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スキル『呪いの武装【盾】』のせいでタンク職しかできない俺、お荷物扱いを受けSランクパーティを追放される。 ~ダメージにならないなら盾を尖らせればいいだろ!……あれ?これって盾というより剣じゃね~

作者: 山々連次郎

「お前が足を引っ張ってんだよ! クビだ、クビ! この能無しが!」


 これは今まで一緒に冒険してきた幼馴染が、俺に言い放った最後の言葉である。


 俺――シルドは冒険者ギルドに併設された酒場で独り、やけ酒を煽っていた。


「リューズの野郎。誰のおかげで、これまでやってこれたと思ってんだ」


 俺たちSランクパーティ”天まで届く剣カリバーン”は難関ダンジョンのS層攻略に失敗した。それも一度や二度ではなく、何度挑戦しても階層ボスを狩ることができなかった。


 原因はわかっている。全員の実力不足だ。


 しかし、それを認めたくなかったリューズは敗北の理由を、盾しか使えないお前のせいだ、と主張し俺にパーティ解消を言い渡した。


 あいつは頭に血がのぼるとすぐに責任を誰かに押し付ける。いつもそうだ。


 そもそも四人で攻略できなかったのに、どうして俺抜きで攻略できると思うのか。俺にはその思考回路が理解できない。


「だいたい、俺にどうしろってんだよ。タンクとしての役割はちゃんと果たしてただろうが」


 仲間の防御、囮、攻撃補助、アイテム管理、索敵、罠の解除。数えだしたらキリがない。それでもあいつは俺を切り捨てたんだ。


 俺たちは同じ村の出身でパーティを組んでいた。数々のダンジョンを攻略し、その実績が評価され、つい先日Sランクの称号を得たというのに、こんなことで解散してしまうなんて。友情なんかクソくらえだ。


 酒が回ってきたのか、体が熱くなってきたな。散歩でもしながら風もあたって、頭を冷やすべきか。


 俺はふらつく足でゆっくり歩きながら建物の外に出た。


 街の喧騒が遠くに聞こえる。昼間から飲みすぎたか、いや明らかに飲みすぎだなこれは。


 俺の思考回路もどうかしてたみたいだ。考えてみれば俺に否がまったくない訳でもない。といっても全責任が俺にあるわけでもないが。


 タンク職は攻撃にほぼ参加できない。だから一般的に盾使いは嫌われる傾向があるし、盾を使うにしても短剣の一本や二本、取り回しのいい武器を装備する。


 だが、俺にはそれができない理由があった。攻撃の役に立たなくたって仕方ないじゃないか。


 俺が冒険者になるにあたって、神から授かった天賦スキル”呪いの武装【盾】”。


 その影響で俺の体は他の武器はおろか、ナイフの類まで握れなくなってしまった。


 神から呪いを与えられるなんて残酷すぎるだろ。前世の俺はいったい何やってんだ。


 この世界は理不尽だとつくづく思う。俺には”呪い”、リューズには”聖剣適正”。……俺だって剣を振り回してチヤホヤされたかったよ。


 やり場のない怒りは限界点を軽々と超え、やがて自己嫌悪に変わる。


 未だ酒の抜けない思考回路は、目の前に現れた武器屋の看板へと無意識のうちに焦点を合わせていた。


 俺に攻撃力さえあれば、こうはならなかった。俺たちは今も仲良くダンジョンを攻略し、誰も到達していない場所までたどり着くはずだった。


 そうだ、もっと攻撃的な武器があれば……。


 こみ上げる思いを制御できず、俺は思わず店の中に入った。


「いらっしゃいませー……。って、なんだタンカーじゃねぇか。そんな顔してどした?」


 タンカー。それはこの店の店主が俺を呼ぶときの名だ。俺が町にきたとき、タンク職が誰もいなかったことから店主のおっさんはそう呼ぶようになった。


 何度も世話になってきて、おっさんの優しさは知っている。だから彼ならば無茶な願いも聞いてくれると思った。


「おっさん、俺でも使える武器を作ってくれ」


 きっと俺はとても、とても深刻な顔をしていたのだろう。話したい気持ちを察したのか、おっさんも表情を険しくして続ける。


「……詳しく話を聞こうか」


 ダンジョン攻略に失敗したこと、パーティを解雇されたこと、俺が盾以外の武器を使えないこと。全てをありのまま話す。


 そして、おっさんはやっぱり優しかった。


「タンカーは何も悪くねぇ。あいつらがお前の重要性に気づかなかっただけだ、気にすんな」


「だけど、攻撃に参加できてないのは事実じゃないか。だから俺は攻撃のための武器を持ちたいんだ」


「といっても、なぁ。スキルの影響でナイフすら持てないんだろ、どうすれば……」


 おっさんはまるで自分の悩みのように考える。しかし、画期的なアイデアは浮かばないまま時間だけが過ぎていった。



 空が赤く染まった頃、ようやく酒も抜け思考が働くようになった俺はある疑問を抱いた。


「そもそも盾の定義ってなんだ」


 おっさんは急にどうした、といった具合で俺の顔を見つめる。


「いや、トゲがついてても盾は盾だよな。だったら盾に刃物がついてても盾なんじゃないかなって」


「確かに……。いや、でも……」


 おっさんは暫く額に指を当て考える様子を見せる。そして何か思いついたように、声を上げた。


「タンカー、明日まで待ってくれ、ちょっと試したいことがある。それでいいか?」


「問題ない。というか愚痴を聞いてくれただけでも感謝してる、ありがとう」


「同情って訳でもないが、俺にはそれしかできないからな。また明日、店に来い。待ってるからな」


 その言葉を背中に、俺は店を後にする。


 そろそろ狩りに出ていた冒険者が戻ってくる頃か。さっさと宿を決めないと泊まれなくなってしまうな。


 幸いにして今日の寝床を確保するだけのお金は持っている。これまでと同じ宿を使ってもいいが、天まで届く剣カリバーンのメンバーと鉢合わせるのはできれば避けたい。


 明日からの稼ぎも決まってないからな。今日はできるだけ安く済まそう。それからしばらくして、俺は町の外れにあった小さな宿屋を宿泊場所に決めた。


 早々に受付を済ませ、二階の客室に向かう。早く横になって楽になりたい。


 そんな思いで部屋の鍵を開けていると、隣の部屋から見慣れぬ帽子をかぶった小柄な少女が出てきた。


 俺は町に来てからそれなりに長いが、この奇妙な身なりの少女を見た記憶がない。最近、町に来た娘なんだろうか。


 彼女は俺の後ろを何も言わずに通過し、そのまま下の階へと降りていった。


 少し気にはなるが、別に俺が関わるようなことでもない。それよりも今は、眠りたい気分だった。


 扉を開き、きれいに整えられたシーツに飛び込むと意識はそのまま深くまで落ちていった。




 次の日、おっさんとの約束どおり店を尋ねるとカウンターの後ろに三つの武器が置いてあった。


「試作品で悪いが、ちょっとこいつを持ってみてくれねぇか」


 そう言われ手渡されたのは楕円形の小盾。縁が薄く作られていて刃のようになっている。特に問題なく装備できた。


「なるほど、それは装備できるんだな。じゃ、次はこれだ」


 次に渡されたのは、明らかに剣の形をしている武器だ。正直、これは持てそうにない。手にした瞬間、予想通り体に衝撃が駆け抜け、武器を落としてしまう。


「くっ」


「痛かったか、すまん。これも実験のうちなんだ。こいつが最後の試作品だ、頼む」


 最後の武器。それは、よく見ると前回とほぼ同じ剣の形をした武器だった。訝しみながら武器を手にする。すると。


「…………え? 何も起きない、だと?」


 驚きで開いた口が閉まらない。カウンターの向こう側でおっさんは高らかに笑った。


「ははは! やっぱりそういうことか。実験は成功だ!」


 どういうことだ、と俺はおっさんに尋ねる。おっさんも嬉しそうにネタを明かし始めた。


「俺はこいつを盾だと思って作ったんだ。盾だと許容できるギリギリの形を探したり、熱した鋼を薄く伸ばして盾の形にしたあと、何度も叩いて折り曲げたりしてな」


 それからも試行錯誤の話は続く。その全ての工程を一晩でやり遂げてしまうのだから、おっさんは町一番の武器職人なんだと改めて思った。


「この武器、言い値で買うよ。一生をかけてでも支払いにくる」


「よせよ、そいつはもうお前の武器だ。金はいらねぇ。俺もいい経験をさせてもらったしな」


 おっさんは無精髭を掻きながら、子供のような笑顔を見せる。やっぱり、この人に頼んで良かった。


「この恩は忘れない。必ず返しにくるから」


「期待せずに待ってるさ。ほら、試し斬りにでも行った行った」


 そうして大きな欠伸をするおっさん。多分、眠らずに作業を続けていたんだろう。俺なんかの為に。


 俺は何度も礼を言って店から出る。それから、おっさんは今日は休みにするかと言いながら看板を中にしまって扉を閉めた。


 言われたとおり武器を試しに行くか。


 俺は初めて手にした長剣の重みを感じながら、町の近くにある森へ出かけた。



 森の中はいつもと変わらない。昼の太陽が木漏れ日となって獣道を映し出し、冒険者を森の奥へ奥へと誘う。


 ここは初級冒険者から上級冒険者まで人気の狩場だ。といっても、上級冒険者は森の最奥にあるダンジョンを目指しているだけで、実際のところ狩りを行っていないが。


 今日の目的は武器の性能試験。ダンジョンの攻略じゃない。モンスターを狩りながら森を進み、ダンジョンの入口で引き返すと決めた。


「もらった!」


 振りかざした長剣は、ウルフの胴体を引き裂く。長剣の切れ味はおおむね良好で、盾の攻撃力とは比べ物にならない。


 モンスターを見つけては長剣を振り、その切れ味に満足しながら森の奥へと進んでいく。


 あと少しでダンジョンの入口に到着する。その時、茂みの向こうで女の悲鳴が聞こえた。


 何かあったみたいだ。俺は茂みをかき分け、声の聞こえた方角へ向かった。


 そして見晴らしのいい開けた場所に抜ける。そこで見つけたのは大きなボスウルフに襲われている少女の姿だった。


 初級冒険者が迷い込んで奥まで来てしまったのか。少女は魔導書を武器に、初級魔法で応戦するがボスウルフに当たる気配はない。


 ボスウルフが少女との距離を詰める。少女が危ない。俺の体は咄嗟に動いていた。


 だが、走り出すには少し遅かった。このままだと俺が少女を助けるより早く、ボスウルフの体当たりが少女に到達してしまう。


 一か八か、俺はまだこの武器でまだ試せていないことを実行した。


「――ソニックガード!」


 盾技”ソニックガード”。守護対象に向けて極短時間の高速移動を行う技スキル。長剣型の盾でも発動できるという確信はなかった。


 しかし、それはボスウルフの重い一撃を剣で受けたことにより、はっきりとした確信に変わった。


 ――いける! 俺は気がついたときには体に染み付いていた、いつものコンボを繰り出した。


「シールドバッシュ!」


 シールドバッシュは本来であれば、盾で相手を殴りつけて一瞬のスキを作る技スキルだ。だが、この武器ならばもっと大きなダメージになるはずだ。


 刃がボスウルフの肉に食い込み、赤い筋となって貫通する。その勢いのまま俺は長剣を振り切った。


 ボスウルフは地面に倒れたまま動かない。どうやら一撃で仕留められたようだ。


 そして、救助した少女のことを思い出す。


「大丈夫かい? 怪我とかは……」


 俺は少女のほうを見て驚いた。


 小綺麗な白の服と対照的に映える黒のミニスカート、足元は膝まで伸びる長い靴下とこれまた綺麗なブーツに覆われている。そして何より覚えているのは、つばの大きな黒い三角帽子。


 間違いない。彼女は昨日の宿で見かけた奇妙な格好をした少女だ。


 彼女は我に返ると、慌てふためいた様子で頭を下げる。


「あ!すみませんっ!すみませんっ! 助けていただきありがとうございます。貴方は命の恩人です! 本当にありがとうございますっ!」


 何度も何度も頭を下げる彼女につられて、俺も何度か頭をさげてしまう。彼女が落ち着くまでしばらくの時間を要したのは言うまでもない。

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