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学校一の美男美女と呼ばれているけど……

作者: 千弥 瀧

思い付きで執筆投稿

 私立片泰高等学校には学校二大美人というものが存在した。

 一人は学校一の美男神崎(かんざき)獅郎しろう。高校二年生で文武両道を地で行く天才。彼の歩む先は自然と道が開けるという。高校生とは思えないオーラに自然と首を垂れてしまうほど。彼の微笑みに落とされた女は数知れず、男でさえ惚れこんでしまうほどの美貌を携えたまさに完璧超人。


 神崎グループという巨大な財閥の御曹司でもあり非の打ちどころのないその姿を讃え片泰校の皇帝と呼ばれている。


 そして二大美人の片割れ。姫野ひめの美鈴みれい。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花という言葉を体現する大和撫子。つややかな黒髪、白磁のような肌。透き通った夜空のような瞳。鈴の音を転がしたような声。美しさを煮詰め形どって生まれたといわれても過言ではない。


 内閣総理大臣である姫野源十郎の孫娘である彼女は自然と周囲から女神と呼ばれている。


 そんな二人が一堂に会する片泰高校二年一組。その片隅に座すのがこの俺、山田やまだたけるである。


 他校にまで響く二人の威光とは違い俺は二人の背景。同じクラスに所属するだけの一般人。別に容姿も優れてなければ成績も飛び抜けていいわけでもない。運動もある程度できるくらいで家もごくごく普通の一般家庭。ただ運よく彼らと同じクラスになったってことくらいしか特徴のない男だ。


 クラスのよしみでたまに二人と会話することはあれどそれくらいしか接点はなく、自ら関りに行こうと思えるほど彼らに興味を持っているわけでもなく。


 そう、ただのクラスメイト。学友ってだけ。


 だったはずなのに。


「はぁはぁはぁはぁ。可愛いよぉ……」

「……」


 俺の目の前で息を荒げる女。電信柱に身を隠しながら覗き込むその姿は正直関わり合いになりたくない類のものだ。


 だが俺はそれを放っておくわけにはいかん。


「ゆ、唯ちゃん今日も可愛すぎっ。あぁもうお持ち帰りしたいっ。あの小さなおててを舐めたい!」


 何せその女が興奮している対象。少し先の歩道を友達と歩く女の子、女子小学生は俺の妹であり、


「……何してんの、姫野さん」

「ッッッッ!?!?!?!?!?」


 その俺の妹に興奮していた不審者が俺のクラスメイトの姫野美鈴であるのだから。









「えぇっと、落ち着いた?」

「……えぇ、落ち着いたわ」


 とりあえずあの変態ムーブをかましていたこの女を放置するわけにはいかないため、瞬時に逃げようとした彼女を拘束した俺は落ち着くのを待ってから声をかけた。


 先ほどまで顔を赤くしたり青くしたり歪めたり泣きそうになったりと百面相していた彼女は時間を置けばいつも通り、女神と呼ばれる様相を取り戻していた。


「さてと。とりあえず一つ聞いておきたいことがあるんだけど」

「っ」

「姫野さんって幼児性愛者?」

「ちちちちっ、違うわよ? なな、あにを言っているのかしら山崎君」

「俺山田」


 言葉を噛み噛みな上にほかの学年の生徒の名前まで憶えている彼女が名前を間違えるほどに動揺している様子から、ていうかさっきの光景から間違いなく彼女はロリコンだ。それも真正の。

 思わず通報しようかと携帯電話に手が伸びてしまうほどに。


「さすがに無理があると思わない? めっちゃはぁはぁしてたし。妹の名前口にしてたし。てかばっちりおてて舐めたいって聞こえてたからね?」

「そ、それは山下君の空耳よ」

「だから山田だって。往生際悪いな」


 今更彼女に取り繕うことはできない。そんなこと姫野さんもわかっているのだろう。澄まし顔で冷や汗だらだら流している。

 目はあちこっちに泳いでいるし、普段の泰然とした姿からはこんな姫野さん想像つかないな。


「………………」

「うぅ…………」

「………………」

「……くぅ」

「………………」

「え、えぇそうよ! 私は小学三年生の唯ちゃんに興奮するようなド変態よ! ロリコンよ! ペドフェリアよ!」


 ジトっとした目で見つめ続ければ姫野さんはようやく観念したのか白状する。


「あの小さな女の子に欲情しているのよ! ちっちゃなお口を嘗め回したいわ! ふくらみのない体を撫でまわしたいわ! というかあんなかわいい子に欲情しないなんて無理よ! だってあの子は天使よ!? 超常の生き物なのよ!? 魅了されないなんてありえない! 可愛すぎる唯ちゃんがいけないのよ!」


 むしろ開き直ったぞこの女。如何に妹が、唯が素晴らしいのかを語り始めた。

 ちょっと、いやとてつもなく気持ち悪い。


「そう! 彼女を愛でるのは人類の義務! いや、他の人に唯ちゃんを触れさせたくないわっ。これは神が私に課した使命よ! 私は唯ちゃんを愛でる必要があるの! そうよ、そうだわ。今行くは唯ちゃんぐっ!?」

「いや、行かせねぇよ? 俺の大事な妹に手を出させるわけないだろ!?」

「っ、そうよ。さっきも言ってたわね! 唯ちゃんが、貴方の妹ですって!?」


 開き直るのを通り越して暴走し始めた姫野さん、いやもう姫野でいいや。姫野が帰宅しているであろう唯のもとへ走り出そうとするから首根っこをつかんで引き留める。


「あ、貴方唯ちゃんの兄って本当なの?」

「本当だ。唯は俺の妹。あいつが生まれたころから知っている家族だ」

「な。そんなっ」


 そう、あいつは大事な家族だ。こんな見た目だけの変態に触れさせられるか。


「ずるいわ!」

「は?」

「唯ちゃんの兄妹なんて……。そんなの合法的に唯ちゃん触り放題じゃない!」


 何言ってんだこいつ。


「兄妹なら一緒にお風呂に入ったり一緒に寝たりできる…………。この変態め! 唯ちゃんにあんなことやこんなことをしているんでしょう! 同人誌みたいに! 羨ましい! 唯ちゃんを開放しなさい! 貴方のような変態に唯ちゃんは任せられないわ! 今後唯ちゃんの面倒は私が見ますっ」


 いやマジで何言ってんだこいつ。


「そうとなったらこうしてはいられないわ! 今すぐ唯ちゃんをお迎えに上がらないとっ」


 そしてもまた走り出そうとする姫野。

 流石にキレた。俺が、可愛い妹に何してるって? 俺が、愛する妹に手を出しているって? 俺の、大事な家族をどうするって?


「ふざけんなっ!!」

「きゃうっ」


 姫野の手をつかみ引き寄せ地面に投げつける。柔道でいう背負い投げもどきで。


 地面に倒れた姫野の胸倉をつかみ上げ至近距離から睨みつける。


「てめぇみたいな変態に妹は触れさせん!! もし唯に何かしてみろ! てめぇが総理の孫だろうが何だろうが関係ねぇ。地獄を見せてやる!」


 あっけらかんと開かれた姫野の口。唖然とする姫野を捨て置いて俺は帰路に就く。


 二大美人の片割れだろうが総理の孫だろうが美の女神だろうが知ったことか。

 唯に手を出すなら絶対に許さない。









 姫野にガチギレしてから一週間。あれから一切接触はない。唯は毎日送り迎えしているが姫野の姿を見かけないし、学校でも今までと変わりなく姫野は日常を過ごしている。総理の孫であることや、この学園のカーストトップの権力を使って何か仕掛けてくるんじゃないかと身構えていた身としては肩透かしを食らった気分だ。


 しかし警戒は緩められない。何せあのレベルの変態だ。何考えているかわかったもんじゃない。


 と、そうこうしているうちに昼休みだ。

 一週間常に警戒しているせいで疲れがたまっている。はぁと溜息を吐きつつ栄養を補給しようと母さんが作ってくれた弁当を取り出していると。


「山田くん、ちょっといいかな?」

「え?」


 なんと二大美人の片割れ、姫野と双璧を成す神崎が声をかけてきた。もちろん今まで軽く会話をしたことはあるが、それも事務連絡のようなものばかり。

 何かあったかと脳裏を巡らせるも声をかけられる要因は思い浮かばない。


「えーっと、どうかした?」

「山田君と少し話したいことがあってさ。よかったらこれから一緒にお昼ご飯でもどうかなって」

「あぁ、別にいいけど」

「そっか。ここじゃなんだし別の場所で食べない?」

「おーけー」


 いったい何の要件だろうか。いくら考えても分からん。とりあえず後をついていく。野次馬が付いてきそうになったが神崎の微笑みに撃沈。あっさりと撒いてたどり着いたのは旧校舎の一室。普段生徒が寄り付かない、今は物置として使われている場所だ。



 そこで俺は眉を顰めることになる。

 何せそこにいたのは姫野美鈴だ。


「神崎、これはそういうことであってるかな?」


 そういうこと。つまり話っていうのは姫野ことで、おそらく神崎は姫野の仲間。つまり二対一の状況に持ち込まれた。はめられたのだ。


「ま、待って山田君!」


 ジリっと後退しつつ身構えていれば姫野が慌てたように声を上げる。


「あ?」


 ただ俺の中で姫野の好感度は最低。敵意丸出しに睨みつければ、怯んで……、怯んでるのか? 後ずさりはしているけど怖がっているような雰囲気がない。てか逆に嬉しそう。


「あ、あのね? 今日あなたを呼び出したのは罠に嵌めたとかそういうことではなくて、あの日のことを謝りたかったの」

「謝るだ?」


 俺はちらりと横にたたずむ神崎を見る。いつもの甘いマスクに笑みを張り付けたまま。

 俺の視線に気づいてにこっと笑みを向けてくる。


「あぁ、姫野さんの変態性については僕も知っているよ。彼女が極度のロリコンだってね」


 ふむ、つまりあの日のことを知っているってことだな。


「君が彼女の性癖を知った日にね、彼女から相談を受けたんだ。どうしたら君に謝れるだろうかって」

「……」

「あ、あのね? あの時、貴方に投げられて、怒鳴られて気づいたわ。私が勢いに任せて行おうとしていたことことが何なのかを。思い込みであなたをロリコン扱いして、貴方の妹さんを連れ去ろうとして、ただの誘拐よね。幼児性愛の性犯罪者よね」


 俯いて懺悔する姫野。

 まさにその通りだ。あの時は未遂だったため通報したって無駄だから通報しなかったが、もし行動に移してたら即通報してお縄についてもらってた。


「ごめんなさい。あなたを侮辱したこと、性欲に任せて貴方の妹さんを危険な目に合わせようとしたこと。謝って済む問題ではないことは分かっています。それでもごめんなさい」


 腰から九十度に曲げ頭を下げる姫野。


「この一週間ずっと君に謝ろうとしてたんだ。ただ勇気が出なかったみたいで……」


 隣で神崎が困ったように眉を曲げながら姫野を弁護している。

 そんな二人を見ながら俺は息を吐く。


「許すわけないだろ変態が」


 そしてこぼれた言葉は凍てついていた。


「てめぇがどれだけ頭を下げようが、贖罪の言葉を吐こうがてめぇが俺の妹を襲おうとしたことに変わりねぇ。まだ八歳の女子を性欲の対象に見るような奴が頭を下げたところでどれだけの価値があるってんだ? まだ八歳の子供が、性欲の対象に見られること、性欲のはけ口として襲われたとして、どんだけ心に傷を負うことか」


 姫野は頭を下げたまま。その頭頂部に蔑みをの視線を向けながら俺はさらに毒を吐く。


「なぁ幼児性愛者、性犯罪者予備軍。性癖ってのはそうそう簡単に変えられるもんじゃねぇ。つまりてめぇが存在している限り唯に平穏は訪れねぇってことだ」


 性癖というのはその人間の本心を表しているといえる。何せ性欲、生殖行為、種の存続にかかわるような趣向だ。言ってしまえばその人間の本当の姿。

 どれだけ謝ろうと、こいつにとって唯が性欲の対象であることに変わりない。


「詫びるなら死ね。この世から消えてしまえ。そうすれば唯を脅かす脅威が一つ減る。てめぇのような性犯罪者。存在するだけで害悪となるてめぇが唯一世界に貢献できることだ」


 頭を下げたまま、姫野は震えている。これだけ強烈な言葉を投げつけられているのだ。おそらく泣いているのだろう。だが知ったことか。屑がどれだけ泣こうが価値はない。


「お分かりか世界のごみ、屑、ちり芥よりも劣る愚物が」


 下げられたままの頭。姫野の髪をぐっとつかみ無理やり上げさせる。

 泣いているのだろう。あの整った顔がどんなふうに泣いているのかは想像つかないが、想像したくもない。


「死ね。詫びるなら死んで詫びろ。お前にできるのはそれだ、け……だ?」


 そう。どんなふうに泣いているかわからなかったが、泣いているのだろうとは思っていた。しかしその予想を大きく上回る表情に俺の言葉途切れてしまう。


「ふへ、ふへへ……うへへへぇ」


 恍惚としていた。頬は上気し口は半開きでよだれが垂れて。泣いているなんてとんでもない。こいつ滅茶苦茶気持ちよさそうに喜んでいた。


「え、きも」


 素で罵倒してしまうほどに。今のこいつは気持ち悪い。


「はぁ」

「か、神崎? これどいうことだ?」


 先ほどまで隣にいたことを忘れていた神崎に思わず尋ねる。


「彼女、あの日君に投げられて怒鳴られて目覚めちゃったみたいなんだ」

「め、目覚める?」

「新しい扉を開くともいう。つまり、新たな性癖、自分がマゾヒストだったことに気づいたんだって」


 神崎曰。彼女は昔から蝶よ花よと大事に育てられてきたという。さらに完璧ともいえる(性癖を除いて)人格から、恵まれた環境に大抵は向けられるであろう嫉妬や僻みなどもなく、悪意に晒されることがなかったらしい。

 そして先日、自らの幼児性愛が俺にばれ、真っ向からの暴力と暴言を受け、ときめいたのだと。そして自分が幼児性愛者であり被虐性愛者でもあることに気づいたのだとか。


「ロリコンの上にドMとか……」


 うわぁ……、と蔑みを向けても彼女にとってはご褒美でしかないらしい。


「あぁ、山田君、いえ! ご主人様! もっとこの愚物めを罵ってください! 踏みつけてください!」


「ち、近寄るな気持ち悪い!!」


 すり寄って腰にしがみついてくる変態を強引に引きはがす。かなり無理やりやったことで姫野は地面に倒れるが気持ち悪い笑みを浮かべて喜んでいる。


「あぁんっ、いいっ、痛みが気持ちいい!!」

「か、神崎!! 助けてくれ!!」

「ごめんね山田君。彼女の昔馴染みとして助言するけど、彼女の性癖は根強いんだよ」

「つまり……?」

「何を言っても無駄。諦めて餌食になるか逃げるしかないよ」

「くそっ!」


 神崎の助言ともいえない助言を受けた瞬間には俺は即座に逃げ出していた。それを追いかけてくる姫野。無駄に足速いなこいつ!!


「まって! まってくださいご主人様!」

「待つか変態が!」

「あぁんっ、もっと罵ってぇ!!」

「くそ! なにが二大美人だ! 片割れがこんな変態だとは思わなかったわ!」

「あら、それなら神崎君も私並みの変態ですよ?」

「ひぃっ」


 いつの間にか俺と並走する姫野。


「彼、四十歳以上じゃなければ女性として見れない熟女好きですもの」

「はぁ?」

「現に今彼が懸想している方は四十五歳。ちなみにこれがその相手です」

「ッッッ!?!? 俺のかあさんじゃねぇか!!」

「あら、そうだったのですか」


 嘘だろ!? 二大美人の一人、皇帝と呼ばれる神崎獅郎が俺の母親に恋してるとか……っ。


「熟女好きの変態に。ロリコンマゾヒストの変態…………」


 しかもその性欲の対象が俺の母親に俺の妹、そして俺とか。


「もっと罵って! もっと叩いて! ご主人様ぁ!」

「あ、山田君。よければ母君に僕のことを紹介してくれないかな?」

「か、勘弁してくれぇぇえ!!!」

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[一言] 尊君。頑張って肩ポン\(´・ω・`) ロリコンでドMって救いようがないよね。
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