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灰色の御用聞き  作者: 秋
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プロローグ4 灰色の御用聞き

「やぁ、君がフミフェナかな?

 初めまして、アキナギ・グレイド・ヒノワです。」


そう言って、手を差し出してきたのは、美しい灰色の髪をした、私よりも少しだけ年上の女の子だった。

目を凝らさずとも見える、美しく蒼く輝く煌めきが彼女の周りを後光が射すかのような演出になっており、まるで前世の世界で見たCGのドラマ演出のようにさえ見えた。

正直、中身はアラサー女子であったというのに、少女のようなトキメキさえ覚えてしまったくらいに、美しかった。

戦貴族の子女は、ここまでレベルが違うのか、ということも一目で理解させられたわけだけど。


戦貴族という勇ましい呼称で呼ばれるお貴族様は、建国の際に大きな役目を果たし、その後、代々、国家の礎を支えている人足でもあり、内外を武力で統制する戦闘に関する全てが異常に高い戦闘集団でもあり、ヒトの生活圏を広げるべく、日々所領を最前線に移動しながら街の整備、新しい住民の統治、魔物や魔獣の討伐を行い、王が代替わりする際には円卓として王を選抜する役目も負うという、役目のかなり多い貴族。

12ある戦貴族はそれぞれが伝説に残るレベルの血統であり、出生の段階で既にとんでもなく優秀であり、その果たすべき役目の為に日々勉学に取り組みながらも鍛錬やレベリングも行っていて戦士としても統治者としても超一流のはずだ。

目の前の少女がアキナギ姓を名乗ったということは、戦貴族序列5位『灰色』を冠する一族の直系だろう。

アキナギ家は前世の日本と同じで姓が最初にあり、名が後に来る姓名の順序になっており、名前から見てわかる通り、おそらく初代は、転生者か転移者かは不明だけど日本人なのは間違いなさそうだ。

直系であれば、戦貴族の中でも相当上位の序列に位置しているだろうから、その身を装う武器や防具も超一流であるだろうことも想像に難くない。

アグリア商会にも、ひょっとするとアーティファクトを買い求めに訪れたのかもしれない。

だけど、何故私の名前を知っていて、私達を待ち受けるようなことをしたんだろう?


「お初にお目にかかります、アキナギ・グレイド・ヒノワ様。

 アグリア商会の番頭、レナルト・ペペントリアの次女、フミフェナ・ペペントリアです。

 以降、お見知りおきいただけると幸いです。」


差し出された手をそっと両手で握り、頭を下げた。

相手も子供で、私も子供だから、きっとこれくらいでいいはずだ。

だが、祖父も祖母も、叔母も顔が凍り付いていた。

何かまずかっただろうか・・・。


「スヴェル老、この子は本当に3歳なのか?

 私も大概だと言われているけれど、随分と早熟だな。」

「は、恐縮です、ヒノワ様。しかし3年前のヒノワ様には負けると思いますぞ。」

「あはは、そうだったかな、何、問題ないだろう。この世界は色んな人間がいるからな。

 貴方の孫娘は、かなり度を越しているような気もするが。」

「残念ながら、私の将来性については、両親も期待してくれていたのですが、国家公認のプロ占運鑑定士の方に鑑定してもらった結果、一般人の領域を超えるような数値は一切出ませんでした。

 家族や周囲の方々のご期待に沿えなくて申し訳ないのですが・・・。」


口にしていると、確かに自分に先天的なチート能力がないことが悲しくなった。

私にはレベリングの機会もまだ与えられていない。

年齢の問題で、体躯も小さいし、仕事場に立つことも許されていない。

涙が出てきた・・・。

早く大きくなりたい、より一層言うなら、寝る間も惜しんでレベリングしたい・・・。


「な、泣かないでおくれ、フミフェナ。責めるつもりは一切ないんだ。

 あぁ、言い方が悪かったんだね、ごめんよ。」

「いえ、我が身が情けなく・・・。申し訳ありません・・・。」


ハラハラと涙を流す私の頭をナデナデしてくれるヒノワ様。

そういえば、早熟だったせいもあったのか、こちらの世界に生まれてから私の頭を撫でてくれたのは祖父だけだった。


「とりあえず、こんなところではなんだ、ゴーベルト殿には許可をとっている。

 中でゆっくり話すとしよう。」


アグリア商会本社兼アグリア家本家は頑丈そうで背の高い塀に囲まれた、物流倉庫のような建物だった。

外観からしても武骨で、お金持ちの家や会社によくある装飾や高そうな調度品のようなものはほとんどない。

1階はほぼ全て倉庫のようで、山積みにされた木箱やそれを運ぶ馬車、馬車をメンテナンスする設備等も設置されていて、ガソリン車や機械がないことを除けば、まるで前世の物流倉庫そのものだ。

その巨大な建物は外観は石造のように見受けられるが、倉庫内部は柱がほとんどないので、多分何か私の知らない素材で作られた建物なんだろう。

倉庫部分だけでもおそらく1000坪はくだらないだろうけど、めちゃくちゃ背の高い1階の上には2階、3階と続き、なんと4階建てである。

お城みたいなデザイン的な美しさや風情のある建物ではなく、直方体、前世の感覚で言えばビルのような建物だ。

おそらく、この建物を設計、施工したのは、かなり建築に精通した異世界転生者だろう。

見る限り、鉄筋コンクリート造ではなく、鉄骨造。

いや、鉄ではないかもしれないが、石造りの多い建物群は石柱に支えられているのに対し、トラス構造を持つ金属の柱と梁に支えられており、まさに物流倉庫といったたたずまいだ。、

外壁は・・・分からない、見たことのない建材で作られている。

こちらの世界はこちらの世界で、おそらく異世界転生者が建築資材を構築したのだろうと思われる。

2階に移動すると、質実剛健ながらも十分な費用をかけて拵えられた、高級な設えの内装の広間が現れた。

そこで待っていたのが・・・。


「お待ちしておりました、ヒノワ様。お手間をお掛けしまして申し訳ありません。」

「何、少し悪戯を仕込んでいたので、もともと私がお迎えに出る予定だったんだ、気にしないで。

 そこの爺にネタバレされてしまったのでサプライズは失敗したけどね。」

「これは、なんとも、申し訳ありません、ヒノワ様・・・。異常に濃い濃度の気配だったもので。」

「はは、冗談冗談。しかしまぁ、スヴェル老、貴方は少々、元商人にしてはEXP粒子感応が敏感だね。

 と、おっと、話が逸れた。

 ゴーベルト殿、こちらが私の話していた、フミフェナ・ペペントリア嬢だよ、レナルト殿の次女だ。」

「初めまして、アグリア・ゴーベルト様。

 レナルト・ペペントリアの次女、フミフェナ・ペペントリアでございます。

 ご先祖様から祖父、父に亘り、我が家をご活用いただき、御礼申し上げます。

 ありがとうございます。」

「私がアグリア・ゴーベルトだ。

 レナルトやスヴェル老からは聞いていたが、眼前に存在しても実在するのか不安になるな、君は。

 フミフェナ、君は本当に3歳なのか?グリュックと同じ歳とはとても思えん。」


アグリア・ゴーベルト

フェルゼン王国の大商会の一つ、アグリア商会の長、年齢40歳。

中肉中背であり、とても大商会の長とは思えないくらいスマートな体型をしていて、シルバーのチェーンのついた眼鏡以外は華美な物は一切なく、高価そうではありながら実用性のある物を身につけている印象だった。

祖父から聞く限り、200年以上続いている前身のゴーベルト商会、現アグリア商会が正統派の真っ当な商売で代々蓄えた財貨は莫大なものとなり、先代の頃から着工していた建物の建て替えの完了もあり、アグリア様が最もゴーベルト家の繁栄の最高頂にあるらしいのに、堅実で真っ当な商売しかしないらしく、アグリア商会は安泰だと巷では噂されている。

私と同じ歳の男の子が一人おり、奥様はその子の出産時に亡くなってしまったとのことで、後妻を迎えるように方々から忠告があったにも関わらず、愛人もおらず、後妻も迎えていないらしい。

私達の生活している領地のご領主様が、先代の頃にアキナギ家から拾い上げられて大商会の商会頭から貴族へと召し上げられたのは有名な話だそうなので、アグリア様もヒトの生活圏が広がったら貴族になるのかもしれない、と祖父は言っていた。


「はい、アグリア様。今年の9月に3歳になりました。

 祖父、スヴェルのおかげで、色々なことを勉強できております。

 本日は、アーティファクトの見学を許可いただけたと祖父から聞き、お伺いした次第です。」

「うむ、勉強熱心だとは聞いていたから許可した。

 流石に高価な商品の為、持ち帰ってもらっては困るが、うちの会社内の指定した部屋で見たり触ったり程度は構わん。

 普通の3歳の娘に触らせるなど話にならんと思ったのだが、スヴェル老からもレナルトからも君がとても賢く不備はおこさんだろうと太鼓判を押され、たまたま居合わせたヒノワ様からも配慮するように依頼を受けたものでな。

まぁいい、こちらの応接間で話すとしましょう。

フミフェナ君も座りなさい、スヴェルは彼女の後ろへ。ヒノワ様はそちらにお願い致します。」


広間に隣接する応接室に置かれたフカフカの革ではない織物生地を張った椅子、マホガニーではない銘木の変木を使用したテーブル、保温ポットみたいなティーセットがあり、座った所で従者の方から紅茶らしき飲み物を給仕され、飲むよう促され一息ついた。

味わったことのないお茶で、とても気に入った。

明らかに紅茶ではないが、茶葉としてはチャノキ由来に近い物のような気がする。

ひょっとすると、これも異世界転生者の関連したものかもしれない。

無作法にならないようにしようと思っていたが、気が付いたら一息に飲み干してしまっていた。


「気に入ったなら何よりだ、これはうちの会社で取引のある農園から提供された試作品でね。

 私もこのところ愛飲している茶葉なんだ。

 さて、では話を再開しようか。

 君は確かに3歳とは思えんほど賢いようだし、様々なことを勉強することは誰にとってもいいことだ、知識があって損をすることはないし、知りたいのなら知れば良いし、学べる環境があって学びたいなら学べば良い。

 スヴェル老からは将来は商人になりたいと言っていると聞いているが、本当かね?」

「はい、兄と姉も学校に通っており、商人の道に進むことになるかと思いますが、私も学校に通って知見を広めた後は、早く父の仕事を手伝ってお役に立てるようになれればと思っています。

差し当たり、今、祖父と二人で共同研究をしている特殊建材の資材についての研究の物を一つ、上程させていただければと思い、企画書を持参致しましたので、ご査収いただければと思います。」


早く色々な研究やレベリングが出来れば、この世界では日常がレベリング作業になる。

レベリングした先に目標があるのではない、レべリング自体が目標なのであるから、つまりはそれさえ達成させてもらえるなら、生まれた家の役目をこなすことはこの世界に生を受けた者としての義務でもあるだろう、とは思っていたから、周囲の期待を裏切るつもりはない。

そして、会ってみて分かったが、アグリア様は能力さえあれば色々なことをさせてもらえそうな、そんな印象を受けた。

大商会の長を30歳頃から担っている人であるのだから、人を使う能力も高いのだろうし、お金にがめつくはないとしても、真っ当な商売として利益の出る物だと思えば興味を示すのも当然だろう。

こちらの世界に来て見て、前世の世界の技術の流用であろうはずの建造物や舗装を見ているが、建造物と比較して街道の舗装が進んでいない。

おそらくヒトの生活圏が首都を中心に同心円状に拡大し、領土の面積が加速度的に増えるにつれ、インフラ整備が追い付いていないのが原因だろう。

この世界には既に転生者が多数いて、ある程度技術が伝わっているけれど、これは治政の長さの問題でもあり、費用的、物量の余裕がないという問題に起因する問題だ。

そして、魔物や魔獣との闘争、人口拡大に耐え得る農業漁業の発展に重きを置いた治政を取らざるを得なかった期間が長かった為、インフラについては落ち着いた部分から順に整備していくことになったのだろう。

が、首都ですら凹凸の多い石による舗装であり、馬車が通ればガタガタと揺れ、車輪や車軸が傷み荷物や乗員にダメージが蓄積する程度の舗装だ。

私達のいる都市ではかなり大きい都市だというのにまだ土舗装の為、人が歩いたり風が吹いたらホコリはたつし、雨が降るとぬかるんで馬車がはまって抜けなくなったりする。

転生者がみな技術者であるわけでもなく、画期的な、ブレークスルーの技術はそもそも基礎研究の技術が確立されていなければ実現しない物も多く、EXP粒子を利用した魔術の類、粒子結晶化技術も現段階では万能であるわけでもない為、現状、インフラ技術についてはまだ介入するポイントはある。

要は、科学的な問題か、基礎研究技術の問題で、前世の世界の先進技術が再現できていないのであれば、この世界の素材で疑似的に再現する技術を研究して採用すればよいのだ。

そして、街道の整備というのは大金が動く利権の一つであり、実績を積んで占有事業と出来た際のメリットは商会として計り知れないはずだ。


「ふむ。・・・これは・・・なるほど。

 ・・・この企画書に記された単位設計、予算相場はスヴェル老が計算しているものとしても、この企画書は君が作ったのだろう?

 舗装ともなると都市計画に絡むことだ、ご領主様に上申してみよう。

 ご領主様に採用された場合は、実現性があるのか証明する必要があるが、君に可能なのかね?」

「祖父に市販素材を買い集めてもらい、スキルやアビリティに依存しない技術で作成した設備機材により、特殊素材の合成に成功しております。祖父の家の周りに仮に舗装しましたが、企画書に記載した程度の能力を確認しています。

 又、都市計画に関することで、治水と衛生の観点から申しまして、舗装の際に地下に埋設する雨水排水と下水排水は経路を別として埋設することを具申致します。

 これに関しては、ヴァーナント技師とお会いする機会を設けていただけた上で、必要となるアーティファクトの製作を引き受けていただければ、費用的な問題、工事的な問題が解決できるものと考えております。」

「・・・スヴェル老よ、この子が3歳というのは無理があるのではないか・・・?」

「私もそう思うのですが、年齢については間違いありません。

 ただ、この子の兄も姉も、ここまで突出してはいないので、生まれ持った如何ともし難いものかと。」

「そうか。

 未来の有能な商人への先行投資は必要だな。

 ヴァーナントのアーティファクトだけで良いのか?

 目利きを鍛えたいのなら、他の職人の品目も用意させるぞ。

 そうだな、昼食を用意しているから、それを食べ終われば見られるようにしておくので、見終わったら近くの従業員に声をかけるといい。

 ヒノワ様のご用件はすぐ終わるとのことだったが、失礼のないように対応するのだぞ。」

「分かりました、ありがとうございます、アグリア様。」

「では、ヒノワ様、私は急用が出来ましたので、この辺りで失礼致します。従者を残していきますので、何かご要望がございましたら、この従者にご指示ください。」

「分かった、ご厚意ありがとう、アグリア殿。

 あ、待って、その資料、あとで私にも見せて、アグリア殿。」

「ヒノワ様。これは譲れませんぞ、実現性があるなら試験的に弊社の敷地内で即座に実験しておきたい事案です。」

「分かってる分かってる、盗らないよ、見ておきたいだけ。

 さて、それじゃ私の要件に移ろうか。

 元の予定にはない、物凄い気になる話だったけど、それは置いといて。」

「私に応えられる内容であればよいのですが・・・。」


アグリア様が退席され、声が聞こえない程度まで離れたかな、と思った頃、ヒノワ様は従者の方も少し席を外すように指示し、座っていた上座の椅子から離れ、私の横に座った。

6歳の少女がこんな匂いを放っていいのかと思うくらいいい匂いがした。

ヤバイ。


「何、簡単なお話さ。

 お友達になってくれるかい、フミフェナ・ペペントリア嬢。」

「お友達、ですか?

 失礼ながら、ヒノワ様はお名前からして戦貴族の直系の方。

 私はアグリア様の商会に勤める一商人の第三子であり、身分が釣り合わないかと愚考致します。

 上流階級の方は、やはり上流階級の方とお付き合いされるのが健全で外聞も悪くないかと。」

「これ、フミフェナ。

 なんという言い草じゃ、相手は戦貴族直系のヒノワ様じゃぞ、他に言い方もあろうに・・・。」


あれ、まずかっただろうか、どう考えても身分もレベルも違い過ぎる気がするんだけど・・・。

普通に趣味のレベリングしたいのに戦貴族基準のパワーレベリングだと耐えられる次元超えてそうだから、死んでしまいそうだし・・・。


「あっはっはっは、いいよいいよ、スヴェル老。

 率直に言ってくれるのもこの子のいい所だ。フェーナって呼んでもいいかな?」

「はい、問題ありません。」

「フェーナ、君はウィスパードという言葉を知っているかな。」

「いえ、存じません。」

「そうなの?

 さっきアグリア殿と話していた内容といい、君は現在の基準にない工業的な技術知識を持っているような気がするんだけど。

 この世界の既存の科学技術の何歩か先の技術じゃないかな?

 ま、それはいいか。

 私はね、有能な若者が埋もれるのが嫌いで、とても嫌いなんだ。大事なことなんで2回言った。」

「・・・。」


有能な若者が埋もれるのが嫌い、って6歳の少女が言うのか・・・。

そして、大事なことなので2回言った、って・・・。


「実は、『君みたいな子』を探すのが得意な人がいてね、さっきの件とは別にスカウトに回ってるんだ。

 多分、言いたいことは伝わってるよね?」


『君みたいな子』と言うのは、要するに『異世界転生者』を探してスカウトして回っているということか。

ということは、この子も異世界転生者・・・?

いや、異世界転生者が利用できる知識を持っていることを知っていて異世界転生者を集めているだけ?


「おっしゃりたいことは、推測がつきます。

 ですが、私はこの通り、一商人の子供であり、3歳3か月の身の上なのですが。」

「フミフェナ、どういうことじゃ?わしには何のことなのか良く分からんが、分かるのか?」

「おそらくですが、『私のような子』が、不幸にならないよう、保護してらっしゃるのだと思います。」


ヒノワ様は、ニコリ、というより、ニチャァという効果音の付きそうないやらしい顔でこちらを見た。

間違いないだろう、多分。


「その様子だと、大体この国の制度自体は知っていると思っていいね?

 そしてその上で、既存の制度を利用しようとはしていない。

 つまり、君にはやりたいことがあって、邪魔されたり煩わされたりするのが嫌だと思っている、ということで間違いないかな。」

「お爺様、申し訳ありません。

 ヒノワ様と二人でお話させてもらってもいいでしょうか。

 少し、込み入ったお話になりそうですので・・・。」

「何の話なのかさっぱりじゃが、従者の方のところまで下がるくらいで良いかの?

 ヒノワ様に失礼のないようにな。」

「はい、申し訳ありません。」


私の後ろに立っていた祖父が従者の方のところまで下がったのを確認した後、私は居座りを直し、

姿勢を正した。


「ヒノワ様が推測されている通り、私は異世界転生者です。

 前世界で死亡したのが2015年9月頃、死亡時、満32歳でした。

 工務・建材卸の会社に勤めていました。」

「お、おう・・・、そこまでは聞くつもりなかったけど・・・。

 私は死んだのかどうか分からないけど、一番最後の記憶が2010年8月15日で26歳だったかな。

 家で寝てたはずだから、気付かないうちに地震とか火事で寝たまま死んだのかもね。」

「私は、ゲームのやりすぎでエコノミー症候群で死にました。」

「はっはっはっはっはっは、ひぃひぃ、私を笑い殺すつもりなのかい、フェーナはっはっはっは。」

「でも、こちらの異世界に来てみると、ゲームがないので困りまして・・・。

 こちらの世界の神様が言うには、世界のシステム自体がゲームみたいなものだということでしたので、一念発起、引き籠りを諦めてこちらの世界を楽しめればと思ったのです。」

「強くなりたいってこと?それなら戦貴族のとこに来るのが一番だけど・・・。

 っていうか、それが私の要望なんだけど・・・どう?私のところに来ない?」

「いえ、違うのです、ヒノワ様。」

「違う・・・?行先が決まってるとか、家業継ぎたいってこと?」

「私は、レベリングが好きなんです。」

「うん?レベル上げってことだよね・・・?レベルは上げたいけど強くはなりたくないってこと・・・?」

「いえ、言葉通りです。目標が『レベル上げ』であって、カンストすることが目標ではないんです。」

「えぇ・・・。

 なんという変態・・・。おっと。

 でも、そうだな、商人として商会に勤めるよりは、戦貴族の討伐戦に参加した方が効率はいいと思うんだけど、あんま効率とか気にしない方なのかな・・・?」

「そうですね、ゲームの時は効率を求めて色々試行錯誤していたんですが、元が引き籠りでして、身体能力がレベル依存で強くなれるとしても、襲われることに精神がもたないような気がするんです、殺生どころか暴力沙汰も生前はすることがありませんでしたので・・・。

 強力な魔獣や魔物と戦闘になって生き残れるのか、と問われたら、正直自信がありません。」

「うーん、まぁ、そうかもなぁ、とりあえず経験してみたら、とも思うけど、そういやフェーナは3歳だもんなぁ。」

「そうなんです、流石に時間の経過ばかりはどうにもならないので・・・。

 異世界転生で無双!みたいなのも生前はよく読んでたんですけど、来てみたら異世界から転生した人はたくさんいるみたいですし、100年くらい前からいたみたいですからこちらの技術基準で作れそうな物は粗方作られてるみたいですし、しかも個人の魔力というかMPというか、EXP粒子の貯蔵量が体の大きさに比例して増えるので子供は役立たず、という話を聞いて絶望していたところなんです。」

「そうだねぇ、基本的にはそうなんだよね。戦貴族にくるなら、その辺りの技術は教えられるけど・・・。」


うん?そういやそうだ、いくら3歳は上と言っても、ヒノワ様のEXP粒子貯蔵量は一般的な6歳と比較するのも馬鹿らしいくらい桁違いに多い。

多分数値に変換できたとしたら1つどころか3つくらい桁が違う。

祖父から言わせると私でも一般人と比較すると多い方らしいが、私が20くらいとしたら、ヒノワ様の粒子貯蔵量は1万以上あるだろう。

戦貴族はその辺りの知識が違うということだろうか。


「ひょっとして、EXP粒子を圧縮して貯蔵する技術が存在するのでしょうか?」

「うん、まぁそれに近いかな。でも、どうすればできるのかは分からないだろう?

 この技術はとある方法で統制されていて、一般人には普及できないようにパッケージングされているんだよ。

 一般人の戦闘力を高め過ぎないことによる差別化の目的もあるけど、魔獣を都市内に引き込まないようにする抑制効果もあるからね。

 伝説の通り、魔獣は高EXP貯蔵量の獲物を探す癖がある、生死を問わないハグレやら、気紛れに都市に強襲した上位の魔物が来たら、戦闘に秀でていない者やその周囲にいる人は全滅するからね。

 要は、『効率のいい餌は強い』という前提条件を縛っておかないといけない、ってことさ。」

「なるほど・・・。

 しかし、戦貴族に所属すれば、その技術を施していただけるのですね。」

「お、乗り気になってくれた?」

「正直、年齢や体躯による制限が多すぎて、まともにレベリングするのにあと10年かかると考えた時の絶望が凄かったので、前倒しできるのであれば、本来断る術すらなく三つ指をついて参陣させていただくのですが・・・。

 親族、特に祖父や叔母からも将来を、名声を嘱望されているんです。

 流石に、前世の記憶があるといっても、生誕から3年間、無力な私を愛してくれた家族を捨てて、ついていくのは難しいです。

 ただ、レベリングできる環境は捨て難いので、どうすればいいのか悩ましいのです。

 何か妥協案はないでしょうか。」

「じゃあ、こうしよう。フミフェナ・ペペントリア。君を、私付きの御用聞きとし、商人としてスカウト、登用する。

 そして、アグリア商会には、うちと取引する際には君を専属担当として、君を通してのみ代理店として取引するようにすることを通知する。

 アグリア商会、私からの依頼、今後増えたうちの取引先は、全て君が担当するんだ。

 アグリア殿にもレナルト殿にも、その旨を伝えておく。

 商人としては大成したことになるな、何せ12戦貴族、序列5位の灰色のアキナギ直系の御用聞きだ。

 3歳だが。」

「宜しいのですか・・・?」

「アグリア殿もレナルト殿も無碍にはできまい。

 それに、君はきっと将来、美人になる。

 美人秘書とか憧れない?」

「いいですね!

 母が美人なので、生誕ガチャ当たりでした、やっほー、という感じです。」

「産みの親ガチャはどうしようもないからねー、私の方は立場的にはLLRくらいだけど、家庭環境ほんとクソだからURくらいかなぁ・・・。おっと、これも失言だった。」

「・・・大丈夫ですよね・・・?」

「あー、大丈夫大丈夫、無能は駆逐されるのがこの国のいいとこだからね、有能だったら大丈夫だよ。

 さて、目的は達成したし、この後の話も詰めようか。」

「はい、ヒノワ様。これからの私の人生の主はヒノワ様です。

 出来る限りの努力はしますので、よろしくお願い致します。」

「うん、よろしく。あと、私のとこにも都市計画の立案に参加してもらえると助かるな、なんか詳しそうだし。」

「あ、でも。」

「まだ何かあるのかい?」

「ヴァーナントさんのアーティファクトの見学が、まだでした。」

「ふふ、そういやフェーナの今日の要件はそれだったね。一緒に見させてもらおうか。」


私は立上り、ヒノワ様から差し出された手を握り返し、人生の方向性を3歳3か月で決定した。

私は、ヒノワ様専属の御用聞きになるのだ。

そして収入も得て、レベリングの毎日を送るのだ・・・!

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