2018年9月13日②
A子はボクが小さく呟いたのを耳にすると、
ボクの余りの不甲斐なさに嫌気がさしたのか、若しくは無力な彼氏に失望したのかは分からないけど、A子はそれ以上ボクに彼女の事は聞かずに、最近のA子と彼女の事をボクに一方的に話して来たのだ。
二人でA子の大学で学食を食べた話。
ショッピングモールに買い物に行った話。
今度、映画を観ようと約束していた話。
卒業してからのA子と彼女との事を楽しそうに、まるで昨日の事のように話してきた。
ボクが思わず、「良く覚えているね」と相づちを入れると、A子は「彼女のことが気になって、日記を見直したもん」と分厚い黒い日記を鞄から取り出す。
それは、ボクも良く知っている分厚い皮張りの日記。
ボクの「ちゃんと書いてるんだ」という言葉に、A子は「あんたはもう止めたの?」と返してくる。
ボクは無言で軽く首を振ると、A子は僅かに照れ臭そうに「習慣になっちゃったよね」と同意を求めてきた。
思わず、少しだけ笑いながら頷く。するとA子はゴホンと咳払いを一つして、
「人間は愚かな生き物だ。ただ、人間は学ぶ事が出来る。先人の知恵や自分の経験を活かせば、賢い人生を過ごすことが出来る。君たちの人生が少しでも良いものに成るようこれを贈ろう。きっと人生の復習に役に立つ」
と、中学校の時の担任の先生の言葉を口にする。
国語の先生で、ボクの卒業と同時に定年となった、見た目もお爺ちゃんみたいな先生だ。
その先生が、卒業式の日にボク達のクラス全員に黒い皮張りの日記をプレゼントしてくれた。
他のクラスは貰っておらず、先生が自腹で購入して渡してくれたものだ。
成人するまで使えるようにと、5年間分書ける日記。
初めは面倒臭いと思っていたけど、折角貰ったやつだからと、書きはじめたらいつの間にか習慣となった。
ボク以外にも、というかクラスの大半が最初の半年位は真面目に書いていたらしい。
時間と共に少しずつ書く人が減っていったが、それでも続いている人も少くない。
現に、ボクもA子も中学校を卒業してから三年半経つが、二人とも日記をつけるのをキチンと継続している。
「人生の復習か」
久しぶりに聞いたその言葉を、ボクも何気なく呟いた。
その瞬間、ボクの頭に過ったのが、
ボクは愚かな人間だなということ。
先生に言われた通り、日記を書いてはいるが、A子のように見直したりはしていない。
書くだけ書いて、復習には全く役立ていなかったのだ。
三年半、書くだけで全く役立てようとしていない。
間違いなく、ボクは、先生が言うところの愚かな人間だろう。
……三年半経って、もう遅いもしれない。
手遅れで、とっくに間に合わないかもしれない。
だけど、
だけど、これ以上愚かな人間にならないよう、家に帰ったら一度見直してみよう。とこの時、ボクは密かに心に誓った。