♥ 鈴の音が聴こえる「 夏のホラー2020 」
「 …………兄ちゃん…ボク……行きたくないよ… 」
「 我が儘言うなよ。
仕方無いだろ。
家は貧しいんだ。
別に一生帰れないわけじゃないよ。
1年に1回は帰って来れるんだからな 」
「 …………父ちゃんと母ちゃんと離れたくないよぉ… 」
「 兄ちゃんと一緒なんだぞ。
寂しくないだろ 」
「 うん…… 」
「 ほら、汽車が来た。
乗るぞ 」
「 う、うん… 」
ボクは汽聿。
父ちゃんが汽車好きだから、ボクの名前は汽聿になった。
兄ちゃんが教えてくれたんだ。
ボクは兄ちゃんと一緒に汽車に乗らないといけない。
ボクの家は貧しいらしい。
だから、兄ちゃんと一緒に働きに出る事になった。
父ちゃん,母ちゃんと1年に1回しか会えなくなるなんて嫌だよ……。
家に帰りたいよぉ……。
兄ちゃんの手に引っ張られて、ボクは汽車に乗った。
生まれて初めて乗る汽車。
何か……怖いよぉ……。
ボクは兄ちゃんの袖にしがみついた。
「 汽聿、大丈夫だから。
怖くないって。
ほら、座るぞ。
窓から外を見てろよ。
怖い気持ちなんて、飛んでっちゃうからな! 」
「 う、うん… 」
兄ちゃんはボクを窓際に座らせてくれた。
兄ちゃんはボクの右隣に座ってる。
「 汽聿、終着駅まで乗るからな。
終着駅に着いたら、兄ちゃんを起こすんだぞ 」
「 終着駅? 」
「 そうだよ。
終着駅には世音ちゃんが迎えに来てくれる事になってるんだ 」
「 世音ちゃんが?
世音ちゃんに会えるの?? 」
「 会えるよ。
だから、終着駅に着いたら忘れずに起こしてくれよ 」
「 うん!
ボク、終着駅に着くまで起きてるよ! 」
「 よしよし。
汽聿、頼んだぞ。
兄ちゃんは朝早く起きたから眠いんだ…… 」
ボクの頭を撫でてくれた兄ちゃんは、汽車が発車する前にスヤスヤと寝息を立てて眠っちゃった。
汽車が動き出した。
ボクは汽車の窓から外を見る。
うわぁ〜〜〜〜。
初めて見る景色だぁ〜〜。
兄ちゃんの言った通りだね!
景色を見てたら怖さなんて何処かに飛んで行っちゃったよ!
────リン…リン……リィン……リン…リィーン…………。
うぅん……何の音だろう??
もしかして、もう終着駅に着いたのかなぁ……。
────リィン……リン…リン……リーン…リーン…………チリィン…………。
…………鈴の音…かなぁ??
────チリリリィン……。
「 みゅにぃ… 」
みゅにぃ??
みゅにぃ……って何??
「 誰かぁ!
その子を捕まえてぇ! 」
──えっ?!
捕まえる??
何を捕まえるの??
「 みゅにぃ〜 」
「 ──うぶっ?!
なっ…何?? 」
何か柔らかいモノがボクの顔に当たったみたいで、ボクは目を覚ました。
あぁ〜〜〜……ボク…寝ちゃってたんだぁ……。
「 有り難う、捕まえてくれて〜 」
「 えっ?? 」
「 この子はワタシの友達のみゅにぃって言うの。
籠から逃げちゃって大変だったの。
助かったわ〜 」
「 えぇと……良かったね? 」
「 ボクは汽聿だよ。
君の名前を聞いてもいい? 」
「 ワタシの名前?
ワタシの名前は、━━━━だよ 」
「 え?
何て言ったの? 」
どうしてだろう、名前が聞き取れなかった。
「 ━━━━、何をしているの?
もう直ぐ終着駅に着くのよ 」
「 は〜い。
━━━━さま。
汽聿、有り難うね。
そうだわ。
汽聿にコレをあげるね 」
「 何? 」
女の子はボクの手を掴むと、コロン…と何かを置いた。
「 これは…鈴?? 」
「 ふふふ♪
ワタシとお揃いの鈴よ。
こうして、首に掛けていてね。
これなら無くさないでしょう? 」
「 う、うん…。
そうだね 」
紐の付い鈴はボクの胸の前で、チリン…と揺れた。
何か猫になったみたい(////)
「 御礼よ♪ 」
「 有り難う… 」
女の子はニコリとボクに笑い掛けてくれる。
可愛いなぁ(////)
「 ねぇ、もう直ぐ終着駅に着くって本当? 」
「 うん。
本当よ。
彼岸骨駅に着くのよ 」
「 彼岸骨駅??
そこが終着駅なの? 」
「 そうよ。
ねぇ、汽聿は何処へ逝くの? 」
「 えぇと…ボクも終着駅で降りないといけないんだ。
そうだ!
兄ちゃんを起こさないと! 」
「 兄ちゃん??
1人で乗ってるのに? 」
「 1人じゃないよ。
ボクは兄ちゃんと一緒に世音ちゃんが迎えに来てくれる終着駅で降りるんだよ 」
「 そっか、汽聿は彼方側から来ちゃったのね 」
「 彼方側?? 」
「 鈴の音が聴こえちゃったのね… 」
「 鈴の音?
………………聴こえたのかなぁ?? 」
「 うん。
聴こえちゃったから此方側に来ちゃったのよ 」
「 ええと……。
終着駅に着いたら、兄ちゃんを起こさないといけないんだ。
兄ちゃんを探さないと… 」
「 ━━━━、終着駅に着くわよ。
早くみゅにぃを籠に入れなさい 」
「 は〜い。
汽聿、一緒に彼岸骨駅で降りましょう 」
「 で、でも…兄ちゃんを起こさないと… 」
「 大丈夫よ。
会えるから。
一緒に降りましょう? 」
「 兄ちゃんに会えるの?
じゃあ、降りるよ! 」
終着駅で停車した汽車から、ボクは女の子と女の子のお姉さんみたいな人と一緒に降りた。
世音ちゃんの姿はない。
兄ちゃんの姿もない。
「 兄ちゃん……居ないよ… 」
「 居るでしょう?
ほら──、彼処に…… 」
────チリィン……チリン……リン……リィーン…………。
鈴の音が聴こえる。
彼岸骨駅の外には川があって、河原があって、河原には沢山の子供が丸裸で何かをしている。
「 ねぇ…、あれは何をしてるの?? 」
「 石を積んでるのよ 」
「 石?
どうして石を積んでるの? 」
「 親よりも先に死んじゃったからよ 」
「 え…?? 」
「 ほら、見て。
汽聿のお兄さん。
ちゃんと居るでしょ? 」
「 ──兄ちゃんっ!! 」
ボクは兄ちゃんの所に行きたかったけど、河原には行けないみたいだ。
何度も兄ちゃんを呼んだけど、兄ちゃんにボクの声は届いてないみたい。
「 ねぇ、どうしたら兄ちゃんの所に行けるの? 」
「 行けないよ。
向こうは三途の川と賽の河原だもの。
汽聿はワタシと一緒に来るの 」
女の子はボクの手を握ると、お姉さんみたいな人の後を追う為に走り出す。
ボクはどんどん兄ちゃんから離れていく。
──兄ちゃんっ!!
こんな再会、したくなかったよぉ……っ!!!!