表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色の御用聞き  作者: 秋
6/45

2話 装備(レベリング)の準備

アグリア様のお屋敷から帰宅した数日後、アグリア様から今世トップレベルの技術を持つレアアーティファクト職人、ヴァーナント技師への紹介状が届いた。

領主様からヴァーナント技師と面会することを許された免状(特級の技術を持った技師は誘拐、殺害、洗脳を避ける為、基本的には外部の人間が面会できない)も添えて、先方にも私を紹介する、という内容で書面を送って貰っているとのことだった。


「普通の家庭用アーティファクト技師はわしも会った事はあるが、レアアーティファクト技師、しかも世界トップレベルの技師となると会ったことがないから、楽しみじゃの。

 ヴァーナント技師はレナルトを介してアグリア商会へ既にいくつもの特級のレアアーティファクトを納めておるし、16歳と言えども、かなり優秀なのであろうな。

 噂では『来訪者』らしいが・・・。」

「先日、アグリア様のお屋敷で拝見したレアアーティファクトは実に美しい物でした。

 私のお願いごとを聞いてもらえるかが問題ですが、お会いできるのがとても楽しみです。」

「お前と天才技術者がタッグを組んだら大変なことになりそうじゃな・・・。

 当日はレアナが忙しいので、わしと二人で行くことになると思うぞ。」

「分かりました、宜しくお願いします。」


自宅から乗合の荷馬車に揺られて3時間程度、都市城壁の工房の集まっている区画内の狭い敷地にヴァーナント技師のいるアーティファクト工房、サキカワ工房があった。

敷地内には工房の他におそらく職人の住宅と思われる建物がいくつか見当たったが、それだけ。

本来、工房の区画は職人達が住宅街から通っており、泊まり込みするような職人は急ぎの仕事をしているか、宿直のような形で工房に交代で泊まる類の人のみで、住宅まで構えているところは無いらしい。

そして、敷地の外は職人達の通うタイプの工房しか無いので、夜はほぼ人通りもなく、娯楽施設のようなものは何もない。

こちらの世界は、繁華街も数多く存在し、飲食店も居酒屋も多く、飲食に苦労することはない。

そして、男性用・女性用の娼館も公営、私営に関わらず法整備されて運営されており、繁華街の裏辺りに標識付きで案内までされているレベルだ。

但し、飲食店から娼館まで、全ての業種において違法な客寄せや違法雇用、違法運営を行うと関係者全員死刑であり、責任者や従業員は全て申告する必要があり、役所に徹底的に管理されている。

(嘘発見機のようなレアアーティファクトが量産されており、警察的な役割を担う衛兵が組織として一定数所持していて、冤罪や強引な取り調べが発生しないよう、公の場で聴取調査が行われる)

工房のある周辺の区画は言ってみれば工場地帯のような区画になっており、認可されている繁華街からはかなり離れていて、サキカワ工房の敷地内には生活している職人さん達の生活感を余り感じなかった。

工房本体の外見はおそらく鉄筋コンクリートに近い堅牢頑強な建物であり、要塞というよりはシェルターのような建物であった。

世界に冠たるサキカワ工房、という名声から想像していた華々しさはどこにも感じられない。

率直に言えば、小学校の校舎のような建物だった。

まぁ、アグリア商会の建物が巨大過ぎるし近代的すぎるのだから、比較するのも可哀想ではあるが、頑丈さは要塞級のようにも見受けられる。

到着するとすぐに中まで案内され、応接間まで通された。


「私が本工房の所長をしているサキカワです、宜しくお願いします、ペペントリア殿。

 私は管理職と経営者の側面の強い職務を負っておりますので、技術的なことはこちらの彼にお尋ねください。」

「サキカワさんの下で働かせて貰っている、アーティファクト技師、ナイン・ヴァーナントです。

 ご存知かとは思いますが、数年前からレナルト殿とは仲良くさせていただいています。

 宜しくお願い致します。」

「今日は無理を言って申し訳ない、サキカワ殿、ヴァーナント殿。

 わしがスヴェル・ペペントリア、レナルトの父です。

 そしてこの子が本日、ヴァーナント技師と会いたがっていた、

 フミフェナ・ペペントリアです。」

「初めまして、フミフェナ・ペペントリアと申します。

 以前から、是非ヴァーナント技師とはお会いしたいと思っていました。」

「君が、僕に・・・?」

「ははは、とても賢い3歳の娘さんとは聞いておりましたが、これは面白いですな・・・。

 3歳で、『以前から』とは・・・。」

「年齢は致し方ありません、自分の力ではどうにもなりませんから・・・。

 どうしても、やりたいことがあるのです。

 EXP粒子結晶の専門家である工房の方々に、それが可能なことなのかをお伺いしたかったのです。

 挨拶もそこそこで申し訳ないのですが、お話をさせていただいてよいでしょうか。」

「一体どんなことかな?

 お仕事の要望でしたら、予算も相談しないといけないからね。」


サキカワさんは、40代の女性だ。

元日本人・・・かその子孫かな、名前的に。

3歳の娘の言う、やりたいことを聞くために自分達が呼ばれたのか、と呆れと、小さい子の言うことも聞いてあげるか、という優しさを、半分ずつないまぜにしたような顔だった。

聞いてもらえるのなら、聞いてもらいたいので、無碍に断られるよりはマシだったけど。


「ヴァーナント技師は『来訪者』と聞きましたが、サキカワ所長も『来訪者』なのでしょうか?」

「いや、私本人は違う。

 ご先祖様がニホンという世界からこちらに来訪した、というのは聞いたことがあるけど、それが何代前かも分からないほどには前の話だそうだから、ここ数代の話じゃないんじゃないかな?

 名前しか残っていない程度の血は、まぁ、来訪者と言えないこともないけど。」

「僕は確かに、『来訪者』です。何か、『来訪者』であることが関係する話ですか?」

「えぇ、そうなのです。

 お爺様、サキカワ所長、少し2人でお話させていただけませんか。」

「あぁ、構わないが・・・。

 では私は所長室に戻るので、スヴェル殿はそちらにお越しいただけますか?

 用があれば、ナイン、君が呼びに来るといい。」

「分かりました。」


がんばれよ、という祖父のウインクを受けて私もウインクを返し、二人が退席したのを確認してから、ヴァーナント技師の目の前に居座りを正して座り、上半身ごと大きく頭を下げた。

ヴァーナント技師は16歳だと聞いたけれど、ひょっとすると前世ではかなり若いときに転生したんじゃないだろうか。

こちらは3歳の少女だというのに、気後れしている雰囲気すら感じる。


「本日は、いくつかお伺いしたく思い、アグリア様に無理を言って紹介状を書いていただきました。」

「・・・それは一体・・・?」

「EXP粒子の専門家の方に、いくつか原理について教えていただきたいのです。」

「分かった分かった、そんなに礼儀正しくなくって大丈夫だよ、僕はえらいさんじゃないんだから。

 頭を上げておくれよ、こんな小さな女の子に頭を下げられたままできる話じゃないから・・・。」

「ありがとうございます、では・・・。

 レアアーティファクトは、動力とするEXP粒子結晶を宙に舞うEXP粒子から濃縮して結晶化させた後、アーティファクト使用後、周囲から自動的・持続的にEXP粒子を収拾、吸収していて、何回も繰り返し使える機器として製造されているとお伺いしましたが、間違いはありませんか?」

「細かく言えばそれは種別に拠るけれど、概ね合っているよ、よく勉強しているね。

 アーティファクトは、EXP保有量の少ない存在でも使用できる、君の言った通り結晶を内蔵していてそれがエネルギーを蓄積するタンクのような役割を果たし、使用した分は一定時間で粒子を自動補給するスキームの入った物が一般的だ。

 一般的でない物で言うと、戦貴族の方々の使うようなブースター・・・ブースター分かるかな?

 増幅器って意味なんだけど・・・。」

「はい、分かります。出力を増幅させるものですよね。」

「うん、そうだ。

 エネルギーを使用する際には、何をするにしてもロスが必ず発生するんだ。

 だから、エネルギーロスを粒子結晶に吸収させて、発生する無駄や過剰な放出を収束させ、出力の増幅に使用する物がある。

 難しいかもしれないけど、一度身体に取り込んだ粒子は、完全に吸収された物が放出されているわけじゃないんだ。

 一度完全に体内に取り込めた粒子は、完全に『魂に吸着され』、排出されることはないからね。

 つまり、放出されたエネルギーの余波として粒子も一緒に放出されているけど、それは吸収されたものじゃなくて、余剰分が一緒に出てるだけ、ってことだね。」

「魂に吸着される・・・?」

「例えば、粒子貯蓄と言う言い方をする人もいるけど、それは基本的には身体の大きさに依存する使用量が存在するから、容器に大小があると感じているからそう思われているところがある。

 でも、実際にはそう見えるだけで、事実ではないんだ。

 一度身体に定着した粒子は魂に吸着され、欠損したり死んだりしない限り、身体から離れることはない。

 粒子は、魂の成長の栄養になるだけだ。

 君も胃袋があるだろう?

 食べられる量に限りがあり、食べられない分は残る、食べた物は消化されて栄養は胃腸が吸収して成長に使われて、残りは栄養分も廃棄物も一緒にウ〇コとして出てくる。

 食べられない分はそもそも吸収されてない、つまり空中に浮遊したままになるし、一般人が使っているエネルギーは身体に消化吸収されたカロリー依存のもので、ウ〇コの量とは関係ない、ってことだ。

 当然、ウ〇コの消化吸収されなかった残りの栄養分は活性化されているから、放出されれば蒼く輝く。

 だから、放出されて観測される粒子が、体に取り込んだ粒子を放出したものだと思われている。

 戦貴族の方々がアーティファクトを使う姿を見させてもらうとよく分かるよ、別物だってね。

 そしてブースターは、吸収されなかったエネルギー、ようはウ〇コをディスポーザーみたいなもので栄養にする、つまりはまぁエネルギー化して用途に対して補正、補強に転用する。

 成長に使われるのがEXP粒子であって、使用されたエネルギーは消化吸収されたEXP粒子由来のエネルギーではあってもウ〇コそのものではなく、正味のエネルギーは本人の身体に吸収されたエネルギーから発する物だってことだ。

 魂の栄養にするためにある消化器官は身体の大きさに拠る、これは間違いない。

 ただ、器の大きさも身体の大きさに由来するが、それと粒子排出量が多いとすごい、という話には直接は繋がらないんだよ。

 そうだなぁ、まぁ、身体能力が高くなくても、たくさん食べられる人のウ〇コがでかいのも間違いではないだろ?

 極限まで絞り尽くしたアスリートも勿論たくさん食べるしウ〇コはでかいだろうけど、届けられた栄養による成長もエネルギーの使い道も全く違う、これはそういう原理だよ。

 ちなみに君もご存知のヒノワ様は、粒子使用時の意図しない無意識下の粒子放出量がほぼゼロで、戦貴族の方々の中でもダントツに粒子制御が上手なお方だ。

 彼の方に粒子制御を見せてもらえれば、その辺の原理は視覚的に理解できるとも思う。」

「なるほど、やはりそうですか・・・。」


ヒノワ様が「その辺は技術でどうにかなる」という感じのことを言っていた。

つまり、書物に書かれている既存のEXP粒子の一般論は間違っていて、実際は別の原理が存在する。

同様の要因を基にする比例数値を示すデータがあったとしても、基側に同様の係数があるから近似するだけで、別の係数が加わればその折れ線グラフは近似しなくなる可能性がある、かな?


「戦貴族の方々から教えてもらったことだけどね。

 具体的な方法は教えてもらえなかったけど、戦貴族の方々は理論だてて粒子のことを理解していると思うよ。

 そして、僕の持論では、この説が一番合理的で現象に説明がつくんじゃないかな?と思うね。

 実際に、アーティファクトを作る時にもこの理論で構築しているけど、齟齬が出たことはない。

 まぁ、基本的に、秘密にされていることではないけれど、論文化されたり共有されたりはしていないだろうから、一子相伝じゃないけど、仲間内でしか伝わってないんじゃないかな。」


これについてはヒノワ様も言っていたけれど、多分、表立って公言はされていないんだろうな。

情報統制と取られたら、一般市民を庇ってあげてる立場なのに逆恨みされそうだし。


「とても有難い情報です、ありがとうございます。

 情報の適正な対価はお支払い致します。

 そして差し出がましいお願いですが、別にお伺いしたいことがあるのです。

 こちらは、私にお支払いできる限界までお支払い致します。」

「はは、要らないよ。

 で、知りたいことって、他にはどんなことかな?」

「ではまず、前提として、『来訪者』である貴方には伝わるかと思うのですが、この世界の科学技術や現象は、元の世界と同じですか?

 それとも、ファンタジー要素があったり、別の原理が働いていたりしますか?」

「なるほど、その質問からすると、君も異世界転生者なんだね?

 道理で3歳にしては雰囲気が大人っぽいと思ったよ・・・。

 うん、そうだね、基本的には同じように感じるけど、ファンタジー要素がかなり多いかな。

 何せ、EXP粒子なんて物が存在しているくらいだし。

 どうも、電子に似た何かなんだとは思うんだけど、分子構造に粒子が干渉するようなんだよ。

 目視できるはずがないくらい極小のはずだけど、濃度の濃いところは目視できるし、かといって採取できる物でもない、個人的に高解像度の顕微鏡も作ってみたけど、そもそもプレパラートに粒子が載らないんだよね、透過してるのか硝子に吸着されているのかは知らないけど・・・。」

「分子構造の電子結合部にEXP粒子が干渉する・・・同じ物に見えても物が異なる、ということですか。」

「話が早くて助かる、つまりはそういうことだね。

 我々EXP粒子結晶技師の始祖は、まぁ機密になるから名前は伏せるけど、ガラスみたいな形の分子構造の石を専用スキルで加工して、石の分子構造の間に、粒子を蓄積、放出させることができる技術を開発したんだよ、つまりは粒子結晶ってのは純粋に全て粒子で構成されてないってことだね。

 先ほど言ったブースターも粒子結晶の設定が少し異なるだけの物だね、製作難度は高いけど。

 言ってみれば、粒子結晶の中に、こうしたらこうなる、みたいな設定を植え付けて、それを出力させるものがアーティファクトだから、実際には核となる粒子結晶さえあれば、ガワの機器部は割と適当でもとりあえず機能はする。

 ホースでドバーっと水を撒いても遠くまで届かないし、限られた量では幅広く万遍なく散水できない。

 限られた量の水を目的に沿った形で散水するにはどうするか、となると、ホースの先にシャワーヘッドを付けて、先端を絞って水圧を上げて局所的に高水圧を生じさせたり、シャワーみたいに均等に満遍なく散水する、といった具合に、使用時の勝手を調整するのがガワの機器部の用途だから、こちらも肝ではある。

 勿論、これらは全て独力でも可能なことだが、レアアーティファクトと呼ばれる用途に関してはそれらをほぼ全てアーティファクトが代替して実行してくれる物、ブースターは独力で可能なことをサポート使用できる物だね。」


リアルな科学もある程度は意味がある、粒子が絡むと全部ファンタジーになる、って感じかな?

ヴァーナント技師がこんなに詳しいとは思っていなかったが、流石に16歳にして天才技師と呼ばれるだけはあるのだろう。


「とても分かりやすかったです。

 では、もう一つ。

 実際はこちらが本題なのですが・・・。」

「なんだか、怖いな、こんな話の後の本題なんて・・・。」

「『鑑定』のスキルで様々な物を鑑定していて思ったんです。

 この世界の大気は濃度の濃い薄いはあっても、基本的にはEXP粒子が大気中に存在していて、人も物も日常的にEXP粒子を放出しながら、同時にEXP粒子を吸収しながら存在しているのだ、と。」

「その通りだね。留めたまま放出しないで居られる存在は見たことがない。

 戦貴族の方々は循環するEXP粒子が多すぎて、放出量がぶっ飛んでるから、見る人間が見れば周囲が蒼く光っているのが分かるほどだ。

 一般人でも、動物でも、植物でも、無機物でもそうだ。

 多い少ないはあっても、ゼロはない、例外はないんじゃないかな。

 戦貴族の方々の中でも圧倒的に無駄な放出量の少ないヒノワ様でも微量には漏れている。

 まぁ、例外はない、という理論自体に例外がある場合もあるから、例外があると仮定しよう。

 それでも確率はめちゃくちゃ低い。全世界で一人、もしくは1匹、1ヶかもしれない。」

「なるほど。

 粒子は吸収した物のうちから魂の成長の栄養分となり一部が消費されていて、全ての存在が、意識せずに吸い漏れた分と排泄した分を放出している。

 吸収するための消化器官の能力は主に身体の成長具合に依存し、身体が成長すればより栄養を吸収しやすくなって、より成長速度も高まる、と。」

「それもその通りだ。

 だから、君のような3歳の身体では限界がある。

 3歳と6歳ですら単純比較で2倍近いキャパシティの差が存在する。

 これは成長曲線の問題があるから、単純に比例してグラフが直線を描くわけじゃないけどね。

 成長速度が上がっても、次の段階・・・そうだね、経験値とレベルアップって言った方が早いか、レベルアップするまでの必要な経験値が異なる。

 過剰な経験値を一気に手に入れても、レベルは数値通りには上がらない感じ、で伝わるかな?

 受け皿である器の容量の問題で、一定以上は溢れてしまうものだからね。

 そして、レベルが上がると、もっと経験値の効率のいいレベル上げへと移行するけれど、レベルが低い時と同じような上限値ではないから、レベルが低い時と同じ経験値を吸収してもレベル上がることはない。

 パワーレベリングが難しい理由もあって、粒子が一定の功績を認めていない場合はそもそも対象に粒子が寄ってこない、自然吸収分だけになる。

 一定の功績があり、粒子が集まってくれれば、自然に吸収するよりは成長は早くなるね。」

「では、粒子吸収のスキームを強力にして、結晶の粒子蓄積量を増大させた場合、どうなりますか?

 放出や増幅といった出力装置は全て除外しても良いのですが。」

「そうすると、外部の蓄電池みたいにはなるだろうね。

 ただ、粒子吸収のスキームは発動時、微調整等の加減の制御ができない。

 使用者に影響がないように強力な粒子吸収動作を思った通り発動させるのはかなり難易度が高い。

 弱電って分かるかな?

 アーティファクトは機器だからね、動作の信号は同じ粒子の信号が情報のやり取りに使われている。

 粒子吸収能力の付与能力が強力過ぎると、機器内の信号が全て吸われてしまう。

 粒子を吸うだけ吸って、自然に放出するだけの機器には何の価値もない。

 実は既に試したことはあるんだ。

 大きな魔物を討伐すると、EXP粒子はシステム的に討伐に参加した者に勝手に寄ってきて、勝手に吸収されるんだけど、一度戦貴族の方達の討伐戦を見させてもらった感じだと、結構こぼれてるんだよね。

 だから、一瞬でその場の粒子を吸収して、何かに使えないかなと思ったんだ。

 製作コンセプトとしては吸い続けたら制御できなくなると困ると思ったから、信号を受信したときのみ吸収し、信号が止まったときに放出する、という簡単な機器を設計して作った。

 けど、信号部を絶縁しようとしても、作動後すぐに信号が消えてしてしまって作動せず、機器としては使い物にならなかった。

 熟練の錬金術師の先生にも絶縁体について知見がないか聞いたことがあるんだけど、研究すらされてなくて、『そんなものがあるわけがない』と放り出されたこともあるよ。

 EXP粒子を吸い寄せて留める技術はあっても、指向性の指定されていない粒子を遮断する技術がまだ確立されていないから、絶縁ができないんだ。

 これを解決しない限りは君の言うアーティファクトは実現できない。

 作ってはみたいけど、日々の製作があって研究はできていないね。

 絶縁素材は研究できるならしてみたい、出来たなら、様々なことが可能になるだろうから。」

「電気信号は、ダメだったのですか?」

「電気信号では、そもそも粒子結晶が反応しないし、活性化しないんだ。

 僕も電子機器みたいにしたらどうだろうと思ったんだけど、基礎科学の問題でチップ製造の技術がないから電子制御自体が難しい、ってのが勿論第一だけど、それ以前の、前提の問題で、信号以前に電気じゃEXP粒子がうんともすんとも言わない、楽器で例えると太鼓を叩いてもバチだと音が鳴るのにその他の物で叩いても吸音クッションを叩くように音が鳴らない感じというか、うん、とにかく反応がないんだよ。

 反応自体が弾かれている感じなんだ。

 電子みたいな物って言ったけど、属性じゃなくて多分種別自体が違うんだと思うんだけど。」


やっぱり試してみたことはあるのか・・・。

まぁ確かに16歳で天才と言われるほどの職人であれば、前世の機械の再現も試してみるだろうし、当然と言えば当然か・・・。

しかし、異世界転生者が多く存在する、そして、していたこの世界でも、電化製品は見たことがない。

ひょっとすると、製作段階でEXP粒子が付与されてしまった製作品は、彼の言うように部品間で電気信号が通らずに弾かれてしまったんじゃないだろうか?

ひょっとすると、コンデンサーやチップを制御する技術を持った人が転生していたとしても、そこでつまづいて開発が続行されなかった可能性もあるかな?

でも、電気が弾かれているのなら、逆説的に電気で覆われた物は絶縁されるのでは・・・?


「では、電磁被膜で絶縁すればよろしいのでは?」

「・・・何?」

「通電さえ可能なら、絶縁予定の部品に通電してしまえば絶縁できてしまうのでは?

 電気が弾かれるのなら、帯電した物はEXP粒子の弱電程度なら弾くのでは?」

「なるほど、そういう発想はなかった。

 しかし、携帯する為に充電池が必要になるだろうけど、充電池はどうする?

 いや、充電池はともかく、充電はどうする・・・?

 省電力で済むなら生活魔法の電気発生魔法を変圧器に通して充電すればいけるか?

 いけるか・・・?いけそうだな・・・。」

「素人の意見ですが、一度、採用してみていただけませんか?

 そして、可能なら先ほど言っていた

 『粒子を超強力に吸い上げ、結晶に蓄積する粒子量を増大させたアーティファクト』

 を製作していただきたいんです。」

「つまりはあれか、君は自分の内部のエネルギーには限界があると考えて、外部のエネルギーを何かに使うつもりなんだね。

 でも、工業化の進んでいないこの世界の技術ではアーティファクトが主に電気関係の部品で大型化する可能性があるけど、構わないかい?」

「はい、構いません。

 この身では、満足にレベリングができません。

 正規の年齢帯まで大きくなるまで何もできないのでは困ります。

 外部に粒子を強力に吸い上げて蓄積し続けるアーティファクトを常時装備し、点滴のような形でこの体に注ぎ込み続ける形式を取る、これでだいぶん効率が変わる気がするんです。」

「まぁ、そんなものを使わなくても、普通にパワーレベリングするだけなら、君の出向先のヒノワ様の領地で色々教えてもらえると思うけどね・・・。

 それは君も分かってるよね、ってことは分かった上で足りないと感じてるのか。

 しかし、何故そこまでレベル上げに執心するんだい?

 戦貴族にでもなるつもりとしか思えないレベルなんだけど・・・。

 それに、流石に、いくら異世界転生者でも3歳は早すぎないかい?」

「そちらは、そちらで。

 私は『レベル上げ』が好きなのであって、レベルは上がるに越したことはないんです!

 レベルを上げて何かしたいわけではないんですけどね。

 でも、どうせ異世界に来たのなら、色々やってみたいじゃないですか。

 私はまだ見ぬ技術を形にして、それで楽しんでみたいんです。

 今3歳だろうが、関係ありませんね!

 どうしてもレベリングがしたいんです!

 ダメですしょうか・・・?」


私はニヤッと笑った。

そう、どうせやるなら、とことんまでやらないとね。


「おっと、3歳児には負けていられないね。

 貴女がヒノワ様の領地に行かれるのは年明け、4か月弱先の話でしたね?

 今、創作意欲が沸き過ぎて、アドレナリンのせいか手がブルブルしているんです。

 2か月で開発して、残りの1か月で小型化して見せますよ。

 絶縁体が開発できたなら、僕の製作するアーティファクトはきっと世界最先端、最高峰になる。

 僕には夢があるんですよ、前世の世界で物語で良く見ませんでしたか?

 『賢者の石』

 まぁ、ちょっと原子変換や電子の増減加工は現実的に変換するためのエネルギーの問題で無理があると思ってるんですけど、実は似たようなことの理論だけはもう構築できてるんですよ。

 分子結合に介入できるようになれば、無から有を作ることはできなくても、例えば金属や石を思う形に変形させたり、単一の原子で構成された分子を分離したり合成したりして作り出せるんじゃないかな、って。

 問題だったのは、細かい制御を使用者が行わず端末側に制御させるためのチップの製造方法、そしてそれを製造するために必要な弱電に相当する電気信号や粒子信号を混線させないための絶縁体の素材。

 この二つがネックだったんです。

 そして、製造職の宿命とも言えるけど、技術はともかく、僕のベースレベルはある程度から上に上がらずに滞っている。

 製造の精度、グレードを上げるためにも、レベル上げは必須。

 つまりは、君の要望の先にある物は、僕の夢と同一線上に近いところにある上に一石二鳥にも三鳥にもなる。」


ヴァーナントさんも、ニヤリ、と笑った。

お互いが手を伸ばし、がっちりと握手した。

勿論、私の手はかなり小さいけど。


「君の希望のアーティファクトは、素材も製作手間も費用は要りません。

 何、貴女のお父様のご尽力もあり、素材を入手するための資金には困っておりません。

 費用は要りませんが、一人で理論検証、開発、実証するのは時間がかかります。

 時間のあるときに、こちらの工房に寄ってもらえませんか?

 きっと、貴女がいた方が開発も早く進むと思います。」

「分かりました、ありがとうございます!!

 必ず、必ずお伺い致します。

 宜しくお願いします、ヴァーナントさん。」

「ナインとお呼び下さい、フミフェナさん。」

「では、私のことはフェーナと。」

「では、フェーナ。これから、宜しくお願いします。」

「こちらこそ、宜しくお願いいたします。」


とても、とても有意義な会合だった。

あまりに満足し過ぎて、祖父をほったらかしでウキウキで帰りそうになって、ナインに呼び止められてようやく気付いたレベルで。

やはり話が早いととても楽だ。

有能な人がちゃんと遇されているのはいいことだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ