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灰色の御用聞き  作者: 秋
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プロローグ3 出会い

私は、生まれてすぐ、情報収集を開始した。

といっても主には耳から聞こえてくる情報、本が読める年齢になってからは本を読んで、だけど。

父や祖父から聞いた情報、本で読んだ情報、目で見た情報、どれをとっても、全ての情報が元の世界の影響を示唆していた。

伝説に残っている初代国王様はどうか分からないが、その側近に少なくとも二人、明確に近代の日本人とアメリカ人の名前と思われる偉人の名前が残っている。

ひょっとすると、その人達は異世界転生じゃなくて異世界転移だったのかもしれないけど、日本人以外の地球の人も多くこちらに転生もしくは転移しているという感じだった。

異世界からの転移もしくは転生者は、多くが何らかの実績を上げており、隠す必要を感じなかったのか、プロパガンダに利用したのか、隠し切れなかったのかは不明だけど、国が異世界転生者・異世界転移者の存在を公に認めている。

国の重鎮や役人にも異世界転生者や異世界転移者本人、またはその子孫が就いていることもあり、国に申請して認められれば、保護してもらえたり、適正のある職に配置してもらえるそうだ。

父や祖父から伝え聞くこの国のお貴族様も、ご先祖様が異世界転生者だったり、現役の方も異世界転生者っぽい感じの方もいるから、あちこちに既に異世界転生者が溢れているようだった。

科学の発達していない文明でも再現出来そうなものは既に再現されていたし、素材や料理も作られていたし、それで財を成した人もいたようだった。

つまりは、異世界で無双するには余程優秀でないと不可能であるし、とすると前世の知識だけではなく、こちらの世界で優秀であらなければいけないということだ。

私は天才でもなければ秀才でもないわけなので、流石に無双は無理だろうから気にしてはいない。


母も父の仕事の補佐を行っている為、基本的に私たち子供の世話や教育をしているのは、お手伝いさんと、仕事を引退した祖父母だ。

曾祖父、曾祖母は15年ほど前に行商先で盗賊の強襲にあった怪我が元で亡くなったそうで顔を見たことはないが、護衛と共に盗賊を返り討ちにして勤め先の商人達も荷物も守った豪胆さだったそうだ。

流石に、商人が自ら戦う場面はそう多くないとは思うけれど、祖父からも父からも、自衛の為の初歩的な鍛錬も家訓とされていた。

兄、姉は6歳から毎日街の学校に通い、学校がない時は家庭内で大人たちから教育を受けているが、私は3歳の為、まだ学校にはいっていない。

まだ、とは楽観にすぎる言葉かもしれない。

2歳になる頃から色々な情報を大人に聞いたり、大人が読むような本を読み始めていた為、一時は天才だの神童だのと両親から褒められることもあったが、いつからか学校に行く必要性を疑われていた。

2歳頃に両親が浮かれて私の先天的能力を鑑定するプロの鑑定士に鑑定してもらった結果、先天的能力は一般人の域を超えず、特段珍しくもない物がいくつかある程度。

異世界の神様の言う通り、特別扱いのチート能力は所有していなかった。

両親が過剰な期待をしなくなったのはそのあたりからだったかもしれない。

敬遠されたり、嫌われたりはしていないけれども、私が天才であるという妄想からは引き離れ、早熟なだけの娘だと認識したからだろう。

子供たちを学校に行かせた方が将来的に色々なコネも作れるだろうし、私個人のコネクション能力を鍛えたり仲間を探すために必要な教育もあるだろうし、商売をやっている両親がそれを理解していないとは私にはどうしても思えなかった。

両親が私を学校に行かせるか悩んでいるのは、私の早熟な成長速度が原因だと推測した。

兄姉不在の中、私は祖父と半年以上、祖父宅でずっとマンツーマンで教育をうけていたが、宅外では年齢相応の立ち振る舞いを行え、と厳しく命じられていた。

確かに、年齢相応でないのは、対外的な問題もあるだろうけど、両親も気味が悪いのだろうな、とは思うから、私も納得はして実践した。

が、祖父は世間一般から見ればかなり早熟な私を気味悪がることもなく、馬鹿にもせず、どんどん新しいことを教えてくれて、その都度褒めてくれた。

それが嬉しく、祖父の授業のある日は一日も休まず祖父に師事していた。

私は前世の記憶をそのまま引き継いでいるから、早熟なだけで、天才ではなく、ただ努力をしたいだけなのだ、ということを祖父は理解してくれていた。

だからこそ、様々なことをしっかりと教えてくれた。


チート能力も先天的な特殊能力もない、それは別に構わない。

より、やり甲斐を感じるだけだった。

ただ、家庭に恵まれ、時代にも恵まれており、成長の障害や、定められた具体的な目標、のようなものもない。

それでは怠慢にならざるを得ない気がした。

怠慢と時間を過ごすことも考えたが、どうせやるならとことんやりたい。

私だったらこうするのに、という様々な妄想を実現するチャンスでもあったのだから。

私には年齢相応の扱いなんて必要ない。

何せ中身はもうアラサーに近いのだから。


基本的には、祖父の家での授業は、祖父の執務室で行われた。

商会で不要となった、実際に使われていたマホガニー調の執務机に年季の入った革椅子にクッションをたくさん重ねて座っているのが私、その後ろに控えて祖父が適宜アドバイスや指摘を行う。

鉛筆で書類を書き上げ、祖父に向き直り、書類を渡し、出来を確認する。

それが祖父の教育スタイルだった。


「お爺様、出納の書類、出来上がりました。これで良いでしょうか。」

「確認しよう。ふむ・・・完璧じゃよ、フミフェナ。」

「そう言えば、裏で職人さん達の声が聞こえますが、実験舗装が開始されたのでしょうか?」

「うむ、そうじゃ。この舗装技術が普及した際の利権はとんでもないぞ。

 砂と海水と土を混ぜると何故このようになるのかは分からんが、みなお前の設計した機材に何か特殊なアーティファクトでも埋め込まれているのではないかと疑っていたぞ。」

「ふふふ、あれは何も埋め込まれていない、普通の機械ですよ、用水路の水流がもう少し安定していれば品質ももう少し安定するのですが、資金力はアグリア様にプレゼンして確保しましょう。

 あと、基礎科学の技術的な問題で実現できておりませんが、いくつか収益の大きい案件もあります。色々調べて実験してみたいので、夕方までお邪魔してよいでしょうか?

 またお爺様のお財布にお願いすることになるかもしれません。」

「構わんよ。

 しかし、お前も気付いとるじゃろうが、お前が実験しとる絵面がとんでもないぞ。

 わしの家以外ではやらんほうがええ。」

「はい、分かっております。」


こちらの世界でセメントみたいなものがあったのは把握していたけれど、想像していたより破格に安く、おそらくどこかの異世界転生をした人が巨万の富を得たであろう量産方法で量産していると思われる。

ただ、ミキサー車というかそもそも燃料を動力とする車自体がないので、『生産工場まで引き取りにいった場合は激安』という表現になる。

つまり、商人としては荷馬車で運ぶだけで利益になるのだが、舗装がしっかりしていない道でまとまった量を運ぶにはリスクも大きい為、少量ずつ荷馬車や大八車で運ぶことになるのだ。

アグリア商会はそこに商機を見出し、生産工場の近くを通る商材搬送の際には、搬送先で購入する資材を減らし、セメント生産工場からセメント袋を載せて持ち帰り、倉庫の在庫を確保しており、アグリア商会は倉庫から現地へのセメント運搬、現場での混錬、コンクリート化、打設までを一つのパッケージとして建設物やインフラの一部に提供していた。

しかし、アグリア商会ですら化石燃料は一切在庫もないし取引もないと祖父から聞いた。

100年前から異世界転生者が数多くいて、燃料になりそうな石炭も石油も見つかっていないなんてことはあるんだろうか?

ひょっとすると、化石燃料になる前にEXP粒子になっているのだろうか。

逆にEXP粒子を動力代わりにした車が作れないか、専門家であるアーティファクト技師に聞いてみたいところだけど、それは手土産を用意して商会頭に紹介してもらいたいところだ。

しかし、車が作れたとなると、今度は舗装が気になる。

馬車の車輪にゴムタイヤがついているのを見た時はシュールだな、とは感じたけれど、

いくらゴムタイヤはあってもドロドロの土舗装の道の上を走るのは危険だ。

そしてインフラ、特に上下水道、舗装はとんでもなく費用がかかる事業なのだから、領主へ上奏できる人物であり、利権を引き受けることになる商会の主に恩を売る意味はあるだろう。


「アグリア様に提供するということだったが、良い選択じゃと思う。覚えもよかろう。

 お前は優秀過ぎるな、怖いくらいじゃ。老練の開発者ですらお前には劣るじゃろう。

 わしはお前の将来が心配だよ。

 一体、どのような知識と技術があればこのようなことが可能なのか、わしには分からん。

 お前の兄や姉も優秀ではあったが、3歳でここまでの事が出来る子供は聞いたことがないからの。

 ・・・わしからは何も聞かないし、お前も言う必要はない、お前はただの可愛いわしの孫じゃからの。」

「ありがとうございます、お爺様。

 次は何を教えていただけるのでしょうか。」

「うぅむ、わしから教えられることはもう余りないのじゃ。

 この半年でお前は私が教えられることは一通り覚えてしもうた。

 まだ数か月は現在教えていることの続きがあるが、ただ情報を教えるだけじゃから、

 新しいジャンルの勉強の話ではない。

 逆に、お前は何が知りたいかのう?

 わしやレナルトで調べられることであれば、教えられるようにわしが調べてやってもよいぞ」

「本当ですか、お爺様!!私、知りたいことや、やりたいことがたくさんあるんです!!」

「おぉ、おぉ、よし、よし、お前の為ならば、わしが出来るだけのことはしよう。

 金銭的な問題やらで叶えられないものもあるかもしれないが、わしのへそくりも多少はある、言ってみなさい。」

「お父様のお話で聞いたことがあるのですが、お父様のお勤め先であるアグリア商会で、ご領主様と時折、レアアーティファクトの取引を行われておりますよね?

 とても高額なのは理解しておりますので、欲しいとは申しません、もし在庫しておられるレアアーティファクトがあったら、一度現物を拝見したいのです。

 そしてできれば、手土産を対価にアグリア様の紹介で技師様にお会いしたいのです。

 できますでしょうか?」


アーティファクトとは、EXP粒子を特殊な技法で抽出した結晶、EXP結晶をはめ込んだアイテムの総称で、主に武器や防具、アクセサリーや服、果ては裁縫道具や大工道具にもなっている。

アーティファクトは需要が供給を大きく上回っており、EXP粒子をEXP結晶に加工できる職人は引く手数多で、高給取りであり、憧れる者は多いらしい。

但し、専門職のジョブ・クラス・スキル・アビリティを取得した者でなければならず、製品の出来は適正や才能の影響もかなり大きく作用し、しかもそれが商品価値に直結する為、安価な通常のアーティファクトは使い捨てや簡易な物、高価なレアアーティファクトは軍人の使用する武器防具、王族や貴族様の使用するアイテム、といった感じで住み分けされている。

私が見たいのは、高価なレアアーティファクトの方だ。

現在、最も高値で取引されているレアアーティファクトの製作者は、まだ年齢は16歳くらいらしいが、ベテランの職人を大幅に上回る性能のアイテム製作に膨大な数を成功している。

異世界転生者の申請もして国内有数の工房で働けるよう保護を受けているらしく、その工房のある、私達のいる地方都市に住居を構えて住んでいるらしい。

そして、「製作に集中したいから」という理由で取引先と直接取引しようとはせず、信頼関係を築くことのできた父の勤める商会にしか卸さない方針らしいので、商会側はオークションや注文があった際に応えられるよう、製作されたアーティファクトは全て一旦買い取り、常に数点は最上級のレアアーティファクトを在庫しているはずだった。

祖父は書類を机に置き、あごのおひげをしごきながら、天井を見つめた。

祖父は考え事をするとき、天井を見つめる癖があった。


「レアアーティファクトか・・・。手が出ないレベルの高値なのは間違いないから、流石に買い取りは厳しいからのう。

 持ち帰ることはできんじゃろうが、種類を問わなければ在庫は多数あるじゃろうから、在庫品を商会に見学しに行くことは可能ではないかのう。

 アグリア家の方々は寛大じゃし、在庫品を見るくらいのことで何か言うほど狭量ではなかろう。現当主のアグリア様にお伺いしてみよう。

 技師殿に紹介していただけるかは、交渉してみなければ分からんな、特にヴァーナント殿は対人関係を厭う方だと聞いたことがあるから、部外者の子供と会ってくれるかは分からん。

 他には何かあるか?」

「クラスを取得して、スキルやアビリティを手に入れたのですが、効率の良い鍛錬方法を知りたいのです。

 難しいでしょうか。」

「3歳でクラスを取得・・・。分からん、大抵の者はクラス取得は14歳頃だ。14歳であれば苦も無くクラス取得できる、という情報は分かっているが、3歳で取得したものを正当な理論のもとで鍛錬している私塾などは調べたことがない。

生まれながらにクラス取得をしている者となると王族や特殊な血統の神官の一族くらいだと思うが、一度調べてみよう。それでよいか?」

「はい、ありがとうございます、お爺様!!」

「アーティファクトは見目も美しいし、商品価値も高い物だから、どんなものか興味を惹かれて見たがるのは理解できる。

 しかし、クラスやスキル等は鍛錬してどうするつもりなんじゃ?

 お前はまだ3歳、クラスやスキル、アビリティを取得してもレベルが上げられないのではないか?

 スキルを使用する為の気力は体格に比例すると言われておるから、まだ消費の激しいスキルはスキル自体が使用できない可能性が高い。

 それに、基礎体力や体格に劣る女では、急いでも将来的に壁があるから、同年代の者に先んじることはできたとしても、上限はどうしても男に一歩譲ることになるぞ。」


祖父の言うことは正論だ。

一般的には、祖父の言う通りであり、祖父の所有する蔵書に書いてある理論でも、確かに子供にはスキルを使用するための絶対的なエネルギーが足りないらしい。

EXP粒子を体に蓄える為のタンクが体躯に比例して大きくなる為、子供では体もタンクも小さい為だと言われている。

一般的には12歳頃から14歳頃の体格になって、ようやくスキルが有用に使用可能になるので、クラスを取得するのはその年頃で良い、という流れらしい。

であるのだから、スキルが使えないのなら、本当はクラスを取得する意味がない。


「私は、大きくなったら、家業である商人という職に必ず就きます。

 クラスは別としても、職としての商人とは、基本的には戦闘専門職ではないので、女であってもやりようはあると思います。

 鍛錬したいスキルがあるんです、お爺様。

 『鑑定』スキルは、必ず商人として役に立ちます。『鑑定』であれば少ない気力でも発動できます。

 そして、女であることを差し引いても、クラスとスキル、アビリティは早く取得することに意義があります、まだ具体的には言えませんが、実現したいことがあるんです。」

「『鑑定』か、わしらも初歩スキルとしては取得しておるから、アドバイスはできる。

 クラス取得ができたのならば、スキル補正もあるじゃろう。

 確かに、商人としては、『鑑定』は役に立つ。商品価値を鑑定するのに、経験や見た目だけでは分からないことも、『鑑定』スキルを通せばより正確に鑑定することができるからな。

 わしもレナルトも最初に取得したスキルじゃ、その選択は間違っておらんぞ。

 お前は優秀じゃから、何か難度の高いスキルを求めるのかと思っておったが、『鑑定』とはの。」

「『商人は高品質の物を安く買い、高く売ることで儲けを得る仕事である』、とお父様からもお爺様からも教えられています。

 であれば、経験の浅い私が商品価値を知る為には、まず『鑑定』系のスキルを磨かなければ、仕事になりません。」

「なるほど。他の授業は、遅れて支障のあるものではないし、早速だが本日午後からわしが専門家にアポイントを取って話を伺ってこよう。わしから必要そうなことは聞いておくが、何が聞きたい?」

「私もついていくことはできないのでしょうか?

 原理について、直接、詳しく掘り下げてお聞きしたいのですが・・・。」

「すまんが、それはおそらく色々な意味でダメじゃろうな。

 まず、お前は3歳児じゃ。

 専門家が3歳児からクラスやスキルについての質問があったとしても、真剣な説明が聞けるとは思えん、逆にお前を子供扱いしてあしらうか、不審がって様々な詮索を受けることになるだろう。

 孫バカだと思われても、爺一人で行った方がまだ建設的な意見が聞けるじゃろう。

 そして次に、お前は賢すぎる。

 わしはまだいい、お前は可愛い孫娘だから、お前がわしより優秀なことは嬉しくて仕方がない。

 自分が教えていたはずの授業で、齢3歳の孫娘の可愛い可愛いお前から受けた質問に答えられなかった時の驚きと嬉しさは、お前の想像以上のものだぞ。

 だが、もしその専門家が3歳児のお前に言い負かされた場合は、先方にとってもお前にとってもいい未来は待っていない。

 寛大な人間であればよいが、専門家やら研究者というものは、何年、何十年と同じことをやってきてようやく結果を出しているものだ。

 それが3歳児に覆されたり、3歳児の質問に正確な回答をできないと相手が自覚したりすると、先方のプライドはズタズタになる。

 為になる話もできず情報も引き出せず、激昂されて放り出された上にあらぬことを言われる。

 最悪は、心が壊れる。先方の家族にも不和が生まれる。妬まれ、お前が危険な目に遭う可能性もある。

 必要と思われる原則、原理をわしが確認し、後はお前が自分で研究した方が身の為だ。

 前にも言ったが、お前はもう少し、自分の評価を改めなさい。

 そして、表向きは、年齢通りを演じていること。

 その演技は必ず将来に役に立つ。いいかね?」

「分かりました、お爺様。全てお任せ致します。過分な評価、ありがとうございます。」

「過分ではないぞ。」


祖父は私を抱き上げ、もじゃもじゃのひげをスリスリしてきた。

もじゃもじゃしているが、私は祖父のこの行動がとても好きだった。


「お前は、我が一族の最高傑作になるじゃろう。

 この国でも有数の女傑になる、間違いない。

 わしが保証してやる。

 お前の為ならば、わしは全てを投げ出しても構わんぞ。

 いい夫と結婚し、ひ孫まで抱ければ言うことなしじゃが、つまらん男に捕まってはかなわん。

 男を見る目も養ってもらわねばな。そこはお婆様を頼るといい。」

「ありがとうございます、お爺様。大好きです!」



その日、祖父はアグリア商会の会頭、現当主様からレアアーティファクトを見学する許可をいただけたとのことで、翌日、祖父母引率、お手伝いの叔母と私を加えて4人で、父の勤めるアグリア商会に訪問することになった。

うきうきしながらアグリア商会に向かう馬車の中で、祖父から色々な注意事項の説明があり、不備があっては自分にも家族にも悪評がつく、それではいけないので私もしっかり覚えよう!とメモを取った。

商会に到着しました、と馬車の御者さんから声がかかり、馬車の荷台から降りた直後、祖父が目を見開いて静止した。


「あなた、どうされました?」

「こ、これは・・・何故・・・。」

「珍しいですわね、あなたが口ごもるなんて。我々親族の3人しかいないのですから、

 はっきりとおっしゃってくださいな。」

「フミフェナ。まずい。引き返した方が良いかもしれん。」

「馬車に戻りますか?一体、何があったのでしょう。」


冷や汗を流すかのような表情の祖父は、しかし馬車を降りてから視線を動かすことはなかった。

祖母も叔母も、私もよく意味は分からなかったが、祖父にしか分からない何かがあったのか。


「いや、やはり、行くしかないか・・・。

 フミフェナ、この爺から離れるでないぞ。大変なことになった。」

「どうされたのでしょう?目に見える限りでは、何もないように思いますが・・・。」

「お前にはまだ経験が足らんだろうから教えておこう。お前にはEXP粒子の事も教えた。

 理解できるとは思うが、EXP粒子は『存在としての死』を迎えた存在が、内包していた粒子をほぼ全て放出する際に目視できる。粒子の吸収、貯蓄の技術も教えた際にお前も見たはずじゃよ。」

「はい。おっしゃる通りですが・・・。」

「実はEXP粒子は、『存在としての死』を迎えた際の放出量が最も多い、というだけで、日々、生物からも生物でないものからも微量に漏れ出ておるのじゃ。」

「それも以前、お爺様からお伺いしたかと思いますが・・・漏れ出た粒子から何かが分かるのですか?」

「まだ教えていなかっただろうが、今が最も分かりやすいじゃろう。

 目を凝らし、集中し、EXP粒子の濃度の濃い部分を探してみよ。」

「・・・?」


目を凝らして、蒼き粒子と呼ばれるEXP粒子を探す。

空気中にかなり淡く、かなり小さなホタルの光が飛んでいるような感じではあるが、極端に言うと、工事現場で舞う石綿のような物で、飛散している空気中には一定の密度で浮かんでおり、キラキラしているので、濃度の濃い部分はある程度練習した人間であれば分かる。

少し目を凝らすとすぐに分かった。

商会の門の前が、ホコリだったら通り過ぎる際に目を閉じて口を覆うだろう分量の粒子が空気中を漂っている。


「こ、これは・・・。何故こんな濃度に・・・。こんな濃度は見たことないです、お爺様。」

「分かるのかい、フェーナ?すごいねえ、おばあちゃんにはさっぱりだよ。」

「婆よ、フミフェナを侮ってはいかんぞ。

 この子は最早、齢3歳にして、そこらの12歳やそこらの男子をも上回る優秀さだわ。

 いや、それは置いといて、じゃ。

 これは通常には有り得ん濃度だ。

 これほどの粒子を垂れ流すことなど、普通の人間には不可能なことだ。

 つまりはどういうことだと思う、フミフェナ。」

「普通の人間には不可能な粒子放出量が漏れ出るほどの粒子保有者が、商会内に入られた、ということですね。

 お爺様は私よりもより詳しくご存じのようですが・・・。」

「その通りだ。以前に語り聞かせたことがあろう、戦貴族の誰かがおそらく訪問されておられる。

 昨日、ゴーベルト様は何もおっしゃっておられんかったから、おそらく唐突な訪問じゃろうな。

 アグリア商会にとってはままあることじゃが、今日、このタイミングとはな・・・。」

「お爺様、ご無理はなさらないでください、お父様の雇い主のアグリア家にご迷惑は掛けられません。

 私のわがままだったのですから、私が引けばよいお話だと思います。」

「違うのじゃ、フミフェナよ。問題はそこではない。

 馬車を降りた瞬間から、先方から既にターゲッティングされておる。

 つまり、先方から『こちらに来い』と命令されておる状態なんじゃ・・・。

 そして、門前の粒子濃度は異常じゃ、これはおそらく何らかの意図で故意に放出され、残留しているものじゃ。

 わしは戦闘系のスキルは詳しくないが、あそこまでの濃度であれば、遠隔で攻撃系のスキルが発動できるかもしれん。」

「と、いうことは・・・。」

「入るしかないが、待ち伏せされておるということじゃな。

 誰が、どういう目的でそうしておるのかは分からんが、何か嫌な予感がするのう・・・。」

「スヴェル様、奥様、フェーナ、先触れは出してますけど、とりあえず私が門前に取り次ぎをお願いしに行ってきます。何かあった際は・・・。」

「すまぬが頼む、レアナ。

 ゴーベルト様に何かあったのでもなければ、我々に何かあるとは思えんが・・・。」


叔母、レアナは美しくスタイルもいいアラサー女子で、3人の私の従兄弟の母親だ。

祖父と同じく、私には非常に多くの愛を注いでくれた。

この美しくも優しい叔母に何かあったら困る。

どうするのがいいだろう、と考えていたところ、門の扉が内側から開かれた。

門前に美しい花が舞ったのか、とでも感じるほどの何かの輝きを感じた。

あれはきっと、EXP粒子の輝き。

門を開き、その人物が歩いただけで高濃度のEXP粒子が活性化され、淡く蒼く光り、花開くかのように輝いたのだ。


「やぁ、君がフミフェナかな?

 初めまして、アキナギ・グレイド・ヒノワです。」


そう言って、手を差し出してきたのは、美しい灰色の髪をした、私よりも少しだけ年上の女の子だった。

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