プロローグ2 転生
真っ白な世界で異世界の神様との邂逅が終わった後、急転、世界は真っ黒になって、
いきなり誕生、という訳ではなく、ぼんやりとした温かい暗く赤い世界で、
何日とは言えない期間、いろいろと考えることができる時間があった。
出産予定日よりかなり前から赤ん坊には意識があるという話は聞いたことがあったが、
その期間だったのかな、たぶん。
意識的に手足を動かしてみようと思ったけれど、言うほど意識的には動いた気がせず、
あまり動いても母親が可哀想だな、と思って日々大人しく眠りながら思索に耽っていた。
時折聞こえてくる母親の歌も心地よく、後期つわりも酷くなかったようで安心した。
体が大きくなり、母親の胎内で身動きも取れなくなって数日のとある日、
ようやく生誕を迎えた。
「おめでとうございます!女の子ですよ!」
異世界に転生して聞いた第一声は、祝福の言葉と、性別についてだった。
はっきり聞こえたこの一言で、色々なことが分かる。
まず、生誕直後だと言うのに、こちらの世界の言葉が分かる。
そして文字についても、言葉に応じた文字が脳裏に浮かぶ。
手さえ動き、筆記用具さえ持たせてもらえれば、文字すら書けそうだ。
とりあえず日本語ではないらしいが、自動翻訳されているようで便利なことこの上ない。
そしてどうやら、こちらの世界でも女性として、祝福されて生まれたらしい。
特段、異世界の神様からは特別扱い(チートスキルやアビリティを付与)を
することはない、と聞いていたので、出自がどうなるかが気になっていた。
こちらの世界の文化、出生の経緯、性別、生家の経済状況、治安等、諸々。
で、その中でも性別は、特別悩んでいた部分だった。
なにせ、記憶を引き継いだ状態で転生したものだから、男の子に生まれ変わって
いたら、性との不一致で何かと面倒なことになる気がしたのだ。
異世界の神様が気を利かせてくれたのかもしれないけど。
顔は動かせないが、目に見える限り、田舎の農家というか風情・・・藁や籠が見える・・・
民家だろうか、装飾なども特になく、派手さは一切ない。
西洋風でもなければ東洋風でもなく、木と石を組み合わせた建築物。
安普請の気配はなく、壁は分厚そうなので、ひょっとすると寒冷地なのかも?
私の生誕は、窓から暖かそうな陽射しの差し込む気持ちの良さそうなお昼過ぎ、
というところで、窓も開け放たれているが暑くも寒くもない時期らしい。
パッと見で分かるのはこれくらいかな。
まぁ、貴族や王族なんかではなさそうな雰囲気だし、祝福されたということは
奴隷でもないようだし、一安心ではあるかな。
「なんと愛らしい・・・。奥様、この子は美人になりますよ!」
おぉ、まだ鏡は見ていないけど、こちらの世界のお母さんは私を美人に生んでくれたようだ。
出生時の顔面偏差値ガチャは確率悪すぎて期待してなかったんだけどね、
前世は贔屓目に見ても中の中程度だったし。
こちらの世界のお母さんと共に別室に移された後、こちらの世界の父親や親戚等も祝福に
訪れたようだった。
多くの人に祝福され、私はどうやらペペントリア家の次女、フミフェナ・ペペントリアと
名付けられたようだ。
聞いている限り、兄二人と姉が一人いて、私が4人目の子供ということのようだ。
父は町のそこそこの商店の番頭、母は専業主婦、母方の実家が農業を営む豪農で、
お手伝いさんのたくさんいる実家で出産したという経緯だそうだ。
母方は親族が非常に多く嫁に出されている立場の為、資産的に裕福と言えるほど
富裕層ではないが、父も結構稼いでいるようなので、中流家庭の上の方くらいの家庭、
というところかな?
私の家族が暮らす家は近くの比較的大きい都市の中心部に位置する住宅街に庭付きで
家を持っており、勤め先もそのすぐ近くにあるらしい。
家庭環境も経済状況も良すぎずいい感じ!申し分ないね!いいね!
異世界の神様、ここまで意向を汲み取ってくれたとは、気を利かしすぎではないだろうか?
さて、あとはどうやって生活していくかだ!
それから3年の間、父母、祖父母、兄姉も可愛がってくれて、多くの愛でもって、
守り育ててもらうことができた。
3歳になる頃には、世界の情勢も世間一般に知られている程度は知ることができた。
多くは絵本や祖父母の口伝で、あとは隠れて父や祖父の蔵書を勝手に読んで。
建国記曰く。
私の生まれた国が作られたのはおおよそ300年前。
初代の国王様は、ヒトの生活圏の拡大と安全の為に、100年近く続くことになる闘争を開始する。
それまで、ヒトは長くの間、守り神と呼ばれる知能の高い魔獣の庇護下でしか生活することができなかった。
野生の獣が多く存在したのもあるが、野生の獣を大幅に超える凶悪さを誇る魔獣が巷に蔓延っており、金属武器の開発に成功したヒトであっても地の利、人海戦術を確保できる範囲を超えて生活圏を広げられず、繁栄の道を絶たれている状況で、生活圏は拡大するどころか魔獣達の気分次第で滅ぼされたりする村や町もあり、減少傾向だった。
ヒトが滅びていなかったのは、まず単純にして最大の理由の一つ、魔獣達にとって食事として美味どころか不味い部類だったこと、繁殖力が低く、獣に比べて食糧事情を解消できるほどの大きさにもならず、加えて魔獣達にとっては大きくもないのに成長も遅く、狩場にするにしても安定した狩場にならないこと等から、他の獣や魔獣を狩った方が群れの食糧事情を安定させ、群れのカースト上位を目指すことができた、という理由だったそうだ。
魔獣達の気分一つの世界であり、ヒトは限られた生活圏での生活ではあったが、近い村同士、近い町同士等でなんとか交流をするようにもなり、文明が少しずつ発展し、魔獣や獣に目を付けられない範囲で徐々に人口を増やしても安定する術を見出していた。
そして330年ほど前、非常に知能が高く、魔獣の中でもかなり上位の存在が、強靭な魔獣の配下を率いてヒトの大きな町に攻め込んだ。
その町は今現在私のいる国の首都に当たる場所であり、ようやく繁栄の兆しが見え始めた『ヒトの未来』とまで呼ばれた町だった。
ヒト達は魔獣の軍勢を見たとき、絶望し、自分達の未来は途絶えたかと思った。
だが、異世界の神様はヒトを見捨てなかったのか、それとも弄ぶつもりだったのか。
魔獣の上位存在(後に守り神と呼ばれた)は、町の代表者を相手に、自分達に十分な量の、そして美味な食事を差し出し、信仰し、崇拝し、忠誠を誓うのであれば、ヒトの生活圏の拡大を認めるどころか手伝いまでしてやろう、と予想外の提案を行った。
守り神の縄張りの中で生かさず殺さずの生活を強いられることになったが、自分達だけでは叶えることのできなかった生活圏の拡大が実現し、それに伴って農業等が発展したこともあり、繁栄の時を迎えていた。
そういった事例が伝わると、他の魔獣達も似たような動きを始め、町によっては自分達から魔獣達に提案するような動きもあり、ヒトと守り神との共生の時代が始まった。
守り神同士の仲の良い所もあれば悪い所もあったが、初代国王様の生まれた頃に、大きくなった
守り神の勢力同士の戦が勃発し、連鎖的にあちこちで戦が発生した為、大戦となった。
守り神同士、配下の魔獣同士の闘争は勿論、庇護下にあったヒト同士も戦うことになり、お互いに人口が増えていたことで兵数も多くなり、その戦は大地に血の河を作るほどの泥沼の戦いになったそうだ。
初代国王様は元々有能だった為、ヒトでありながらも守り神の縄張りの中で幹部として扱われ
ていたが、守り神を裏切り、守り神に従いながらも、ひっそりと守り神や魔獣に抗う為の組織を作った。
脆弱なヒトは、守り神どころか配下の下位の魔獣にすら抗うことができなかったが、初代国王様は守り神
の言葉の節々から、抵抗の為のきざはしを見つけていた。
守り神は常々、己が従えた幹部の魔獣達に、こう言っていたのだ。
『蒼き粒子を身に取り込め。それを従えることができれば、より強くなれる。』と。
この世界には何らかのエネルギーの保有量の多い生物が死んだり、鉱物が割れた際に、
手にも触れず、建物や袋などでも透過して通り過ぎていく謎の蒼い粒子が発生していた。
守り神となるほどの魔獣は、その粒子を取り込み方を知っており、従えれば強くなれることも
知っていた。
初代国王様が仕えていた守り神は、積極的に部下に狩りを教え、部下を強化することで周辺の守り神よりも優位な勢力を維持していたらしい。
俗に言うパワーレベリングみたいなものだ。
守り神がヒトと共生関係を築こうと考えたのは、食糧問題に悩むことがなくなり時間に余裕をもてること、調理に関してはヒトが圧倒的に上手かった為に美味しい食事を食べられるようになったこと、そして町を襲う飢えた外敵を打倒しレベリングの足しにすること、この3つの利点が生活圏拡大を悲願としていたヒトとWin-Winの関係になると思ったからだった。
そして、その為の狩場の調査や段取りを任されていたのが初代国王だった。
初代国王様は、その技術を修得し、秘密裡に組織した抵抗組織の人間にもその手法や技術を教え、戦で亡くなった敵味方の魔獣の戦士達からも蒼き粒子を取り込み、組織を強化していた。
そして守り神に表の顔は従順に従い、大戦のあちこちで敵対する魔獣、時には守り神をも自ら打倒し、勲を上げ、仲間を集め、強化していった。
十年以上の時を費やし、ヒトの国を作る準備が出来たと確信したとき、ついに初代国王様は守り神と対峙、大きな犠牲を出しながらも、当時ヒトからクーデターを起こされるとは考えていなかった守り神や魔獣達を、技術と結束で討ち滅ぼし、初代国王様は仕えた守り神と相打ちになり息絶えた、と伝えられている。
その後、100年近くかけて残った他の守り神、魔獣のほとんどを討滅、残ったものもヒトの生活圏から遠ざけることに成功したのだそうだ。
初代国王様の血統は現在まで300年間続いているが、愚王はおらず、賢王が継続している為、善政でありながらもヒトの生活圏を順調に拡大しているのだという。
賢王が続く理由としては、先天的・血統的・教育的な問題もあるが、王を選ぶ『円卓』の存在が大きいそうだ。
初代国王様を支えた武人たちの中で特段に秀でた能力を発揮した仲間達を『戦貴族』として召し上げ、その『戦貴族』が一族からそれぞれ最も優秀であるとした上位12人を『円卓』として設定、その『円卓』12人のうち10人以上からの推挙がなければ王にはなれない、というシステムを初代国王様の側近達が構築したらしい。
ヒトの生活圏を侵そうとする魔獣等が蔓延らないのも『戦貴族』の働きのおかげらしく、又、国境に面する外郭に順次領地を転封していくことによって、領地拡大、国境警備、内政安定の任務まで担っているらしい。
そして、300年間その任務を担ってきた『戦貴族』達は、初代国王様の側近や精鋭だった頃から常人を大幅に超える超人であった訳で、その子孫達は300年の間に更に洗練され、化け物どころではない戦力を備えているのだそうだ。
蒼き粒子は、研究者が300年の間に多くの研究成果を体系付けており、名称をEXP粒子と名付け、体に定着させる方法、粒子を利用して生活に役立てる方法も確立している。
初期の頃に役割分担の為にクラス分けを行って力の方向性を決め、一定の様式で出力して利用するスキルを設定したことも、本来脆弱なヒトが魔獣を相手に優位に戦うために有効に働いたらしく、戦闘を担う者に限らず、一定レベルまで成長した者は、原則、成長に従って自らの設定したクラスを選択し、そのクラスによる補正を受けたスキルや個人特有のアビリティを利用して生活するようになった。
自らの設定したクラス、というのが面白いところで、設定するクラスは『自分で創造することが可能』だ。
『農民』や『商人』も可能だし、『王様』や『勇者』も可能、『神様』だって可能だそうだ。
ただ、あくまで、取得したスキルやアビリティへの補正を担うものらしいので、取得したスキルやアビリティに関連しないクラスを取得しても補正は全くなく、変わった名前のクラスをネタとして取得する者も稀にいるが、基本的には先人が既に取得して洗練し、体系付けられたクラスが好まれるそうである。
後からクラスを変更することも可能で、複数のクラスを取得して新たにスキルやアビリティを取得して補正を受けることも可能だが、その場合、現クラス以外のスキルやアビリティはクラス補正を受けられなくなる。
敢えて複数のクラスのスキルやアビリティを取得して様々なことに対応する者もいれば、一つのクラスを貫徹して特化する者もおり、そのどちらも卑下されておらず両立しているらしい。
(戦貴族の戦士に両者共いる為、戦貴族批判になるので初期から敬遠されたらしい)
そしてクラス、スキル、アビリティは勿論、内包しているEXP粒子の総量なども体系づけられ、鑑定専門のスキルを使用することで一定の様式により数値化することが可能になっている。
クラス、スキル、アビリティは元々生来の才能を方向付けたり補正したりするものであるので、向き不向きもあり、同レベルの修得レベルであったとしても、補正前の数値に比例した差がそのまま現れる。
例えば、極端な、そして特殊な例を挙げると、『勇者』への高い適正が生来ある者が『勇者』のクラスを取得した場合と、適正の全くない者が『勇者』クラスを取得した場合では、5倍~10倍の差が発生することもあるそうだ。(一般的な例であれば、20%程度の差らしい)
つまり出生ガチャで特殊な『当たり』を引いた場合、その『当たり』に沿った人生を歩むのが最効率で、それ以外の人生は『当たり』に比べればかなり効率は悪くなるが、一般的な当たりはずれ程度であれば努力である程度賄えるレベルだということだろう。
このあたりのことまでは、中流家庭の人間でも知ることができるレベルで知識として共有されているらしく、歴代の王様や、『戦貴族』が情報統制をしたりして情報占有をしなかったところを見ると、そういう情報がヒト存続の為に必要なことであるという判断があったとか、なのかな?
これ以上知るためにはもっと蔵書を増やして研究しなければならない。
普通の3歳児と認められる、許される範囲の存在を維持し、本質を隠蔽するにはどうすればよいのか。
前世の知識、主に科学、工学分野の知識が利用可能なのか、あとはMMORPGの経験は生きるのか。
後、戦貴族の戦闘職はめちゃくちゃ高Lvになってそうだし、普通に襲われたらかなり軽く死にそうなので、そういうことへの対策も考えなくてはならない。
王族やら戦貴族でない貴族やらに理不尽なことを突き付けられても生きていける能力や環境も必要だ。
「あー、やること多くて忙しいなぁ!何からしようかな?とりあえずレベリングしたいけど・・・」
3歳児の私は、いぶかしむ兄姉を他所に、自分に与えられたベッドで思案に耽りつつ、良い子ちゃんの皮を被って眠った。




