2017年10月12日
2017年10月12日 木曜日 くもり
彼女の部屋のクローゼットの中には何があるんだろ?
怖すぎたから突っ込んで聴けなかったけど……
エロ本? …… 違うな。そんなのを隠してるなんて、とても想像できない。
まあ、触らぬ神に祟りなし。ふざけてでも触るのは止めようと思う。
それにしても、『その人が出る』か。
良くわかんないけど、そういうものなのかな。
だけど、そしたらこの前の彼女のは彼女の何が出てるんだろ?
以上、2017年10月12日の日記より抜粋
◇◆◇◆◇◆
この日、ボク達は彼女の部屋で勉強していた。
彼女の部屋に行くのもこれで二回目だけど、相変わらず綺麗な部屋だった。
机とベット、その他には大きな本棚が二つしかない。
テレビも無ければゲームも漫画もない部屋で、机の上にすら、参考書とノートパソコンしか置かれていない。
だから、ボクたちは勉強するのにも、彼女の家の居間から四つ足のテーブルと座布団を借りて使っていた。
彼女には机でやりなよと声を掛けたのだが、折角だからと二人してテーブルで勉強したのだ。
ただ、ボクはこの日何の勉強したのかなんてさっぱりと覚えていない。
と言うのも、この時のボクは健全な男子高校生だ。彼女の部屋に入ろうものなら色々な妄想が邪魔をして勉強どころではない。
彼女には悟られないように、細心の注意を払って勉強している姿勢を保ちながら、頭の中では、どうにか素敵な事が起こらないかと悶々と考えを巡らせていた。
疲れや寝不足を理由にして、出来ればベットの方に。と考えるのは男子高校生なら皆同じだろう。
そんなピュアな妄想をしながら彼女のベットへと視線を向けると、彼女ベットを我が物のように横たわっている奴と目が合う。
そいつとは、完全に人を馬鹿にしたような半目のタヌキのぬいぐるみ。
ふてぶてしい顔のタヌキが彼女のベットに横たわっていた。
見渡すに、彼女のベットには枕が無いから、きっと彼奴を枕にして寝ているのだろう。
『お前分かってるだろうな? 間違ってもベットに上がってくるなよ』
間抜けそうな半目のタヌキの顔にそう書いてあった。
ボクとタヌキが睨み合っていると、それに気が付いた彼女が不思議そうに尋ねてきた。
「どうしたの? ベットに何かあった?」
「えっ!? なっ何でもないよ。可愛いぬいぐるみだなと思って」
「でしょ! 可愛いよね。小学校の頃に一目惚れして買って貰ったんだけど、A子とか他の文芸部の皆は不細工って言うんだよ」
「……ボクは可愛いと思うよ」
本のこと以外で彼女のテンションが上がったのを珍しく思いながら、ボクは全く心にも無かったことを口にした。
それからボクは10分程、彼女とタヌキの馴れ初めや、可愛いタヌキの魅力を耳にする羽目になった。
「ちょっと話しちゃったね。丁度いいから少し休憩しよっか。何か飲み物持ってくるね」
タヌキの素晴らしさを熱心に語ったから喉が乾いたのだろう。
ボクも後少し聞いていたら泣き言を言っていたに違いない。
お互いに休みたいという意見で一致したので、彼女はリビングへと部屋を後にする。
彼女が部屋を出てから、ボクは胡座をかいている姿勢からごろんと、仰向けに倒れる。
ベットの方を見ると、また奴と目が合う気がして、ベットとは反対側を向く。
塵一つ落ちていない綺麗な床。ボクから壁までの間に何一つない。
女性の部屋ってこんな感じなのかな? 男の部屋とは全く違うな。とボケッと考えていると、ふとクローゼットが目についた。
男の部屋だと、服や鞄、ゲームに漫画、後はエロ関係が相場だと思うけど、この部屋だと何が入ってるんだろう?
着替えとかはあるだろうけど、ゲームや漫画が入っているとはとても思えない。
何気なく予想していると彼女が戻ってくる。
テーブルの上に紅茶を置いても、起き上がらないボクに彼女は不思議そうな視線を向ける。
「何が入ってるの?」
ボクは寝転んだまま右手でクローゼットの方向を指差す。
「……何も特別なものは無いかな。着替えとかだけで」
タヌキの事を語っていた時と、彼女の声が若干違った。
「本当?」
「ほ本当だよ。何でそんなこと聞くの?」
「ん。何となく。男の部屋とは違って綺麗な部屋だな~と思ってたんだけど、クローゼットの中も男の部屋とは違うのかな~って……中見て良「紅茶覚めちゃうよ!!」
彼女の声色が明らかに変わり、ボクは思わず飛び起きる。
「洋服とかしか入ったないから」
彼女は笑っていたけど、ボクの本能が絶対にこれ以上深堀するなと警鐘を鳴らす。
ボクはその警告に素直に従い、真面目な彼氏を努めて演じた。
その甲斐があって、次第にいつもの彼女の表情と声色へと戻っていった。
「そう言えば、あれ以来何も書いてないの?」
彼女は紅茶を口にしながら、ボクのキズ口に塩を塗るような疑問を投げ掛けてくる。
「書いてないよ。あの時だって散々にからかわれたし……」
「そう? 私は思ったよりちゃんと書けてたと思ったけど。小説書くのも経験だからね。テクニックとかも一杯あるし。でも楽しかったでしょ?」
「う~ん。楽しかった……のかな? 良く分からないよ。自分の書いた文書を他の人に読まれる恥ずかしさの方が大きいかな」
「自分の書いた物に他人からのリアクションがあることって、とても素敵なことだと思うよ。一人で好きなこと書くのも楽しいけど、やっぱり人に読んでもらって感想をもらう方が楽しいと思うな」
「……A子とかに散々馬鹿にされたけど」
「A子は口が悪いから……そっそれでも批判をしてくれるってことは、しっかりと読んでくれたって事でしょ。次はそんなこと言わせない! って張り合いがでるでしょ?」
「……凄いね。ボクならそこまでポジティプに考えられなさそう。小説書く人ってそう言うものなのかな? なろうで小説読んでても感想って書いたことないな」
「書き手だったら、リアクションがあったら、それだけでモチベーションになると思うよ。感想が良いものでも悪いものでも、作品を通じて読み手と対話出来てるっていうか」
「対話?」
「そう。読み手が書き手に感想を伝えて、書き手がそれを参考にして更に作品を良くしようと努力する……まあ参考にすると言ってもそれを作品に反映しるかは書き手次第だけど。どちらにしても読み手が感想を伝える事は、その作品を良くする切っ掛けになる可能性があると思うな」
「へ~。考えたことも無かった」
「ネット小説だと難しいかも知れないけど、読み手が書き手の人となりを知ってれば、書き手がどんなつもりでその作品を書いたかとも分かるときがあるわよ」
「えっ!? そんなことも分かるの?」
「たま~にだけどね。なんたって作品って作者の事を映す鑑だから」
彼女は満面の笑みでそうボクに教えてくれた。




