表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色の御用聞き  作者: 秋
10/45

6話 準備完了、実験

年が明け、ヒノワ様から『一週間後、迎えに行くので荷物をまとめておくこと』と手紙が届き、

手紙が届いたのと同じ日に、ナインから電話がかかってきた。

年末からこっちは、ナインの方で打合せすることも減っていた為、またアグリア商会に戻り、空き部屋で寝泊りさせてもらっていた。

ゴーベルト様もヒノワ様と約束した私の教育が進捗していないのを気にされていたので、籠りきりで色々な礼儀や、書類作成、商品の運送経路と運送時間、中継地の現況といったことを教わるようにしていた。

今日も、白髪の美しい小柄な70歳になろうかという番頭メッスビィさんに日々授業をしてもらっていたところだった。


「メッスビイさん、少し離席してもよろしいでしょうか。」

「ふむ、もう少しすれば休憩の時間だ、構わんよ、フミフェナ。

 4歳にもならぬというのに佳い人を見つけるとは、関心だな、ふぁっはっは。」

「いえ、ヴァーナント技師とはそういう関係では・・・。」

「ははは、ヴァーナント技師と言えば成功が約束されたレアアーティファクト技師ではないか、将来安泰ではないか!宜しく伝えておくのだぞ!」

「はぁ・・・。では少し失礼します・・・。」


このおじいさんはお上品な見た目とは裏腹に、4歳にもならない女子にそんな下世話な話を・・・。

年末には届くだろうか、とワクワクしながらも、おそらく集中して全精力を製作に傾けているナインにこちらから進捗を尋ねるのも不躾だろうと、我慢していたところの電話だ。

いい話か悪い話かは分からないけど、楽しみで顔がニヤけてしまっていたのは仕方ないのかもしれない。


「もしもし、お待たせ、ナイン。明けましておめでとう。」

「あぁ、そうだね、明けましておめでとう、フェーナ。

 年明け早々だけど、お待たせしていたベルトが完成した。

 いい話と悪い話があるけど、どちらから聞きたい?」

「いい話も悪い話もあるんだね・・・。じゃあ、いい話から・・・。」


悪い話も気になるけど、いい話を聞きたい。

でも、悪い話だけじゃないならそれが一番いい。


「いい話から、だね。

 君の要望した基本能力、所定の能力の付与がほぼ希望していたレベルで成功したよ、君のベルトはまさに今まで僕の作ったレアアーティファクトの中で最も完成度の高い物だと自画自賛してしまうレベルの物になった。

 出力が高すぎるので、許容可能な最大出力で稼働すると、武器は余程の物でなければ破損して使い物にならないかもしれない。

 それでは不便だと思ったので、外装を短剣状に成型して出力することには成功したから、一応、それを初期武器として使ってくれ。」

「お、おぉぉ・・・本当に、本当に成功したんだね、ナイン、やったね!!」


私の要望は、仕様としては非常に複雑だったが、前世で見知ったそれは設定については二人とも熟知していた為、仕様の説明時には二人して盛り上がったものだった。

それが、完成した。

・・・レベリング開始前に。

最早素晴らしい、という次元を超えてめちゃくちゃテンションが上がっていた。

手元にはないというのに、手がブルブルする。


「あぁ、やった!

 正直、ここまでの物を作ってしまったら、他にもやりたいことが増えて仕方なくなってしまった。

 少し製作後に別の製作物の構想を練ったりもしていたので、寝不足で爆睡して連絡が遅くなってしまった、ごめんよ。」

「うぅん、全然寝てないのはほんと良くないからちゃんと寝てね・・・。

 で・・・悪い話というのは・・・なんか大変なことになったの・・・?」

「・・・。

 僕のいるサキカワ工房は、サキカワ所長を除いて全員、異世界転生者の男なんだ。

 そして、皆、今は色々な年齢に別れているけど、生前の世代は僕とそう変わらないことが分かった・・・。」

「・・・まさか・・・。」

「予測ついたかい・・・?」

「ナインの作ったベルトに反応した・・・?」

「うん・・・そして、僕は皆に自分の分も作ってくれと、かなり強烈に責められている。

 製作技術については皆に知らせることができないから、全部自分で作らないといけないかもしれない・・・つまり、僕がしばらく動けなくなるかもしれない。」

「ほんとに身体壊さないようにね・・・。」

「フェーナ、本当は君の使用感を確かめながらフォローを続けていくつもりだったんだけど、しばらくの間は君のフォローができないかもしれない。

 と、言うことで、もし君の方の都合がつきそうなら、明日にでも一度こちらに来て着用試験をしてみてくれ、そこである程度調整する。

 その後は、調整方法を教えるから自分で設定を調整していってもらうことになると思う。」

「分かった、今日、お昼から予定なかったはずだから、お昼からこっち出発して、夕方にはそっちにつけるように出るよ!」

「分かった、待ってる。」


祖父が不在だった為、叔母レアナが同行してくれることになり、アグリア商会がサキカワ工房方面の馬車に相乗りさせてくれることになったので、荷物と叔母と一緒にナインの所に向かう。

この数か月で何度も同じような状態で移動していて慣れたものであり、概ねどれくらいかかるかも分かっていたから、予定では夕方までには到達できる予定だった。

けど、今回はやけに時間がかかっていた。

いつのまにか、何故か馬車が速度を落としているようで、いつもなら到着している時間になっても半分も移動できていなかった。


「御者さん、今回はいつもより速度を落として走行されておられますけど、何かあったのですか?」

「あぁ、お嬢さん、お気付きでしたか。

 実は、ちょっと問題がありまして。」

「商会の倉庫を出てからしばらくは普通に走行されておられましたし、お馬さんか馬車の調子が悪いんでしょうか?」

「そうなんですよ、遅くなって申し訳ないけど、速度が出せなくて。

 ゆっくり走りますけど、我慢してくださいね。」


あぁ、これは・・・。

油断していて気が付くのが遅れてしまった。

『通信機』を通話状態にして腰にぶら下げる。

まだ人通りの多い道を走っており、御者がこちらを向くことはないので、叔母を荷物の方に押し付けながら小声で話しかけなければ。

アグリア商会の荷馬車は荷物を衆目に晒さないという意味でも、荷物の荷崩れを防ぐという意味でも有効な幌を採用しており、御者の背面に少し人の出入りできる部分があるだけで、今は幌と荷物に囲まれている状態だ。

なので、関係者以外が見れば基本的には荷物を運ぶだけの馬車であり、乗合馬車や貴族の乗るような送迎馬車でないのは一目瞭然のはずだ。

そして、こちらの世界では犯罪者は逮捕されれば重労働への強制労働か、現行犯でそのまま殺されても文句は言えない、苛烈な罰が待っている為、殺人や窃盗などの犯罪は都市内では特別少ないと言われていた。

日の高い日中に、荷馬車を襲うのはリスクが高すぎるし、そこまでのリスクを負う腕のいい賊はそう多くはないだろう。

ゴーベルト様から伺う限り、嘘をつかれていなければ、高価な荷物も載っていない。

事実、見る限り食料品や事務用品のインクや紙等の荷物ばかりのようだし。

となると、御者、私、叔母に目的がある可能性だけど、御者がグルである可能性も否定できないことを考えると、美しい妙齢の女性である叔母を狙った賊、もしくは何らかの情報を得て私を狙った賊、か。

賊が待ち伏せしていると思われる区画は、元々人気の少ない倉庫区画であり、馬車ごと建物に入れられてそのまま丸ごと行方不明になってしまうタイプの誘拐になる・・・かな・・・?


(叔母様、まずいです。もうすぐで人気の少ない区画に入ります。

 お馬さんの調子が本当に悪い場合もありますが、これは多分、人攫いです。)

(人攫い・・・アグリア商会の馬車で・・・?)

(下手人が誰かは分かりませんが、多分、目的は私だと思います。

 ですが、叔母様はお美しいので、賊に狙われるかもしれません。

 私がなんとか持ちこたえますので、決して私から離れないでください。

 人数が多い場合、下手に逃げると捕まってしまいますので。)

(なんとかするって・・・フェーナが?

 貴女はまだ3歳なのよ、私に任せなさい、これでも護身術くらいなら心得はあります。)

(いいえ、ダメです。

 ご安心下さい、幸い、私は今日はフル装備で来ているんです、大人が相手でも

 少しの間なら耐えられます。

 この3か月ほど、私は自己鍛錬も怠っていません、必ずお守りします。)

(・・・分かったわ、少しでも危ないと思ったら、私が代わるからね。

 無理してはダメよ、貴女は可愛い私の姪なのだから。)

(分かっています。

 ナイン、聞こえたかな?申し訳ないんだけど、信用できる警邏隊の方を呼んでもらえる?

 幸い、前に借りていたVer0.8の試作品のベルトは着けてきてるから、しばらくは耐えられると

 思う。

 強い人が来てたら厳しいから、出来るだけ急いでもらえると有難いんだけど・・・。)

(聞こえたよ、フェーナ。場所はどの辺りだい?

 人気のない通りっていうとザーンドット通り辺りかな。)

(そう、ザーンドット通りまで、この速度だと・・・そうだね、20分くらいかな・・・。

 多分その辺りで待ち伏せされてるんだと思うんだけど、そこからどこの倉庫に連れていかれるかは分からない。)

(分かった。すぐに向かう。必ず助けに行くから、頑張って耐えてくれ。)

(なるべく、頑張る。叔母様は生身だから、怪我している可能性もあるから、救急治療のセットも持ってきてもらえると有難いです。)

(勿論、君が怪我した場合の治療の用意もしているから、とにかく耐えてくれ。じゃあ、急ぐから切るよ。)

(うん、ごめんね、宜しくお願いします。)


しかし、一体、何故、誰がこんな今このタイミングで人攫いを・・・?

誰が、はおそらく今の段階では分からないが、私を誘拐する、もしくは殺す意義が見出せない。

ナインとゴーベルト様、ヒノワ様にしか内側は晒していないし、普通に表立っては何もしていないし、ナインのいるサキカワ工房への移動も全て祖父か叔母、商会の誰かが付き添っての移動なので、大した服も着ていなかったし、移動の道中もお嬢様ではなくただの付き添い程度にしか見えなかったはずだ。

そもそも今回の移動も突発的な物で、馬車は幌付きで、外に顔が出るような不用心な行動はしたことがないので、覗き込まれたこともないはずだ。

外部の人間の仕業だとすると、ひょっとするとアグリア商会から送迎されているどこかのお嬢様だと勘違いされて身代金目当ての誘拐だろうか、でも幌馬車で送迎されるお嬢様なんているんだろうか?

内部の人間の仕業だとすると、一体誰が、という話になってくる。

ほぼ引き籠りでまだ4歳にもなっていないから、恨みを買うようなことができるほどの人付き合いもしていないし、そもそもアグリア様とヒノワ様、サキカワ所長と両親祖父母くらいしか大人や権力者とは付き合いがない、送迎の人達にはただの付き添いだとしか説明されていないのだから、尚更関わりもない。

うーん、良く分からない。

それに、突発的な送迎に、賊の仲間の御者がたまたま選ばれるなんてことがあるんだろうか?

この御者は確かに今までアグリア商会で見た御者ではないから、少なくとも私とは初見だとは思うが、ゴーベルト様が率いる商会が、周辺調査もろくにせずに賊とつるんでいるような御者を雇うのだろうか。

いや、いや、そもそも人攫いはあくまで予想だ、嫌な予感がするだけだ、本当に人攫いかは分からないところで想像しても限界があるか・・・まだ情報は何も集められていないのだから。

実際に人攫いだとしても、ひょっとすると、御者はゆっくり走れとだけ賊の関係者から指示を受けただけの可能性もあるかもしれない。

御者はだれかからの指示通りに走っているだけで、この後の事には一切関知していないとすれば、御者も守るべきだろうか・・・。


ガタン、ガタン!


周囲から人通りがなくなった頃、明らかに馬車の車輪に異常が発生した音がする。

逆に分かり易くてびっくりするレベルで予想通りの襲撃だった。


「な、何をする、こちらはアグリア商会の荷馬車だ、別の馬車と勘違いしていないか。」


・・・そして御者は関係ないような雰囲気だった。

余裕があったら守ってあげるべきだろうけど、もう御者と賊は接近しすぎている、多分、

いきなり襲われたら守れないだろうから、最悪諦めてもらおう・・・。

しかし、そうなると誰の指示で何故遅く走ったんだろう、という疑問が残るし、

演技かもしれないか・・・。


「アグリア商会の荷馬車、なら間違いではない。

 貴様の運んでいる『荷物』をいただきに来ただけだよ、大人しくしとけばお前は殺さずにおいといてやる。」

「に、荷物だと・・・?

 今回運んでいる荷に珍しい物や高価な荷は積んでいないと聞いている。

 強盗であっても死罪の可能性もあるのだぞ、ここで引いてくれれば我々も深くは追求せん。

 どうしてもダメだと言うなら、荷物は全て差し出すので、せめて私と乗員だけは逃がしてくれ。」

「はん、積んでるだろ、『レアな奴』をな。

 それに鈍いやつだな、強盗で捕まったら死罪だなんて子供でも知ってるぞ。

 そういうリスクは分かった上でやってんだよ、こっちは。

 俺たちは荷馬車に乗っているはずのガキを攫ってこいって言われてきたんだよ。

 さっさとこっちに馬車を回せよ、大した荷物もねえのに馬車ごともらっても仕方ねえ。

 目的のガキさえ貰えれば、別にお前を殺していく手間は必要ねえんだ。

 こいつを生かしたまま連れてくれば500万ドエン貰えるってんでな、捕まるリスクも増やしたくねえし、余計な手間も時間もかけたくねえんだ。」


やはり、目的は私の身柄だったようだ。

500万ドエンって大体元の世界で言えば500万円くらいだろうし、命と引き換えにしても安い・・・というか惜しくないんだろうか?

人殺しじゃなければ捕まってもどうにかなるんだろうか?

手早く済ませれば小さい子供誘拐するだけで済むから、低リスクで儲かるっていう認識なんだろうか。

いや、数こなしてるならどうせ捕まったら一緒だ、ってことかも?


「御者さん、構いません、御者さんだけでも逃がしてもらえるなら逃げてください。」

「お、お嬢さん・・・!?」


ベルトは常時装備している。

今つけているベルトはナインの完成させたVer1.0まで到達していない、試作品のVer0.8。

戦闘なしで成長可能な限り成長しよう、というコンセプトでつけているだけで自然に漂っている粒子を強力に収集され、私の全身に取り付けられた仲介器を介して、点滴のように全身に注がれていて、3か月前の私のレベルが3だとすると、既にレベルは35程度までは上がっている。

この世界の一般成人男性は60歳くらいまではレベルが成長しているらしく、戦闘職でなくても大体レベル25~30くらいあることが多いらしい。

この賊達の年齢を考えると、少なくともレベル20以上、訓練、鍛錬を積んでいそうな頭領っぽい人は今の私よりは確実に強そうな雰囲気がプンプンしているので、40以上あってもおかしくない。

普通に考えれば素手の4歳児が敵う相手ではなさそうだが、幸い、相手はほぼ全員軽装で『纏い』も常時展開している気配はない。

防具は目立たない程度に心臓や肺を守るだけの胸部ガードの皮鎧を服の下につけている程度、武器も目立つ大型の武器は見当たらず、ナイフくらいだ。

こちらの武装は外殻が展開できる強化機能は粗方ついているけど、武器等の外部出力系の拡張機能がほとんどついていないベルトのみ。

外殻を展開する『変身機能』だけでも、雑魚数人無力化するだけなら多分すぐに済むような気はする。

但し、相手に強者がいないという前提の話なので、強者がいたら即ひっくり返る話。

流石に戦闘経験が全然ないのと、圧倒的なレベル差でも性能差でもないので、御者と叔母を守りながら10人を倒しきれる自信はない。

『鑑定』は一人二人ならササっと済ませればいいが、10人相手ともなるとちょっと時間がかかりそうだし、頭領以外に強い人がいないとも限らない。


「ほーう・・・あん?

 おい、お前、今いくつだ。」

「3歳と7か月ですが、それが何か。」

「く、はっはっは、なんだこのガキ。

 こんなにちっせえのに威勢だけはいいな。

 お前がフミフェナ・ペペントリアで間違いねえな?」

「そうですが・・・。

 どなたのお使いで参られたのですかね?

 少なくともサキカワ工房の関連の方ではありませんよね。」

「はん、答える意味があるのか?

 お前はこれからおっそろしい方の屋敷で飼い殺しにされるのが確定してるってのに。」

「なるほど、分かりました、とりあえず教える気はないということですね。

 人数は・・・10人ですか、3歳児の誘拐程度でよく用意されましたね。」

「護衛がいるかもしれねえって話だったのに、一人もいやしねえんで拍子抜けしたぜ。

 無駄な出費になっちまった。

 大人しくついてくりゃ、俺らも手間がかからねえんだ。

 傷はついてもいいが、必ず生きて連れてこいって話でな。

 お前みたいなちいせえガキが半端に抵抗してきたら、殺しちまいそうだからなぁ。」

「お頭よう、奥にもう一人、えらいべっぴんがいるぜ。」

「馬鹿野郎、要らねえことして足がついたらどうすんだ、殺すぞ。」

「へ、へい。

 おい、ガキ、出てこい。」

「お前が大人しくこっちにくりゃ、御者と奥の女には手出ししねえ。」

「本当ですか?」

「俺たちは一刻も早くお前を攫ってここを立ち去りたいってのに、わざわざおっさん殺して血の匂いつけて、大人の女攫って手間かけて逃げ足落としてたら捕まっちまうだろうが。」

「ふふ、そうですね。

 じゃあ、仕方ないですね、ご一緒しましょうか。」

「お嬢さん!?」

「フェーナ!?」


いきなり戦闘に入ったら、ナインから連絡を受けた警邏隊が来る前に御者か、叔母様が怪我をしてしまう可能性がある、万が一の場合、死んでしまうかもしれない。

2人に刃が向かわない方向に持っていけるなら、それに越したことはない。

あわよくば、どう動くか分からない血の気の多い頭の悪そうな人とお頭と呼ばれた人は油断して離れてくれる方向に持っていきたい。

賊の癖に荒っぽくないし、割と賢明っぽいので逃げる方向に考えをシフトしてもらえればベストだ。


「叔母様、この賊の頭領さんはプロです。

 やることはやる、やらないことはやらない方だと思います。

 救出活動は、私が依頼主の所に着いた後にしていただくように警邏の方々にお伝えください。

 御者さんも、叔母様も、自分に危害が加わらない限り、抵抗しないでください、その方が安全ですよ、多分ね。」

「フェーナ・・・。」

「で、私はどうやって運ばれるのでしょうか?

 荷袋に入れられて肩に担がれる、というのであれば大人しく歩きます。

 痛いのは避けていただきたいのですが。」

「・・・えらく聞き分けがいいな。」

「抵抗して死んでしまっては、私も叔母も命が勿体ないですから。

 貴方がたのお仕事は運ぶまででしょう?

 『運ばれた後、荷物がどうなるかなんて知らない』のは当然でしょうし、『荷物が何かするかどうか』なんてのも勿論含まれていない、そうでしょう?

 私達を傷付けたり殺すことまではお仕事に入っていないのでしたら、無傷で運んでいただいた方が、私も貴方も手間がなく、依頼主の覚えもいいし、貴方がたに損はないですよね。」

「・・・。

 チッ、10人も用意したのが無駄だったな。

 オメエら目立つといけねえ、俺とこっちの6人は先に引き揚げる。

 オメエはこいつらを1時間監視だ。

 お前らはここでしばらくジッとしてろ、監視に一人残していくから変な真似はすんじゃねえぞ、1時間経ったらこいつもいなくなるから自由にしたらいい。

 お前とお前、こいつをふんじばって、猿轡噛ませて、用意した荷馬車に乗せてあの方の屋敷まで連れていけ。

 俺は先に行って道中確認しながら、あの方に話だけは通しとく。

 先行するが、1時間以内には館まで来い。

 いいな、寄り道もすんな、おっさんと女にも手をつけんな。

 分かったな!!」


御者と叔母様を執拗に殺さないように指示。

いささか、過剰過ぎる警戒具合ではないだろうか。

いくら手早い誘拐でも、目撃者を残したら意味がないのではないだろうか。

いや、余計なことを言って手を出されたら大変だ。

無力な私が、脱出するなら依頼先へ到着した後だと思っていると認識させられたおかげなのだとしたら、嘘ついて演技した甲斐もあるし、良心が痛んだのだとすると非常に人情溢れる優しい強盗だね。

この賊のお頭は、多分、普段から賊をやってるんじゃなくて、依頼先と言っていた誰かさんの依頼で強盗を装っただけなんだろうなぁ。

誘拐される手前、拘束されながらも色々考え事をしていたけれど、4歳にもならない子供をロープで拘束しようという賊が少し申し訳ない顔をしているのを見て、少し頬が緩んでしまっていたかもしれない。

ひょっとしたら、私と同じ年ごろの娘さんでもいるのかもしれない。

他人から見ると無抵抗でグルグルとロープを巻かれていく中、笑っている子供の顔は不気味だったかもしれない。

私を眺める賊達は奇妙な物を見るような目で私を見ていた。


「お頭、ガキの拘束終わりました。猿轡は・・・大人用のしか用意してなかったので、代わりにこれでいいっすか?口が小さくて噛ませられないんで。」

「それでいい、さっさと噛ませろ。おっさんと女はそっちに連れていけ。俺らは先に行くぞ!」

「叔母様、しばしお別れです。

 きっと無事に再び会えますので、本当に何もしないでください、遅くとも来週には救出されると思いますので・・・。」

「えぇ、そうね、・・・本当に、無事にいるのよ、絶対よ、約束して。」

「えぇ、お約束します、叔母様。必ず無事に帰ります。」

「・・・遅くとも来週だと?

 どういうこった、お前ら、まさか攫われた先から帰れると本当に思ってんのか。」

「えぇ、詳しくは言いませんけど、私は来週にはどう足掻いても必ず帰れますよ。

 でも、貴方がたのお仕事は邪魔しません。

 貴方がたのいないところで逃げさせていただきますので、安心して護送してください。

 お話も終わりましたので、猿轡をどうぞ。

 痛くしないでいただけると助かります。」

「なんだぁこのガキ・・・まじで頭おかしいのか・・・?」

「いいから猿轡噛ませて運べ。俺らはもう行くから、さっきも言った通り寄り道すんなよ。

 ひょっとすると足の速い奴がこいつらを送迎に向かってるのかもしれねぇ、できるだけ早く馬車に突っ込んで出発しろ。幌は全部閉めて絶対中が見えねぇようにしろ。」

「へい、分かりました。こっちに来い、ガキ。」


御者と叔母は馬車と共に運び込まれた倉庫に監視されることになったようで、私は護送用の密閉型の馬車を用意してある別の倉庫に移されることになったようで、江戸時代の罪人みたいなロープの繋がれ方で賊2人に引っ張られて移動した。

しかし、目の粗いロープ猿轡に使うなんて、用意が悪いなぁ、口の端っこ切れたらどうしてくれるんだろう。

とりあえず、ナインには事前に連絡してあるから、彼の手配した警邏隊が来る、もしくはナイン本人が来る、もしくはヒノワ様の配下の方が来る、いずれかは来るだろうとは思う。

チャンスが来れば救出が来る前に脱出できるだろうけど、折角実験できる環境になったので有効利用したい。

賊達は荷物には特に興味を抱いておらず、私の持っていたベルトも、叔母の持っていた通信機も、世間に出回っている物ではないから何なのか理解できないだけかもしれないけど、没収もせず、そのままだ。

リーダー格の頭領さんが撤収した時点で、後は御者と叔母の身の心配だけで、こちらはどうとでもなる。

私の護送に加わる2人と、御者と叔母を監視している一人の『鑑定』は既に済ませ、いずれもレベル20程度であるのは確認している。

装備品は普通の鉄のナイフと、防具は前述以下の普通の布の服のみ。

レベル20ということは、基本的な戦闘スキルを幾つか取得してスキルレベル5くらいまでしか育てていないだろうし、所作から察する限り特段、戦闘職のクラスを納めているわけでもなく、高レベルの戦闘技術を有しているわけでもなさそうだ。


「ほら、こっちだ、乗れ。

 大人しくしてりゃ、乗って降りるまでは何もしねえ、お頭がこええんでな、こっちも。」



幌荷馬車はゴムタイヤを履いていない木製車輪の古いタイプの荷馬車だ、普通に運ばれたのでは全身あちこち痛くなってしまうだろう。

素直に運ばれるのも面倒だなぁ・・・。


「むぐぐぅ。」

「なんだ?しょんべんか?

 逃げられたら面倒だし、垂れ流しで構わんぞ、大きい方ならそのままだ。

 嫌なら我慢しろ、1時間もかからん。」

「(『展開』)」


バチィン、と拘束していたロープと猿轡の縄が引き千切れる。

ベルトの出力を短時間上げるボタンを押す。

12月に入った頃くらいにこのVer0.8のベルトを受け取っていたので、1か月以上はベルトの出力を徐々に上げながら身体の慣熟訓練を行っていた。

出力を上げ過ぎると、脳の処理速度が追い付かなくてつんのめってこけることが多かったので、自分で知覚速度の上昇(時間の経過がゆっくりに感じる)のスキルを鍛えながら、いい所を設定しながら調整して使っていた。

対軽装の人間なら、攻撃力なんて最低レベルでも構わないだろうし、賊の持っていたナイフを拝借すればこの場を制圧するだけなら容易だ。


「んなっ・・ぐぅうっ!?」

「はい、静かにしていてくださいね。」


今可能な加速状態は2倍速に毛の生えた程度で、敏捷度の高い高レベルの大人よりは少し遅い程度だとは思うけれど、雑魚程度なら問題ないようだ。

足首、膝裏、太腿、手首、肘内、上腕の太い血管のある所や関節の腱をナイフで刺し貫いて、猿轡代わりに切断したロープを喉まで突っ込み、蹴り倒して後ろ手にロープで拘束した。

もう一人は、呆気に取られていたようで隙だらけだったので、拘束解除と同時に真っ先に顎に現段階でのフルパワーの回し蹴りを命中させ、昏倒させていた。


「ふごごごごごご!!」

「正当防衛ってご存知ですかね?

 こちらの方は後で有効活用させていただくとして、貴方には失血死する前に色々実験させてもらいますね。

 ふふふ、楽しみですねぇ。」


スキルレベルが低くてまだ常在菌を任意の対象に感染させることしかできない『菌操作』のスキルを発動する。

このスキルの練度を上げる為には、膨大な鍛錬と実験が必要だ。

将来的には、菌を改良する能力を手に入れて、任意の特定対象にのみ感染して増殖していくような細工までしたい。

対人能力としても使えるし、農業に使えるような菌も培養したり増殖させたりできれば農産物の増産にも使えるし、様々な用途に使えるのは間違いない。

今一番期待を持っているのは、情報収集の為のツールとして、という派生成果だ。

もし空気中に漂う菌を付着させた、もしくは菌を体内に取り込んだ相手について、遠隔地から動きや喋った内容、その人間の体調まで察知できるのではないか、と考えた為である。

それに病気を感染させるという手法での使い道もあれこれ増えるし、といった感じで私は菌とウイルスに様々な用途を考えていた。

ただ、机上の空論の部分も多いので、実験はしたいが、この手法は他人にバレたら元も子もない。

今まで情報収集した中で菌やウイルスを扱う操作系スキルは見たことがないので、私が菌等で情報収取をしようとしているということまではバレないかもしれないが、操れるということがバレたのでは、やろうとしていることが意味のないことになってしまう。

全てを誰にも知られずに済ませるのが理想だ。

この賊は間もなく失血死する。

正当防衛であるし、攻撃力の問題で真っ当に戦っては勝てない為に急所を狙って戦った結果、相手を失血死させてしまっても仕方ないのではないだろうか。

4歳にもなってない幼児だけど。

いやまぁ、自分でもちょっと無理はあると思っているけど、ナイフさえあって戦えれば4歳児でも大人は殺せるはずだ、ピンポイントで血管を狙えば、防具のない部分であれば胴体の内臓を傷付けるほど深く刺し込む必要はないのだから。


実験するにあたり事前に自分で実験して調べた限り、『鑑定』は使用者の知識に影響を受けないことが以前から分かっていたけど、毒にしても病気にしても、どういう症状が出る状態になっているかについて詳細に説明があるだけで、どういう毒を受けたか、どういう病気を受けたか、については『鑑定』単体では分からない。

『鑑定』をした使用した者が『分析』を併用して詳細を確認するしかない。

『鑑定』時に受けている毒、感染している病気の知識を持っていなければ、『分析』を使用しても「高熱」「気管に炎症有り」程度しか分からない、ということは自分で実験して分かっている。

「前例のある毒や病」で症状について認識していれば、「これはマムシに噛まれた毒である」「これはインフルエンザである」ということは分かる。

ただ、逆説的に「前例のない毒や病」であれば『分析』を使用しても「原因不明だが高熱が出ている」等の症状しか分からない、ということだ。

つまり、操作して変異させたウイルスもしくは菌が作成できれば、それは私以外の人間には特定できない、ということだろう、と推測している。

ひょっとすると、『鑑定』『分析』系に特化したクラスや何らかのアビリティ等があれば作成者までさかのぼられる可能性もあるけど、そもそも毒や病気の作成者が特定できるような痕跡はおそらく研究している資料や実験室を確保されない限り、遡られないとみている。


「ふむふむ、なるほど、ウイルスや菌の数は認識できている限り他人でも感染状態なら体内の菌やウイルスを任意に増減できる、と。

 試しにインフルエンザウイルスを感染させて、と。めちゃくちゃ増殖させて、と。

 おぉ、なるほど、すぐ身体は感染状態になるんだね、症状が出るのは少し時間かかりそうですね。

 もう少し即効性のある菌やウイルスを確保しなければ・・・何処かでいいの手に入るかな?」


毒なら即効性のあるものだと青酸カリとか有名だけど、匂いや銀に触れて変色するような物であったり、症状が有名な物であれば『分析』で特定されては意味がない。

いや、敢えて特定できる毒や病気を感染させた方が『鑑定』されたときに原因として特定されるわけだし、感染元の偽装さえ出来れば『自然』ではあるか。

自然に存在していて接触していても不思議ではない毒も欲しいな。

あとは拷問用の毒や病気、戦闘前に敵を弱らせる病気なんかも可能ならほしい。


「ふふ、忙しいなぁ、やることが多すぎてワクワクする。

 新しいことを始めるときの不安と楽しみを混ぜこぜにした高揚ですかね、貴方はどう思います?」

「ムゴゴ、ゴフゴゴゴ。」

「すいません、何言ってるかちょっと分からないです。

 安心してください、大丈夫ですよ、貴方は苦しむ前に死ねます。

 もうすぐ失血で意識がなくなると思いますので、死ぬまでの間だけ、実験させてください。

 貴方の死は無駄にしません、しっかり使い切ることをお約束いたします。」


私は無駄に効率の悪いことは嫌いだ。

縛りを設けて敢えて何かを無駄にすることはあっても、有限な資源を有効活用しようという時には完全に全て使い切れるよう段取りしておくのが資源への礼儀というものだろう。

レベリングにおいてもそうだ、他人と一緒にレベリングすることは楽しいことだが、知らない他人にモンスターの経験値やドロップアイテムを横から掠め取られることほど苛つくことはない。

だから、この人から漏れ出る粒子は残さずベルトで吸わせてもらう。

この人の命は、無駄にはしない。

今まで用意していた実験をいくつか、この人の身体の反応がなくなる最後まで試させてもらう。

そして放出された全ての粒子は私が吸収し、有効活用してみせる。

数分が経った頃、賊Aさんが息絶えた。

様々な結果が想定通りではあったが、一番の懸念であった『粒子は使役者に寄るのか』という疑問が解決したのが有難い。

やはり、ウイルスには粒子は寄って行かず、使役した者にEXP粒子が吸収されるようだ。

これで計画が一段階進められる。

菌を操作する上で人体で試さねばならないことがたくさん実験できたので、きっとこれを未来に活かすと誓い、ベルトを強力吸引モードに設定して遺体に触れ、本来ゆっくりと放出されるはずの粒子を弾かれた物を除き、全て一瞬で吸引する。

ベルトの粒子残量のメーターが3桁からいきなり7桁中盤まで急上昇する。

普通の生活をしていて手に入る粒子量は、ベルトで通常ではありえない量を吸引して、ようやく一週間で4桁になる程度だ。

4桁を超えると私の操作のタイミングで私に注ぎ込まれるよう設定してあり、前回メーターが0になったのは4日ほど前で、先ほどまで3桁だったのはそのせいだ。

ベルトなしで自然吸収できる分は、一般人の吸収力程度まで吸引力を落としたベルトで1日計測してみた感じだと、1週間予測の数値は1桁か2桁いくかいかないかくらいだった。

それを考えるとやはり生命体の死で得られる粒子量は破格の量だ。

おそらく、強靭な生命体の死で放出される粒子も、ベルトなしだったら8割か9割は自然に放出されていたと思われる。

ベルトなしでレベリングしている人の9倍~10倍くらいは効率よくレベリングできていることになるか。

しかも、私のキャパシティの問題で4桁を超えた分に関しては溢れてしまって、無駄にしてしまった可能性もあった残りの大多数の7桁の粒子をベルトが一旦全て吸収して貯蓄してくれているので、器が大きくなり次第、粒子を注ぐ作業を粒子がなくなるまで続けることができる。

ベルトなしでレベリングを開始していたら、吸引力の問題で放流しまくりの器の問題で溢れまくりで、大量の粒子を無駄にしていたところだった。

粒子が空気中を薄くとはいえ見当たらないところがないほど満遍なく一定密度で漂っているのは、やはり植物や動物などの生命体の死で放出された粒子は基本的にはほとんどが何物に吸収されず、放出されているせいだろう。

自然に存在する粒子を吸引していくのも勿論常時経験値が入るような物なのであって損はないが、レベル20程度の人が一人放出する量を全て吸引するだけでこの破格の粒子量だ、やはりレベリングは何らかの生命体の破壊が一番効率いいように思う。

ベルトの設定は周囲から吸引した粒子量が4桁に到達した段階で一旦、少し溢れる程度の量を点滴のように私に注ぎ込むよう設定してあったので、即座にレベルが上がった感覚があった。

ただ、器はレベルが上がってから作り替えられる仕様のようで、すぐにもう一度満タンにしてもレベルは上がらないので、粒子を注入したら器が大きくなるまでは待ちだ。

一回レベルが上がった後、器は言ってみればメンテナンス状態のような状態になる為、メンテナンスが終わるまでは次のレベルになるほどの粒子を満たしてもレベルは上がらず、メンテナンスが終わってやっと次のレベルに上がろうとする。

そしてこのメンテナンス、異常に本人の体力を奪うので、それが難点ではある。

さながら、成長期の子供のように眠くなる。

おっと、自分でも忘れがちだけど、私はまだ3歳だった、なら眠くなったら寝ても仕方ないよね・・・。


「さて、じゃあ、救出の手が来る前に、こちらの方も処理してしまいましょう・・・。」


残っていたもう一人は、すぐには命を奪わない。

こちらの人は、また別途利用する用途があったためだ。

折角、菌とウイルスを操作するスキルを手に入れたのだから、『遠く離れていても使役者に粒子が寄ってくるのか』も実験せねばならない。

直接対峙できないので、今のように全量の粒子を漏らさず吸収することはできないかもしれないが、その場にいなくても粒子が吸収できるのかは確認しなくてはいけない。

そして直接触れなくても他者に菌やウイルスを媒介させられるようにはなったけれど、遠隔で増殖や媒介者から更に他人への感染についても操作できるのかも実験したいところだ。

それに、流石に商人の娘、4歳児がいくら強くても誘拐犯二人を同時に相手にして無傷で返り討ちにする、なんていうのは出来過ぎだろうから、一人は生かして帰した方がいいと思う。

いや、見知らぬ親切な方が救出に来て誘拐犯を討伐して颯爽と去っていったという設定にする方がいいだろうか?


「あちらの遺体は腐食菌やら何やらの培養に使わせていただくこととして、こちらの方は殺さずに感染力

激弱のインフルエンザと強毒化したボツリヌスのメイン媒介者になってもらいましょうかね。」


ここ数か月の間に墓地に埋葬する仕事を負う葬儀屋さんや、病院の病棟を紹介してもらって、様々なウイルスの株については確保してきていたので、ある程度は培養して分岐させ、感染力の弱い株も用意していた。

しかし、インフルエンザで亡くなった老人を流行り風邪で亡くなったと言って防御無しで弔っていた葬儀屋さんは、感染しないのだろうか?

ひょっとしたら仕事をしていく上で菌やウイルスに耐性がついているのだろうか?

それか、何かしらこちらの世界での消毒方法が徹底されているんだろうか。

まぁそれは別の話だからあとで考えよう、今はいいや。


感染力激弱のインフルエンザは私が任意に大量に体内で増殖させない限りはヒトの免疫で全滅して他人に感染しないくらい感染力が弱いので、任意で感染操作ができないうちはこの株で代替するつもりだった。

ボツリヌスは、何か悪い物を食べた故の食中毒死だと見せかけることもできるはずだ。

こちらの世界の人達は肉類を表面を焼く程度で問題ないと判断して食べる習慣が根強く残っているらしく、年に何十人も亡くなっている。

国としてもそれではいけないので「芯まで火を通せ」と公布されているらしいけど、民間では完全に履行されている気配はないらしい。


「ありがとうございます、賊Bさん、貴方の犠牲も無駄にはしません。

 貴方の行動履歴も記録させていただきます、ずっと、見ていますからね、貴方は一人ではありません。

 貴方のことも、全て無駄にせずに使い切ってみせますからね。

 貴方の人生を無駄にはしません、お約束致します。必ず全て活用致します。」


私はお頭の人が去った時間から起算して1時間弱をタイムリミットに設定して出来ることは全てやって離れるつもりにしていた。

それまでの間は、救出活動の人間が来るまで拘束されていた倉庫から脱出するつもりはなかった。

おそらく、先行したお頭の人は、道中を警戒しながら依頼主の館に向かっているはずだ。

私の身柄が届かないことに気づくのは1時間未満、中継地などからの連絡で発覚するかもしれないので最短30分程度だとしても、そこから折り返して御者と叔母の所にいる監視へ知らせが届くのは1時間以上先になるだろう。


「それでは、さようなら、賊Bさん。

 私は監視の方のいるところに向かいますね。

 ご協力ありがとうございました。

 あとでお名前は聞いておきますので・・・。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ