第3章 第2話 初仕事
「ん……? ここは……? はっ! あなたたち、何をしているんですかっ!」
師匠に昏倒させられた紅梅さんが目を覚ます。
「というか、この縛り方はなんですかっ!?」
椅子にロープで括られ、さらに亀甲縛りで拘束されながら。
「かわいい女の子を縛る時は亀甲縛りにしないといけないっていう法律があるんだよ」
「そうなんですね……知りませんでした」
の割には呑気に馬鹿っぽい話を師匠としているけど、そんなことを気にしている場合じゃない。
「ここはとある部室の中だけど、わかる?」
「部室……まさか復讐部ですか……!?」
やっぱり覚えていたか……。となると、まずい。
「師匠……」
「やむなし、だね。紅梅さんだっけ? 単刀直入に言うけど、このことを内緒にすると誓ってくれるなら無事に解放してあげる。返事は?」
「ありえません。話は聞いていますよ。復讐部は学校の平和を乱していると。そんな組織に命乞いをするほど私の正義は安くありません」
その答えを聞くと、師匠はゆっくりとため息をつく。
「服でも脱がして裸の写真撮るか……じゃなければ殺すか、だね。宗吾、見たくないなら外出てていいよ」
「……そこまでする必要がありますか」
「あるよ。少なくとも私には」
「…………」
初めて見る師匠の真剣な顔つきに何も言えなくなってしまう。だが紅梅さんは違った。
「私を殺したいなら殺せばいい。ですが悪は必ず滅びます。私たち生徒会の正義によって」
「悪、ね。確かに心が弱った人間につけいって復讐の怪物に変える私たちは悪なのかもしれない。だからこそ往年の悪の権化みたいな台詞を吐くよ。人が存在する限り、復讐はなくならない。私たちがいなくなってもね」
師匠がどうでもよさげに言いながら段ボールの中から包丁を取り出した。まさか……本気で……!
「……どうぞ」
だがその包丁が段ボールへと戻っていく。部室の扉を誰かが叩いたからだ。
「失礼します……」
入ってきたのは、小等部の制服を着た気弱そうな男の子。小中高大一貫だということは知っていたが、実際に子どもの存在を確認すると何だか不思議な気持ちだ。
「菊名さんから聞きました……3年生の材木林太郎です。ここに来たら復讐してくれるって本当ですか……?」
「本当だよ。とりあえず座って」
材木くんはそう言われるとてくてくと歩いてソファーに座る。
「こんな子どもを悪の道に染めるなんて……許せませんっ!」
「どうしてお姉ちゃんはパパがママによくやってるやつしてるの……?」
「前者は復讐に年齢は関係ない。後者は早く忘れなさい」
師匠が対面のソファーに座ったので僕もその隣に座る。ちなみにその後ろには椅子に拘束された紅梅さんがいる。
「じゃあ話してみて。ゆっくりでいいからね」
「うん……。僕、同じクラスの寺家くんたちから……いじめられていて……。ぶったりはされないんだけど、無視されたり消しカスを投げられたリ、やだって言ってるのにつきまとわれたり……。すごい、やなんです……」
話を聞く限りではよくある小学生のいじめって感じだ。僕もやられた記憶がある。
「それは許せませんね! 私たち生徒会にお任せくださいっ! 必ず止めてみせますっ!」
「ううん……。生徒会の人にお願いして、いじめはなくなったの。ごめんなさいも、された。でもそれで……終わったの」
つまり、こういうことか。
「謝って終わりだなんて許せない。同じ目、もしくは同じくらいの苦しみを味わってほしい、ってことだね?」
師匠の確認に、材木くんは目に涙を浮かべながら大きくうなずいた。でもこれは……どうなのだろうか。
「そんなのいけませんっ! いじめられたからっていじめ返したら争いは終わらない。どこかで誰かが我慢するしかないのですっ! 今が平穏ならそれでいいではないですかっ!」
正直僕も紅梅さんと同じ気持ちだ。小学生のいじめなんて気まぐれで始まり終わるもの。言われて終わるだけかなり甘い部類だ。我慢すればいつの間にかこの子も忘れることだろう。でも、僕は。
「僕たち復讐部に任せて。必ず復讐してあげるから」
僕は今、復讐部にいる。個人の考えはどうであれ、復讐したいという子に我慢しろなんて言葉は言えない。
そして何より、何が起きても僕も復讐部の一員だと。師匠に伝えたかった。
「よし、じゃあさっそく行こうか」
師匠が立ち上がり、材木くんの手を引いて部室を出る。僕もついていこうとしたが、
「宗吾は別動隊。そっちは任せたよ」
師匠にそう言われ、扉が閉じてしまった。足手まといだと置いていかれたのかと思ったが、たぶん違う。
そっちは任せたよ。師匠に初めて仕事をお願いされた。そっちとは間違いなく紅梅さんのことだろう。
貝殻坂さんの時、僕はただ師匠についていくことしかできなかった。いや、解決の決め手となった徹夜の張り込みを教えられてすらいなかった。
だからこれが、僕の初仕事。告げ口をしようとする紅梅さんに復讐する。
「……磯子くん。お手洗いに行きたいのですが……」
「……いや。その前に少し、話をしよう」
師匠に頼まれた以上。この仕事を失敗するわけにはいかない。
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