16話 レギルジアの歓喜
「フミフェナ・ペペントリアと申します。
貴女様がアキナギ・ホノカ様でよろしかったでしょうか?」
徒歩でレギルジアに向かったが、あまりにも遅いと往路のあの速度は何だったのだ?となりそうだったので、移動時間は30分程度で済ませ、寄り道もせずにホノカの待つレギルジア北門に到達した。
討伐証明部位を包んだ袋は、私の肩の高さより少し長いくらい・・・あるかないか。
サンタさんか?と言うような球のような袋になってしまったが、中身の重量はおよそ100㎏程度と、袋の体積の割には比較的軽い。
ほとんどダークエルフの魂の結晶体で、袋に入らない分は後々回収するつもりで、現地に『罠』と共に埋めてきた。
魂の結晶体は褐色のクリスタルで、大きさは一様に同じで、概ね6㎝くらいだが、重量は1個100gもない。
この袋の重さのほとんどはキメラ等の爪や牙、毛皮などだ。
まぁ中身のことはおいといて。
レギルジア北門前で私を出迎えたのは、アキナギ・ホノカと、領主スターリア、統括委員会副委員長アンドレアス、その筆頭書記官であるアンドレイの4人。
こちらは一方的に容姿や名前など大まかに知っているので間違えようがないが、いきなり確認もせずにハイ、と渡したのでは不自然であろうから、ホノカに一応確認を取って、袋を手渡そうとした。
したのだが、4人が4人共、私を見た瞬間から目を丸くしたまま、動く気配がなかった。
・・・連絡していた戦士がこんなに小さい幼女だとは思わなかったとか、そういう何かかな。
「あの、連絡しておりました、守り神級の魔物『ツインテール』及びその配下全ての殲滅の件で、報告に参りました。
こちら、討伐証明になりますので、中身をあらためていただけますでしょうか。」
「は、はい!
ご確認させていただきま・・・うッッッ・・・!?」
「あの・・・?」
「申し訳ありません、少し、重量に驚いてしまいました。
確かに、お受け取り致します。」
「はい、宜しくお願い致します。
・・・ところで、こちらの方々はどちら様達で・・・?」
明らかにホノカを含めたこの4人は、戦時態勢に入った者たちの装いであった。
スターリアは貴族らしいもっとギラギラした宝飾品のついた質のいい服を常時着こなしているはずだが、見た感じチェインメイルの上から魔獣か何かの上等な革が張られた黒いオシャレでありながら防御力は高そうな革鎧を付けている。
アンドレアスとアンドレイについては完全にそういったものとは無縁だろうと思うが、安くはないであろう同じくそこそこは防御力はありそうな革鎧をつけている。
ホノカについては、一応戦闘態勢で待機してほしいと伝えてはいたので、戦貴族らしい上等な胸部を守る金属プレートを着物のような戦闘服の上に付け、右手に薙刀、背中に弓を装備していた。
討伐完了の報告をしたのに、完全には信用されなかったんだろうか?
どう見ても戦闘態勢だ。
・・・まぁホノカ以外はものの数ではないし、ホノカについても個人でどうとでもなる戦力であることは既に確認済みだから、脅威と呼べるものではないけれど。
あまり移動中にこちらに耳を傾けていなかったので、彼らの会話等は盗聴しているにしても録音内容を確認してはいなかった為、思惑は分からない。
目を伸ばしてみると、門の内には、深夜だというのに儀典兵が慌ただしく整列しているのを感じる。
儀典兵なので歓待しようとしているのだと思うけれど、この4人は一体どういうつもりの武装なのか。
私を迎え撃つものではないようには見えるので、どういう意図かでの私の出迎え用だろうとは思うけど。
まぁしかし、深夜2時・・・3時に近い時間だというのに、儀典兵を動員するなんて面白いことをするものだ。
というか、儀典兵は私が出発してからでよく集められたな・・・。
私のせいで領主からたたき起こされて可哀想に。
ホノカが袋の中身を一通り確認し、門の中の侍従に手渡すと、再びその4人が綺麗に整列する。
全員、目配せをしたかと思うと、地に膝を付き、ババッと擬音がなるくらいの勢いで、見事なフォームの土下座をする。
儀式めいた動きで、とてもではないけどただの戦士への慰労とは思えない。
「フミフェナ・ペペントリア様。
お目にかかれて光栄でございます。
衛星都市レギルジアの都市長兼領主スターリア・モルト・レギルジアと申します。
ホノカ殿から状況はお聞きし、貴女様をお待ち申し上げておりました。
当都市を、守り神級の魔物とその軍勢から、都市存亡の危機からお救いいただき、ありがとうございました!
都市民を代表し、私から重ねてお礼を申し上げます、本当にありがとうございました!
お疲れでしょう、我が館においでいただき、是非歓待させていただければこのスターリア、至上の喜びでございます。
もし御逗留いただけるのであれば、我が館で最大限のおもてなしをさせていただく所存でございます。
今晩は是非、我が館でお休みくださいませ。
明日、もしお許しいただけるのであれば、明晩、歓待の宴など催したく存じますが・・・。」
「あの、とりあえずそういう宴はちょっと・・・所用が済みましたらカンベリアに戻らないといけませんので。
討伐証明部位の確認が済むまでは、時間もかかると思いますし、ヒノワ様からもご領主様の屋敷で待機するようにとも指示をいただいておりますので、お伺いさせていただきます、よろしくお願い致します。
ですが、その、みなさん、ほんと土下座はご勘弁下さい。
私は『来訪者』であり、見ての通り、身分も立場も一般市民です。
『ツインテール』の討伐は果たしましたが、ヒノワ様から賜った任務ですので、そんなに畏まられては逆に気が滅入ってしまいます。
それに、ご存知ではなかったかもしれませんが、私はこの都市に生まれてから昨日までお世話になっていた身で、家族もまだこの都市にいるのです。
アグリア商会という商会にお世話になっているのですが、アグリア商会という名前をご存じありませんか・・・?
思わぬ形で1日離れただけですぐ戻ってくる形になってしまいましたが・・・これら全て、ヒノワ様のご厚意でございます。
『ツインテール』討伐に感謝していただけるのであれば、ヒノワ様に感謝をお伝えください。
私一人に『ツインテール』討伐を任せることに反対の声もあった中、私を信頼して派遣のお願いを許可してくださったのは、ヒノワ様です。
ですから、皆さんにそこまでへりくだられる謂れがありません、本当に立ってもらえませんか・・・。」
「いえ、そういう訳には参りません。
アンドレイ。」
「はい。
お初にお目にかかります、アンドレイ・クレーニヒと申します。
先ほど、女神ヴァイラス様・・・我らが都市の庇護者から、御神託がありました。
『私がこの都市を庇護したのは彼女がいたからであり、彼女は我が庇護を最も受けし、福音の巫女である。
彼女は今後、この私の巫女として我が恩寵の基点となる。
全て彼女の身を介する故、彼女を害した場合はこの都市には破滅が訪れる旨、心せよ。』、と。」
「は、はぁ・・・。」
アンドレイの言う言葉は確かに私がヴァイラスとして彼らに言った言葉と一言一句違えていないけど、なんとなく誤解を生んでいる気がする。
失敗したかもしれない。
が、私を無理に引き留めた場合、最終的にどういう結末が訪れるのか、彼らが理解しているのだと思えば、話は早いとは思う。
カッコいいから巫女って言ってしまったが、この場合の巫女って権能持ってるわけじゃないから中継器であって神職じゃないんだし、自由にはさせてほしいところだ。
『赤目』を探すついででレギルジア周辺はかなり広い範囲を走査したが、魔物の質は高くないし、レベリングには向いていない土地であることも既に確認済み。
ずっとレギルジアにいてくれ、と言われそうな予感がするが、どれほど好条件を出されたとしても、レベリングが順調に進捗しないという意味で、個人的にそれは無しだ。
「私はアンドレアス・カーディガーと申します。
勿論、我々には貴女様を害する意思など皆無でございます。
又、単独で守り神級の魔物及び数千の魔物を討伐された貴女様の戦闘能力を鑑みるに、
貴女様を害する能力のあると思われる者も、この都市にはおりません。
・・・今回、レギルジアの未曾有の危機を前に、都市に被害が及ぶ前に未然に救っていただいた救世主であり、女神ヴァイラス様の福音の巫女でもあられるフミフェナ・ペペントリア様を、歓待せずに迎えるなど、都市を統括する立場の者としても認められませんし、同時に女神ヴァイラス様の信奉者である我々の信心が許せません。
どうか、我らに貴女様の一宿の床を提供させてください。
我らの信心をお受け取りいただきたく思います。
願わくば、我らレギルジアの民に変わらぬ恩寵の御下賜をいただきたく・・・。」
「ご連絡させていただいていた、アキナギ・ホノカです。
フミフェナ様、どうか、我らの願いをお聞き届けください。
女神ヴァイラス様は、最早我々にとって、それほど大きな存在なのです。」
「「「「お願い致します。」」」」
「女神ヴァイラス様から未だ多くは聞いてはおりませんが、女神ヴァイラス様の恩寵についてはおそらく私を歓待してもそうでなくても変わりないかと思います。
女神ヴァイラス様が『やるな』といった事さえ避けていただければ、ですが。
どういった『女神の鉄槌』が下されるかは皆さんがよくご存じと伺っておりますので、その辺りだけご注意いただければ。
こんな時間ですし、皆さんお待たせして申し訳ありませんでした、ご招待いただけるということなので、とりあえずご領主様の御屋敷にお伺いさせていただけますでしょうか・・・?」
「おぉ!!
ささ、フミフェナ様、荷物などありましたら我々が運びますので、どうぞこちらに!」
スターリアが合図をすると、バーン!とレギルジアの大きな門が音を立てて開かれ、中にいた儀典兵は儀典用の旗付きの槍をババッと掲げて迎えてくれた。
スターリア、アンドレアス、アンドレイ、ホノカの4人は、私より前を歩く気が一切ないようで、前へ前へ!と誘導してくるので、私が先頭になって歩くことになったが、絵面があまり宜しくない気がする。
儀典兵は流石によく教育されているようで顔には出さないみたいだったけど、おそらく私が儀典兵だったら「領主を後ろにして先頭を歩くこの幼女は誰だろう?」と思うだろうな。
はぁ、これ、ヒノワ様に怒られなかったらいいけど・・・。
領主の館についたら、お風呂借りてそのまま一眠りして、朝ご飯頂いたら出発かな?
ナインの所に寄ってから、カンベリアに帰るとして・・・。
あれこれ時間の段取りを考え、領主の館に着いたところで、一度彼ら4人と分かれ、メイドさんに案内され、用意された部屋に通された。
ヒノワ様とナインに現況の連絡を入れ、明日の予定を確認し、いくらかタイムスケジュールを考える。
ヒノワ様は「フェーナは自分の仕事をもう終わらせた。カンベリアはフェーナがいなくてもどうにでもなるから、ゆっくりしてくるといい」、と言ってくれたので、少しゆっくり検討しよう。
ナインは「変わらずずっと工房にいるから、時間があるなら寄ってくれると嬉しい」とのことなので、ここを離れたら先にナインの所に行ってからアグリア商会にも顔を出そうかな。
ただ部屋の中で考えるのもあれなので、領主邸の大浴場を利用させてもらいながら考えに耽る。
たまにはいいけど、大きすぎるお風呂とはやはり落ち着かない。
部屋に戻ったところで、付いてくれていたメイドさんに7時に起きるって領主様に伝えておいてね、とお願いし、扉を閉めてからフワフワのベッドにダイブした。
やはり急激なレベルアップの疲労はかなり私の大量を削ったようだ、ベッドに吸い込まれるように意識が沈んでいくのが分かる。
明日は、何を、しよう、かな・・・。
「フミフェナ様はお休みになられたか。」
ホノカ、スターリア、アンドレアス、アンドレイは領主邸の一室に集まって、今回の『ツインテール』襲撃事件の件について、たった4人だが会合を開いていた。
フミフェナの出迎えの前までは、『ツインテール』の軍勢に対する対策本部を設置していた為、統括委員会のメンバーや都市の重鎮、防衛戦力の要などでほぼ満席だったが、彼らはもうここにはいないので部屋はスカスカだ。
広い部屋を持て余しているが、都市の現況や『ツインテール』の軍勢の位置等を記載した地図や資料も置きっぱなしだったので、彼らは片付けたり整理する手間を省く為に4人だけそのまま戻ってきたというだけだが。
1時間半前は、絶望的な戦況に戦々恐々としながらも、各方面の代表者達は覚悟を決め、何を捨てて何を残すか、それらをどう、どこに避難させるのかなどの“逃げ”の対策を大急ぎで検討していた。
何せ、ヒノワからホノカに緊急を要する連絡が来るまで、レギルジアを統括する統括委員会、領主、そして逗留しているホノカを代表とする『灰色』から派遣された戦貴族の兵は、『ツインテール』どころか、その配下の数千にもなる敵勢が前線を抜けて近づいていることを知らなかった。
魔物の足で20分もかからず到着できる森に、守り神級の魔物が率いる数千の魔物が潜んでいると知らされた時には、皆しばらく真実ではないと思ったくらいだ。
都市の周囲を索敵する者達の怠慢でないことは、前線を担当するカンベリアやその周囲の索敵を担当する警戒網から一切連絡がなかったことから考えても間違いない。
敵勢は何らかの方法で完全にヒトの索敵を掻い潜り、レギルジアまで辿り着いたのだ。
だが、索敵担当の部署の人間に落ち度はなくとも、ヒトよりも足が速く、そして圧倒的に個体として強力な魔物にそこまで近づかれると、最早全市民の大規模な避難は不可能。
となれば、その段階から取り得る戦略とは、大事なモノ・・・ヒトの文明として必ず残さねばならない人、宝物等のみを都市の強力な戦力で守って逃がし、残りは救援を待ちながらこの都市で敵勢を食い止める、という消極的なものしかない。
・・・言い方を変えれば、それは最も強い戦力と最も重要な者を都市外に避難させ、代わりにこの都市は残りの絞りカスはここに留まり、他の都市へと敵勢が散らばらないよう生き餌となる。
救援が敵勢を滅ぼすまでひたすら防衛に徹し、ヒトの存続の為に殉じる、というものだ。
つまり、都市としての命運は最早尽きており、その戦略は都市壊滅が前提と言っても過言ではない、ということを彼らは理解していた。
都市を運営する側である彼らにとっては苦渋の選択ではあるが、致し方ないという思いで皆共通していた。
何故なら、その時点で都市に被害を受けずに取り得る全ての対策が、間に合わないからだ。
救援の本命であるはずのカンベリアからの派兵については、ヒノワからの話では守り神級の魔物3勢力から集中攻撃を受けている最中であることも伝えられ、そちらが落ち着くまでは守り神に対処可能な強力な戦力の派兵は厳しいとのことだった。
そして、第二に望まれる『灰』の領都本軍からの救援も、早くとも明後日以降の到着になるだろう、ということも合わせて伝えられていた。
レギルジアに駐留する戦力では、明後日どころか明日の朝まですら耐えることなど不可能であることは、戦力差を見れば子供でも分かるほど明白だ。
皆、諦めの感情を持っていた。
己の命だけではない、己の家族、愛する人々、親しくしていた者達、それらすら守れない状況の中で、限られた人間だけを選択し、彼らを守って避難させることしかできない。
いや、最悪、それも叶わないかもしれない。
だが、悲嘆に暮れ続けるわけにもいかないのが、都市を統率する立場を有する者達の責務だ。
自分達はヒトを守る為に戦える分野で戦うしかない、という覚悟を決め、都市を統率する者であれば、率いる者達を守る為に戦うのだ、と意思を固める者達ばかりだった。
ホノカがヒノワと通信で連絡を取っている際に出た話は他にもある。
カンベリアからヌアダ・ヒノワや戦貴族直系の強い戦士の派遣は難しいが、フミフェナという女性戦士が救援に向かいたいと希望していたので許可したから、彼女に最大の配慮を頼む、ということも伝えられた。
その話を聞いた会議場にいた者達は、その戦士の勇気に、自らを捨て石とした遅滞戦闘を買って出てくれた戦士に感謝し、いくらかの者は歯噛みし、または落涙した。
カンベリアが主要な戦力をこちらに出す余裕がないことは理解できるし、軍勢でなく足の速い強力な単騎であるのならば、敵勢の動き次第で間に合ってくれるかもしれない。
命を捨ててまでも、都市のために時間稼ぎをしてくれるという戦士が、今こちらに向かってきてくれている。
緊急時ではあったが、その場にいた者達は数秒、その戦士に感謝と哀悼の黙祷を捧げる。
その戦士の死を無駄にしてはいけない、と心に決めて。
その後、急いで避難すべき者達をまとめ、護衛に就く者達の指揮を執る者を決め、それ以外の者はこれから死を迎える覚悟を決めよう、誰が死んでも生き残っても悔いなく、と一旦解散する決議が下された。
・・・が、その決死の決議の直後、女神ヴァイラスが降臨し、会場は騒然とする。
彼の女神から、都市の危険が去ったことが告げられ、会場は歓喜に沸いた。
そして、発令されていた緊急事態の宣言・警報は突如解除されることになったのだ。
会議場にいた者達は全て、レギルジアという都市・数多の命・数多の財を失わずに済んだことを、その戦士に、その女神に感謝の言を述べ、膝をついて祈りをささげた。
そして、女神ヴァイラスは、レギルジアの危機を救い、これから都市を訪れる女が、自らの巫女であることも、アンドレイの言の通り、この場にいた者達に告げた。
いつもと同様、彼の女神は多くは語らないが、その言葉は基本的にそのままの意味で用いられ、虚偽や拡大解釈の余地のない言葉であると考えた方がいい。
つまり、恩寵の基点となるという言葉は、含みを持たせた表現なのではなく、言葉通り『彼女の身体が基点となって都市への恩寵が下される』のだろうし、彼女を害したら都市に破滅が訪れるというのなら、その言葉通りに『この都市の破滅する』。
だが逆に、フミフェナが都市に滞在し、その恩恵を現況に加えて更に下賜してくれるというのなら、この都市が更なる発展を遂げるのは想像に難くない。
緊急事態解除の報と共に、フミフェナのことは各方面でこの都市の危機を未然に防いだ大英雄だと、瞬く間に広がるのは間違いないだろうし、おそらく都市の民達はその大英雄を讃えたいと思うだろうし、信心深い者は一目女神様の巫女に会いたいと願うだろうし、農家等の日々恩恵を受けている者達はひょっとすると恵みの結晶である実りを持って報いようともするだろう。
彼ら4人は語り合わずとも、4人共通願望としても、都市のこれからの発展の士気の向上の為にも、都市への恩寵の続行・・・可能なら更なる恩寵の下賜を願う為にも、フミフェナには都市に滞在してほしい、と考えていることを互いに理解していた。
だが、彼ら4人の頭を悩ませるのは、フミフェナの為人をまだ詳しく知らないことだ。
フミフェナは、女神ヴァイラス様の巫女である、ということを除いても、都市を救った救世主であり、大英雄である。
大英雄の戦功を都市を挙げて歓待することは、元々領主としての責務である。
功績への報い、そして都市の民達の信奉と願望、都市の発展、都市の守護者として望まれる十分以上の圧倒的な戦闘能力。
どれをとっても、レギルジアに留まって欲しいという結論しか、都市を統治する者達の発想としては出てこない。
だが、どういった性格で、どういったものを好み、どういったものを嫌悪するのかを知らない状況で、どう引き留めたものか。
それが彼らの喫緊の共通課題であった。
何せ、彼女の機嫌を損ねた場合、このレギルジアに下されている恩寵が失われ、場合によっては都市ごと破滅する可能性すらあるので、不用意に失礼を働くなど言語道断であるし、勝手に祀り上げて怒りを買ったのでは意味がないのだ。
彼の女神様は、まがい物の、ただ数だけの信仰を許す寛大さは持ち合わせていない。
彼の女神様は正確な情報伝達と真摯な信仰しか求めていないのだ。
「メイドから、就寝するから退室するように指示を受けたと報告がありました。
明朝・・・いや、もう数時間後ですか、7時には起床するので、そうスターリア様にお伝えしてほしい、とのことでした。」
「なるほど。
ウェルリー、フミフェナ様がその予定で起床されることを厨房、メイド長にも伝えておけ。
あと、この場にいる我ら4名も朝餉に同席する。」
「は、かしこまりました。」
「フミフェナ様の御嗜好は分からないが、高級品を好まれるか分からん、一般的な物に手を掛けて作るよう、重々念を押しておいてくれ、勿論、御嗜好が分かれば予算は捻出するので、すぐに手配するように。
アレルギーなどがあった場合にすぐ対処できるよう、異なる素材の物も用意しておきたいが・・・可能かどうか厨房に確認してくれ。
あと、先ほどおっしゃっていた話では昨日までこの都市の・・・アグリア商会に世話になっていたそうだ、昼餉以降にも御逗留いただける可能性もある、アグリア商会ならば会頭のアグリア・ゴーベルト氏が知人だ、彼にアポイントを取り、フミフェナ様の好物や嫌いな食品について、いや、それ以外にもフミフェナ様の情報についても教えを乞うてくるのだ。
もし情報料等を求められた場合は、費用の上限もつけん、必要なだけ応じろ。」
「了解致しました、すぐに手配致します。」
執事や事務官もバタバタと走り始める。
ただ、1時間半前の状況の時は蒼い顔をして走り回っていたが、今は良い顔をして走り回っている。
彼らとしても、自分達の命を、都市の命運を救ってもらった大英雄に給仕できるという大仕事に遣り甲斐を感じている部分もあるのだろう。
「ホノカ殿、フミフェナ様がお持ちになっていた討伐証明部位の袋の中身の確認の進捗はどうでしょうか?」
「ご領主殿、既に確認は済んでおります。
・・・というより、より明確に表現すると、確認作業すら要しない物でした。
この袋の中身は開けるまでもなく分かるほど、守り神級の魔物の討伐証明部位であるダークエルフの魂の結晶体の気配が濃厚で、これほど大量の、そして高濃度の類似する物はないでしょうから、間違いなく『ツインテール』一党の物であると証明できます。
これだけでも、そこらの貴族の全財産に匹敵するだけの価値がありますよ。
他にも、上位魔獣であるキメラの牙や爪、上位人工精霊フェアリーの羽根・・・間違いありません、全て稀少で高価な価値のある討伐証明部位のみが提出されています。
又、驚くべきことにこれらに無駄な損傷が一切ない。
あれだけの数の軍勢・・・しかも守り神級の魔物までいる軍勢であれば、乱戦は必至となりますから、剣、槍、弓、斧、徒手、術式いずれにしても、討伐証明部位に一切の傷がないというのは、通常考えられません。
我々戦士から見ると通常考えられない成果物である、と評する他ない。
これだけを見ても、フミフェナ様の戦闘能力は最早私の及ぶべくもないものだと立証できたようなものです。
残っている作業は、単純に数の確認と分類、品質に対して取り付けられる増額補正の額についての査定作業がいくらか、です。
それもおそらく半日ほどもあれば、終了できるかと思います。」
「つまりは、フミフェナ様は守り神級の魔物、準守り神級の魔物他、数千の魔物を討伐証明部位を傷付けないように気を付けながら、自らは傷一つ負わず、かつ一匹残らず殲滅するお力をお持ちだ・・・ということですか。」
「最も恐ろしい言葉をお忘れですよ。
ものの30分で、という言葉が。
・・・私も俄には信じがたいですが・・・。」
「・・・やはり、フミフェナ様は女神ヴァイラス様の巫女として、何かしら特別な力を授かっていると考える方が良いのではないか?
私からすれば、最早ヒノワ様やヌアダ様に匹敵していると言われても誤っているかどう
か分からん。
フミフェナ様は戦貴族の血族ではないのだろう?
だとすると、女神ヴァイラスの職権から推測するに、おそらく生命に関わる能力ではないか?と思うのだが・・・ホノカ殿から見て、フミフェナ様はどう見える。」
「・・・正直、フミフェナ様は、レベル的に見れば60には達していません。
よくいって55・・・厳密には『鑑定』しなければ分かりませんが、おそらく51~52ほどでしょう。
私が既にレベル100であることはご存知であると思いますが、レベルだけで見れば、フミフェナ様は私よりも・・・いえ、私の同僚や部下に比べてもかなり低いです。」
「低い、のか?
だが、フミフェナ様は確かにホノカ殿達総員でかかっても時間稼ぎが精いっぱいであると評した『ツインテール』とその軍勢を、単騎で討ち滅ぼしたのではないか?」
「はい、本来であればそのレベルでは、守り神はおろか、準守り神級の魔物にすら太刀打ち出来ません。
守り神級の魔物に至っては、本来、近付くことすら困難でしょう。
レベル100の私であっても、単独で挑めば、守り神級の魔物には確実に敗北します。
うまくやっても、私では死ぬまでに数太刀浴びせることができるかどうか。
そこに強力な軍勢が数千加わる、というのなら、守り神級のモンスターに近付くまでに死んでいることでしょう。
私やレベル100の戦士達が単独で守り神級の魔物が絶対に討伐できないのか、と問われれば、可能性はゼロではありません。
相性が抜群に良ければ勝てるかもしれませんが、基本的には討伐戦というものは、背水の陣を敷く必要性がないのであれば、勝率は90%を超えるほどに戦略・戦術を詰めてから出撃するのが常です。
損害をほぼ出さずに集団で対処し、こちらの戦力の摩耗を避ける、というのが定石だからです。」
「勝率90%とは、ほぼ勝てる戦しかないではないか。」
「魔物は倒しても倒しても、次々・・・それこそ絶えず、無限に湧き出るのかと思うほど沸いて出てきます。
ヒトは最前線で戦力となるほどの人材を失うと、補充の人材の充足が魔物よりもサイクルが遅いのです。
致し方のない損害はありますが、避けられる損害を拙い戦略や戦術によって被るのは愚の骨頂と申せますでしょう。
魔物を相手に戦を仕掛けて勝率50%では、その魔物の討伐が叶ったとしても、その次くらいまでは賄えるかもしれません。
ですが、それらを退けた後にも同様に戦は続きます。
いくつもある戦場で摩耗していけば、いくらか後には我々に滅びの道しかなくなってしまいます。」
「・・・むぅ、まぁ、それもそうか。」
「守り神級の魔物とは、低くともレベル180、場合によってはレベルが200以上になることも頻繁にあるのです。
レベル100が限界の人間では、いくら武器や技術が優れていても、単独では対処できません、下手をするといつ死んだのか理解もできぬうちに死ぬこともあるでしょう。
戦貴族の中でもトップオブトップであるヒノワ様やヌアダ殿は勿論、枠外であるので別として・・・通常はどれほど技術や能力を鍛えても、討伐可能な限界はレベル120~150程度の魔物まででしょう。」
「なるほど、そういうものなのか。」
「はい。
また、戦貴族を除いて、一般人であれほどの幼年でレベル50に達すること自体が稀少であるのですが、それは今回の件については大きな問題ではありません。
戦貴族の子女は、出生段階で概ねレベル40~60で生まれますので、0歳で既にフミフェナ様と同レベルである赤子が戦貴族に生まれることも有り得ます。
戦貴族以外では通常はありませんが。
ただ、フミフェナ様同様に幼年で高レベルに達する者が何処にも存在しないかといえば、稀ですが伝え聞くだけでも数例程度の前例はありますので、存在はしています。
フミフェナ様の身体にもおそらくその前例の方と同様の要因が存在するのでしょう。
ですが、いくら戦貴族の子女であっても、レベル50や60で守り神の討伐など有り得ない、ということが今回の一番の注目すべき点です。
まず守り神級の魔物をレベル50台で倒した、という時点で通常では有り得ないことでありますが、加えて、単独で『ツインテール』及びその軍勢数千を、30分程度で殲滅してしまわれた、というのは最早枠外というよりも埒外です。
下手をすると、色付きの戦貴族筆頭の戦士に可能な戦果を上回っている可能性すらありますから。
如何に早く立ち回ったとしても、『殲滅』というのは伊達や酔狂で可能な芸当ではないのです。
こちらが軍勢を率いて包囲し、端から磨り潰していったのなら納得できますが、単独で圧倒的強者を相手にしながら、数千の逃げ惑う者達を殲滅する、というのは不可能・・・なはずなのです、本来。
つまり、これは通常の戦闘行為による戦果ではない、ということを示唆していると私は考えます。
ご領主殿のおっしゃる通り、生命に関わる我々の想像を超える能力によって、彼の軍勢に死をもたらしたものだと推測します。」
「ホノカ殿の意見はもっともだ。
『ツインテール』討伐の件に関しては、最早フミフェナ様が女神ヴァイラス様の恩寵を仲介する巫女であること、そしてその恩寵を受けた神がかり的な戦闘能力は戦貴族の二つ名持ちに匹敵すること、この二つに疑いはないだろう。
ホノカ殿、我らは、フミフェナ様にどう報いれば良いと思う?
カンベリアに戻られるとのことだったが、我等レギルジアからはどの程度のことまでをしなければならないのか、私には前例がないので分からない。
全てヒノワ様任せとしてヒノワ様との間に軋轢を残す形となってはいけないし、かといってフミフェナ様にこのレギルジアに巫女として腰を据えていただく、というのも不可能だろう。
レギルジアの危機を未然に防ぎ、被害ゼロで事を済ませていただいたことにより、レギルジアは今日も明日も、昨日と同じ日々を過ごすことができる。
下手をすると廃墟になるはずだったこの都市を救っていただいた、という恩恵は、とてもではないが簡単に報いられるようなものではない。
人的・金銭的な意味でいうと、都市一つ丸ごとに相当するようなものだ。
膨大な報酬を持ってしかるべきではないかとおもうのだが、先ほど拝見した御姿や佇まいから察するに、金銭で満足される方ではなさそうに見えた。
留まっていただいて、最大の奉仕を行う。
何か望まれる物を献上する。
どういったものがこういう場合、適正なのだろうか。」
「・・・こればかりはフミフェナ様の意向を聞いてみなければ分かりません。
たしかに、巫女たるフミフェナ様がここレギルジアに留まられれば、おそらくですがこの都市は領都どころか王都に匹敵するほどの繁栄を迎えることになることは間違いないでしょう。
・・・私は戦士ですから、都市の運営には詳しくはありませんが、素人目に見ても、この数か月の女神の恩寵としか思えない様々な事象が存在するのは理解しております。
ですが・・・。」
「ですが・・・?」
「今回の件を経て、フミフェナ様の御都合だけでは、意味はないかもしれません。
今回の功績により、フミフェナ様はおそらく戦貴族の方々にもその存在を知られたことでしょう。
様々な身辺調査の方々や使者が訪れることでしょうし、おそらく調査の結果、情報が真実であったことが知れた場合、相当強く、その身を求められることになろうかと思います。
何せ、戦貴族の二つ名持ちの戦士に比肩する戦闘能力を、4歳にも満たぬ身で修得していることが判明しました。
戦貴族出身であれば、家名の問題もあり、様々な横槍は家が守るのですが、フミフェナ様はそうではありません。
ヒノワ様が囲い込んだとしても、テンダイ様が灰色旗下であることを強調したとしても「灰色の子供ではないのなら、我々にも交渉の権利はあるだろう」というような横槍を止めようがない、というのが正直なところです。
また、フミフェナ様も己の能力・戦績を隠すつもりがなかったようですので、今回の騒動が広まるのは、止めようがないでしょう。
女神ヴァイラス様に関わる件で、根も葉もない噂は流すことはできない、それはこの都市に住む者達にとっては常識です。
逆説的に、それがフミフェナ様の功績を証明していると言ってもいいでしょうし。
貴族も、戦貴族も、基本的には血統を重んじる傾向が強いとは言え、フミフェナ様ほどの優良なる母体、非常に美しい女性になられると思われる整った容姿、しかも現況誰の手もついていないほど幼い・・・若い女性ともなると、様々なところから引く手数多なことは間違いありません。
下手をすると王家すら側室・・・いえ、許嫁に、と介入してくる可能性すらありえます。
無理矢理お引止めすることにより、フミフェナ様を巡る様々な思惑や策謀が交錯する可能性もある、ということです。
・・・もしそれでフミフェナ様、いえ、女神ヴァイラス様の逆鱗に触れるようなことがあれば・・・。」
「なるほど、それはまずいな・・・。」
「正直、滞在を強いるのは、フミフェナ様が望まない限り、かの女神様の御怒りを買わぬよう気を付けながら過ごさねばならず、その方が恐ろしい、と私は思います。
ですので、フミフェナ様に納得していただけるだけの提案が不可能であれば、御引止めするのはやめた方がよろしいかと。
逆に、フミフェナ様を外から盛り立て、フミフェナ様の行動を支援・後援し、今まで通り、もしくはそれ以上の恩寵を授かれるよう立ち回る方が、より効果は高いかと思います。
フミフェナ様のご活躍が何十年続くのかは分かりませぬが、きっと殊勝に弁えたご後援申し上げる限りは、おそらく見限られることはないかと存じます。
ひょっとすると、神の恩寵を受けし巫女であられますと、寿命も常人よりは長いかもしれません。
であれば、スターリア様のご子息やその子、孫と、恩寵が続くよう、フミフェナ様に巫女として望まれて不足しないだけ、不自由ないだけのこちらからの誠意をお見せすることは重要だと思います。」
「うむ、それは、・・・確かに、そうだな。」
「ホノカ殿、横から口を挟みますが、よろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
「領主様、フミフェナ様のご家族や大事な人・・・ご友人がこの都市にいらっしゃると推察致しますが、その方々をこちらの館にお招きになり、フミフェナ様のお好み等について、詳しいお話を直接伺ってみてはどうでしょうか?
明朝、朝餉の後に私が招待状をお持ちして、お誘いする形とし、明晩にレギルジアを危機から救った大英雄たるフミフェナ様に連なる皆さまをおもねる宴を催すのです。
もしその際に、ご家族やご友人と共にフミフェナ様も同席したいとおっしゃられれば、明日の夕餉までご滞在なされるかもしれません。
その宴において、フミフェナ様の功を労い、ご家族やご友人に戦勝の内訳をお知らせしてはどうかと思います。
フミフェナ様から御了承がいただけるならば、ですが・・・。」
「なるほど、それは良い考えだ。
虚偽等は一切ないし、誇張も何もない、真実しかない正面の方策だ。
それならば、彼の女神様の教えにも背かんし、我々の気も収まる。
フミフェナ様に提案してみる意義はあるだろう。」
「それは良いと思いますが・・・アンドレアス殿は、フミフェナ様のご係累のことをご存 知なのですか?
ここレギルジアも人口は中々に多い、そんなにすぐに連絡が取れるのですか?」
「ご係累については直接存じ上げないが、ご領主様がアグリア・ゴーベルト殿と面識がありますし、私も何度か取引したことがあります。
アグリア商会自体は大店であるし、会頭であるアグリア殿は少々商人にしては堅物過ぎる印象は受けたが、叩いても一切ホコリが出ないそれこそ商人ではないような清廉潔白な人物だとドーイー殿から報告も受けていますし、悪い人物ではないと思います。
女神ヴァイラス様の神殿の彫刻や資材の一部はアグリア商会が納品した物のはずですよ。
加えて、確か、ナイン・ヴァーナントという名のこの国随一のアーティファクト職人とこの国で唯一直接取引を取り付けることに成功した商人が、レナルト・ペペントリアという名の商人である、と一時期、商工会で話題になったことがあったのを私は記憶しています。
その商人の名前、年齢からして、フミフェナ様の御父上、もしくは叔父御でございましょう。
アグリア商会の会頭とレナルト・ペペントリア氏に急ぎ連絡を取り、フミフェナ様のご了承が得られた場合、出席が可能か打診してみることとします。
先程ウェルリー殿に指示しておられましたアグリア商会への使者は、私が向かうこととしてはどうかと思います。」
「いいだろう、アンドレアス。
では、そちらはお前に任せる、その方向で動いてくれ。」
「は、では、早速、私はそちらに取り掛かります。」
足早に退室したアンドレアスは、これまでにない高揚感を感じていた。
これほど高揚感に満ちた仕事はいつぶりだろうか。
女神ヴァイラス様の巫女、フミフェナ・ペペントリア様。
その姿は超然としており、一目見ただけで、刹那の間に理解できた。
この方こそが、女神ヴァイラス様の恩寵を一身に受けし女神の化身、巫女であられると。
硬質な輝きを放つ美しき白き髪に、白っぽいグレーの瞳。
そして、その立ち姿は、ただ立っているだけであるのに、跪かざるを得ないような、虚無の恐ろしさと不自然なほどの幸福感を感じたのだ。
そう、それは女神ヴァイラス様が初めて降臨された時と、全く同じ感覚だった。
フミフェナ様は、まだ4歳にもならない頃だろう。
身長はアンドレアスの股下程度しかない。
見た感じの細さからすると、体重は20㎏もないように見えた。
だが、その存在感は、自分の全てが飲み込まれるような、自分を覆い包むような巨大さを感じたのだ。
そんな方の為に働くことができる、お慶びになられるようなおもてなしを設ける仕事を担うことができる。
それは自らの信心からすれば、至上の幸福であると共に、今までのような政治にのみ優れた能力があると評価されていた自分の存在価値が翻るような気分だった。
「随分ウキウキとして出て行ったな。」
「アンドレアス様の御信心を思えば、さもありなん、というものです。
で、報酬の件についてですが・・・。」
「一般論については、私から。
通常、守り神級の魔物は戦貴族直系の二つ名持ちか、二つ名持ちが不在の場合は精鋭部隊が集団で討伐するものであり、討伐した魔物から得られる財などを精算した上で、論功行賞の上で、破格の討伐報酬が、『戦貴族』から支払われます。
通常は戦貴族がそのすべてを取り仕切りますので、変に我々が介在するとご領主殿に不審のイメージがついてしまいます。
報酬等の話については、フミフェナ様がおっしゃられていた通り、ヒノワ様に感謝を申し上げ、レギルジアからも報酬を拠出せよ、という指示があってから計上・拠出する流れとするのが筋だろうと思います。
又、討伐証明部位の優先購買権は優先して討伐者に与えられるのが定例となっておりますので、ヒノワ様が許可されれば、フミフェナ様が欲した素材については優先して購入権をお渡しするのが良いかと思います。」
「そうですね、ホノカ殿のおっしゃる通り、それが無駄な争いを生まぬ処理となるかと存じます。」
「分かった。
宴に招く等については、定例上、問題ないだろうか?」
「個々人に対する接待については罰則などの規定がありません。
これに関しては、アンドレアス殿の提案通りの宴を催したとしても、一切問題はないかと。
また、圧倒的強者への称賛はヒトとして当然妥当なものであり、それが侮蔑の場でないのであれば、世間体についても問題はないかと思います。
あくまで、フミフェナ様がご了承してくださるなら、という前提があっての話ですが。」
「了解した。
その場合、カンベリアから戦闘を目的に来たフミフェナ様はドレス等は持参していないと思うが、ドレスコードなしの宴に招待する、というのは失礼にあたるだろうか?
我々で衣装をご用意しても良いのであれば、用意の必要があると思うが。」
「そうですね、・・・流石に、昨日カンベリアについたところで今日レギルジアに戻る、といった形になったとのことですから、ヒノワ様から支給される武官用官服もまだ採寸すらしていないでしょう。
加えて、一般家庭出身とのことですから、おそらく実家にもドレスなどはないのではないでしょうか。
先ほど拝見した軽装服で食事会に出席してくれ、というのもフミフェナ様に不快感を与えるかもしれませんし、ご用意は必要かと。」
「うぅむ、だがよく考えると、フミフェナ様は未だ幼い身。
私には娘はいないし、我が邸宅にはフミフェナ様に合うドレスなどないような気がするが・・・どうすれば良いだろうか・・・。」
「フミフェナ様と同年代の娘のいる貴族を探してみましょう。
格としてはできるだけ都市内の上位の・・・オルミース家の令嬢が、確か今5歳位のはずです、令嬢が4歳の頃に着せていたドレスのサイズが近いのではないでしょうか?
細かくは仕立て屋にリフォームさせるだけなら、間に合うかもしれません。」
「そうしよう、ただ、数点デザインや色の異なる物を用意するように依頼してくれ。
その中から、フミフェナ様のお好みの物を選んでいただこう。」
「了解しました。」
「私は視認した対象のサイズを詳細に記憶する技術に長けておりますので、フミフェナ様の身体のサイズについて詳細に説明できます、仕立て屋の段取りができましたら、ご連絡下さい、私も同行します。
討伐証明部位については、部下と一緒に査定も含めながらまとめる作業をしておきますので、夜の論功行賞までに間に合うようにリスト化しておくようにします。」
「分かった、頼む。
衣装の件についてはアンドレイとホノカ殿に任せよう。
食事の内容については、私が担当する。
過度に豪華にせずに、幼年の尊い身分の方に出すような品を料理長と相談してみるとしよう。
忙しくなるぞ、寝ていないだろうが、明晩まで頑張ってくれ、良いな。」
「「は!!」」
そうして彼ら4人は慌ただしく、準備に取り掛かることになる。
が、レギルジアの日の出が訪れる頃、俄かに領主の邸宅は大変なことになった。
原因は、様々な噂が広まったせいだ。
曰く。
「都市に間近に迫った守り神率いる魔物の軍勢数千がレギルジアまであと20分というところまで進軍しており、実は昨晩深夜、レギルジアは都市滅亡の危機に瀕していた。」
「都市の庇護者たる女神ヴァイラス様の御使いが突如現れ、守り神率いる魔物の軍勢を一匹残らず殲滅し、都市を守った」
「女神ヴァイラス様の御使いは、レギルジア出身の戦士、フミフェナ・ペペントリア様という、4歳にも満たない幼女である。」
「この都市レギルジアが女神ヴァイラス様の恩寵を得られているのは、女神ヴァイラス様の巫女たるこのフミフェナ様の出身地であるが為であり、フミフェナ様を害した場合はレギルジアが滅ぶと、女神ヴァイラス様から神託があった。」
「そのフミフェナ・ペペントリア様は敵勢を殲滅した疲労を癒す為、現在領主様の御屋敷
に滞在して療養している。」
そしてこれらの噂は、虚偽を許さぬ女神ヴァイラス様に関する噂であり、広めた者は多少ニュアンスが違ってはいても、自らの命の惜しい者は、内容については一切誇張を加えず、伝わったままを伝えていった。
その経過上、一切の天罰が下されていない、ということから逆説的に、つまりこれらの噂は全て事実であり、一切誇張や虚偽は含まれていないと民衆は理解した。
領主、アンドレアス、アンドレイが何度もしつこく通達し、背いた場合はどういう神罰が下るのか、実例も示した上でしつこく何度も知らせた結果だ。
都市の民達は、深夜を経て朝一番に伝えられたこの知らせに俄かにざわついた。
まず、この都市にいるハンターや偵察兵、戦貴族の上位戦士であるホノカを出し抜いて、前日に領地内で誰にも探知されていなかった軍勢が都市に近接していた事実に驚く。
どうするんだ、今から避難して間に合うのか、という話になる。
しかし、既にその軍勢は殲滅され、一匹たりとも残っていないそうだ、という話になり。
その偉業を成したのは、たった一人の齢4歳にも満たない幼女らしい、という話になり。
その幼女はレギルジアの庇護者、女神ヴァイラス様の巫女様であられるのだという話にもなった。
そして、その巫女様は現在、領主様の屋敷に逗留されておられるのだ、という話も出る。
その話に最も早く活気づいたのは、朝早くから畑で作業をしていた、女神ヴァイラス様への信心が異常に高くなった農業専従者達だ。
自分達に恵をもたらしてくれた上に、貴族のように税を取り立てるわけでもなく、ただ都市に恩寵のみを下賜してくれていた女神様の寵愛を受ける巫女が現れたのであれば、得られた実りのご報告と感謝をお返しとして捧げるのは当然のことだ、都市を滅亡の危機から守ってくださったのだというのなら、尚更これは譲れない、と、あちこちから代表者が畑の実りを貢物として献上しようと集まった。
商人達も当然、活気づいた。
何せ、商人達の商売は、ここ最近で目に見えて分かるほど、順調に捗り、例年の同時期と比較して、5割以上の売り上げの上昇が確認できている。
護衛等を減らしても問題ないほどに行程で発生するトラブルが激減し、道中のトラブルによって生じる商材逸失のロスがなくなる。
都市間の移動における移動速度の上昇により、時間あたりの利益が大きくなった。
不思議と腐るまでの期間が異常に長くなった食物を取り扱いすることによって、行商の利便性が非常に上昇したり、長距離の食料品の運搬性が非常に上昇し、利便性の上昇により今まで不満を感じていたことが画期的に解決し、商人達の士気も向上した。
特に都市間交易商や行商達は好景気に沸いたレギルジアで商談の好機に恵まれることも非常に多く、彼らはレギルジアを訪れるとこぞって仲間から紹介された女神ヴァイラス様の神殿を訪れ、真摯な信仰を得ていた。
その女神様の恩寵を中継する巫女様が領主様の邸宅に逗留している。
ならば、自分達に恩寵をもたらしていただいた利益の対価をお渡しせねば商人の面子に関わる、と、自分達の取り扱う商品の中から選りすぐりの献上品を持参しようと、あちこちから商人が集まった。
また、レギルジアに滞在していた戦士や狩人、ハンター、ホノカ旗下の灰色戦貴族の兵士達も活気づいた。
彼らについては、命に関わる仕事をしている為、特に利益云々以前に根深い信心がある。
人によっては、顔を髪で隠した女神の入れ墨を身体に入れている者もいるくらいだ。
女神ヴァイラス様が降臨なされ、レギルジアの庇護を、恩寵を下され始めてから、目に見えて彼らの負傷者数は減り、怪我をしても重症化しなくなったり、狩場で病に倒れる者がいなくなった。
又、不思議とレギルジア近隣にいる際には、自分達の力量が増している感覚がしていた。
自分だけなのか、と思っていた者達も、酒場などで仲間達と話してみると、皆経験していたことであることを理解した。
おそらくそれは女神ヴァイラス様の恩寵がバフとなって自らを強化してくれているのだろう、と、誰もがそう推測した。
特に修行中の者達は、明らかに今までよりもレベルが順調に上がっている感触を感じていた。
そして、都市を遠く離れると、その恩寵が失われている感触を感じている。
我々は女神ヴァイラス様の庇護を受け、その恩寵を得て、ここまで健康に仕事に邁進できたのだ。
金銭や貢物を要求せず、ただ恩寵をくださる女神様に、信心をもってお返しすることで、今まで以上に努力が報われているのだ。
自分達を庇護していただいている感謝を、女神様の巫女に届けるのは当然だ、と、またそれぞれのコミュニティの代表者達が、巫女に献上するのに失礼のない物を選び、献上する為に集まる。
・・・そうして、領主の邸宅の周りには、数百の人々や荷物を満載した大八車や馬車が集まった。
フミフェナの宴等についての準備ばかり進めていた領主にとっては、想像を超えた状況だった。
「一目、巫女様にお目通りを!」
「領主様、巫女様にこれをお届けください!」
「領主様!!」
朝7時に起床し、メイドさんが持ってきた服を着せてもらっていると、屋敷の外からそんな声が聞こえた。
あてがわれた部屋は洋風の屋敷の2階の客間。
おそらくスターリアが西洋出身者なのも影響した建物だろうと思われるが、こちらの世界で見てきた建物の中で最も西洋の雰囲気を殊更過剰なほど演出した建物だった。
部屋も、良く分からない天井絵画に、一部ステンドグラスで化粧された装飾窓、チーク調の木材で統一された腰壁や調度に、ふりふりの天蓋付きのベッド。
全然ホコリっぽさもないので、おそらくメイドさん達が常日頃からちゃんと清掃しているのだろう。
「メイドさん、外で声が聞こえますけど、今日は何か献上品か何か集める日なんですか?」
「いえ、基本的には何かの折にそういった物が届くことはあっても、ご領主様宛の献上品があぁしてアポイントもなく届くことは、あまりありません。
税は、現金か銀行発行の手形で役所に納められますから、物を届けるということ自体があまりありませんので・・・。」
「なるほど。
・・・巫女様、とか言ってますけど、あれひょっとして・・・。」
「はい、フミフェナ様にお会いして献上品を受け取って欲しい、という者達です。
最も早い者で6時頃からあぁして屋敷の前にいらっしゃいますよ。」
「・・・なるほど・・・。」
「はい、これでよろしいと思います。
まぁ、大変お美しくあられますこと!」
このメイドさんは、ドレスの着付けから髪結いまでできるらしい。
昨日の恰好で食事をいただいたらカンベリアに戻ります、と伝えた所、とんでもない!こんなに麗しいお嬢様が着飾らずにお食事なさるなんて!と、どこから用意したのか私に合いそうなサイズのドレスを調達してきてくれたらしく、可愛らしい幼女っぽいピンクのドレスを着付けされたところだ。
・・・いくら幼女とは言え、ドピンク過ぎしフリフリ過ぎる。
そして髪はいつもなら束ねるだけ、日によって時間があれば三つ編みするかな、くらいで放っていたが、メイドさんにゴテゴテに盛られた上にティアラなども付けられてしまい、えらい髪型な上にゴテゴテになってしまっている。
鏡を見てもすごすぎて、もうなんという呼称で呼んだらいいのかわからない。
「あ、ありがとうございます・・・。」
「ささ、朝餉の準備が出来ております、食堂にご案内致しますね。」
どうも押しの強いメイドさんだ。
なんとなく逆らえない感じがする。
少し屋敷の中を歩いて1階の食堂の扉の前に着くと、メイドさんがコン、コンと扉を叩く。
どうやらこちらの礼儀ではメイドさんがこの辺りも全部やるようだ。
「失礼致します。
フミフェナ・ペペントリア様がおいでになられました。」
「どうぞ、入ってください。」
メイドさんは扉を開けながら頭を下げる。
入れ、ということらしい。
室内には、席から立ってこちらにお辞儀をする、昨晩よりは幾分着飾った4人、執事やメイド、シェフ等が数人いた。
「おはようございます、フミフェナ様。」
「「「「おはようございます!!」」」」
「お、おはようございます・・・。」
「どうぞ、こちらに。」
テーブルに用意されていたのは、質素だけど手の込んだ朝食だった。
こちらの世界に来てからほぼ見たことのなかった、フランスパンのような物もある。
「では、改めまして、私からご挨拶を。
フミフェナ・ペペントリア様。
昨晩は、我らがレギルジアをお守りいただき、ありがとうございました。
ささやかではございますが、朝食を用意致しましたので、お召し上がりいただければと思います。」
「いえ、全ての感謝はヒノワ様へ。
お食事は、ここまでお膳立ていただいたということなので、遠慮なくいただきます。
とても美味しそうなので、お腹が鳴ってしまう前にいただこうと思います。」
「それはよかった!」
「これらは、こちらのシェフが全て作りました。
我が屋敷の誇る自慢のシェフの朝食です、フミフェナ様にも舌鼓を打っていただける物であろうと私は確信しております。」
あまり見たことのない料理もあったけど、漏れなく美味しい。
流石、貴族らしい貴族として館のことはしっかりとしているらしい。
「確かに、お世辞抜きでとてもおいしいです、ありがとうございます。」
私がそうお辞儀をすると、シェフはガバッとガッツポーズを掲げた。
・・・。
シェフは周囲からの白い目で、元の直立の姿勢に戻ったが、顔の綻びは隠しきれていなかった。
この人も来訪者かな?
「ところで、皆さん、お立場もありお忙しいと思うのですが、どうしてまた、御同席を?」
「今この時、フミフェナ様と会食が叶うこと以上に重要なことなどありません。」
「その通り。」
「・・・恐縮です。
で、今日・・・この後の予定なのですが、ヒノワ様からはカンベリアの攻防戦は本日中には片付くと伺っており、私には今晩から明朝までに戻れば良いとのお達しでした。
お時間をいただけるようなので、数か所、都市内で打合せをする予定としています。
午前中にサキカワ工房、午後からアグリア商会に寄り、今夕にはレギルジアを離れ、今晩の内にはカンベリアの灰城に帰還する予定としております。
もし、ヒノワ様にお届けする物やご報告に要する物がありましたら、夕方に受け取りにこちらに寄りますので、その時に言伝いただければ、お預かり致します。
皆さんお忙しいと思いますから、お見送りはご遠慮致します。」
「了解致しました。
・・・フミフェナ様、私から、少しよろしいでしょうか?」
「ご領主様、どうぞ。」
「ありがとうございます。
ヒノワ様、フミフェナ様からご許可がいただけるのならば、レギルジアを挙げての戦勝パーティーを開き、フミフェナ様の功績を讃えたく思うのですが、いかがでございましょうか?
本来、守り神級の魔物の討伐ともなると、論功行賞が行われるものだと、戦貴族の方から聞いたことがあります。
論考行賞は後程、ヒノワ様主催の催しがあるかと存じますが、フミフェナ様の戦功を讃える戦勝パーティーを開くのはどうかと思いまして・・・。
そうすれば、この館に集った都市の民達へ、フミフェナ様の顔見世も適うかと存じます。」
「昨晩も申し上げましたが、有難い申し出ではありますが、不要です。
今回こちらに寄りましたのは、『ツインテール』討伐の報告の為であり、既に私に課されていた討伐任務やその他付随する任務については全て完了しました。
また、カンベリアの戦況は圧倒的優位とは申しましても、主たるヒノワ様が未だ戦闘中であられるというのに、私だけが戦勝パーティーを開くわけにはまいりません。
ご配慮のみ有難く頂戴致します。」
「そ、そうですか・・・。」
「確かにレギルジアの危機はなくなりましたが、少々気が緩みすぎではありませんか?
・・・発言が不用意かと思います。
貴方がたは私の、ヒノワ様への忠誠を奪い、ヒノワ様から私への信頼をも奪い、ひいては素晴らしい修練の機会と時間を奪い、その上、言外に・・・この都市の為に我が身を捧げよ、とおっしゃるのでしょうか?
皆様のお立場等もあるとは思いますが、流石に、今のご領主様の発言は不快です。」
まずい。
フミフェナ様は怒っている。
食堂にいた面々全員にそう緊張が走る。
確かに、少し不用意であったのは間違いない。
スターリアはじめ、この場にいる者達は、フミフェナの存在に浮かれていた。
何せ、目の前の幼女は、自分達が心の底から信奉する女神ヴァイラス様の巫女であり、自分達の都市を救った大英雄、となると自分達の庇護者であると思い込んで色々考えていた。
だが、確かにヒノワ様の配下であるのだ。
ヒノワ様は、カンベリアで今なお守り神級の魔物3体及びその配下数万の魔物と戦闘中である。
・・・灰色戦貴族アキナギ家の領地の一辺を預かる貴族であるスターリアとしても、ヒノワ様は言ってみれば自分よりも上位の立場。
不用意であったのは間違いない。
そして、4歳にも満たない美しい幼女であると言っても、守り神級の魔物とその配下数千の魔物をすべからく殲滅した圧倒的強者でもある。
フミフェナ様個人にすら、この都市は滅ぼされるかもしれない。
いや、もし女神ヴァイラス様の御怒りを買ったともなれば、下手をすると都市どころかこの北方領全体ごと厄災に見舞われることになるかもしれない。
どちらにしても、ホノカですら瞬殺される相手だ。
広く障害物の多い森で守り神級の魔物と数千の魔物を殲滅したフミフェナ様を相手に、こんな障害物の少ない狭い部屋の中からわずかでも逃げ切れるとは思えない。
ゴクリ、と誰も彼もが飲み込めない唾を無理矢理に飲み込む音が続く。
特に、ホノカの顔面は最も蒼白だ。
白い、というより青い、と言った方がいいレベルで危険な顔色をしている。
彼女の状況把握能力はこの場にいる誰もが重々知っている。
猛獣の口の中に頭まで齧りつかれ首筋に歯が当たっているような顔をしたホノカを見れば、自分達がどういう状況に置かれているのか間接的に知ることが出来る。
彼女の顔には冷や汗がダラダラと尋常ではない量が流れていて、彼女の衣装はみるみるうちに冷や汗でびしょびしょになっていく。
ホノカのそのような姿を見た室内の者達の顔は、一様に蒼くなっていくばかりだ。
一瞬の後に、自分達は死ぬかもしれないということが誰にでも分かるくらいの気配が室内に充満している。
「た、大変失礼致しました!!
・・・失礼を承知の上で、一つだけ、どうしてもお願いしたき議がございます。」
そんな空気の中、スターリアだけが席から離れ、勢いよく土下座し、額を擦り付けて懇願した。
あまりにも緊張した空気の中で、土下座可能なまでに動けるスターリアを、この時ホノカはすごいと思った。
何せ、ホノカ自身は今もってなお、一切動ける気がしないからだ。
「一度だけ、一度だけ邸宅の外にいる民衆たちに、フミフェナ様のお顔を拝謁する機会をお与えくださいませんでしょうか。
これは、都市長としてだけでなく、私個人の願いでもあります。
どうか、これだけはお願い致したく思います!
みな、女神ヴァイラス様に、フミフェナ様に感謝しているのです・・・。
ですが、彼らは貴女様のお顔すら知りません。
彼らは、自分達の気持ちの向け先がどこにあるのか分からないのです。
お願い致します、何卒彼らにそのご尊顔を拝謁する機会をお与え下さい!
お願い致します!!」
それを見た他の者達も、みながハッとし、座っていた者は席から離れ、立っていた者達も含め、全員が額を擦り付けて土下座をする。
「「「「どうか!お願い致します!!」」」
「・・・困りましたね・・・。」
ふむ。
まぁでも確かに、煽るだけ煽ったのは自分であるので、針の筵になるであろうスターリア達に対しては若干良心が傷む。
どうしようかな?
・・・ん?
そう言えば、ツインテイルさん、何か気になることを言ってたな。
私のことを『グジが只人の市街に潜入させていた工作員』だな、とかなんとか。
完全に奇襲で都市ごと蹂躙するつもりの布陣だったのだから、そのグジとかいう人が送り込んだ工作員がいたのなら、戦況を見届けさせるくらいまではさせるつもりだったんじゃないかな。
それに、ツインテイルさんが言っていた通り、タルマリンとかいう奴の配下の誰か・・・グジ(?)が手配した工作員がいたのなら、単独ではなく護衛や連絡役、同行者等がいたりするものではないだろうか。
とするなら、ひょっとするとそれらは未だレギルジア都市内、もしくはレギルジア近郊に滞在している可能性も十分ある。
わざわざ戦貴族の監視の目を抜けてここまで来てレギルジアに潜んでいたのなら、攻防に関わらない見届け役に見届けさせた方が、より現地の実情も分かるだろう。
ひょっとすると、敵側によるツインテイルさんの戦功評価のためのものであったのかもしれない。
そして、“何故、蹂躙されているはずのレギルジアが無傷で、ツインテイル以下その配下が行方不明になったのか”は、おそらく誰にも知られていないはずなので、工作員や諜報員がまだ近隣に潜んでいるのなら、その原因を探しに都市内やツインテイルさんのいた森で調査しているかもしれない。
軍勢を連れたツインテイルさんが何の役目も果たせずに消え失せるなど、相手方からすれば想定外の展開だったはずだ。
であるならば、敵勢にとって、今は混乱期であるとも言えるだろう。
ツインテイルを討伐した者が顔見世を行う、というのなら、見届け役もしくはそれらから連絡を受けた調査担当の者が、大急ぎで送られてくるのではないか?
それこそ、バタバタとして隠蔽に手落ちが発生するくらいに。
レギルジアで亜人なんてかなり数少ない・・・それこそイオスのようなほぼヒトで亜人の血が少し入っているだけ、という存在ばかりだ。
私が旅立つまでに都市内に広げまくった探知網で簡単に引っ掛からなかったということは、限りなくヒトに近い種族もしくはヒトに擬態する能力のあるもの、・・・もしくは亜人に与するヒト、そのいずれかだろう。
今、レギルジアには自分が都市を救った大英雄であるという噂が流れているので、顔見世の機会を設ければ衆人に紛れて遠目に私を見ておくこともできるだろう、と見に来るんじゃないだろうか。
空振りに終わるかもしれないけど、やる価値はあるかもしれない。
でも、多分来るんじゃないかな?
来たら、『彼ら』を感染させて、巣まで持ち帰ってもらおう。
流石に私の知覚範囲をはるかに超える距離まで移動されるだろうから、細かな操作はできないが、付けるだけ付けられれば追うだけならできるはずだ。
操作・知覚できる距離を超えていたとしても、『彼ら』を知覚して操る能力を持つ私には、移動時に残った『彼ら』の残滓がある程度残っていれば、ルートを推測しながら追跡することが可能だ。
この追跡方法であれば、『足跡』を消しながら移動している魔物達を追跡することができる。
基本的に、魔物達は、ヒトや他の魔物達からの走査を免れる為に、自分達の痕跡を出来る限り消すことにずいぶん長い間心血を注いできている。
粒子に依存する残滓は、消しながら移動するのが常識になったようだ。
まぁ何せ、目を凝らせばキラキラ光って見えるのだ、目立って仕方がない。
匂いの元になる類の糞尿や分泌液については、各種族ともにかなり特徴的であるので、対ヒトだけでなく対魔物であっても残滓が自分達の種族にとって致命的な不利をもたらす可能性が高いと考えていたようで、魔物達なりに技術の開発をずいぶん進めたらしく、術式で分解する技術をもつ『クリーナー』と呼ばれる部隊が必ずいるくらいには技術も広まっている。
だが、私の使役する『彼ら』はクリーナーの能力では完全に除去することはできないので、普通の追跡者であれば見逃すような移動の残滓も把握できる。
これは逃亡に得手のあった『赤目』を追跡した際に実証済みだ。
「分かりました。
では、ご領主様の邸宅の2階のバルコニーから、ご挨拶だけさせていただきます。
より公平にするのであれば、今夕・・・そうですね、4時頃に顔見世を行った後、カンベリアに帰還する予定である、と皆さんにお伝えいただけますか?
パーティー等には参加できませんが、一般の皆さんに都市の周囲が安全であることをお伝えして安心してもらう、ということくらいはできるかもしれません。」
「おぉ、ありがとうございます!
ではそのように手配致します。
ドレス等のご用意は如何様にさせていただきましょう?
もしよろしければ、私どもの方で、フミフェナ様に合う物を手配致しますが・・・。」
「いえ、あくまで戦士の一人としてご挨拶致しますので、巫女のような恰好はちょっと・・・。
武装に関しては、私は自分で用意できますので、手配無用です。
また、貢物や寄付等は受け付ける予定はありませんが、生の物などは持ち帰って貰っても傷んでしまうでしょうし、スターリア様の邸宅で使ってあげてください。
金品の物があれば、一度受け取って換金し、孤児院などに均等に分配してください。
差配はお任せします。」
「分かりました。
我らの我が儘をお聞き届けてくださり、ありがとうございます!」
「いえ・・・。
あと、ホノカ様、少しだけ後でよろしいでしょうか。」
歓喜に沸き、土下座の姿勢から立ち上がって様々な段取りをする使用人達でワイワイとしていた室内の雰囲気であったが、ホノカだけは立ち上がっても顔面蒼白な状況から変わっていない。
「は、はい、分かりました。
どちらまでお伺いさせてただければよろしいでしょうか。」
「10分程度、他の方の耳の無いお部屋で打合せをさせていただきたいのですが、いい場所はご存知でしょうか。」
「分かりました、ご用意致します。
この邸宅内にご用意いただいている私の部屋であれば防音もしっかりしておりますので、そちらでもよろしければ。」
「結構です、では、10分後、そちらにお伺い致しますね。」
流石に自分の索敵だけでは見落としもあるかもしれない。
知る限り、索敵ならホノカの能力もかなり優秀であると思うし、彼女にも協力してもらおう。
ヒノワ様にも報告がてらその辺りの承諾を取らないといけない。
「なるほどね、フェーナの言う通りで構わないよ。
ホノカさんも聞いてたよね?
フェーナの指示を聞いて、言う通り動いてくれたらいいよ。
で、その工作員か連絡員か分からないけど、そいつ見つけた後のことは考えてる?」
「はい、特殊な環境下に入らない限りは半永久的に追尾可能かと思いますので、見つけられれば、マーキングだけはなんとか行いたいと思っています。」
「特殊な環境下に入らない限り半永久的に追えるの?
すげぇ・・・。
じゃあ、そっち方面はフェーナに任せようかな。
初日からハードワークで申し訳ないけど、早速、私の御用聞きとして働いてもらうとしよう。」
「了解致しました。
ご期待に沿えるよう、努力し情報収集に注力致します。」
「うん、お願いね。
私の所見だと、こっちの3勢力は捨て駒、メインはそっちだったと思うんだ。
フルメンバーのカンベリアを攻めようっていうんだから、かなり注力しようってのは分かるんだけど、普通それでも種族としての余力は残すはずなんだけど、どうも非戦闘員まで戦場に連れてきてる感じがする。
いくら全勢力って言っても、十分な戦闘能力を持っていない非戦闘員に近い魔物まで私達にぶつける意味は本来ないはずだから、多分、数合わせで強制動員されてる。
黒幕に支配地を追われて戦功立てないと滅ぼすぞ、って脅されてるんじゃないかな。
攻め方の悲壮感が凄いんだよね、ある程度交代しながらだろうけど、食事も休憩もなしで攻め続けてきてるし、まさに『必死』って感じ。
多分この調子だと本当に全滅するまで、最後の一兵まで攻めてくる感じかな。
まぁ守り神級の魔物は今夕までもたない・・・というかもたせない。
私とヌアさんが3匹とも必ず殺す。
だから、その下のがいくら必死でもがいてもカンベリアはデシウス指揮の防衛を抜けないし、カンベリアの城壁は落ちない。
民には少し不便はかけるけど、こっちは戦況だけで言えばもう勝ったかな、負けようがないとも言える。
私の知らない何かで負けてるのかもしれないけど、それは今の所分かんないから、こんなもんかな、ってのが正直なとこ。
フェーナが聞いたっていうツインテイルの言っていたタルマリンとグジという名前に聞き覚えがないのが気になるんだけど、私達の耳も手もそんなに長くはないから仕方ないっちゃ仕方ないね。
後でヌアさんとか文官にも聞いてみるけど、知れ渡った名前じゃないと思うから、知らないとは思うよ。
・・・なんか黒幕っぽいのがいるのがウザったいけど、これ以上の推測は難しいかな。
あんまり深入りしてフェーナが傷ついたり死んだりしたら困るから、深入りはしないでほしいけど、何かしらキーワードだけでもつかんでくれると嬉しいな。」
「その辺りは、情報収集を継続し、分かり次第桔梗玉を経由してお知らせするように致します。
追尾の関係で、今晩のカンベリア帰還が難しくなるかもしれませんが、宜しいでしょうか。」
「勿論、構わないよ。
むしろさっき言った通り、カンベリアはどうとでもなるから、むしろこちらからフェーナにこの要件の続行をお願いしたい、というのが本心。
他の要件は全部後回しで、これを最優先にしてくれていい。
悪いけど、ホノカさんはフェーナの随行員として付いて行ってくれる?
多分、フェーナの情報収集の方が近々重要になると思うから、フェーナの力になってあげて。」
「了解致しました。」
「また何か分かったら教えてね。
二人とも気を付けて。」
「は、気を付けます。」
「フミフェナ様のことは、このホノカが一命に変えましてもお守り致します。」
「ふふ、ホノカさん、フェーナはめちゃくちゃ早いから置いてかれないようにね。
じゃ・・・二人の無事を祈る!
また何かあったら連絡ちょうだいね!こっちからも、何かあったら連絡するから。」
「「は!!」」
フミフェナとホノカはすぐさま、炙り出しの為の準備を開始した。
ホノカの索敵能力は非常に優秀で、加えて監視カメラのように目視した人物を確認し、瞬時に姿形を記憶する能力を持っていた。
また、その部下達も優秀と評価して問題ないレベルのクオリティを誇っており、概ねレベルも90台という高レベル。
特に、ホノカ様の副官はレベル100の武官であり、灰色戦貴族の分家出身であるにも関わらず、ヌアダの紹介で黒色戦貴族の直系に長く師事していたことがあり、槍と重装盾をメインに持ちながら、弓も扱えるし、黒色戦貴族にいた頃に送迎役もしていたそうで、馬車の取り扱いや御者もできるという便利マンだ。
「お初にお目にかかります、フミフェナ・ペペントリア様。
アキナギ・ノーレリア・シュウセイと申します。
わたくしのことは、ノール、とお呼びくだされば幸いです。」
片膝を着き、フミフェナを見つめるその姿はまさに騎士然としており、今まで見た戦士達の中では一番品はありそうだった。
ただ、その瞳は獰猛な炎を宿しており、何かしらの野望を抱いていてもおかしくないほどの熱量を持っている。
「初めまして、フミフェナ・ペペントリアです。
この度はノール様のご協力を得られるとのことで、非常に心強く思っております。
・・・4時から顔見世を行う予定だったのですが、内々に時間変更が必要になりそうですので、ノール様にはいつも通りホノカ様の直掩に回っていただければと思います。」
「・・・とおっしゃいますと、再度、何かこの都市に危機が迫っているのでございましょうか?」
ノール他、この部屋にいた者達はゴクリ、と唾を飲み込んだ。
現在、3時20分。
領主以下、この館にいる人々は皆バタバタと慌ただしく準備に追われているが、フミフェナ、ホノカ、ノール、ホノカの配下数人は顔見世に使用する予定の部屋に籠っていた。
都市の危機どころか、私の命の危機のような気がする。
ツインテイルさんのいた森に仕込んだ『罠』が発動したことが確認できたし、現地の『彼ら』経由で手に入れた光景を確認すると、かなりヤバそうな魔物が現れたようだ。
どう見ても、瞬間移動、空間転移、テレポーテーション、ワープ、その類の移動方法だ。
唐突に固まって現れ、現れてから何かの術式の展開の準備に入った。
その存在の強さは尋常ではない、十人以上いるが、全員ツインテイルさん以上だ。
多分、単純に攻め込んでこられたら尋常ではない被害を受けただろう。
が、彼らはおそらく大規模な術式をレギルジアに叩き込んで、再び瞬間移動のようなもので逃走するつもりだったようで、こちらに攻め込んでくる気配はない。
・・・じっと警戒だけをしているのだ、これほど自分に利する行動ばかりしてくれると、入れ食いのようなものだ。
「ふふ、えぇ、そうですね、
危機というか・・・都市が物理的に崩壊するかもしれない状況のようですので、行ってまいります。」
黒装では心許ない戦闘力っぽいから攻め込んでくる状況だとヤバイかな、と思ったけれど、既に『罠』が発動しているので、おそらく現地はもう『手遅れ』の状況まで段取りが済んでしまっている状況だ、あとは現地で『美味しくいただくだけ』。
本当に、爆釣もいいところだ、私の器が耐えられるのか?
いや、そうだ、ナインに相談しないといけない、私の器が割れたりしないように、ベルトの粒子吸引スキームを改良してもらおう。
我慢するつもりだけど、顔はニヤけてしまっているだろう。
調子に乗り過ぎて失敗してもいけないが、こればかりは我慢できない。
言葉の不穏さに反して、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら、窓の外を見るフミフェナを見て、室内は静まり返る。
フミフェナはあれこれ想像するのに夢中で気付いていなかったが、室内にいた人間は、不安と高揚で心がグチャグチャになった者達ばかりで、ちゃんと眺めれば彼らも不気味な顔をしていた。
彼らは皆、フミフェナが何をしているのかも知らないし、何が出来るのかも知らないし、実はレベルが100を超えていることも知らない。
だが、公称レベル50台という低さでありながら、守り神級のダークエルフ、以下準守り神級のダークエルフ数人、キメラや闇の妖精といった魔物数千を討伐したのは、索敵を担った自分達だから知っている。
しかも、その討伐は一瞬で成されたことであることも知っている。
自分達なら単独でも歯が立たないような化け物を数千、それこそ一瞬で殲滅したのだ。
この『恐ろしい力を持つ幼女』の矛先が自分達に向いていないことに安堵している部分もあるが、その矛先が自分達に向いたら、自分達は刹那の時間も生きていられないであろうことも理解できているだけに、彼女の性格などがまだ把握できていない状況である彼らの内心は、不安が占めている部分も多い。
だが、高揚している部分もある。
これから、おそらくフミフェナの矛の向く先に、大変なことが起きる。
しかも、フミフェナの圧倒的勝利によって、レギルジアの危機が消え去るのだ。
自分達で観測した、という実績がなければとても信じられない戦績だが、彼女はそれだけの能力があるのだ。
なまじ、巫女であると聞かされると、本当に自分達に庇護を与えてくれているという女神に実感が湧いてしまい、目の前の巫女が本当に神がかって見えてしまう。
彼らは一様にこう思った。
『我々は、これからこの女神様の巫女姫の偉業を見守ろう』と。
保身の為でもあり、都市の為でもあり、自分達のロマンの為でもある。
巫女姫の邪魔となることは何もしない。
求められればそれに応える。
それを正確に記録し、知らしめる。
・・・そうだ、これは女神ヴァイラス様への信仰と同じだ。
レギルジアはこれから更に歓喜に包まれるのだ。
数分後、フミフェナは黒装を纏い、宣言通り彼らの前から掻き消えた。
出発する、という話は事前に聞いていたが、彼女の始動のコンマ秒あたりまでは、目のいい者ならば見えた。
が、その後の彼女の動きは一切見えなかった。
ヒノワから話を聞いていたホノカも流石にここまでとは思っていなかった。
フミフェナが去った方向・・・もう既に違う方向に向かっているかもしれないが、その方向に向かい、室内にいた者達は膝をついて両手を組み、祈りのポーズを取る。
『女神ヴァイラスの加護を』
数分の祈りを終えると、彼らは領主や、各方面にフミフェナが4時に遅れるかもしれないことを説明に向かう。
フミフェナから託された調査・索敵・追跡も、露骨に見えない範囲で開始する。
役所に書類を取りに行って集まっている者達の身元の特定に走る者もいれば、彼らの持参した貢物に目録を作成するという名目で不審な出所の物がないか確認して回る者もいる。
皆、表面上は平静を装ってバタバタと動いているが、これは表にはまだ出せない話だ。
フミフェナが都市の危機を救ってくれている間に、自分達に出来ることをする。
彼らの熱意が功を奏すことになるのは、数時間後のことだった。




