表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

母なる思い

作者: 雪 里 枝

 私には婚約者がいた。


 結婚の準備をしているときに、私のお腹に赤ちゃんがいることが判明した。


 しかし‥‥‥ とある雨の日、一人出掛けた彼の傘に‥‥落雷した‥‥‥ 即死だった‥‥


 彼は結婚を待たずに天に旅立った‥‥‥



 彼にも私にも、身寄りがなかった。だから私に残された縁は、お腹にいる、彼の忘れ形見だけだった。



 ‥‥‥産もう‥‥‥



 そう‥‥覚悟を決めた。そしてこの子の為に、一生懸命頑張ろう‥‥‥



 この子が生まれてから、それはもう身を粉にして働いた。


 ‥‥‥でも‥‥‥その無理が祟ったのかもしれない‥‥‥


 ある日、突然頭が割れる様に痛みだして倒れた。


 駆け寄り、涙を流して私を揺する我が子の顔を見上げながら‥‥

 あぁ‥‥この子を一人にしたくない‥‥‥ずっと見守っていたい‥‥‥ そんな思いをいだいた‥‥‥私は意識を手離した‥‥‥




 ‥‥‥再び意識を取り戻したとき、私は幽霊になっていた。



 もう一度我が子と言葉を交わしたい‥‥‥ この子に私のことが見えて欲しい‥‥‥ そう、強く願ったそのとき‥‥‥ 目の前にいた我が子の瞳に涙が浮かび‥‥‥泣きじゃくりながら、私のことを何度も呼んだ‥‥‥


 後に、この子にだけは姿を見せることができることを知った。




 この子に身寄りはある訳がない、そもそも親に無いのだから。だからこの子は施設に入ることになった。




 そこで待っていたのは‥‥‥イジメだった。



「お前なんて死んでも、誰も悲しむ奴なんかいないんだよ~~ 喜ぶ奴しかいないんだぞ~~~」


「違うもん!! お母さんが‥‥お母さんが絶対悲しんでくれるもん!!!」


「バ~カお前の母ちゃん、もう死んでるだろ~~。 知らないのか~~ 死んだ人間はな~~、悲しんだりしないんだぞ~~~」


「また言ってるよ~~」


「変な奴~~」


「気持ち悪いからあっち行って~~~」



 ‥‥‥手をぎゅうっと握りしめ‥涙をこらえながら震える我が子の姿に‥‥‥ 私の怒りは頂点に達し‥‥‥それと同時に幽霊である身の無力感ともどかしさが押し寄せた‥‥‥




 私はこの子の為に何が‥‥‥



 考え‥‥そして‥‥‥‥



 祟ることにした。




 初めはお灸を据える程度の、三~四日寝込み、うなされる程度にとどめたが‥‥ それでイジメをめるのはほんの一握りだけ‥‥‥


 なので、よりしっかり深く祟った。



 心を入れかえればそれでよし。 さもなくば祟り続け‥‥‥ 心を壊したり、後遺症や障害が残ったり‥‥などして、施設から姿を消して行った。



 その行く先は知らない。


 知る気も無い。




 施設の職員にもおかしな者がいた。


「アンタ達は社会の邪魔にしかなってないんだから、せいぜいアタシの手を煩わせるんじゃないよ!このグズ達が!!」


 勿論きっちり祟ることにした。



 あの子から遠ざけることは、意外と簡単だった。


 一週間ほど働けない程度に弱らせる祟りを、こまめに掛けるだけだった。



 しばらくすれば、施設に顔を見せなくなった。


 離職したかクビになったのだろう。




 可愛いあの子には、里親の希望者が何度も来た。


 ‥‥‥でも、その素行を盗み見ると‥‥‥



 外面そとづらだけは良い凶状持ち‥‥‥


 子どもをアクセサリーぐらいにしか考えていない者‥‥‥


 そもそも危ない嗜好の持ち主‥‥‥



 勿論もれなく祟った。




 ‥‥‥ある日、一組の夫婦がまた、里親に志願してきた。


 ごく平凡な印象だった。


 その普段の生活を覗いても‥‥‥ 穏やかで‥静かな幸せの香りを感じた‥‥‥



 そして‥‥‥幽霊の我が身が‥‥ とたんに頼り無く、不甲斐なく感じる思いが押し寄せた‥‥‥


 ‥‥‥思ったからだ‥‥この夫婦なら‥‥と‥‥‥




「‥‥いい‥‥? あの人達を‥‥‥お父さんと‥新しいお母さんだと思って‥‥」

「違うもん‥‥お母さんはお母さんだけだもん!!!!」



 ‥‥‥その気持ちは、とても嬉しかった‥‥‥ でも、この子の将来を考えると‥‥‥ 私なんかに捕らわれているよりは‥‥‥ ちゃんと母親らしいことができるあの人の方が‥‥‥



 ‥‥‥その日以来‥‥この子は私に強く甘え、私が姿を見せなくなると、不安に捕らわれ泣きだす様になった‥‥‥



 ‥‥‥私のせいで、人生を棒に振って欲しくない‥‥‥



 ‥‥‥だから




「───ねぇ、お母さんとかくれんぼしましょ? 最初の鬼はあなたね。 じゃあ目をつぶって、十数えてね。」


「うんわかった! い~~ちっ、に~~い‥‥‥」



 ‥‥‥そして私は‥‥‥この子の目から、姿を消す決心をした‥‥‥




 あの子は私を探し続けた‥‥‥何日も‥‥‥


 瞳に涙を湛え‥‥‥手のひらを傷だらけにして‥‥‥



 ‥‥胸が‥‥‥締め付けられた‥‥‥


 でも私は‥‥涙をのんで思いを押し殺した‥‥‥




 ‥‥‥大丈夫‥‥あなたが本当に困った時は、またあなたの前に現れて‥‥絶対に力になってあげるからね‥‥‥


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 生きて側に居てやれれば、我が子に孤児としての悲しみや孤独を強いる事もなかったのに… そんな悲しい母心がヒシヒシと伝わって来ますね。 このままでは我が子のためにならないからと、自ら身を引く潔…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ