第八話(最終話) お互いのきもち
そしてあの日、人身事故があった日から一ヶ月になった。
3月なので、卒業式などがあり、若干行事がたくさんある。
しかし、最近、琴香も私も、お互いを気にするようになった。
例えば、授業中、ボーッと見たり、視線を感じたり、時々目が合うと、笑い合ったり、そのおかげで、授業に集中できなかったり、
トイレに行くのも教室移動も、休み時間も、ずっと一緒にいたり、
時々他の人と話していると、お互いに嫉妬したり、
勉強でわからないところは教えあったり。
それに関しては琴香の方からの質問がおおいんだが。
私の方が成績良いのかな?
そんなことがあり、数日、とてももどかしい気持ちに襲われていた。
今日もいつものように学校へ行き、教室に入り、1日を過ごす。
帰り、掃除が終わると、一斉に帰りだす。
私も、下駄箱へ行く。
そして、琴香を待つ。
今日はいつもより来るのに時間がかかっている。
何かあったのだろうか。
そう思い、教室に戻ってみる。
すると、何やら琴香と掃除当番の同じ人と、琴香が、少し口論になっていた。
原因は・・・?
「渡川これ捨てろよ、美化係だろ」
「でも、そんなこと言うなら、赤橋くんが捨てればいいじゃない。」
「んなもん、誰でもできるやろ。美化係がやればええやない?」
「ん、でも!」
二人がもめていたのは、掃除が終わって残っていたテイッシュを誰が捨てるかということだった。
そんなくだらないことで・・・
でも、確かに嫌な気持ちはわかるけど、そこは工夫すればよくない?
例えばさ。
そう思い、その中に入り、それのきれいそうなところを細~かく持って、ごみ箱へ捨てた。
そして、何やら気まずかったので、すぐさまそこから立ち去った。
そして、また玄関で、琴香を待った。
それから五分くらいして、琴香が玄関に来た。
「ごめんね、咲ちゃん、さっきは」
「え?ううん、別に大したことしてないよ?」
「でも、少し勇気いるよね?」
「いやいや、そんなことないよ。逆にあんなので気にしてたら身が持たないよ」
「そっか、さすが咲ちゃん!えらいね!」
「え、いや、そんな」
「あのね、咲ちゃん、私ね」
琴香はそう言って、少し顔を赤らめて、口ごもった。
「ん?なあに?」
そうすると、琴香は、何かを言おうとしているような感じだったが、その口は、結局閉じてしまった。
そしてまた、深呼吸をして、
「ううん。なんでもない!」
いつもの琴香に戻った。
そして、また一緒に歩き出した。
なのに、今日はなぜか話すことはなかった。
なんか話題を・・・
「きょ、今日の理科の授業、難しかったねー」
「うん。そうだね・・・」
やはり琴香に元気がない・・・
思いきって尋ねてみる。
「琴香、どうしたの?今日ちょっと元気ないけど?」
「うん・・・ん?いやいや、そんなことないよ。うん」
そして、歩き出す。
「今日、こっちから帰んない?」
そう、琴香が指さしたのは、いつもは通らないような裏道だった。
「でも、私そっちじゃないし・・・」
「ま、まあ、ちょっといいじゃない!」
「うん」
そう言って、琴香に連れていかれた。
そして、再び歩き、学校の生徒が少ないところまで行く。
やっぱり、えっと・・・
そんなとき、あることに気がついた!
そっか!
私、今ここで、琴香にちゃんと気持ちを伝えれば!
最高のシチュエーションじゃん!
そして、お互いに止まった。
そして、同時に言った。
『あのさ!』
言葉が重なって、笑いあう。
でも、二人にそんな余裕は、あまりなかった。
すぐにその笑いは消えていた。
代わりに、恥ずかしそうな表情をお互いに出していた。
それなので、琴香が、
「先に、いいよ」
と言ったので、私も、
「いや、琴香こそ先に・・・」
と言い、
「いや、咲ちゃんこそ」
「いやいや、琴香がここに連れてきたんだから」
「でも、咲ちゃんの言いたいことの方がシンプルだと思うし」
「そんなこと・・・」
と、お互いに謙遜しあった状態が、五分くらい続いた。
そして、琴香が断念して、
「じゃあ、私から言うね。」
「うん」
「あの・・・その・・・えっと・・・」
「ん?」
「あの・・・いきなりこんなこと言って、びっくりするかもしれないけど、今から言うことに、あんまり気にしないでね」
琴香の目は、少し潤んでいた。
「あの、こんなこと言ったら、気持ち悪いかもしれないけど、ほんと、気にしなくていいからね」
私は、そんな琴香に力強くうなずく。
「あの、実は、私・・・えっと・・・好き・・・みたいなんだよね・・・」
「えっと・・・何が?」
私はわかっている。わかっているけど、素直には言葉にできない。
「実は・・・実は・・・咲ちゃんのことが」
そう言った琴香の目からは、涙がこぼれ落ちていた。
私は、驚かなかった。
むしろ、私も、ほぼ同じことを言おうとしていた。
「琴香、ありがとう」
「ぅえ?」
「琴香も、そんな勇気出してくれたんだもん。私も、言うよ」
「う、うん」
「実は、私も、琴香のことが、好き・・・なんだ。」
琴香のおかげで、楽な気持ちで言えた。
「多分、私の方が、好きになったの、早いと思う。」
「え?」
二人の声は、弱々しくなっていった。
「私、琴香のこと、最初、席替えで隣になったときから、好きだった。一目惚れしてた」
「・・・そうなの?」
私の目からも、涙が出てきた。
「ほんとに、ありがとう、咲ちゃん」
「うん。琴香、これからもよろしくね」
「・・・うん!」
「これは、両思いってことになるのかな?」
「まあ、俗に言う、百合?」
「まあ、いいでしょ!」
そう言って、二人は泣きながら笑いあった。
暖かく火照ってきたアスファルトは、涙で覆われていた。
しかし、笑いに包まれたその空間は、二人だけの最高のものになっていた。
「あ、そうだ!この前、私が男子に告白されたとき、咲ちゃん見てたでしょ!?」
「え!?ああ、あれ、ばれてたの、」
「びっくりしたんだからね!」
「ああ、ごめんごめん。でも、あの時言ってた他の好きなひとって誰だったの?」
「・・・咲ちゃんよ!」
「あ、そーだったんだ!いやーあの時、一時期気になって気になってー!」
「ははは!ごめんねー。」
「大丈夫大丈夫!」
そんな感じで、一時間はそこで笑いながら、立ち話をしていたと思う。
帰る頃には、辺りはとても暗くなっていた。
「じゃあ、また明日ね!」
「明日は学校ないよ!」
「ああ、そうか!じゃあ、月曜日またよろしくね」
「はあーい。じゃねー!」
「うん!ばいばーい!」
二人とも、気持ちがとても軽くなり、気軽なコミュニケーションがとれるようになった。
私は、冬の夜空に輝いている、オリオンの赤い星に向かって、走り出していった。
最後まで、お読みいただきまして、ありがとうございました!