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第1章 第1話 一飯之恩

 よく自殺するくらいなら復讐しろと言う人がいる。無責任な、とは思わない。ただ幸せな人生を送ってきたんだなと感心し、自分の弱さに苦しくなるだけだ。



 僕は弱い。いや、弱さに気づかされた。いじめられ、彼女を寝取られた。言葉にすればたった数文字のことだが、僕の15年間の人生を終わらせるには充分すぎた。



 だから僕は死ぬ。直接何かを言ったり、力で復讐する勇気なんてない。だからせめて僕の命で復讐する。僕をいじめた先輩と、僕を裏切った彼女。この2人が一生僕の死を背負って苦しんでくれますようにと希望にも似た絶望を込めて。僕は学校の屋上から飛び降り――。



「ねぇ、なにか食糧持ってない?」



 乗り越えた柵の後ろから、とても苦しそうな声が聞こえてきた。



「腹すきすぎて死にそうなんだよ……。お願い、何でもいいから飯を……」



 振り返ってみると、手が見えた。僕を突き落とさんばかりに伸ばす、綺麗な手が。



「うわぁっ!?」



 思わずその手から逃れてしまう。自分で死のうと思ったのに、殺されると思うと無性に怖かった。



「あぁごめんごめん……。ただ飯がほしいだけなんだよ……。飯さえくれれば死のうが生きようがどっちでもいいからさ……」

「……今から死のうとしている人間がごはんなんて持ってるわけないでしょ」



 横に逃げた僕は思わず言葉を返してしまった。誰かと話してしまったら自殺の意志が揺らぐとわかっていたのに。



「じゃあさ、なんか買ってきてよ。万引きでもいいよ。それから死ねばいい。ね? どう?」

「どう? じゃないでしょ……。他を当たってください」


「なんで?」

「なんでって……今から僕は死ぬんです。他人の面倒なんか見れないよ」


「じゃあ死ななきゃいいよ。私が生かしてあげる」

「はぁ……?」



 伸びた手が戻り、一枚のチラシを掴み再び僕へと伸びてきた。それはチラシと言うにはあまりに簡素すぎる。ただの白い紙に黒い文字があるだけの、何のおもしろみもないもの。



 『浮気・いじめ・ハラスメント等にお困りの方は「復讐部」にご相談を! 必ずざまぁ展開をお約束します。』。それだけ書かれた、いたってシンプルな紙だ。



「ふく……しゅうぶ……?」

「そ。私、復讐部ってのやってんだよ。復讐を手伝ったり、代わりに復讐したりね。これであなたの自殺の原因を取り除いてあげる。その代わり、飯をよこす。それでどう?」



 復讐……。僕を傷つけた相手への、報復……。



「これあげるんで。帰ってください」



 チラシを受け取り、空になった手におにぎりを渡す。先輩に靴で踏まれ、泥にまみれた米の塊を。



 復讐なんて僕にはできない。やり返したらさらに強い力でやり返されるし、周りにあることないこと吹き込んで今より辛い目に遭うことはわかりきっているから。



 だから食べられなくなったおにぎりを渡すことでその誘いを断るつもりだった。そのはずだったのに。



「承った」



 背後から一言そう告げられ、僕の身体が老朽化で脆くなった柵ごと引き戻される。



「こんな美味い飯をもらったんだ。恩は返さないとね」



 倒れた僕は、ようやくその人の手以外の部分を確認する。



 長い黒髪。死んだような瞳。口元についた米粒。



「さぁ、復讐を始めようか」



 彼女は泥だらけのおにぎりを口に収めながらそう笑った。

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