いや、ボルテージを上げた。



「ごめんなさい? 謝ったからって済むと思うなよって私言わなかったっけ? 仕方ないよ、君たちがやったことなんだから。何をどうしようが君たちがいじめを行った事実は変わらない。だからその分の復讐をしてるだけなんだよ。謝罪? 反省? いらないいらない! 君たちはただ材木くんが味わった恐怖と苦しみを倍返しで味わえばいいんだよ。これから先、少なくとも私がこの学校にいる間。私は君たちにまとわりつくし、消しカスを投げ続ける。しょうがないよねぇ、君たちが先にやっちゃったんだから! 復讐されるのはしょうがないよねぇっ!?」



 狂ったような脅迫に小学生が耐えられるはずもない。泣き、叫び、狂乱する。



「いい加減に……しろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「ごめん、ストップ」



 その声を背中に受けた紅梅さんが平手を師匠に向けようとしたので、その腕を握って止める。



「これが正義!? どこがですかっ! 子どもを泣かして! 苦しめてっ! これを放置しているあなたも同罪です! 私はあなたたちを絶対に許さないっ!」

「まず宗吾にお礼を言いなよ。私、絶対に復讐するからね」



 握り拳を作っていた師匠が呆れるようにため息をつき、紅梅さんに向き合う。



「それにしても、正義のヒーローさんは犯罪者を庇うんだねぇ」

「犯罪者……? 私も話は聞いていました。あの程度のことでここまでやり返される筋合いはありません」


「あれ? もしかして女性のDVは犯罪にならないとか思ってるタイプ? ふざけんなよ。罪に年齢も性別も関係ない」

「……小学生の犯罪は罪にはなりません」


「聞いた? 宗吾。正義とか平和とか言ってる奴がこれだよ! はぁーやってらんない」

「っ……! っ……!」



 ついに何も言い返せなくなった紅梅さん。



「あんたが偉そうに謳う題目は、全部小学校の学級目標にしか聞こえない。薄っぺらい信念で私の前に立つな」



 そしてその横顔に、涙が一筋伝った。



「私は……昔ストーカー被害に遭っていました……。その恐怖は、今も忘れられません……」

「知ってる、とは言わないよ。辛さは人それぞれだからね。でも似たような気持ちを知ってるからこそやっている」


「だから……他の人に同じ恐怖を味わわせたくない。そう思うのは間違っていますか」

「間違ってるとは言わないよ。ただ、相容れない」


「……正義とは、なんですか」

「知らない。考えたくもない」



 紅梅さんが膝から崩れ落ちた。いや、違う。



「私に復讐を教えてください……。何が正義か、考えさせてください」



 土下座をし、頼み込んだ。



「……なにその変わり様。なに企んでるの?」

「何も企んでなどいません。そして私の考えも何も変わっていない。復讐は認められない。ただ、今の私では真の正義が何か見抜くことはできません。そしてあなたの中に、小さいけれど正義を見た。だから知りたいのです。私の正義を貫くために、何が必要なのかを」


「……その代わり復讐部のことをばらさないこと。毎日私に食料を献上すること。それさえ守ってくれるなら、好きにしなよ」

「……ありがとうございます」



 師匠が小さくあくびをし、立ち去っていく。その隣に紅梅さんを携えて。



「あ、君たちへの復讐は続けるから。覚悟しといてね」

「それはいけません。もう彼らは充分な罰を受けたはずです」


「それを決めるのは被害者だっての」

「その彼ならあなたが長々と語っている間に逃げてましたよ。やっぱりやりすぎなんです」


「はっ。ガキんちょには大人の世界は早かったかな!」

「先ほど年齢は関係ないと仰っていませんでした?」


「……あんたやっぱむかつくわ」

「よく言われますし、私もあなたむかつきます」


「上等じゃコラァァァァっ! もう一回気絶させたらぁっ!」

「今度は私の剣技が舞いますよ。……あれ、剣ない。あれぇぇぇぇ……?」



 相容れない者同士、同じ道を歩きながら。

いつもお読みいただきありがとうございます。3人目の部員が集まりました。次回は過去最大級の復讐が行われます!


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